愛猫

「シロならそう言うと思ったよ」

 クロは、しゃがんで猫を撫でつけるシロに向かって口を開いた。

「なんで?」

 シロは、視線をクロに向けて不思議そうな表情を浮かべた。

「いや、なんとなくだよ。シロは雫を愛称で呼びそうな気がするなってふわふわっと思ってたの」

 クロは、慈愛めいた穏やかな笑顔を浮かべた。

「そっか、クロの勘は冴えてるね」

 二人はくすっと笑い合った。

「そういえばまだ自己紹介してなかった‼ 私はシロだよ‼ これからよろしくね」

 雫は、シロの顔をじっと見つめると、ニャーと一鳴きした。そして、続きをしろと言わんばかりに、シロの手に頭をぐりぐりと押し付けた。

 しばらく、シロにされるがままだった雫は、片目を開き、クロの方をちらりと見遣った。

「どうしたんだい雫。何か欲しいものでもあるのかい?」

 クロもシロと同じようにしゃがみ込み、雫の顔を覗いた。雫は、クロが目を合わせようとすると、プイッとそっぽを向き再び両目を閉じて脱力した。

「やっぱり猫って自由だね。昔はあんなに可愛げがあったのに、今じゃあこんな感じで相手にもしてこないことだってあるよ。ホントに自分勝手なやつだね」

 クロは苦笑いを浮かべながら「あんなにお世話したのにね」と、どこか困ったような声を出した。

「まあ、猫は気ままだってよく言うしね。それにしても、クロにとってクーちゃんは大事な子なんだね。」

 シロの言葉に、クロは少し驚いたような表情を浮かべた。しかし、その顔は次第に恥ずかしさを孕んだ薄灰色に侵食された。

「なんだかんだ、もうずっと一緒にいたからね。流石に愛着は湧いちゃってるよ」

 色があれば、真っ赤になっていたであろうクロの頬を見て、シロはそっと微笑んだ。

「そういえば雫。今日は結構長い時間うちにいるね。シロの事、そんなに気に入ったの?」

 クロは暑くなった頬を手のひらで仰いだ。雫は、問いかけに、ニャーと間延びした鳴き声で返した。

「クーちゃんは何て?」

「シロのこと結構気に入ってるみたいよ。普段私が話しかけても結構無視するのに、わざわざ返事してきたくらいだからね」

 クロの返答に、シロは満面の笑みを浮かべた。

「そっかー、ありがとうクーちゃん‼」

 シロは雫に顔をうずめ、ギュッと抱きしめた。

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