第十話 素直な気持ち

会議が終わり、杏子はタケとコウちゃんに声をかけようとすると声に被せるように感謝される。


「夏月嬢!ありがとうございます!体育祭が楽しみで仕方ありません!では、拙者達は男子へ報告して参りまする!」


目をちばしらせたタケとコウちゃんは急いで会議室を出る。


桜子に声をかけようとした杏子だが、会議室を出ようとしてる星宮が気になり、桜子に手を振り教室に向かう星宮を追った。


「星宮さん!待ってよ!一緒に教室行こうよ!」


「関わんなって言ったでしょ。」


「そうだっけ?でも同じ実行委員だから関わらないのは無理かも。」


少しの沈黙の後、星宮は諦めたような表情をした。


「教室までだから。荷物取ったらそのまま帰る。一緒に下校はしないから。」


杏子はそれだけでよかった。少しの時間でも話せればと思ったのだ。


「いやー。騎馬戦に棒倒し楽しみだねー!」


「楽しみなのはアンタだけでしょ。」


少しの間の後、星宮は杏子に尋ねる。


「なんで、あんな事に必死になれるの?周りの顰蹙を買ってまで。」


杏子は星宮に不快感を与えないように出来るだけ元気に明るく答えた。


「だって自分のしたい事だから!他人がどう思うとか気にしない!自分の心に素直でいる方がいいと思うから!星宮さんも何か悩みがあるなら自分に素直になればいいと思うよ!結果はどうあれきっとハッピーになれるよ!」


その言葉に星宮は何かを感じたようであった。

明らかに苛立った顔となり杏子の言葉を否定する。


「は?バカじゃないの?自分の心に素直でいるとか、自分の心に従ったせいで、何もかも壊れたんだから!」


杏子は時子から聞いた噂を思いだした。

しかし、それでも星宮の言葉に共感はできなかった。


「そんなことないって!自分らしく生きることの何がいけないのかわからない!」


「アンタも知ってるでしょ?私に関する噂。」


「うん。」


「あの噂は全部事実だから、私の好きという感情のせいで全部壊れたんだから。」


そして杏子は1枚のCDを杏子に見せる。


「この曲知ってる?」


これは星宮の父がボーカルを務めるスターライトのCDであった。


「知ってるよ。」


「この曲はそんなに売れなかったの。でも、メロディとか歌詞とか純粋な恋愛ソングって感じで、私は好きだった。だけど、父の不倫報道があって、この曲が母や私に歌われたものではないと思った。でも、この曲は今でも好き。」


星宮は唇を噛み、涙ながらに続けた。


「でも、母はもう父の曲を聴けない。今でもこの曲が好きな私は母の心を踏み躙ってるでしょ。裏切られた母に寄り添ってあげるには自分を殺さなくちゃいけないの。」


星宮は吐き出したいのだろうと杏子は察した。

無論間違えではなかった。星宮は誰よりも自分らしく生きたいと願っていた。他人の目なんか気にせず、自分の心に真っ直ぐな人間に。しかし望んだように生きられないことのジレンマが今の彼女を形成していた。そんな時、自分の望むような姿を見せる杏子に嫉妬し、そんな彼女に自分の苛立ちをぶつけたいのである。


「それに月野ほたるの事だって、私の勝手な気持ちのせいで傷つく事になった。」


杏子は彼女を救うために、過去に何があったのか知っておかなければと思った。


「何があったの?」


少し長いと感じる沈黙の後、星宮は語り出した。


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