第5話 テスト明け

 二学期制高校の九月最大のイベントといえば、前期期末テストだ。

「お、終わった。あらゆる意味で終わった……」

 全教科のテストが無事終了し、燃え尽きた灰になって机に突っ伏す烈矢。風が吹いたらサラサラと崩れそうだ。

「なあ、慧。二問目の答え何にした?」

 隣の席で帰り支度を始めた俺に、すがるような目で訊いてくる。

「B」

「やっぱりかー! BかCか迷ったんだよなー。もう絶対補習確実だよー」

 頭を掻きむしって嘆く旧友に、俺は苦笑するしかない。

「後悔するなら普段から授業真面目に受けて、テスト前くらい家でも勉強しろよ」

「俺は慧みたいに知的眼鏡キャラじゃないから、勉強は似合わないんだよ。授業は睡眠時間で、家は休憩場所なんだよ」

 眼鏡も勉強も、似合う似合わないじゃなく必要だからしてるんだぞ。無論、眼鏡は拘って自分に合うものを選んでいるが。

「ま、終わったことを嘆いても結果は変わらないだろ。切り替えてけよ。帰りに飯でも食ってくか?」

 定期テストの日は四時間目までで午後の授業がない。苦行から解放されて束の間の贅沢を味わおうと考えたのだが、

「今日は無理。俺、部活あるから弁当持ってきた」

 あっさり断られた。

 烈矢はバスケ部。うちの学校は定期テストの一週間前から部活動が停止になる。久々に身体を動かせる喜びに気分が上がったのか、彼はウキウキと弁当を広げ、モリモリ食べだした。二段重ねの弁当箱にぎっしり詰まった炊き込みご飯やおかず類は、彼の母親の手料理だろう。

 美味そうに弁当を掻き込む姿を見ていたら、こっちまで腹が減ってきた。

「それじゃ、俺は帰るよ」

「おう」

 鞄を持って立ち上がる俺に、烈矢は箸を握った拳を振る。それから、

「慧もバスケ部入ればいいのに。お前なら即レギュラーだぞ」

 残念そうな声で言われると、胸の奥が重くなる。

 確かに、高一で180cmある俺は体格的に恵まれていると思う。運動神経も悪くない方だ。だが、部活をやるのを躊躇う理由もある。

 うちの高校は進学校だが部活にも力を入れていて、運動部も文化部も毎年全国大会とはいかないまでも、県大会では上位常連だ。部活に入るなら、まずユニフォームや道具代が掛かる。その他に、合宿費や遠征費、運動系なら毎日の大量の洗濯物に数個の弁当。文化系だって高い器材を扱う活動もある。それに、遠くの大会へ行く時は保護者が持ち回りで車を出すことだってある。未成年の学生が本気で部活に取り組むなら、親のサポートは必須なのだ。

 だけど、俺は……、

「慧、今も親御さんと上手くいってないのか?」

 烈矢に核心をつかれて、俺は言葉に詰まる。

 うちの親は共働きで世帯収入は平均的だと思う。俺が部活をやりたいといえば保護者として協力してくれるだろう。

 ――ただ、その協力を子供おれが頼めないだけ。

は慧のせいじゃないだろ? 親御さんだって……」

「烈矢」

 それ以上聞きたくなくて、俺は幼馴染の声を遮る。

「部活、頑張れよ」

 無理やり笑って、俺は逃げるように教室を去った。

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