第3話



どうしたもんかな…これ…


私はテーブルの上にその封筒を置き、封筒を開けようか開けまいか迷っていると、ジュイからのテレビ電話が鳴り私はその電話をとった。


「もしもーし。ミラなんで帰るんだよ?俺、まだ事務所でアルバムの作業してるのに〜!」


*「セイジ先輩が今日は帰っていいよーって!明日も休みだし。なんか用でもあった?」



セイジ先輩とは私が入社した時に教育係として私を指導してくれた先輩で、今でブルレのトップマネージャーとして働いている。


「会い〜たい〜会い〜たい〜」


スマホの向こうからはファン達が大好きな名曲を口ずさむジュイの美声が響く。


ジュイの甘くて透明感のある声につい私の鼓膜も喜び、ジュイの優しい歌声に耳を傾けてしまう。


*「ジュイの歌声を独り占めとかファンの子たちに怒られちゃうな〜?」


「こういう事はミラにしかしない。あぁ〜あ…俺たぶん今日、事務所泊まりかな〜?暇だったからミラは何してるかと思って連絡しただけー!会いたいな〜と思って。」



*「なにそれ。暇って作業中なんでしょ?あ…そうそうジュイこれみて!さっきね?ポスト開けたら宛名も差出人も書いてない封筒が入っててさ…微かに膨らんでるんだけど…なんだと思うこれ…。」


そう言って私はカメラをその封筒に向けてジュイに見せた。



「はぁ!?危ないから絶対開けんなよ!?もしかしたら盗聴器とかGPSとか入ってるかもしれないしな…とりあえず今からそっち行くわ!!」


これはいつもの事で、ジュイはなぜか事あるごとに変な理由を付けて事務所近くにある私のマンションへと来ようとするもんだから、私はそれを必死で毎回拒んでいる。



*「はぁ!?いい!!いい!!大丈夫!!今開けるから。」


「やめろって!危ねぇから!」


私はスマホ越しのジュイの言葉を無視してその封筒を開けた。


すると私は中に入っていたモノを見て思わず言葉を失った。



*「…………。」


「ミラ?大丈夫か!!おい!何が入ってたんだよ!」


呆然とする私にジュイが必死に問いかけ私は我に返った。


*「うん…友達からのプレゼントだった!!私の勘違いだった。ごめんごめん!」


「なんだそれ…心配させんなよ…。ならいいけど、ちゃんと戸締りして寝ろよ?わかったな?」


*「うん…ありがとう…おやすみ…」


「おやすみ。」


私はこの時…


ジュイに心配をかけたくなくて…


ウソをついた。


その封筒の中に入っていたのは血液のような赤い字で「好き」と書かれていた紙切れと不気味な髪の毛が入っていた。


怖っ…気持ち悪い…


私はそれをゴミ箱に捨て恐怖を洗い流すようにシャワーを浴び、全て見なかった事にしベッドへと潜り込んだ。



次の日


耳につくスマホの着信音で私は目が覚めた。


ピピッピピッピピッ


薄目を開けてディスプレイを確認するとそこに表示されていたのは


「ジュイ様」


そう書かれていた。



無視しよう。今日は私…オフだもん。


絶対この子からの電話は仕事や重要な内容じゃないもん。


無視するんだ…絶対無視してやるんだ…。


そう思って布団を頭からかぶるものの…


何度も繰り返される着信音…。


件数を見れば軽く10回を超えていた。



この子…彼女ができたら彼女にも同じような事するのかしら…?若さってこわいわね…。


なんて事を考えているとまた、スマホが存在をアピールするかのようになり始めた。


もう、これは出ないと永遠にかけてくるやつだな。


そう思った私は仕方なく布団に潜り込んだままその着信にでた。


*「はい。もしもし。」


「もう〜やっとでた!!心配するだろ。ってか事務所来るの遅くない!?早く用意して10分で事務所きて!」


*「ごめん。でも、昨日言ったよね?今日休みだって。」


「会い〜たい〜会い〜たい〜♪」


*「ジュイさ?それ歌ったらなんでも許されると思ってるでしょ?でも私、すっぴんだし今日は外に出たくないから無理。」


昨日、怖くて寝れなかったからゆっくり寝たいというのが私の本音。


でも、もう思い出したくもない私はジュイに本当のことを言うわけにもいかず、そう小さな嘘をついて部屋から出ないという選択をした。


「誰もミラの顔なんて見てないから大丈夫!ってか声…元気ないじゃん?やっぱなんかあっただろ?」


ジュイはいつもこうやって私の顔も見なくても私の声色で私の体調や精神的な面まで察することがある。



それは私がジュイを子供の頃から面倒を見てきたからかもしれないけど、私はこんな私でも心配してくれる人が側にいるんだなと思うとそんなジュイの言葉にいつも小さな喜びを感じていた。


*「だから!呼び捨てしないの!もう、要件は何なのよ?」


しかし私はジュイを誤魔化すように現実を伝えずにいつもの調子で明るくする。


ジュイがもうこれ以上、心配しないように…


「なんもないならいいけど…。いやさメンバー達がみんな遊びに行って暇なんだもん。1人で飯食うのもつまんないし寂しいじゃん?だからミラが来てよ〜!ミラの顔がみたい!お願い!頼む!このと〜り!!」


*「うぅ…そ…そこまで言われると……」


「じゃ、待ってるぞ!気をつけて来てね?」


ブチップープープー


そう…皆さまお分かりの通り…


デビュー前の頃から知っている可愛い末っ子のジュイに…私は超絶甘い。


あの可愛い声で甘えられたら基本、なんでも許してしまう。


だって会い〜たい〜♪って毎日会わなきゃ私に歌ってくるんだよ?可愛すぎじゃない?


オマケに今日は心配してくれてたからその感謝から更にジュイに激甘モードになってしまった。


私の悪い癖だ。



つづく

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