第27話 幼馴染(1)

 翌日、登校した俺は早速烈矢に話を聞こうとしたが……バスケ部は朝練で教室に入ってきたのは朝のHRギリギリで暇がなかった。

 それから授業の合間の10分休みも昼休みも、人目があったり、気づくと烈矢がいなくなっていたりで、ことごとく喋るタイミングがなかった。

「ちょっと、なにやってんの?」

 ご立腹な土地神様のお嫁様が棘のある声でつついて来るが、仕方がないだろ。

「今日中にちゃんと聞くよ。俺だって、烈矢に気味の悪いゲームに関わって欲しくない」

 それは本心だ。

 不意に前を横切った幼馴染に「烈矢」と声を掛けるが、聞こえなかったのか振り向きもせずに通り過ぎてしまった。

 ……なんか様子がおかしい?

 もやもやを抱えつつ、俺は最後のチャンスである放課後を逃すまいと、密かに標的の動向を観察し続けた。

 そして……。

 終業のチャイムが鳴った後、通学リュックを肩にさっさと教室を出ていく奴を捕まえることに成功した。

「待てよ、烈矢。聞きたいことがあるんだ」

 腕を掴んで引き止めた俺を、烈矢はギロリと睨む。

「離せよ、部活に遅れる」

「すぐ済むから。少しだけ話を……」

「邪魔するな!」

 突然、激昂した烈矢が俺の手を振り払った。その大声に、教室にまばらに残っていたクラスメイトは一気に静まり返り、俺達に視線が集まる。烈矢は盛大に舌打ちすると、足音荒く教室を出ていった。

「おい、待てよ! 烈矢、待てって!」

 俺は幼馴染の名を呼びながら追いかける。小走りになりながら、自分の息が上手く吸えず、鼓動が早くなっていくのを感じた。

 おかしい。何かがおかしい。

 走っているからではなく、不安に心臓が飛び跳ねている。なにかが変なのに、その何かが分からない。

 烈矢はもう生徒玄関を出ている。俺は慌てて靴を履き替え後を追う。

「烈矢!」

 やっと追いついたのは、東校舎から大分離れた先だ。俺は回り込むようにして幼馴染の足を止めた。

「どうしたんだ。烈矢、なんか変だぞ。大丈夫か?」

 いつもと違う様子の彼に尋ねると、烈矢は焦点の合わない目を俺に向けて、

「お前のせいだ!」

 ドンッと俺を突き飛ばした。そして、受け身も取れず地面に尻もちをついた俺に容赦なく怒鳴り散らす。

「よくも邪魔しやがって! 昨日が最後のチャンスだったのに。ダメだ、もう勝てない。せっかく頑張ってきたのに」

「なんの話だ?」

「架河森だよ!」

 聞き返す俺に怒鳴り返す。

「昨日は俺がコクるはずだったのに、そしたら勝てるはずだったのに! まさかお前もプレイヤーだったなんて」

 見開いた目をギラギラ光らせ、烈矢は俺の首に手をかける。

「がっ、ぁ……」

 容赦ない絞めつけに息が詰まる。

「れ……やめ……」

 こいつ、俺を殺す気か?

 俺は力いっぱい烈矢の腕に爪を立てて引き剥がそうとするが、びくともしない。まるで痛覚がないみたいだ。

「りじゅたんは俺の物、誰にも渡さない。俺の物、俺の物……」

 ぶつぶつと口の中で唱えながら、手の力を強めていく。

 息ができない。頭がくらくらする。

 ああ、明日の新聞に載るかも。ニュースなら夜には報道されるか。

 烈矢は最初から忠告してたのに。『架河森はやめておけ』『首をつっこむな』って。こんなことに関わらなければ……。

 目の奥が熱い。

 意識が遠のき、視界が暗くなった……その時。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る