黒と布地 ★

「そろそろ、水から上がろうかな」

 クロは腕を天に向かてグッと伸ばした。それを横目に、シロは両手を広げ、自分のふやけた指先を確認した。

「そうだね、手もしわくちゃになってるよ」

 シロはクロに向かって苦笑を見せた。

「ホントだ。私もしわくちゃになっちゃってる。早く上がっちゃうか」

 クロは水をかき分け、ゆっくりと陸に向かって歩いた。シロもクロの後について、陸をめざした。

「ふぅ、やっぱり水浴びするとさっぱりするね」

 陸に上がると、先ほどよりも大きく、全身で伸びをした。そんなクロの隣で、シロは手を開いたり閉じたり、足を振ったりして体をほぐしていた。

「私も、身体洗うのは久しぶりだったから結構さっぱりしたよ」

 シロは普段よりも高い声でうきうきと答えた。

「それなら良かった。さて、服はどのくらい乾いてるかな。って、まだ手が濡れてるから確認できないか」

 クロはてへっと舌を出した。二人は手をブンブンと振り、水を飛ばして乾かした。

「うーん、完全に乾くまではもう少しかな。でもタオルは乾いてるよ。これで身体拭こうか」

 クロは、ワンピースの近くに広げたタオルを拾い上げると、シロに向かってポンと投げ「先に拭いていいよ」と声をかけた。

 シロは「自分じゃなくて、クロが先に拭きなよ」と、タオルを投げ返そうとした。しかし、クロの顔を見ると、ニコニコと笑顔を浮かべながら『拭け』と、無言の圧力を醸し出していた。

 シロは「ありがとう」とお礼を伝えた。そして、素早く自分の身体を拭くと、クロに向かってタオルを投げ返した。

 シロはしっかりとタオルをキャッチし、自分の身体の水気を拭きとっていった。

「おっけーあとは服が乾くのを待つだけだね」

 クロがタオルを丸め、腰に手を当てていると、シロがゆっくりと近づいてきた。

「まだ髪から水が落ちてきてるよ。ほら、タオル貸して」

「えー、すぐに乾くし大丈夫じゃない? このくらいなら」

 クロがタオルを渡すのを渋っていると、再びシロが口を開いた。

「昨日とは違って、ここは日が強く当たるわけじゃないでしょ。風邪なんかひいたら大変だよ」

「わかったよ。でも、シロも髪から水が垂れてるから、一緒に拭きなおそうね」

 シロが自分の髪を触ってみると、クロのようにまだ水分が残っていた。

「わかった」

 シロが言うなり、クロはパッと飛び掛かった。

「言質はとったぞ」

 クロはシロの髪をタオルでワシワシと拭き始めた。

「髪が痛んじゃうよ」

 怒っているようなセリフを吐くシロだったが、その声は楽しそうに弾んでいた。

「クロがそのつもりなら、私もやり返してやる」

 シロはクロに抱き着くと、クロの手にあったタオルを奪い取り、クロの髪を同じように拭き始めた。

 二人のじゃれ合いは続き、乾くころには、お互いに今までにないほど乱れた髪型になっていた。

「あー、疲れた。流石に、服ももう乾いたか」

 肩で息をするクロに、シロは「見てくる」と告げ、乾燥具合をチェックした。

 服に触れると、もうどこにも水分は無く、いつでも着られるようになっていた。

「もう乾いてるよ。このままじゃ風邪ひいちゃうかもしれないし早く着ようか」

 シロは二人分のワンピースを抱え、クロのもとへ駆け足で戻った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る