第20話 かわいいっ!
周王が去り、郡王は俺にささやいた。
「……夫人の記憶の中で、十八年間一緒にいた男というのは、まさか……」
「俺は殿下に嘘はつかないと誓った。男に二言はない。その通りだ。終わったんだよ。もう、九殿下にやきもちを焼いたりするんじゃないぞ」
郡王は俺をお姫様抱っこして南殿の郡王の寝室のベッドに下ろした。
「じゃ、いつから本王のことを?」
面倒な男だ。
「はっきりと意識したのは、ほら、月のものが終わってから始めて朝食を共にしただろ?あのときにたまらなくムラムラしたねえ」
「ほう」
「気づいてたくせに。だが、目が覚めたあの日に来たじゃないか。俺が薬を飲まない!ってやったあのとき。美男子だなあと思ったし、あの後も世話を焼いてくれて、マメな男だなと思ったし」
「夫人は世話焼きの男が好きか」
「好きだね。だが、今思えば、昏睡してたときに黒糖生姜だな、飲ませてくれたじゃないか」
郡王はあのときのように俺を後ろから抱きかかえ、左の足で俺の背中を、左の腕で俺の頭を支えた。
俺はその腕を撫でた。
「殿下が俺をここに呼んでくれたんだな、きっと」
ちゅうっと音を立てて郡王は口づけをした。
たまらん。
だが、俺も聞いておかないと。
「趙小瑶との不仲は、太子を刺激しないための演技だったのかい?」
「いや、本当に夫人は本王に対して怒った」
「なんで!?」
郡王は頭をかいた。
「大婚の晩に、九弟のために本王を選んだとなじったのだ」
俺はガバッと身を起こした。
「は?なんて言ったか、全部俺に言ってごらん」
郡王は小声で白状した。
「九弟のために本王を選んだ。そのために、意図を理解しない九弟に恨まれていると……」
「ばっかじゃない?ほんとバカなの?信じられない。趙小瑶は俺が殿下にムラムラするのと同じように思ってただろうに。で、殿下はほんとあの九ちゃんも太子も無視して、趙小瑶のことをどう思ってたんだよ」
「……その白い肌が……たまらなく……将棋で打ち負かされるたびに……本王は……」
言いながら、息がどんどん上がっていきやがる。背中に当たっているものがかっちかちになってきた。
Mさんだったか!そりゃそうだな。この体を作り上げるのに、どれだけの痛みがあったか。痛みを快感に感じるタイプだろう。
俺は郡王に向き直り、郡王を座らせて、その膝にまたがって煽ってやる。
「見ただろ。白い肌はもちもち、体つきもむっちむち。女の体が好きなら、なかなかのもんじゃないかね?」
「……見てない」
「……は?」
見渡せば、南都の郡王府の郡王の寝室にはろうそくの光がいくつもあるのだが。
「都の郡王府の寝室は真っ暗だったのかい?」
「……引っぱたかれて……」
お、おう。
「……何もせずに……」
「……まさかの一年間、お預け?」
郡王は小さく頷いた。
「……昏睡したときに?」
「……初めて口づけをしたし、初めて抱きしめた……」
おまけに郡王は俺の胸に顔をうずめて言いやがった。
「……み、導いて、くれないか……」
「……女の体では初めてだし、男だったときも女とはしてないから、よくわからんぞ!」
まじかよ!俺は初めて女の体になったし、この体も男を知らなさそうだぞ。慌てて大学入試レベルの平安時代の知識を引っ張り出す。
「お、皇子は、げ、元服のときに、女を、あてがわれたり、するんじゃ、ないのか?」
「……本朝では、それは、太子だけで、ただの郡王は……後宮を、追い出されて、おしまいだ……」
「……女も男も知らないんだな?」
荒い息ながら、コクンと頷く郡王は子犬のようだ。
俺は生唾を飲み込んだ。
「八殿下は俺に約束しろ。一生他の人間を抱くんじゃないぞ」
荒い息の郡王はトロンとした目で俺を見つめ、一生の忠誠を誓ったのだ。
かわいいっ!
胡蝶の夢〜俺が郡王夫人(ぐんおうぶにん)になった件〜 垂水わらび @tarumiwarabi
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