第18話 カラオケ店

「ねぇ、句綱君……」

 薄暗い室内。架河森薄荷は神妙な面持ちで、おもむろにスプーンを手にして――

「ソフトクリームの機械考えた人って天才だよね! 無限に幸せがあふれ出てくるんだもん! あと、ドリンクバーも人類の英知。一家に一台欲しい」

 ――器いっぱいに前衛的に盛られた白い冷菓をもりもり頬張る。

 ここは駅前のカラオケ店。なんとなく架河森の口車に乗せられついてきてしまったが、やっぱり気まずい。

 二名の利用ということで、通されたのはカラオケセットと長テーブルと三人掛けソファが一台きりの狭い部屋。並んで座ると距離が近すぎて落ち着かない。

「とりあえず、ミラーボール回しとく? 雰囲気出るし」

「回すな、目がチカチカする」

「山盛りポテト頼んでいい?」

「俺は食わんから割り勘しないぞ」

「うわっ、ケチくさ。あ、デンモク取って。最近、どんな歌流行ってるんだろ〜?」

「……おい」

 普通にはしゃぐ同級生に、俺はうんざりしてため息を吐き出した。

「架河森は一体俺になんの用があるんだ? ここまで来て誤魔化すのなら、俺は帰るぞ」

 声のトーンを低くした俺に、彼女はちょっと首を竦めてデンモクを充電器に戻した。

「別に誤魔化してないよ。どこから始めようか探ってただけ」

 からりと返すと、俺に顔を向ける。

「私は君が何をどこまで知っているのか分からない。だから、まず私が君の質問に応えよう。句綱君は私の何が知りたいの?」

 ストレートな問いかけに、言葉が詰まる。架河森のまつわること全てが謎だから、どこから手を付けていいのか分からない。俺は頭の中で時系列を組み立てていく。最初に架河森に不可解さを感じたのは……。

「『略奪女』」

 声に出して言うと、妙な後ろめたさがある。でも、ここが原点だ。

「入学したての頃、架河森には『人の婚約者を寝取った』って噂があったよな。それは今回のことと関係あるのか?」

 なかなかハードな話題だが、これを避けたら次に進まない。架河森は少し意外そうに目を見開いてから、意味深に目を細めた。

「そうだね、ここから説明するのが分かりやすいかな」

 メロンソーダを一口飲んで、喉を潤す。

「これは私が結婚していることと関係ある話。旦那様との馴れ初め」

 はにかんだように笑ってから、架河森は語り出した。

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