第18話
トウジの作業室に押し込まれた私はまた、いつものトウジの気まぐれが始まったと思って呆れていたら、なぜかトウジの顔は切羽詰まっていて私はその顔に少し戸惑った。
*「ちょっとトウジ…どうしたの…な…なんで彼女出来たなんてくだらない嘘ソラにつくの?」
T「ねぇさん…見なかったの?ソラの薬指の指輪…」
*「え……見てない…」
T「また、一緒に働くんだしソラの負担になりたくないんだ…俺がまだソラの事を忘れてないってソラが知ったら…気まずくて仕事…しにくいだろ?だから…ソラの前だけ彼女いるってことにして…お願い…」
トウジは眉毛を下げて両手を私にすり合わせる。
*「そんな嘘ついてもすぐバレるよ?」
T「バレないよ…ねぇさんが言わない限りは…メンバー自らチーム内の恋愛事情を外に漏らすような危険な事しないから…だからねぇさん…しばらく落ち着くまではお願い。」
*「うん…わかったよ…」
そう話し終えると私はトウジの作業室から出て、トウジの切ない恋心にため息を落とした。
…とはいえ私の仕事は山積みで韓国でのプロモーションが始まる前に片付けないといけないことが沢山ある。
私はデスクに戻り考える事が山積み過ぎてため息が出そうになるが、冷静なフリをしてなんとか仕事を片付けていく。
しかし、仕事の合間合間につい出てしまうのはやはり大きすぎるため息…。
すると、隣にいるセブチ 先輩が私の顔を不思議そうに見つめきた。
*「な…なんですか?」
セ「いや、元気だけが取り柄のミラがさっきからため息ばかりで珍しいなと思ってさ…まさか…恋煩い?」
*「はぁ!?ま…まさか!!そんな訳ないじゃないですか!!悩み事が多いんですよ!仕事に集中してくださいよ!!」
セ「ため息ばかりのやつには言われたくないよ〜」
なんて言いながらも私たちは仕事をテキパキと片付けていった。
ある程度、重要案件はまとまり韓国でのプロモーションへのスケジュールを確認してまとめようとした時…
突然、マネージャー室の内線が鳴った。
その内線を取ったセイジ先輩の顔がだんんと曇っていき、キーボードを叩いていた私の手が止まる。
ゆっくりと受話器を置いた先輩を見計らい私は問いかけた。
*「どうしたんですか?なんか…ありました?」
セ「ユウが振り付けの練習中に怪我した…様子見てくる!」
セイジ先輩は立ち上がりダンススタジオに向かい私もその背中を追いかけた。
熱気漂うダンススタジオの扉を開ければ椅子に腰掛け顔を歪めているユウが目に入った。
周りには心配そうな顔をしたメンバーが集まっていて、ダンススタジオの中の空気は重い雰囲気を醸し出している。
セ「ユウ、大丈夫か?」
Y「大丈夫ですよ…少し休めば…」
ユウがそう言って立とうとするが痛みが強いのか、すぐに顔を歪めて椅子に尻もちをつくように座り込んでしまい、そんな様子のユウを見てセイジ先輩が難しい顔をして言った。
セ「捻挫だと思うけど一応、念のため病院で診てもらってる方がいい…」
Y「いや、ほんと大丈夫なんで…」
セ「ミラ、〇〇先生に連絡して今から診てもらえるか確認して。大丈夫そうならユウを連れて〇〇先生の所に行って診察してもらって?俺、この後社長と会議あるから…ミラに任せる事になるけど…」
*「大丈夫です…先輩は会議に行ってください。」
セ「よろしくね?ユウ、無理だけはするなよ?」
セイジ先輩は勇輝の肩を励ますように叩くとそう言って社長の元へと向かった。
私はスマホを取り出しいつもお世話になっている掛かりつけのお医者さんに連絡をした。
すぐに、来ても大丈夫だと言う事で私がユウに付き添うことになった。
病院までタクシーで向かったが横で痛みから顔を歪めるユウの様子を見て、少しでも早くユウを診察させたいという気持ちが私の焦りとなり病院に着くまでとても、長い時間のように感じた。
*「ユウ…降りられる?」
私が手を差し出しながらそう言うが、ユウは無言のまま顔を歪めて一人でタクシーを降り足を引きずりながら歩く。
*「ちょっとは私に頼りなさいよ…」
私がそう言いながらユウの身体を支えようと腕を持つと、ユウは私の方を見てニヤッと笑った。
Y「なにそれ俺のこと誘ってんの…?」
ユウはそう言うと遠慮なく私の肩に手を回し、体重を預けてきて忘れていた現実を思い出す。
そうだった…この人今…私に惚れてるんだった…
*「顔近いから…!」
私の首筋に顔を近づけて匂いを嗅いでくるユウの顔を押して、少し距離を取りながらもユウのカラダは支えて私たちは診察室に向かった。
つづく
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