18.職場見学

「へへ。俺はここの職員だ。職場を見たいか?」

「別にいいです」と断ってみた。グッデも首を横にぶんぶん振っていた。にもかかわらず男は、「見せてやるよ。ついてきな!」


 二人とも腕を捕まれ、引っ張られた。異常に力が強い。

「遠慮しときます」

「おれも」


 しかし男は無視したのか聞いてないのか、迷路のような本棚を次々通り越し、腕を放そうとしない。

「おれ達ほんとに帰れないんじゃないか?」


 そんな気がしてきた。右に曲がったり、左に曲がったりを繰り返し、いつの間にか最初にいた位置が分からなくなっていた。似たような本棚を目まぐるしく曲がりに曲がって進み、数分が経過した。


 それにつれ、ますます部屋は暗くなり、時間の感覚さえもなくなったとき、本棚を抜けた。しかしどこだか分からない。なにしろ真っ暗で、何も見えないのだから。男はここでやっと腕を放してくれた。しかし前も、後ろも、真っ暗でどうしようもない。隣で小物をいじっているような音がする。


「おれ達を食う気かな?」グッデの震える声が伝わってくる。さすがにそれはないと思うが、そう言いきれる自信がない。


 マッチの擦れる音がして明かりが灯った。壁にあったロウソクをいじっていたのだ。それにより廊下が照らしだされた。左右に通路がある。どちらも木の根で床が割れていた。

「なあ、今の内に逃げないか?」


 逃げたいのはやまやまだ。しかしもう帰り道が分からない。それに逃げ切れるとも思えない。相手はここの職員らしい。いくら広いとはいえ、この図書館の内部を知り尽くしているはずだ。


「たぶん無理だ」


 「でもこいつ何するか分かんねぇだろ!」

 男がわざと言ったのかどうか分からないが話が遮られる。


 「ここ広いだろ。似た場所がいくつもある。迷ったら戻ってこれねぇ。絶対な。そうさ戻れねぇ。でも俺はここにずっと泊り込みだからよぉ、迷子にゃならねぇんだ」


 ますます帰れない気がしてきた。男が本当にここにずっといるとしたら、やはり殺人犯である可能性が否定できなくなる。男は手に持つロウソクの火を揺らしながら左の道に僕らを突き飛ばした。

「ちょっとどこにつれていくんですか?」


「そ、そうだぜ。別に誰もあんたの仕事場見学したいなんて言ってねぇぞ!」

 男はおかまいなしでグッデを引っ張る。

「遠慮するな。俺の仕事場、きっと気に入る」


「グッデを放して下さい」

 男は目を見開いた。猫背が酷く曲がった。言葉はない。目が異様に赤くなっている。髪が逆立ち、顔にいくつものしわが寄る。さっきまでとは別人のような形相で、今にも犬みたいにほえてきそうだ。しかし犬みたいな行動に出たのはグッデだった。


 男の腕に噛みついた。男は痛さで喚き散らした。今の隙に逃げないと。振り返るのが怖くて、追ってきているのか分からない。


「出口はどこだろう?」

「そんなこと聞くなよ」

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