第14話 会談

 レミリアとマリロイド国王ギルバートの話し合いの為に、ベルーガ帝国が部屋を用意してくれていた。ベルーガ帝国はマリロイド国王の思惑がわかっていた。


 大賢者の1番弟子を王国へ連れ戻すつもりだ。彼から得た知識と共に。


 だが帝国も優秀な人材を逃すつもりはない。あくまでもレミリアはすでにこの国の者だと暗に匂わせるためにわざわざいい来賓室も、更に使用人まで用意した。


「陛下に挨拶もなく旅立った無礼をお許しください」

「頭を上げてくれ。それはこちらが謝ることだとわかっている」


 王もレミリアの嫌味がわかっていて敢えて受け入れる。


「早速だが本題に入ろう」


(察しはつくけど)


 レミリアは促されるまま無表情に席についた。


「多くの者が君に戻ってきて欲しいと言っている。どうか私と一緒に王国へ戻ってはくれないか」

「お断りいたします」


 表情は柔らかく微笑んでいるが、鋭い口調でハッキリと断る。


(相変わらずね、この王も)


 彼女はこの王のことが好きではなかった。事勿れ主義で肝心な事がいつも決断出来ない。


(先にてめぇの息子の謝罪だろーが)


 国民から見たらいい王なのはわかっている。誰にでもいい顔をするのだから。皺寄せがどこの誰にいっているかわからないほど馬鹿ではないだろうに。


(どうせ私が我慢すればいいと思ってるんでしょ)


 ここまでハッキリ断られるとは思っていなかったのか、言い淀んでいる王に追い打ちをかける。


「こうなる事は聡明な陛下ならご想像出来たはずです」


(例えば学園のパーティでアルベルトが私以外の女をエスコートしてた時とか私以外の女にドレスやアクセサリーを送ってた事とか魔物の討伐に成績下位の女を選んでプチ旅行を楽しんだりしてた時にね!)


 まだまだ他にもたくさんあるが、思い出してもムカつくだけなので途中で考えるのを辞めた。


「いや、しかし……」


(しかしもへったくれもあるか!)


 王は知っていて何もしなかった。未来の王妃としての手腕を試されているのかと思い込んで耐えた日もあったが、ただ一度だけ王に訴えたことがあった。


「アルベルト様に一言陛下からのお言葉をいただければ、それだけで私の心は救われます。どうか……」


 あまりの理不尽に耐えかねての懇願だった。


「そのくらいのことが耐えられないとは。君はもう少し出来る娘だと思っていたが」


 この時もう少しまともな言葉をかけてくれていたら、今日ここでのレミリアの態度も少しは違ったかもしれない。


「それでは失礼いたします」


 お茶すらまだ出てきてない内から帰ろうとするレミリアに王は驚いた。


「ま、待ってくれ!」

「まだ何か?」


(こんな娘だっただろうか)


 従順そうにうなずいていたかつてのレミリアではなかった。彼女からすれば、ただの点数稼ぎの為の演技に過ぎなかった。王に気に入られておけば、いざという時助けてもらえるかもしれないという保険だった。全く無意味に終わったが。


「も、もう一つ頼みがあるのだ……」

「はあ。なんでしょうか」


 レミリアはもう不愉快という態度を隠すつもりもなかった。下手に何かをお願いされても腹立たしいだけだとわかったのだ。


「ち、治療薬が欲しい」

「なんのでしょう?」


 国王はレミリアの態度が不満だったが、ここで腹を立てるわけにはいかなかった。彼の国民の命がかかっている。


「ここでも流行っていたあの病の治療薬だ……マリロイドでも感染者が出始めた」

「ええ!? まさかあの回復魔法が効かない病ですか!?」

「そうだ」


(そうだって……)


「私ではなくこの国の皇帝にお頼みください」

「君はあの大賢者の一番弟子になったのだろう!? 君から大賢者にお願いしてくれないか」

「……帝国に借りを作りたくないのですね」

「そうだ」


(またそうだ……って)


 だんだんとイライラが募り始めた。お互いに。


「お断りいたします。何故私が私を追い出した国の為にそこまですると思ったのか甚だ疑問ですわ」

「だから帰ってきてくれと言っている!」


 王はついに怒鳴った。小娘ごときに舐められるのに我慢できなくなったのだ。


(この親にしてあの子ありってことね~)


 レミリアは呆れるしかなかった。


「私を怒鳴りつけるより、自分の息子と未来の嫁の行動を諫めた方が宜しいのでは? ぼんくら具合が噂になってますわよ」

「なんだと!?」

「私も同郷として恥ずかしい思いをしますから、早めにどうにかしてくださいませ」


 そう言うと王やその従者達の制止を無視して部屋をでた。




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