泡沫と水面 ★

「これで良し。それじゃあ今度は私たちが身体を洗おうか」

 クロは服を放ると、水中に勢いよくダイブした。

「あー。冷たくて気持ちいいー」

「何水風呂に入ったおじさんみたいな声出してるの」

 シロは、いつもよりも間延びした声を上げるクロに、思わず笑いをこぼした。笑いつつも、体を洗う準備を済ませたシロは、クロとは対照的にゆっくりと泉に入っていった。

「思ったよりも冷たいね」

 クロの隣まで近づくと、シロは声をかけた。

「んー。そう? 私はこのくらいがちょうどいいかなー」

 クロは普段よりも柔らかい雰囲気を漂わせていた。

「今日はクロにしたいことがあるんだけど良い?」

 クロは驚いた表情を浮かべ、先ほどまでの柔らかい雰囲気を吹き飛ばした。

「どうしたの? シロの事だし変なことじゃないと思うけど」

「……実は、今日クロの髪を、私が洗おうかなって思ってたんだ」

 クロは先程とは比べ物にならないほど目を丸くした。

「それはありがたいけど……ホントにどうしたの?」

 いつもより少し上ずった声で問いかけるクロに、シロは頬を赤くして応えた。

「ここに来てから、私はずっとクロに助けられっぱなしだった。だから、私にできることで少しでもクロの力になれたかなって思って」

 シロの声はだんだんと先細りしていた。

 もじもじしながらも、一直線に自分の事を見つめるシロに、クロはどこか決意あるいは頑固さのようなものを感じた。

「そっか、それならお願いしようかな。ありがとね、そんなこと思ってくれて」

 クロは再び、柔らかい雰囲気をまとい、満面の笑みを浮かべた。そんなクロにつられ、シロも同じような表情を浮かべた。

 駄弁りながら身体を洗った後、二人はのんびりと水に浸かっていた。

他愛のない話をしていると、クロが何とはなしに「そういえば」と切り出した。

「改めて見ると、シロって血色良いよね」

「? 確かに、今まで考えたことなかったけど、こう見たら血色良いね」

 シロは、普段は見ない自身の身体を、まじまじと観察した。

 しばらく観察した後「あれ?」と疑問の声を出した。

「私って色があるの? この世界って色があるものがほとんどないから、私の色も消えてるのかと思った。それに、自分の格好を確認した時も、服に気を取られてて考えもしなかったよ」

「気づいてなかったの? 今考えるとシロって自分の身体全然見てなかったね」

 クロは、ケラケラと声を上げた笑った。

「本当に気付かなかった。まさか私に色があるなんて。でも何でクロには色があるのに、シロには色が無いんだろう」

 シロは顎に手を遣ると、小首をかしげた。

「この世界のいろんなもの見て、対比なりなんなりしたら、何でシロに色があるのかわかるかもね」

「確かに、私自身気になるから、この世界でクロと歩き回るときにいろんなものを見て考えてみようかな」

 クロの一言に、シロは興味津々で食い気味に応えた。

「最初に『この世界のことがわからないから、一緒に散歩してみる?』って聞いたけど、それに加えて、色の意味を見つけるのが私たちの目的になりそうだね。そうと決まったら、明日から、もっといろんな所を二人で見て回ろうか」

 シロはクロの言葉にキラキラと目を輝かせていた。

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