第8話 西校舎裏
前期期末テストが終わると、夕方までみっちり詰まった通常時間割に戻る。七時間目が終わるのは16時過ぎだ。
放課後、俺は一人図書室に本を返しに西校舎へ向かった。二階の廊下の窓から差し込む光が眩しくて、大分日が傾くのが早くなってきたなと実感する。
図書室は最上階の四階。階段を上っていく途中、ふと三階の廊下の隅に女子生徒が佇んでいるのが見えた。
……最近、異常なエンカウント率だな。
無視しても良かったが、逃げているみたいで癪だから一応声を掛けてみる。
「何してるんだ? 架河森」
同級生は俺に振り返りもせず、窓の外を凝視したまま指で下を指し示した。つられて覗き込むと、そこは校舎裏の空き地で、一組の男女が向かい合って立っているのが見えた。
ああ、そうか。ここはこの前架河森を目撃した告白現場の真上か。
人間は日常的にあまり頭上に注意を払わない。だから地上の男女は上階から見られているなんて気づいていないのだろう。
窓が閉まっているので声までは聞こえないが、男子生徒が何かを言うと、女子生徒が驚いたように口を手で覆い、それからコクリと頷いた。次の瞬間、男子生徒は大きなガッツポーズをして女子生徒と笑い合う。どうやら告白が成功したようだ。それはそれで微笑ましいのだが、
「他人の告白を覗き見するなんて、架河森も趣味が悪いな」
わざとからかってみると、彼女はフッと鼻で笑って踵を返して去っていく。
「なんだよ、感じ悪い」
湧き上がった苛立ちに舌打ちしてから、俺は小さな違和感にもう一度地上に視線を落とした。
楽しそうに喋りながら手を繋いで歩き出す男女。その男の方は……、
「……
この前、架河森に告白した二年生だ。架河森に振られて二週間も経ってないのに、もう次の相手に告白したのか? しかも、それをなんで架河森が見てたんだ?
『架河森薄荷は略奪女』
噂が耳に蘇り、俺は身震いする。
まさか、厚浦に他の女ができたから興味が湧いたのか?
やっぱり架河森には略奪趣味があるのか?
でも、あいつには旦那がいるって……。
「わけわかんねぇ」
声に出して吐き出しても、混乱は治まらない。
俺はもやもやを抱えたまま、図書室へ向かうしかなかった。
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