第22話 告白(2)
俺は息を呑んで二回瞬きした。それはつまり……、
「架河森は嘘告ゲームの参加者を釣ってたのか? 自分の『略奪女』の悪名を餌に」
彼女は当然とばかりに口角を上げる。
「私の靴箱を見て、違和感がなかった? このスマホ全盛期に記名なしの手紙で呼び出したり、一人の時に声かけてきたり。後ろめたい気持ちがあるから、デジタルな証拠を残したくなかったんだよ。そして、卑怯な奴ほど簡単に罠に掛かる」
あくまで捨て駒だから、極力個人情報を与えないようにしてるのか。同じ学校だからあんまり意味がない気もするが。
烈矢が架河森は夏休み明けから女子力上がったって言ってたっけ。それも自分を『美味しい餌』に見せる演出だろう。
「どうしてそんな真似を……」
言いかけて、はっとする。
「もしかして架河森は、この嘘告ゲームを止めようとしているのか? 被害に遭った女子生徒のために」
それならば、俺は大きな勘違いをしていた。架河森は告白を断ることで快楽を得る性癖の持ち主ではなく、学校の治安を守る影のヒーローだった!?
思わず見直しかけた俺に、
「ううん、違うよ」
架河森は盛大に水を差す。
「私にはそんな正義感ないし、被害者にも感情移入してない。嘘告ゲームを止める気もない。ただ」
仄暗い微笑みを浮かべる。
「私をゲームに巻き込むなら、逆に利用してやろうって思ったの」
「利用?」
聞き返す俺に、架河森は上目遣いに言葉を選びながら、
「あのね。もし嘘告がゲームなら、必ずどこかに賞品を餌に参加者を集めた『主催者』がいるだよ。私はその主催者を見つけたいの」
「どうして?」
「主催者と参加者は別の目的で動いているから」
「別の目的?」
「参加者は主催者の用意した『賞品』目当てに競ってるけど、主催者は参加者を集めて『競わせる』ことが目的なんだと思うんだよね」
「なんでそんなことを?」
質問だらけの俺に、架河森は苦笑する。
「ちょっと話が戻るんだけど、私ってサンショウ様の嫁なわけじゃん?」
いきなり戻り過ぎだ。相変わらずわけがわからん奴だが、ここは黙って聞いておく。
「つまり、怪異に憑かれてるわけだから、独身の頃は気づけなかったなにかの存在を多少感じられるようになったわけ」
「と、いうと?」
俺の合いの手に、彼女は薄く笑う。
「私に告ってきた『参加者』達は、みんな何かに取り憑かれてるみたいなの。幽霊じゃなくて、もっと曖昧な……きっと、『怨念』とか『憎悪』とか、そういう負の感情。それが嘘告を繰り返していく度に大きくなっていってるの。嘘告の達成感や罪悪感にストレス、それに被害者の怒りや悲しみが積み重なってどんどん膨らんでいるんだと思う」
自分と他人の負の感情を纏めておんぶしてる状態って、考えただけでも嫌だな。
「ええと。それじゃあ、『主催者』は『賞品』で『参加者』を集めて、そいつらを悪意まみれにしてるってことか?」
「多分ね」
仮説を述べる架河森に、やっぱり俺は理解できないままだ。
「それは一体何のために?」
「知らない。ただ参加者を踊らせて楽しんでいる愉快犯か、それとも他の用途があるのか」
架河森はすました顔でコーラを啜ってから、口の端だけで微笑んだ。
「でも、この状況は使えるって思ったの」
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