第14話 週明け

 月曜日は憂鬱だが、今日はいつにも増してダルい。

 それは多分、架河森の『旦那』を見てしまったからだ。

 ……本当にいたんだ……。

 真っ向から虚言と決めつけていたことが真実だった衝撃と気恥ずかしさに、俺は二日間のたうち回った。そして月曜日、当人かがもりの顔がまともに見られないでいる。

 いや、最初からほぼ会話のない相手だったから、避けていても日常生活に全く問題ないのだが。

 授業が終わると、俺は架河森と生徒玄関で鉢合わせないよう図書室へと向かった。

 鴗澤高校の図書室は、西校舎四階の一フロア打ち抜きの空間におびただしい数の書架が並んでいて、読書スペースやパソコンコーナーも充実している。難点を言えば、飲食禁止なところだけか。当たり前だけど。

 数学の課題を読書スペースで終わらせ、文庫本を一冊借りて廊下に出た時には小一時間経っていた。階段を降りる時、窓の外に目を遣ると、例の校舎裏には人影がなく安心する。もう遅い時間だから、告白タイムは終了したのか? そもそも毎日呼び出されるものか? 誰かと鉢合わせたら気まずいだろうに。

 まあ、俺には関係ないけど。

 二階まで下りて、渡り廊下を抜けて東校舎に入ると、正面からゆるふわ髪の女子生徒が歩いてくるのが見えた。この人も今帰りかな。

「弧泉先ぱ……」

 挨拶する寸前、彼女の細い身体がくにゃりと揺れた。弧泉先輩は糸が切れたように首と腰と膝を同時に折り曲げ、そのままリノリウムの床に崩れ落ち――

「……っ!」

 ――る寸前、俺は滑り込んで彼女の身体を抱きとめた。

「先輩! 大丈夫ですか?」

 声をかけると弧泉先輩は真っ青な顔でのほほんと笑う。

「だいじょーぶ、貧血みたい。ちょっと休めば治るよぉ」

 全然大丈夫じゃないです。困ったな、この時間じゃ大声で助けを呼んでも人は来ないだろうし、職員室に教師を呼びに行くにしても、弧泉先輩を冷たい床に転がしておくわけにも行かないし……。ええい、仕方がない。

「失礼します」

 烈矢、ごめん。幼馴染に心の中で謝りつつ、俺は先輩をお姫様抱っこで抱え上げた。

「わっ、たかーい」

 はしゃぐ彼女は身長が145cmほど。思ったよりめちゃめちゃ軽い。

「少し我慢しててください」

 どうか誰にも見られませんように。俺の安寧な高校生活のために!

 切実に祈りつつ、保健室へと急いだ。

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