第32話 里帰り

 ロニーがたくさんのお土産を抱えて王国へ帰ってから一週間、その後すぐに王国側からの正式な使者が帝国を訪れ、大賢者ジークボルトに面会を求めてきた。


「いいよ~って言っといて~」

「へーへーそのように」


 いつものようにアレンが代理で話し合いの場に出席し、水不足を緩和する魔道具の提供を約束した。


「やたらお前の機嫌を聞いてきたぞ」

「例の反省文謝罪文の反応を知りたいんでしょ」


 今回レミリアは同行しなかった。だが、王国へはアレンと一緒に行くことになっている。


「国賓級の待遇だとよ」

「国外追放だったのに、手のひら返しが凄いわねぇ」


 レミリアは王国の懐具合が気になった。彼女がまだ婚約者をやっていた時は王国の財政には余裕があったはずだが、今回の災害規模と高額な魔道具購入費のことを考えるとしばらく贅沢は出来ないだろうと予想した。


(あの王、国民の人気取り大好きだからな~復興費は惜しまないでしょう)


「初期費用はかかるけど魔道具ってのは悪くない判断だろ。長く使えるし。人件費は高くつくからな~」

「500年保証だから! すごいでしょ? 結構いいのが出来たんだよね~」

「なんですかその保証期間は……」


 つまりあと500年はジークボルトが生きているということだろうか。と、レミリアもアレンも自分達の師匠を計り知れないと改めて感じた。


 ロニーが王国に帰ってから一ヵ月が経った頃、アレンとレミリアは飛竜に乗ってマリロイド王国の王城に降り立った。


 アレン達を出迎えた高官や衛兵たちが明らかに怯えているのがわかる。


「リューク、魔物の森で待っててくれる?」

「ヴォ!」


 一言返事をした飛竜は二頭とも禍々しい空気を放つ森へ、意気揚々と飛び立っていった。


 王国側からは豪華な馬車を用意すると言われていたが、レミリアは出て行った恰好で帰ってやろうと思っていたので、わざわざ飛竜を連れてきたのだ。馬車は帝国のアレンとレミリアの世話係に抜擢されたフロイド達が乗ってくる予定になっている。これは彼ら2人が王国側に引き抜かれるのを阻止する役目も兼ねていた。


「長旅、ご苦労様でございました」

「飛竜に乗ればひとっ飛びよ」


 声をかけてくれたのは、婚約破棄の前、アルベルトの……と言うより、レミリアの補佐の仕事をしてくれていたフィーゴという若い文官だった。どうやらレミリアの王国での人間関係をキッチリ調べていたようだ。その後続いてヘコヘコと見たことのある高官達が後に続いて挨拶をしたが、


「疲れたわ。どの部屋を使えばいいのかしら」


 と、無表情に気のない返事をしていた。


「恐れ入ります……陛下が後ほどご挨拶をしたいと……」

「わかった。君達、出迎えご苦労だったね」


 アレンはジークボルトらしく愛想よく返事していたので、明らかに高官達がホッとした顔をしていた。


 帝国からの国賓の対応を任されたフィーゴは、あれからなかなか苦労しているようだった。


「私よりグレン殿の方がよっぽど苦労されていましたよ」


 少し苦笑しながら話す姿がフロイドに似ていて、


(どこも中間管理職は大変ね~)


 などと、他人事ながら同情した。


 レミリアはアルベルトがグレンに八つ当たりしている姿が容易に想像できた。


(そういえばロニーの話じゃグレンが全部ゲロったって言ってたけど……大丈夫なの?)


 王太子とその従者の関係を裏切ったと言っても過言ではない行為だ。レミリアはあまりロニーについてあれこれ考えることを避けていたので今更疑問が湧いたのだった。


「グレン殿は従者を辞めて領地へ戻られました」

「え?……ええ!?」


 グレンは王太子の従者という肩書を何より誇りに思っていたはずだ。だから信じられなかったのだ。


「陛下にお話したことが……殿下やカイル殿に酷く攻め立てられていましてね。まあその前から辞めるつもりではいたようですが、最後に説得を試みていたようですよ。必死に2人を諭していらっしゃった」

「あのグレンが……」

「最後はカイル殿が剣まで抜いてしまったので、グレン殿も諦められたようでした」


 暗い表情のフィーゴの様子から、それがとても激しいやり取りだったのとがうかがえた。


「それから……」

「まだ何かあるのですか!?」

「ご存知ないようだったので念のため……」


 気まずそうにフィーゴが話す内容に、またしてもレミリアは声のボリュームを抑えられなかった。


「ロニーが勘当された!?」

「なんでも勝手に私財を全部教会へ寄付され、孤児院関係の決定権を全て手にしたとか……」

「やること極端すぎるでしょ……」


(無責任なんて言ったからかしら)


「思いっきりやる時は振り切っちゃう感じ、お前の血筋って感じがするな」


 アレンはいつものように肩を振るわせ笑っていた。


「災害続きで孤児が増えていましてね……それが気になったのでしょう」


 もちろん、あの謝罪文の批判から逃れるためだとか、金持ちの偽善だとか騒がれているらしいが、それでもロニーは無理やり勝ち取ったという話だった。


「正直教会も寄付が大幅に減っていて各地にある孤児院の維持が厳しくなっていましたから……渡りに船だったと思いますよ」


 レミリアがいない間に王城内も、そして国内も大きく変わり始めていた。


(さっき空から王都を見たけど、活気を感じなかった……)


 不穏な空気が王国全体に立ち込めていたのだ。

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