寝覚めは遠く
シロがそっと瞼を開けると、上を向いたクロが瞳に映った。
「クロ?」
シロは恐る恐る口を開いた。クロは勢いよく目を開けると、シロに目を落とした。
「起きたんだ。おはよう。急に倒れたからびっくりしたんだからねー」
クロはわざとらしい声を上げると、人差し指でシロの頬を押し込み、ぐりぐりと動かしだした。「やめてー」と声を上げるシロだが、お互いの顔には笑顔が浮かんでいた。
しばらく子猫のようにじゃれ合っていた二人の間に、「あ」と大きな声が響いた。
「どうしたの? 急に大きな声を出して」
シロの頭に手を乗せたまま硬直したクロが、素っ頓狂な声を上げた。
「いやさ、クロに挨拶返してなかったなって。おはようクロ」
咲き誇る花々に負けないほどに明るい笑顔を向けるシロを見て、クロは楽しそうに声を上げた。
「……どうしたの?」
ひとしきり笑ったクロは、スッと真面目な顔になると、シロに向かって口を開いた。
「あ、ごめん。まじまじと見られると居心地悪いよね」
苦笑を浮かべながら言葉を紡ぐシロを見て、クロは頭上に疑問符を浮かべた。
「……見られる分には全然かまわないよ。ただ、どうしたんだろうって不思議に思っただけ」
「大したことじゃないんだけどね」
シロは少し俯いていた視線を上にあげ、クロの顔をちらりと覗いた。
「さっき寝てた時に見た夢に、クロに似た女の子が出てきたの。それがすごく頭に残ってて、思わずクロのこと見ちゃったの」
シロは、頬を少し赤く染め、気恥ずかしそうにもじもじと動いた。そして、恐る恐る瞳の照準をクロに合わせると、
—プッ
クロが突然吹き出した。そんなクロの様子に、顔全体を赤くしたシロが講義の目線を送っていた。
「すごく真剣に話し出すから、どんな話かと思ったら、そんなことだったのか」
声を上げて笑うクロの肩をつかみ、笑い声に負けないように、シロも声を大きくした。
「私だってそんなに気にするものじゃないと思ってるよ‼ 夢だし‼ そんなに笑わなくてもいいじゃん‼」
肩をつかみ、ゆさゆさと揺すりながら睨みつけてくるるシロに、「ごめんごめん」と謝罪を言うと、クロは言葉を紡いだ。
「いやーごめん、ホントに大した話じゃなくて思わず笑っちゃった。ごめんね」
クロの申し訳なさそうな顔を確認すると、シロは少し不貞腐れたように口を尖らせた。
「別に良いもん。今度クロが同じような状況になったときは、私が笑い返してやるもん」
子供のようなシロの言葉に、今度は二人して吹き出した。
「じゃあ今後は、笑い返されないように気を付けなくちゃな」
薄灰の空に溶けるように、二人の笑い声は流されていった。
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