第21話 告白(1)

 ソフトクリームとコーラを補充して、会話を再開。

「句綱君が疑問に思っていることの二つ目。それは、私がたくさん告られてることだよね?」

 軽い口調で訊かれて、俺は頷く。取り立てて目立った存在でもない架河森が、何故あらゆる学年の男子に告白されているのか。それは……、

「単に私がモテるからってのじゃ納得しない?」

「そりゃ無理があるだろ」

 思わずツッコむ俺に、彼女は「ちぇっ」と唇を尖らせてコーラをすする。

「でもね、この件に関しては、私は君を疑ってたんだ」

 サラリと言われて眉を顰める。俺にどんな関係があるというんだ? 憮然とした俺に、架河森はニヒヒと笑って、

「うちの学校で嘘告が流行ってるの知ってる?」

「ウソコク?」

 オウム返しする俺に、架河森が説明する。

「六月くらいからかな? 生徒会とか運動部とか、所謂陽キャの一軍男子の間で『嘘告』が流行りだしたの。西校舎裏にターゲットを呼び出して告白して、断られたら終わり。OKされたら翌日には振る」

「なんだよそれ、ひでぇな」

 他人事ながら憤慨してしまう。人の心を弄ぶなんて、遊びでやってるなら質が悪すぎる。架河森は「そうだね」と相槌を打った。

「相手が人気の男子だったから、結構騙される子もいたみたい。中にはフラれたショックで学校を休んでる子も」

 俺は1-2教室の長く空いたままの席を思い出す。まさか……。

「私が嘘告それに気づいたのは、夏休み前のこと。実際に私が告白されたから。私は『略奪女』の噂もあったから、学校では極力目立たないように存在を消して生活してたの。元々選択ぼっちだったし。それが急に他学年の一軍男子に告られたんだから、喜ぶ前に不信感満載よね。で、私は既婚者だから当然お断りしたの。そしたら急に怒り出して……」

 スプーンで掬ったソフトクリームを舐めて、声のトーンを落とす。

「『ランクが下がるだろ!』……って」

「ランク?」

「多分、嘘告してる人達で順位を競ってるんだと思う。点数があるのかな? OKされたらポイントがもらえて、断られたらマイナスになるみたいな。そういうゲームなんだよ」

 絶句する俺を置いて、架河森は飄々と続ける。

「最初は大人しくて周りに相談できなそうな子がターゲットになっていたみたいだけど、今は派手めな子も狙われてるっぽい。あと、なかなか落とせない子の方がポイントが高いらしいね」

 自販機近くで泣いていた女子生徒、彼女も被害者か。

「そんな悪質な行為が何故問題になっていないんだ? 集団で嘘告繰り返してたら目立つだろう?」

「集団というより、同じフィールド内で参加者が個々に動いている状態だから。参加者同士も互いを認識してないんじゃないかな。だから、標的になった側は嘘告なことに気づかない。告白されて、OKして、一日でフラれたって、相手に『気が変わった』って言われたらそれまでだもん」

 巧妙で腹が立つ。

「……人の心を弄んで、罪悪感はないのか?」

 居た堪れなくなる俺に、

「少しはあるんじゃないかな」

 架河森は意味深に微笑む。

「この『嘘告ゲーム』の参加者は、なにかの目的があって行動してる。順位を競ってるんだから、きっと『賞品』が目当て。でも、参加者は普通の高校生だから、他人を傷つけることに多少は良心が痛む。理不尽に女子を泣かせてるわけだしね。だから」

 肩に掛かる黒髪を払い、目を細める。

「傷つけても後味の悪くない、『略奪女』に人気が集中し始めた」

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