17.職員
まさかこの建物に人がいるとは。男は赤く充血した目でじろじろ見ながら、苦しそうに言った。
「ここがどこだか知っているのか? あまり、深入りってのは、よくないってな。俺の死んだ
息つぎばかりして、この男が怒っているのか説教してるのか、はっきりしない。
「失礼ですけどあなたは?」
少なくともこの人が人間であることを願いたい。でもバカな話、さっきグッデがフランケンシュタインと言ってからそんな気がしてならない。もっといい方向に考えるべきだと思う。しかし、どう考えても悪い思考に至る。仮にこの人が普通の人間だとしても、今までにここに入った人達を殺してきた、殺人鬼の可能性だってある。
「お、俺。俺が誰かって? 俺が誰か?」
男が目を丸くして息を飲み込んだ。名前を聞いただけなのに驚きすぎだ。こっちが驚く。
「そんなこと聞いてくれたのは、おめぇらが初めてだ」
男は片足をぶらぶら振りはじめ、顔をほころばせた。喜んでいる?
「何なんだこのおじさん」とグッデが小声で言うので小声で返す。
「分かんないけど、気をつけないと」
今はそれしか言えない。ほんとに分からないから。それに、初めてってどういうことだ。僕たち以外の人間に会っているのか? なのにこの場所から人は帰った試しがない。うん、危険すぎる。
今すぐ逃げ出したいけど、男との距離が近いから逃げきれるか分からない。男は指で爪をこすり始めた。ますます行動がおかしくなる。こんな暗いとこで爪なんかこすって、ピカピカに光りだすのでも待っているのか? しかしそれは小さい子供がもじもじしているようなものだと分かった。傷だらけの顔には笑顔が浮かんでいた。しかし外見と似合わないので、やや怖い。
「俺はずっと、ここにいるんだずっと! っは! ずっとだ」
怒っているような大声になったので鼓膜がびりびり鳴った。
「何でここにいるんですか?」
距離を保って聞いてみた。男はその質問に戸惑っているのか、目を四方にぎょろつかせる。
「そりゃ、おれぁ、ここにいるからいるんだ。ここは俺の職場なんだからな」
意外なことを言うので今度はこっちが戸惑った。誰もいないはずのこの場所に人がいたばかりか、働いている人がいたとは。それを期に男は調子をよくしたのか、興奮し始めた。
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