第33話 王国の今

 今回の訪問でレミリア達は、あらかじめ面会拒否メンバーを王国側に伝えていた。具体的には謝罪文に名指しさで批判されたメンバーと聖女、それからレミリアの父親であるディーヴァ公爵だ。

 王国側は当然のことだと理解してくれたが、期待を裏切らずアルベルトとユリア、そしてカイルは激怒していた。


「偉そうに! 俺の機嫌を損ねたらどうなるかわかってるのか! ベルーガ帝国め!」

「酷い……まだ私のこといじめるなんて……なんでそんなに私のこと嫌いなんだろ」

「それは君に嫉妬してるからさ! 誰からも愛される美しい君に敵わないから……!」

「そ、そんなことないよぅ」


 ほんのり頬を赤らめ、くねくねと体を動かす様子は、学園時代から何も変わっていなかった。


「そうだ! 陛下や父上がごちゃごちゃ言わなければオレが実力でわからせてやるのに!」


 腰に差した剣をつかみながら威勢よく叫ぶ。

 カイルは騎士団長である父親から領地で謹慎しているように言われていたにもかかわらず、王城へ入り浸っていた。


「従者や友人から裏切られた王太子と聖女をお守りする!」


 と勝手に息巻いての事だった。騎士団長は今結界のほころびから侵入する魔物の討伐の為、この国の為に身を粉にして戦っていたため、なかなか身内の不始末に時間を取ることが出来なかったのだ。カイルはこの父親の活躍のおかげで世間からの批判を免れていた。


 側近達はこんなくだらないやり取りをグレンは毎日のように見ていたのかと思うと同情した。そして自分達も一刻も早くこの一団から逃げ出す算段をつけるのだった。


 レミリアの父はショックな出来事が続いたせいか王都から離れ、領地へ戻っていた。


「せっかく王国まで来たのに面会拒否って……殴りに行かなくて良かったのか?」

「まあ今回はそれより先にやることやらなきゃ。帝国の魔術師達もそろそろ家に帰りたいでしょ」


 それに……とレミリアが熱を込め始める。


「グレンは勝手に都落ちしちゃってるし! 弟は公爵家追放されてるし! 父親は引きこもってるし!……私まだなにもしてないのに!!!」

「まぁ俺からすると自業自得というか……お前がいなくなって崩壊していってる感じがなんとも滑稽だな」


 そう言われると、レミリアは少し得意になった。自分という存在がこの国でそれなりに必要だったと思うと、運命に逆らおうと頑張ってきたのが無駄ではなかった気がしたのだ。


「そういや弟は許したんじゃなかったのか?」

「はあ? 許してません~執行猶予にしただけです~」


 レミリアはロニーの件でわかったのだ。


(ああ、復讐してよかった~!って思えなきゃ意味ないのよね)


 自分の心を鎮めるため、慰めるため、心地よくするために力を付けようと努力してきたのだ。やりたくない、つまらない、楽しくない後味を悪く感じることをしても目的を達成できない。


「一瞬でもクソ野郎に戻ったらその瞬間泣かしに行くわ」


 その言葉には力が込められていた。そうなって欲しいような、なって欲しくないような複雑な気持ちだった。


「じゃあ残りは?」

「残念ながら時期じゃないわ。あのクソ女には結界張ってもらわないとだし、アルベルトいじめたせいであの王様が今倒れて政権交代しても鬱陶しいし、カイルはいつでもやれるから」


 いつでもやれるカイルを後回しにしたのは、レミリアは唯一彼の父親のことを嫌っていなかったのだ。厳しい視線ばかり向けてくる城の大人たちの中で、唯一彼だけはレミリアの努力を正当に評価し褒めてくれていた。その彼が今は国中を周って魔物討伐に奮闘していることは聞いていたので、今のタイミングでカイルを痛め付ける気にはならなかった。


(まぁ騎士団長には悪いけど、あの暴力クソ男は絶対に泣かすけどね!)


 昨夜久しぶりに会った国王ギルバートは明らかに憔悴していた。ベルーガ帝国でのパーティで見た時より明らかに痩せこけ、顔は土気色で、あのアレンが同情して治癒魔法をかけてあげていた。


「ありゃ~その内倒れるぞ」

「出来の悪い息子がいると苦労するわね」


 レミリアは王妃とも久しぶりの再会となったが、それはそれは深く謝罪され驚いた。レミリアにとって王妃はただただ厳しく、決して隙を見せてはいけない人物だったのだ。だがそれは未来の王妃に対しての彼女なりの指導だったのだと今回わかることになった。


「貴女のような努力家で我慢強く気高く美しく聡明な女性を王妃に迎えられないのはこの国の最大の損失です」


 その場にいた人々は、王妃の言葉は目の前にいるレミリアではなく、隣に立つ王へ伝えているように感じられた。王はまた一回り体が小さくなったように見えた。


「そのようなお言葉をいただけて……妃教育のおかげてベルーガ帝国でも上手く生きていけておりますので」


 これは嘘ではなかった。帝国でも十分通用する礼儀作法を身に着けているという自信は、臆することなくあの国の高官や高位貴族と対面するのに役に立っていた。


「嫌な思い出しかないでしょうに……この国を助けに来てくれて感謝します」 


 王のように戻ってきて欲しいとは言わなかった。レミリアはこの国で一番自分をわかってくれるのは王妃だったのだと知った。

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