59 青龍,クララ 

 青龍が歩いて所長の家に帰る途中,青龍を一台の車が抜かした。

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 キキキーーー!(急ブレーキの音)

 ドーーン!(少女と車がぶつかった音

 ドタドタドタ(少女が飛ばされて地面にぶつかった音)


 ひとりの少女が車道に飛び込んで来たので,所長が急ブレーキをかけたものの間に合わなかった。


 その車から出てきたのは所長だった。


 所長「おい!大丈夫か?」


 所長は,倒れている少女に声をかけた。その少女は,今はボタンと名を変えたモモカだった。


 モモカ「どうやら脚をくじいたようです」

 所長「何?車にぶつかって,そんな怪我ですむわけがない。すぐに救急車を呼ぶ」

 モモカ「ま,待ってください。ほんとうに大丈夫です。少しあけ休むところがあれば,,,」


 この時,青龍が駆けつけてきた。


 青龍は,所長のことを“お父さん”ではなく,“所長”と呼んでいる。


 青龍「所長,彼女を自宅に運んだらどうですか?そこで休ませましょう」


 青龍の考えは単純だ。少女の処女と血を奪うことしか考えていない。自宅に連れて,隙をみて襲えばいい。


 所長「そうだな。では,和輝,彼女を支えて車まで運んでくれ」

 青龍「わかりました」


 青龍は,モモカに声をかけた。


 青龍「あなたを抱いていいですか?車まで運びたいので」

 モモカ「はい,すいません。お願いします」


 青龍はモモカをお姫様だっこして車に運んだ。青龍も車に乗り込んで,所長は自宅に戻った。


 自宅の母屋は,メリルたちが使っているので,青龍はモモカを離れに運ぶように指示した。


 所長「和輝,母屋から救急箱を持ってきてくれ」

 青龍「わかりました」


 青龍は母屋に移動して,リビングルームに来た。そこには,英語教師のエミカがいた。


 青龍「あれ?エミカ先生?なんでここにいるの?」


 青龍はエミカ先生にささやいた愛の言葉をすっかり忘れていた。これには,エミカとしても,100年の恋がすっかり冷めてしまった。青龍が言った愛のささやきはまったくのウソだった。だが,今のエミカは,青龍のことは二の次だった。


 エミカは,この家に来て,まな美に会って,とんでもない仕事をあてがわれた。そんなことする義理はないのだが,メリルもまたまな美に,青龍とエッチしたことを公表すると脅してきた。


 エミカは,とんでもないところに来てしまったと思った。それ以上に,驚いたのは,エミカに与えられた仕事だ。それは,地元警察のサーバーにアクセスして,失踪者リストを見つける仕事だ。れっきとした犯罪行為だ。


 エミカは当然断った。だが,まな美が次に脅した内容は,この家を護衛している隊員たちにエミカを犯せるというものだ。なんということだ。しかも,まな美は,妊婦の水香に命じて,隊員にフェラチオをさせて,射精させているではないか!!


 エミカは『ここはどこ?夢の中?なら,早く覚めてちょうだい』と心の中で訴えた。


 已むなくエミカは,犯罪行為に手を染めることにした。


 エミカは,今,地元道警のサーバーに侵入している。そのパスワードは,α隊に所属していたまな美のものだ。つまり,まな美が生きている証拠を残すようなものだ。でも,今は,そんな些細なことどうでもいい。それ以上に,未だにまな美のパスワードが有効なことに,まな美自身驚いた。ただし,警視庁本部へのサーバーへのアクセスはさすがに拒否された。


 エミカは,青龍をチラッと見たものの,無視してパソコンに集中した。そして,とうとう失踪者リストを発見した。


 エミカ「まな美さん,発見しました。ここです」

 まな美「OK,次は,この網走市で12歳から15歳までの女性の失踪者リストをピックアップして,住所,氏名,顔写真を携帯で撮影してちょうだい」

 エミカ「了解です」


 エミカは仕事に集中した。青龍としても,処女を奪ったエミカにもう用はない。エミカを無視して救急箱を探し出してリビングルームから出ようとした。その時,まな美が青龍に言った。


 まな美「青龍,人手が足りないわ。誰でもいいから連れてきてちょうだい」

 

 青龍はヘッドハンターか?

