16.猫背の男
「まだ夕方だよな。暗いな」
一歩、また一歩。歩くたびに床が音を立てる。建物は全体的に、黒く汚れている。壁の一部がカビで覆われていた。クモの巣もあちこちにある。廊下の両脇には、火のけのないロウソクが壁にいくつも残っている。
少し行くと突き当たりに、扉が見えてきた。入り口の扉と比べると、何ともひどいありさまで、何十年も使い古されている。近くに行ってみるとよく分かる。木でできている扉は腐りかけていた。これが、つい最近に木に飲まれた有様か?
「開けていい?」後ろにいるグッデに聞いてみた。ちょっとグッデが心配だ。どうも不気味なのだ。やめるなら今の内だろう。
「いいぜ」グッデは最後までつき合ってくれるらしい。でもきっと長居はしたくないはずだ。さっさと本を探した方がいい。
きしむ扉の音が、より不気味な部屋を演出した。この部屋に窓は一つもなく、電球は全て割れているか、元々ついていない。壁は大理石でできているようだがそれも、ほこりで黒くなっている。しかし中はとんでもなく広い。本がどこまでも続いている! 迷路のような造りで棚が並んでいた。あまりにも広い部屋だ。端が見えない。
「すげぇ本棚だな。おれ迷子になるかも」と、グッデが大げさに感嘆するのも無理はない。本当にその通りだ。とにかく本棚が見つかった以上、早く探した方がよさそうだ。とりあえず、傍にある本棚を調べ始めた。そう簡単に見つかるとは思ってない。なにしろ図書館は広いし、そもそも探している内容の本は存在するのかさえ分かっていない。
一時間近く探したにもかかわらず、いい本は見つからなかった。探し方が悪いせいもあるのだろうが、二手に分かれるのには、勇気がいる。グッデはすっかりやる気をなくし、本を床に放り投げる始末。
「そんなに苛々してたら見つかるものも見つかんないよ。それに本を投げたら駄目」
「何だよ。どうせここ取り壊すんだろ?」と、グッデが疲れた顔で言った。
「そうだけど」
「なら問題ない」とグッデがまた本を投げる。
「何をしている?」
肩に誰かの手がのしかかってきた。僕達は悲鳴を上げた。
後ろを向くと、みすぼらしい一人の男が立っていた。猫背で五十代前半のやせ細った男だった。手だけはほとんど骨だけのようで、七十歳ぐらいに見える。髪もほとんどなく、目の下だってくまができている。なにより驚いたのは、顔中傷だらけだったことだ。
「出たフランケンシュタイン!」
とっくの昔に、ここが自分の怖がっていた場所だったことを忘れていたグッデは、今さらのように怖がった。
「ここで、何してる?」
男は怒るわけでもなく、体を少し揺らして、物憂げに言った。ひどく枯れた声だ。
「い、いえ何でも」
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