31.チャスフィンスキー

「早く入れよ。今ごちそうを用意してやってたところなのに。全く、何じろじろ見てるんだ?」


 ぽかんとしながら、チャスフィンスキーを見ていた。耳は左右色が違う。右は黄色いのに、左は黒い毛が多い。髪も黄色いがまばらに黒い毛が混じっている。しっぽは先がきつね色なのを除けば真っ黒だ。服も一風変わっていて、何枚も、布を巻くようにして、最後に山吹色の長い服を羽織っている。


 家の中に案内された。中は、テーブルと椅子があるだけの部屋だ。奥にキッチンがあって、その向こうにもう一つ部屋があったがドアが閉まっている。キッチンからチャスフィンスキーは二人分のチョコレートケーキを持ってきた。


「俺の手作りの新作! って旧作が分からないか。まぁ食べてくれ」


 勧められるままにケーキをよばれた。見た目は変わった人だけど、優しそうな人だ。

「改めまして、俺はチャスフィンスキー。ちなみに四大政師史上最年少二十四歳。あだ名はチャスってことで、そう呼んでくれ」


 グッデはさっきからそわそわしていた。


「何?」優しくチャスフィンスキーが問いかける。

「その耳と尻尾、何であるの?」


 これは僕も聞きたかった質問だ。

「だって俺、母さんが狐で、父さんが狸だからな」

「ちょっと待て、何でおまえは二足歩行なんだ!」


 グッデの質問に自称チャスは何ででしょうと問う。

「魔法?」と、当てずっぽうで聞いた。

「正解。変身の術だ」


「何で耳と尻尾は残ってるんですか?」と不思議に思って聞くと、

「愛嬌だ」と、簡単な答えが返ってきた。

「こいつ本当に四大政師?」


 チャスフィンスキーはいいことでもあったように、こっちを見て笑っていた。


「もう一つ聞いてもいいですか? 他の四大政師の人は、名前の前に『水、月夜の』とかありますけど、あなたにもあるんですか?」


「ない。だってそんなのあったら、みんな呼びにくいし。あと、俺のことチャスでいいから」

「じゃあチャスって呼ぶけど、おまえ何ができるの?」がつがつケーキを口に入れたグッデが聞く。


「色々できるけど。得意なのは何だと思う? ヒントをやろう」

 チャスは懐から金色のコインを出した。要姫が落としたものと形が同じだ。

「これは紋章?」


四大政師よんだいせいしは必ず持ってる」

 斜めに三本の線がじぐざぐに描かれている。左上に星が一つあるが、これだけじゃ検討がつかない。


「四大政師って、僕達よく分からないんです」

「簡単に説明すると、魔術師。仕事は主に、治安の安定。正反対に治安の悪化を目的としてるのがジェルダン王」


「それで要姫が戦ってたのか」


「要姫に会ってるのか。ジェルダン王と仲が悪いのは確かだ。永遠の宿敵って感じだな。別に王様と姫様で身分争いしてるわけじゃないぞ。王とか姫って呼ばれるのは単なる名称。

 

 仲が悪くなったのは、要姫が四大政師になった時期、結構世の中が安定したのに、ジェルダン王が何かとつけてちょっかいだすから、さすがの要姫も怒ったんだ」


 二人の因縁か。お互いに長いつき合いらしいし、どちらも手の内を知っているようだったのにも、納得がいく。


 簡単に説明を終えて、チャスはコインを手渡す。

「要姫の紋章も見たことあるだろ? あれは持っている人を助けてくれる。どんな効果があるかは、おれの能力と関係がある」


 グッデが直感で何かを感じ取りはしゃいでいる。

「魔法だろ? おれたちにもできるようにしてくれるんだろ?」


「ああ。一つコインをやるよ」

「何ができるようになるんだ?」

「そこは、当ててもらおっかな」


 何て楽しそうなチャス。この人。人かは分からないが、とても見た目は風変わりだけど、いい人だ。


「そういえばこの家に僕らが来るって分かってたんですか?」ケーキを食べ終わってから気づいた。

「まあね。それも俺の得意技の一つ」


「何でここに来たかも分かる?」

 するとチャスは言った。


「何か色々あるみたいだな。分かるけど、言っていいのかな。お前、怪我もすぐ治るし、死なないとか?」


「分かるんですか?」

 思わず身を乗り出したら、ちょっと待てと、手で止められた。

「俺が分かるのは、俺がお前の心を読めるからだ」

 驚いて口をあんぐり開けると、チャスは目をつぶった。


「名前はバレと食いしん坊のグッデだろ」

 そういえば、まだ名乗っていなかった。

「何でこんな体になったか分かりますか?」


 少し不安だが、率直にぶつけた。この人なら何でも相談できそうなのだ。チャスは真剣に聞いてくれた。

「生まれた時からじゃないんだな? だとすると、ムヘンドクレス以外だな」


 聞き慣れない言葉だ。

「何ですか?」


「生まれたときから不死身の一族で、要姫も不死身の一族の村の出身だ。でも要姫は不死身じゃない。一族の中でも数名しかそういう才能を持ってないんだ」

「あの要姫が」


 しかしチャスは注意した。

「不死身と一口に言っても、種族は様々だ。バレみたいに血が出るけど、治る種族だけでもかなりいる。でも、はじめ人間だったのに、突然不死身に変わるなんて聞いたことないな」


 そんなに不死身の種族がいるなんて知らなかった。でも、そのどれにも当てはまらないなんて! つまり振り出しに戻ったのだ。


「不死身のことは不死身に聞くのが一番だろう。俺の友達を紹介してやるよ。シャナンス・ジルドラード・オルザドーク、行方不明の大魔術師だ」


「何それ」

 グッデが行方不明というところで一人でつぼにはまって笑っている。だけど頼もしい。手伝ってくれる人が一人でも多ければ。


「まぁ俺も探してみるけど、連絡が取れないんだ。あいつが消えるときはたいてい、よくないことが起こってる。俺も最近気になってることがあるしな」


 何が気になるのかと聞こうとしたら、チャスがしきりに耳をぴくぴく動かした。

「うわ、また来やがった。うわさをすればだな」

 慌ただしくチャスは外に出た。


「あ」と呟く声がしたと思ったら戻ってきた。

「危ないから、ここから出るなよ」


(何が来たんだろう)


 二人とも同じことを考えた。何かやばい感じがする。足音を立てず玄関まで行って、外の様子をうかがった。しかし外は何もない森。チャスの姿もない。と、その時悲鳴が聞こえた。お年寄りの声。町の方からだ。


「物騒なのって夜だけじゃないじゃん」

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