           

 でも,ちょうど足を怪我した少女がいる。でも,まだ処女や血を奪っていない。ちょっと考えて優美を思い出した。どちらにしろ,すぐには無理だ。


 青龍「今のお前は,まな美か?メリルか?」

 まな美「まな美よ。でも,メリル様の指示で動いているわ。ここからの脱出計画を実行中よ。少しでも早くあなたの依頼を実行するためにね。少しくらい協力してもいいんじゃない?」

 青龍「エミカ先生では足りないのか?」

 まな美「足りないからお願いしているんじゃない」

 青龍「明日,なんとかしよう」


 この会話に,エミカがカチンと来た。


 パチン! 


 エミカは青龍のところに来て,彼の顔を思いっきり叩いた。


 エミカ「青龍! あなた,わたしのこと,一番好きだって,一生添い遂げたいって言ったの,大嘘だったのね。それもすべてここに来させて犯罪紛いの手伝いをさせるためなのね?!」

 青龍「あの時は,あの時で本気でした」

 エミカ「そう?じゃあ,今の気持ちは?」

 青龍「今は,,,はい,今この時は,エミカ先生が一番大好きです。一生添え遂げたいって思います」

 エミカ「・・・」


 エミカは,これ以上,青龍と会話しても実りはないと感じた。もう青龍に関わるのは止めよう。でも,,,もう遅いかもしれない,,,

 エミカはプィと顔を背けて仕事を続けた。


 青龍は離れに戻った。


 そこでは,所長が何やら険しい顔をしていた。机の上にある茶碗は,水平に割れていた。一方,モモカはニヤニヤとしていた。


 青龍は状況が分らなかった。


 青龍「所長,どうしたんですか?」

 

 所長は,青龍が来たことに気がついた。


 所長「あぁ,青龍か。すまない。俺では手に負えない。まな美を連れて来てくれ」

 

 わけがわからないまま,青龍は「わかった」と言うしかなかった。


 青龍が去った後,所長は,溜息をついてモモカに言った。


 所長「ボタンさんと言ったかな?あなたの要求は,もうわたしの手に負えない。まな美と相談してくれ」


 青龍が席を外している間,モモカは,所長に大変な要求をしていた。


 ーーー

 モモカ「所長,わたし,霊力使いです」

 

 パリン!


 モモカは,目の前にある茶碗を霊力の刃で輪切りにした。


 モモカ「この意味,わかりますね。所長がわたしの要求を否定すると,所長の首が飛びます」


 モモカは,所長の返事を待たずに言葉を続けた。


 モモカ「わたしたちが,網走市に来た時は,まだ軍隊によって閉鎖されていませんでした。ですが,ミサイル事件が起きてしまい,わたしたちは,ここから去ることもできなくなってしまいました。特に12歳から25歳までの女性は,例外なくこの網走市から出ることが許されません」


 モモカは,溜息をついた。まさか,こんな事態に遭遇するとは思ってもみなかった。気を取り直して,所長に要求をぶつけた。


 モモカ「所長,200番刑務所にいるセイジという受刑者を即刻,釈放してください。われわれに引き渡してください。かつ,この軍部の包囲網を突破できるようにしてください。できなければ,,,所長,ここで死んでください」


 所長は,霊力使いに脅迫されるのは,これで2回目だ。でも,このような死に直結するような脅迫に対して,慣れることはなかった。


 所長「まっ,待ってくれ。俺は,まな美の指示で動く。彼女と相談すれば,あなたの要望は叶えてくれるはずだ」


 所長は,まな美も霊力使いであることは内緒にした。今は,ともなく,自分が助かることが最優先だ。


 モモカ「まな美? まあいいわ。会わせてちょうだい」

 

