第15話 保健室
幸い、まだ保健室は開いていた。
養護教諭が弧泉家へ電話をしている間、俺はパイプ椅子を持ってきてベッドに寝かされた先輩の横に座った。
「また助けてもらったね」
枕に頭を落とした彼女が弱々しく笑う。
「よく貧血になるんですか?」
「ううん、ひさしぶり。小さい頃は身体が弱くてしょっちゅう倒れてたんだけど、最近は丈夫になったと思ったのにな」
がっかりだよ、と呟く姿に居た堪れない気分になる。
「弧泉さん、ご家族と連絡が取れて迎えに来てくれるそうよ」
カーテンから顔を出した女性教諭に安堵する。これで俺はお役御免だ。
「じゃあ、俺は帰りますね。一人で平気ですか?」
「うん。今、優衣奈ちゃんにもメッセージ送ったから、すぐ来てくれるし……」
仰向けのままスマホを操作していた弧泉先輩が言った瞬間、
「璃珠! どうしたの!?」
保健室の引き戸が弾き飛ふ勢いで開け放たれ、堺先輩が入ってきた。
「倒れたって何? 大丈夫? どこか打ってない!?」
猛然とベッドに近づく彼女は半袖Tシャツにハーフパンツ。多分、部活動の最中だったのだろう。ってか、部活中にスマホいじれるのか?
「大丈夫よ。丁度句綱君が通りかかって、ここまで運んでくれたの」
「……クツナ?」
弧泉先輩の言葉に、堺先輩はたった今気づいたように俺を振り返った。そして、不信感満載で眉を顰め、
「また、あなたが?」
……俺も怪しいと思いますが偶然です。
「とにかく無事ならいいわ。句綱君、この子を助けてくれてありがとう」
「いいえ、偶然が重なっただけですから」
他意はないぞと強調しとく。だけどなんで弧泉先輩に何かあると堺先輩が怒ったり感謝したりするんだ?
親友が来たなら、俺の存在はますます不要だ。二人の美少女が話をしている間に、俺は保健室を抜け出した。
すっかり遅くなってしまった。疲れたから帰りにコンビニで甘い物でも買って……と思っていると、職員玄関の方からスーツの男性二人が走ってくるのに遭遇した。一人は小柄で恰幅のいいおっさん、もう一人は細身のやつれたおっさんだ。
「君、保健室はどこかな?」
恰幅のいいおっさんの声に俺が指を差すと、二人はドタドタと保健室に飛び込んだ。
「璃珠! 大丈夫か? 倒れたって聞いて心配したぞ」
「大丈夫よ、パパ。よくある貧血。それより随分早かったわね」
「丁度、堺君と車で支社に行った帰りだったんだよ」
「璃珠お嬢様、ご無事で何よりです。優衣奈、お前がついていながらなんてことを」
「……ごめんなさい、お父さん」
「堺課長、優衣奈ちゃんを責めないで。私、優衣奈ちゃんにいつも助けてもらってるんですよ」
声が大きいから盗み聞くまでもなく丸聞こえだ。
烈矢が「りじゅたんは社長令嬢」って言ってたっけ。ってことは、璃珠パパが社長で優衣奈パパが課長か。親が経営者とその部下じゃ、娘達もやりにくいだろう。……特に堺先輩の方が。
知りたくない情報ばかりが増えてうんざりする。
俺は耳に蓋をして、足早にその場を離れた。
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