第31話 屋上(1)
「ちょっと待て、架河森。はえぇよ」
俺はズレた眼鏡を押し上げながら、前を行く同級生に抗議する。ここは三階の踊り場。屋上は四階建ての校舎のてっぺんだが、一気に駆け上がるには俺の体力が保たん。肩で息する俺とは対象的に、振り返った架河森は飄々としていて、
「句綱君、運動不足じゃない?」
うるさい。お前だって帰宅部だろう。
「大体、屋上なんて鍵が掛かってるだろ。行っても入れないんじゃないのか?」
うちの学校は屋上は生徒立ち入り禁止だ。
俺は駆け足を歩きに変えた架河森に追いつき、並んで足を進める。
「そうだね。嘘告見張ってる時、何度か屋上に行こうと思ったことがあるけど、いつも閉まってた」
すでに実践済みだった。そういえば、放課後に三階の廊下の端から西校舎裏を見下ろしている架河森に会ったことがあったっけ。以前から監視しやすい場所を探していたのか。
「じゃあなんで、わざわざ行くんだ?」
架河森の足は止まらず屋上に向いている。
「今日は開いてる気はするから」
「なんで?」
俺の問いに、彼女は意味深に笑う。
「句綱君がいるから」
……なんで俺が?
意味が分からなくて反論の口を開きかけた時には、もう屋上前のドアに着いていた。
暗い階段の奥にある、外界を阻む重く厚い鉄のドア。
架河森はドアノブに手を掛け振り返る。
「覚悟はいい?」
「いや、全然」
正直帰りたい。でも架河森はいつだってマイペースだ。
「もう遅い」
俺の気持ちなんかお構いなしにノブを回す。
薄く開いたドアからオレンジの光が差し込む。……なんで本当に鍵が開いてるんだよ?
風圧に負けてなかなか開けきらない架河森の頭の上からドアを押して手助けする。
学校の一番高い場所。初めて出た屋上は寒々としたコンクリート敷で、2mほどの金網のフェンスで覆われている。頭上には茜色から紫に変わる黄昏の空が広がっていた。
「あれ」
不意に袖を引かれ、架河森の指差す方を見る。
そこには強い風に髪を揺らし佇む男女の姿があった。夕日に伸びた長い影は、否応なくあの日を思い出させた。
一番最初に見た、架河森の告白風景。
当然だ、手前側に立つ後ろ姿はあの日と同一人物、二年生の厚浦だ。
そして彼の長身に隠れるように向かい合ったもう一人は……。
乱れるゆるふわ髪を耳に掛け、困ったように眉を下げる女子生徒。
――孤泉莉珠だ。
不可解な同級生が気になって仕方がない 灯倉日鈴 @nenenerin
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