第十五話 クラスの変化
ホームルームが終わり下校時間となった。
重苦しい雰囲気の教室から逃げるように男子生徒は足早に教室を出る。
杏子も早く桜子の元へ向かおうと、帰り支度をし始めた時、誰かに声をかけられた気がして振り向いた。そこには一人の女子生徒が立っていた。
「夏月杏子!わたくし感動しましたわ!」
お嬢様口調で声をかけたのは八百坂卯月(やおさか うづき)であった。
「どちら様ですか?」
杏子の思わぬ反応にズッコケそうになる八百坂。
「初等部の2年からずっと同じクラスだったのに覚えていらっしゃらないなんて。」
杏子は面倒な奴に絡まれたと思ったが、初等部2年から同じクラスということで記憶を遡る。しかし、記憶にはなかったので、とりあえず挨拶しておこうと思った。
「はじめまして。夏月杏子です。」
「あなた揶揄ってるのかしら?わ、私よ会話したことだってあるでしょ!」
杏子は記憶の奥に封じ込めた禁断の扉を開く。
そして、思い出すこの巻き髪ツインテールを。
「ひゃく何とかさんでしたっけ?」
「八百坂よ!八百坂卯月!」
「あー八百坂さんか、思い出した。」
「この学校で誰よりも一緒のクラスだったのになんで覚えてないのよ!?」
記憶の戻る前の杏子はやかましい八百坂が苦手であった。しかも、毎年同じクラスになる為、八百坂に恐怖を感じて視界から自然と抹消し、記憶の底に埋めたのであった。
「ご、ごめんなさい。八百坂さん。ちゃんと覚えてたよ。じょ、冗談だって。」
冗談とは思えない反応に八百坂は困惑したが、話を続ける。
「あなたの一生懸命に人を動かそうとする気持ちに感動したわ。この八百坂の血を引く私がそんな人をほっておくわけにはいかないわ。私に任せなさい。騎馬戦とやらを本気でやらせてもらうわ!」
そして、八百坂と共に杏子の元へクラスの女子7割程が集まっていたことに気づく。
「ごめん夏月さん!私達のために体育祭盛り上げようとしてくれたのに酷いこと言ったりして。」
「私もクラスのために頑張るの悪くないかなって。」
女子生徒の多くが杏子に賛同した。涙が枯れたかと思ったが、目を潤ませて杏子は皆に伝える。
「嬉しい。ありがとう。思い出に残る体育祭にしよう。」
その言葉を聞いた八百坂が仕切り出す。
「中間テストが終わったら毎日練習ね!そうでしょ?夏月杏子!」
杏子はまたも目頭が熱くなる。そして、八尾坂の言葉に「うん。」と頷き右手を上げながら叫ぶ。
「みんなテストも体育祭も頑張ろう!」
元気な杏子の声に教室の活気が戻った。
女子の「おー!」という掛け声はまだ不慣れなで不細工なものであったが、気持ちの入ったいい声であった。
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