第13話 国王の悩み

 マリロイド国王ギルバートは評判の良い王だった。歴代の王達もそうだ。どの王も常に国民のことを考えていた。

 魔物の森に囲まれた彼の国は、他国の侵入こそなかったが、常に恐ろしい怪物に怯える国民を守るため、いつも結界を張れる聖女を探し回っていた。


「学園に聖女が現れました!」


 その報告にホッと息をついたのはそんなに前のことではない。今の聖女は高齢で、通常であればまもなく引退の時期に来ていた。


 更に歴代の王達は他国からの輸入が厳しい環境故に、自国でありとあらゆるものを生産できるよう環境を整えた。

 そして未来を担う若者の為に魔術学園が開かれ、そこで優秀な成績を収めたものは間違いなく一流の魔術師となっていた。


 彼の国は平和で穏やかで、国民は幸せそうだった。


 だが王ギルバートはどうしようもない不安感に襲われていた。彼の息子アルベルトが急に婚約破棄をして、相手の娘がこの国からいなくなったその日、彼は直感的に感じた。


『この国はもうすぐ終わる』


 何故なのかはわからない。だがそれは確信に近い感覚だった。王としての勘だ。そして予想通り、彼の不安は少しずつ形を現し始めた。


「なぜ勝手に婚約破棄など! しかも国外追放だと!? そのような事命令できる立場か!!?」

「なぜお怒りになるのです? 俺は次の王ですよ。あのようなこの国の害にしかならない女を代わりに追い出して差し上げたのに」


 いつから自分の息子はここまで話が通じなくなったのか。王は信じられない、信じたくなかった。


「公爵家の許可ももらっています」

「それはお前が勝手に宰相の座を約束したからだろう!」


 レミリアの父と義母は彼女より未来の宰相の座を選んだ。アルベルト即位後、レミリアの義弟には宰相の席が用意される。元々彼女は家族と仲が悪く、例え彼女が王妃の座についても公爵家に旨味はないと判断したのだ。


 畳み掛けるように国王の悩みは増えていく。


「父上、俺はこの聖女ユリアと結婚いたします!」

「聖女と言えど彼女の力はまだ弱いと聞いているぞ! まだまだ修行が必要だろう。とても王太子妃は務まらん」 


 聖女ユリアの評価は、息子とその取り巻きからのものと、学園で共に過ごしていたものとの間に大きな違いがあった。

 彼女は同級生からも教師からも評判が悪かった。彼らの言葉を聞いた王は到底ユリアが優しく素晴らしい女性とは到底思えなかったのだ。


「俺とユリアは真実の愛で結ばれているのです! 父上と言えどこの愛を引き裂くことなどできません!」

「愛するなと言っているのではない! 彼女に未来の王妃は務まらないと言っているんだ!」

「同じでは有りませんか! 俺は彼女をこの国の聖女、そして王妃にします!」


 アルベルト達はいかにユリアが美しく優しく素晴らしい女性かを語った。だが王は知っていた。彼女の特殊な結界を張るという能力を抜かせば、学園での成績は下から数える方が早い。

 

 レミリアの方は次の王であるアルベルトに目をつけられる危険を冒してまで嘆願書を出してきた生徒や教師がいた。彼女がこの国に戻らなければ未来がないとさえ書かれていた。彼女が公務以外でも頻繁に訪れていた孤児院や、平民向けの学校に通っていた人々からも王家への批判が出始めていた。


 こんな事、彼の治世で初めてだった。

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