第24話 告白(4)

 れ い の う りょ く

 一文字噛みしめるごとに、目眩がしてくる。

「は? なんだよそれ。俺を勝手にの住人認定しないでくれ」

 俺はずっとだぞ!

 憤慨する俺を、架河森は「またまたぁ」と軽くいなす。

「本気で自覚ないの? 鈍すぎない?」

「鈍くない。誰もが『特別』に憧れてると思うな、馬鹿馬鹿しい」

 霊感がある、超能力がある、実は悪魔の生まれ変わり、そういう『ごっこ遊び』はとっくに卒業した年齢だ。これ以上は付き合いきれない。しかし、

「じゃあ、どうしてあの日、西校舎裏にいたの?」

 訊かれて言葉に詰まる。

「あの日は偶然通りかかっただけだ」

 そして、架河森が告白される現場に出くわした。

 俺の返事に、架河森は嬉しそうに目を細める。

「偶然? 部活にも委員会にも在籍していない句綱君が? わざわざ東校舎から遠い、校門と反対側の西校舎裏に? 何の用で?」

「何の用って……」

 ……あれ? そもそも何で俺はあんな場所を通ったんだ?

「あと、よく生徒玄関や外で会うよね? それも偶然?」

「そうだ」

「でも、校外で会うのは珍しいし、私、生徒玄関には告白されやすいように人気のない時間を狙って行ってるんだけど?」

「そんなの知るかよ」

 吐き捨てるが、指先が震えてくる。確かに架河森とは授業と関係ない場所でよく出くわすとは思っていた。それは偶然ではなく、俺のせいなのか?

「句綱君が嘘告参加者じゃないのなら、この遭遇率は異常だよ。本当に無意識でやっているのなら、君は君に関係あるに引き寄せられてその場に来てるんだと思う。心当たりない?」

 なんだよ、心当たりって。確かにあの日からずっと架河森が気になっていたが、それは妙なことばかり言って理解不能で振り回されて――

「――姉に似てるから」

 自分でも信じられない言葉が口をついて出た。

「姉?」

「俺の五歳上の姉。五年前に家出したんだ。架河森に少し似てた……気がする」

 見た目は全然似てない。だが、雰囲気や意味不明な言葉の選び方が何故か姉を思い出させる。だから……、

「だから、私をずっと見てたの?」

「見てない」

 そこは断固否定しておく。

「ねえ、句綱君。君に自覚がなくても、やっぱり君には人とは違う能力ちからがあるんだよ。そして、私が思うより深く嘘告ゲームに関わっていて、私より多くの情報を持ってる。私には句綱君の能力が必要なの」

 確信に満ちた口調で言う。

「だって君は、サンショウ様を見たんでしょう?」

 それは……。

「見間違えかも。眼鏡外してたし」

「眼鏡を外してても見えたのなら、本物だよ。なにより句綱君が『私の旦那様だ』と認識したことが重要」

 架河森は手を伸ばし、俺の眼鏡を外す。0.02の世界は一寸先だっておぼろげだ。でも……感覚が研ぎ澄まされた分、二人きりの室内にもう一つの重い気配を感じた。何かが、いる。

「私には見えないサンショウ様を句綱君は『見た』って言った。それがどんなに嬉しかったか分かる? やっと私の考えが肯定されたと思ったの。嘘告に関わってから、サンショウ様の力は強くなっている。見る人が見れば『える』までに。もうすぐ文献にあった実体のある姿で会えるかもしれない」

 浮かれる架河森から、俺は眼鏡を奪い返す。

「やっぱり力になれない。関わりたくない」

 俺の姉も夢見がちなことばかり言って、ある日突然失踪した。それで親はボロボロになったっていうのに、俺まで正気を失うわけにはいかない。

 自分の部屋代をテーブルに置いて、俺は通学リュックを肩にドアへと向かう。ノブに手を掛ける、寸前。

「実はね、私が句綱君を疑ったのには別の理由もあるんだよ」

 架河森は最後の爆弾を落とした。

「この嘘告ゲームには、須崎君も参加してるよ」

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