第29話 幼馴染(3)

「勘違い?」

 鸚鵡返しする俺に、彼女は考えながら、

「私、このゲームの主催者は参加者を競わせて『負の感情』を集めることが目的だと思ってたの。でも、参加者をいたぶることがゲームの目的だったとしたら?」

「どういうことだ?」

 架河森は烈矢を指差す。

「須崎君は明らかに正気じゃなくなってたでしょ? 口から黒い虫みたいなモノが出てきたし。あれは多分、呪いの一種。須崎君や他の参加者達は嘘告で悪意を練り上げ、自分の中にあの呪いむしを作ってたんだと思う」

 自分の中に呪いがあったから、魔除けの塩が効いたのか。

「ええと、つまり烈矢は主催者に呪われてたのか?」

「呪いを作る悪意材料を溜め込んだのは、あくまで参加者の行動。でも、そう仕向けたのは主催者だね」

「呪うって……主催者は呪術師か魔法使いか?」

 また漫画やアニメの世界になってきたぞ。半信半疑な俺に、架河森は苦笑する。

「本職か素人かは知らないけど、ヤバいことをしてるのだけは確か。須崎君の言葉から、彼はこのゲームに負けたことが窺える。敗者もこんな霊障を負ってるんだから、優勝者はもっと酷い目に遭いそうだよね」

「主催者は参加者に恨みがあって、このゲームを始めたのか?」

 俺の問いに、架河森は釈然としない表情だ。

「恨むにしては、参加者の数が多いよ。もっと、明確な標的がいないと」

 言いながら彼女は、ぼんやりとへたりこんだままの烈矢に近づき、頬をペチペチ叩いた。

「おーい、須崎君、聞こえる?」

 烈矢は虚ろな目を瞬きさせて、

「架河森、俺と付き合……」

「わない」

 ぴしゃりと拒絶された。

「それよりさ、なんで須崎君は嘘告してるの? 嘘告するとなにかいいことがあるの?」

 毒気を抜かれたとでもいうのだろうか。烈矢は自動人形のように聞かれるがままに口を動かす。

「学校で一番モテる男にと付き合う権利があるんだ。それを証明するために、たくさんの女子を振ってポイントを貯めてた」

「彼女って?」

「弧泉莉珠先輩。彼女はモテる男が好きなんだって」

「それは弧泉先輩から直接聞いたの?」

「直接なんて話せないよ。部活の先輩に教えてもらった」

「部活の先輩がポイント貯めろと言ったの?」

「先輩は生徒会の人に聞いたって」

 架河森が口元に手を当てて「むむぅ」と唸っている間も、烈矢はぶつぶつ独り言を呟いている。

「俺、頑張ったのに。もう少しでりじゅたんと付き合えたのに。慧が邪魔するから。親友だと思ってたのに。裏切り者、裏切り者、裏切り者……」

「……おい」

 聞き捨てならず、俺は烈矢の胸ぐらを掴んでいた。

「俺はお前らの卑劣なゲームには関わってない。大体、嘘告で一番になったら本命と付き合えるなんて馬鹿な話があるか。本人に確認も取らずに。俺だったら、遊びで人を傷つける人間と付き合うなんてゴメンだ」

「そうだ、そうだー。女は悪い男が好きなんて都市伝説だぞー。モテる人は悪いことしなくたってモテるんだぞー」

 説教する俺の後ろで架河森が茶々を入れる。嘘告に乗っかって場を荒らしてた奴は黙ってろ。

 烈矢はすがるような目で俺を凝視してから……、

「お前にはわかんねぇよ」

 ぽつりと零してそれっきり黙ってしまった。

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