貴女に捧ぐ小夜曲
掛け布団とはまた違った、ふわふわとした感覚が上半身をくすぐる。ニャーと、少し低い鳴き声が頬を撫でた。
「……にゃー」
まどろみの中、聞こえてきた音を反芻した。笑いをこらえたような息の漏れる音が、シロの頭に届いた。
「なに笑ってるのー」
間延びしたシロの声に、息漏れの音は明確な笑い声へと変化した。
シロが重たい瞼を開けると、椅子に腰を掛け、両足をバタバタと動かしながら笑うクロの姿があった。
「おはよう。なんで笑ってるの? クロ」
シロは、顔いっぱいにクエスチョンマークを浮かべた。
「おはよう。ちょっと前まで、雫が鳴くたびに、シロが呼応して『にゃーにゃー』返してたのよ。それが面白くってついね」
クロは目じりにたまった涙を、人差し指でぬぐった。そんなクロを見て、顔を真っ赤に染めたシロは、リンゴのような頬を両手で覆った。
「私そんなことしてたの⁉」
ついには布団の上でうずくまり、顔を抱えてうーうーと呻き始めた。
雫は、そんなシロに寄り添うように隣に腰を下ろした。そして、シロ話慰めるように、いつもより落ち着いた声で、ニャーと一つ鳴いた。
「クーちゃん励ましてくれてありがとう」
シロは、雫を抱きかかえると、ふわふわな毛に顔をうずめた。
「結局、雫はずっといたね」
クロの良く通る声に、シロは顔を上げた。
「そうなの? 普段はすぐにいなくなるんでしょ?」
シロの問いかけに、クロはやれやれというように、肩をすくめた。
「もちろん、雫がシロの事を気に入ったから帰らなかったってのはあると思うよ。だけど、雫が帰られなかった一番の原因はシロにあると思うよ」
まるで犯人を言い当てる探偵のように、シロのことをビシッと指さした。
「え⁉ そうなの⁉」
驚愕が部屋に響いた。音源となったシロは、抱えた雫を丸い目で見つめた。
「そうだよ。昨日シロはすぐに寝落ちちゃったんだけど、雫のことを強く抱きしめたままだったんだ。雫も抜け出そうとしてたけど、幸せそうなシロの顔を見て、仕方なさそうな顔をしてそのまま眠りについてたのよ」
少し面白がるような声色のクロから紡がれる言葉に、シロは雫への申し訳なさが募った。「ごめんね」と泣きついたシロの頬を、雫は「気にするな」というように尻尾で撫でた。
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