30.尻尾
バジョーグという町に着いたのは、その日の夕方だった。お年寄りばかりの、のどかな村だ。僕らの町、ホルストーンに似た雰囲気があって懐かしい感じがする。「ここ静かでいいな」「いいけど、美人のお姉様がいねぇよ」などと話ながら、今夜の宿を探していると、おばあさんが声をかけてきた。
「おや、若い子が来るなんて珍しいわねぇ」
振り返ると、たくさんのおばあさんが集まっていた。気づけば注目の的だった。大勢のお年寄りが楽しそうに話している。よほど若者は珍しいらしい。
「どこから来たんだい?」
「ホルストーンですけど」
「あの閉ざされた町から? 大したもんだねぇ。ところで今夜はどこに泊まるか決まったのかい?」
「今探してるんです」素直に答えると、今度は別のおばあさんが宿を紹介してくれた。
「それなら、町の東がいいんじゃないかい? あそこは安いからねぇ。でも行くんなら早く行った方がいいわねぇ。最近どこも物騒だからって、夜は全部店が閉まっちゃうから」
するとまた別のおばあさんが、「でもこの村ならあのお方がいるから大丈夫だろうけどねぇ」
「あのお方?」
すると、よく聞いてくれましたとばかりに、おばあさんが一斉にしゃべりだした。
「そうそう、あのお方、時々この村に来てくれるんですよ。とってもおもしろい方でねぇ」
「一人暮らしじゃ、寂しいって思うでしょ? でもあのお方がいるから楽しいのよ」
「それってどんな人なんですか?」と聞くとすごい答えが返ってきた。
「驚くかもしれないけど、耳としっぽがあるわねぇ」
「耳と尻尾?」
二人で目をぱちくりした。
「名前も変わってたわ。確か」悩んだおばあさんの代わりに別のおばあさんが言った。
「
そろって聞き返した。
「四大政師ってあの四大政師ですか?」
「そうその人のことをしゃべってるのよ」
おばあさんはまた口々に話し出した。切りがないので、声をかけてくれたおばあさんに、その人はどこにいるのか聞いた。
「近くの森に住んでますよ。でもさっきも言ったけど夜は物騒だから、会うなら朝まで待った方がいいと思うわねぇ」
たくさんのおばあさんに見送られて、宿に向かった。おばあさんに負けないくらい興奮してきた。
「悪いやつじゃないよな?」
「だといいね」
ジェルダン王には血を抜かれたし、
おばあさん達に言われたとおり、夜は物騒だと思うので、その後は宿ですぐに寝た。珍しく悪夢も見ずに済んで朝になると迷わず森に行った。
薄暗い森だった。木々は高く、太陽を上に押しやるようにして光を遮っている。優に樹齢百年は超えているであろう木がそこら中にある。道はコケの生えた根が好き放題に露出した獣道だ。
「こんな所に人がいるのか?」と、グッデが三回ぐらい同じことを言った時、遠くの方に明かりのある家を見つけた。いい匂いもしている。
「人がいるみたいだね」
「間違いなく料理中だ!」と、匂いにつられたグッデは駆けだした。後を追う形になって、おかげで早くその家に着いた。レンガでできた小さな家だ。煙突から煙がでている。甘い匂いがするから菓子でも作っているのだろうか?
グッデは早速、呼び鈴を鳴らそうと言いだした。いざ、扉の前に立つと気後れしてしまった。相手は魔術師である四大政師だ。
「尻尾があるとか言ってなかった?」
おいしそうな甘い匂いに浮かれていたグッデの表情が引きつったその時、扉が開いた。中から光が漏れてとうとう出てきた。
「よく来たな。とりあえずあがれよ」
人だった。でも、毛で覆われた耳があった。尻尾も本当にある。いや、それより驚いたのは、とても四大政師だとは思えない、なじみやすい話し方をする人だったことだ。
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