別離
雫がシロの膝からパッと飛び降りた。「あっ」と少し物足りなさそうな声を上げるシロを一瞥すると、クロに向かって一鳴きした。
「帰るの? 折角だから散歩について来たら良いのに」
雫はまた一鳴きすると、ペットドアをくぐって外に出て行った。
「……ペットドアなんてあったんだ」
先ほどまで物悲しそうな顔をしていたシロは、今まで気が付かなかったペットドアに驚いた顔をしている。
「今まで気が付いてなかったのか。まあ、普段そんなとこまで見ないよね」
クロは、口元を抑えると、眉をハの字にして微笑んだ。
「あのペットドアってクロが作ったの?」
シロは小首をかしげてクロに問いかけた。
クロは、シロの問いかけに対して目を丸くした。
「そうだけど……私そのこと言ってないのに、なんでわかったの?」
「さっきクロが『ここに初めて来たとき、雨上がりで雨粒が滴ってるような状態だった』って言ってたじゃん。ってことは、クロがもともと一人で居て、そこに突然クーちゃんが現れたってことでしょ? なら、最初は必要なかったはずのペットドアが、あらかじめ付いてるってのは考えづらいかなって思ったの」
シロの説明に、クロは自嘲気味に笑った。
「シロって思っていたより頭が切れるのね。ちょっと舐めてたわ」
「えー、ひどくなーい?」
少しむすっとしたシロの顔を見て、クロは「ごめんごめん」と苦笑いを浮かべた。じっと見つめ合う二人だったが、どちらともなく噴き出すと、部屋に笑い声が響き渡った。
「それにしてもクロってすごいんだね。ドアのリメイクなんかもできるんだ」
シロは、薄く羨望を孕んだ眼差しをクロに向けた。
「そんなにすごくないよ。言ってしまえばドアの一部を切り抜いて蝶番なんかを付けたらできちゃうからね」
クロは少し赤い頬を細い指でカリカリと掻いた。
「そっか、私にもできるかな」
シロの少し不安そうな表情に、クロは笑顔を向けた。
「きっとできるよ。どうせ、まだまだこの世界にいるんだから、何かを切ったり貼り付けたりする機会もあるだろうから、その時一緒にやってみよ」
クロは晴れ渡るような清々しい笑顔をシロに向けた。笑顔に充てられたシロも、伝染したように笑顔を浮かべ、弾んだ声を口にした。
「そっか、じゃあ楽しみにしてるね、クロ」
キラキラとした瞳を向けるシロの頭を、聖母のような柔らかい笑顔を浮かべたクロがゆっくりと撫でた。
シロは少し不思議そうな顔を向けたが、クロの顔を見ると、くつろぐ猫のような笑みを浮かべた。
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