第三十一話 棒倒し

温室育ちのお坊ちゃんに見えない顔つきの2年3組の男子に、他クラスの男子達は戦々恐々としていた。

いざ試合が始まると2年3組の攻撃側の人間が飢えた獣のような勢いで棒を倒しにくる。

その様に戦意を喪失した2年2組、2年4組はあっという間に棒を倒されて敗北する。

この時点で約束の手作りお菓子は確定し、獣のような表情も僅かに人の表情へと戻り始める。


そして2年1組との最後の戦いとなる。

2年1組もここまで全勝で来ている。

2年3組の男子達はその強さの秘訣がなんなのかすぐに理解した。

彼らが守る棒はクラス全員の名前やメッセージなど、様々な文字でデコレーションされたものであった。

そのクラスを象徴するような棒を、2年1組の男子は倒さまいと守るのである。

守るという意識が他とは圧倒的に違う。そして攻撃側の人間も、その棒を立たせ続けるために必死になるといった感じであった。


一方、2年3組は目標をひとつをクリアできたことで気が緩んでしまっており、モチベーションの差は歴然であった。

そんなクラスの状況を見兼ねたタケはポケットから一枚の写真を取り出し、なぜか手に持っていたのりで写真を棒の先端に貼る。

その不可解な行動に男子達は怪訝な顔をタケに向けた。


「諸君らの士気はどこかで落ちると思い用意しておいたでござるよ!その時この写真を棒に貼り付けて士気を上げようと思ったがどうかね?」


写真に写っているのは我がクラスの姫、夏月杏子であった。皆は決してこの棒を倒させはしないと決意する。


「うおー」という気合いの雄叫びとともに棒が立てられ夏月杏子の写真が大衆に晒される。


それを見た杏子はさすがに恐怖を感じる。


「え?どういうこと?なんで私の写真?いつ撮られたの?」


星宮は恐怖に縮こまる杏子の肩を優しく抱く。


「どんまい。」


「どんまいじゃねーよ!こえーよ!それにあんな写りの悪い写真恥ずかしいからやめさせる!」


やめさせようとする杏子を八百坂が止める。


「夏月杏子!今の殿方達を止めるわけにはいきませんわ!」


気合いの入った男子達を見た杏子は諦める。


「確かに…勝つためならしょうがないか。」


杏子はクラスのために自分を犠牲にすることとした。



2年1組との棒倒しは熾烈を極めた。

両クラスの男子達は無我夢中に守り、攻めた。

棒の位置もお互い膠着状態で決着がつきそうになかったが、2年3組の棒に異変が起きる。

激しい攻防により揺らされ棒に貼られた写真が徐々に剥がれ始める。そしてちょっとした風がトドメとなり写真が剥がれ落ちる。

揉み合いの激しい人混みの地面へと落ちた写真は踏まれる。

2年3組は先ほどまでの強さが嘘のようになくなり、魂とも言える写真を失った棒は地面へと倒され、決着がつく。


無惨な姿の写真の自分に涙が出そうになる杏子であったが、それ以上にショックを受けていたのはその写真の持ち主であるタケであった。


「拙者がちゃんと埋葬するでござる。」


魂の抜け殻のようになったタケはぐちゃぐちゃになった写真を拾い上げ大事そうにズボンのポケットに入れる。

その姿をドン引きしながら見る杏子は思う。


「タケくんとは少し距離を置こう。」


男子に対して寛大であった少女も女として男子に対する今後の接し方について考えることとした。


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