始まり

「さて、それじゃあ今日はちょっと坂道を歩くことになるけど大丈夫?」

 クロは、顎に人差し指を当てると、コクリと小首をかしげた。

「え、お花畑って小高い場所にあるの?」

 シロは少し嫌そうな表情を浮かべた。それを見て、クロは少し困った様子で口を開いた。

「少しきついけど、きっとシロでも登り切れるだろうから大丈夫だよ。それに、あそこは結構綺麗な景色だから、頑張ってたどり着くだけの価値があると思うよ」

「そっか、それならちょっと頑張ってみようかな。それに、クロと一緒なら道中だって楽しめそうだしね」

 シロは二ッと口を広げた。シロの様子に、クロはフッと息を吐くと口元を緩めた。

「オッケー、それならそろそろ出かけようか。帰りが遅くなったら大変だしね」

「うん。今日もよろしくね。クロ」

 手を差し出し笑顔を浮かべるシロの姿を見て、クロは少し目を細めた。

「どうしたの?」

 シロは広げた手のひらを少し緩めると、不思議そうな表情を浮かべた。クロは細めていた瞳を閉じると、柔らかい微笑みを浮かべた。

「いや、何でもないよ。こちらこそよろしくね」

 クロはシロの手を取るとギュッと強く握った。突然手を握ってくるクロに驚き、シロは頬をほんのりと赤らめた。

「じゃあ行こう」

 クロはシロの手を引くと、野外へと駆り出した。

 クロは「いきなり引っ張らないで」と、おどけて笑うシロに軽く謝罪した。そして先ほどのように目を細めると、シロには気づかれないほど小さく笑った。


―そう、きっとあなたにとって大切なものだよ―

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