 ーーー

 こんな会話をしていた時に,青龍が救急箱を持って来たというわけだ。


 モモカとしても,自分の仲間であるオミレとハマルたちと相談した結果,このような暴挙に出たというわけだ。

 所長の家は,隊員に護衛されているものの,若い女性がその家に出入りするのは,まったくのノーチェックということも確認済みだ。


 所長の部屋にあるインターホンから声がした。このインターホンは,母屋と離れの間で通過可能だ。


 青龍【所長,まな美は忙しいので,急用なら母屋に来てほしいそうです】

 所長【わかった】


 所長はモモカに向かって言った。


 所長「ボタンさん,聞いた通りだ。まな美に会わないと話しにならない」

 モモカ「では,母屋に連れていってください」


 所長は,モモカを連れて母屋に移動した。


 母屋では,英語の先生であるエミカがパソコンとにらめっこしていて,まな美は,お茶している隊員から,現状の軍部の封鎖状況のヒアリングをしていた。しばらくすると,2階から隊員と全裸の水香が下りてきた。その隊員は,ニコニコして母屋から出ていった。

 

 水香は,全裸のまま,かつ,隊員のおしっこを浴びて,その匂いをプンプンさせたまま,精子の入ったコンドームをまな美に渡して,そのままお風呂に入っていった。


 水香は,シャワーを浴びておしっこの匂いを消した。バスローブを羽織った水香は居間に戻り,まな美に不満をぶつけた。


 水香「まな美様,ちょっと休ませてもらってもいいでしょうか? もうこれで50回目ですよ。隊員の方,精力絶倫なのはいいのですが,マナーがなっていません。

 ちょっと,口の中にオシッコするのを許してしまったら,今度は,全身にオシッコぶっかけられてしまうし,ベルトでおっぱいをぶたれて傷だらけになってしまうし,いつの間にか,おっぱいがDカップからGカップになってしまいました。

 しかも,ときどき,この大きなお腹,足蹴りされてしまうのですよ。しまいには,膣にまで逸物を挿入される始末です」

 

 まな美は,今の言葉に違和感を感じた。『膣に挿入される』ってことは,,,死ぬんじゃなかったっけ,と一瞬思ったが,すでに呪詛が解除されたのだと思った。


 まな美はメリルの命令で動いているとはいえ,具体的な指示はまな美の判断で行う。水香に隊員たちの性処理を休みなく命じたのも,メリルではなくまな美だ。


 それは,まな美が水香に意地悪している証拠だ。だって,水香は大量殺人犯だ。いくらメリルに憑依されていたからとはいえ,水香にも責任があるはずだ。今のまな美ができる,水香へのちょっとした仕返した。


 水香は,いくらメリルの命令とはいえ,この身重の状況で,隊員にDカップのおっぱいを触らせ,母乳を飲ませ,かつ,隊員の逸物をフェラチオで射精させるのは,かなりしんどい作業だ。


 隊員たちは,水香に対しては,最初の数名は,紳士的に振る舞ったが,その後の隊員たちは,だんだんと虐待的に扱うようになった。今では,水香を肉便器を見るような眼になった。


 水香の乳首をきつく噛んだり,ベルトでおっぱいを鞭打つのは当たり前だ。肉便器の本領発揮したのは,水香の口の中や,水香の全身におしっこぶっかけプレーが,隊員間に広まってしまったことだ。そのため2階の洋室は,すぐにおしっこ臭くなってしまった。


 他の場所で検問している隊員も,休憩と言っては,所長の家に来る始末だ。


 まな美は,水香に暇をまったく与えず,ひどい場合は,同時に3人,4人の隊員たちを相手にさせた。


 今の水香は,名実ともに隊員の性処理・肉便器にされてしまった。


 このような水香の身を切るような献身的な奉仕のおかげで,隊員たちは喜んで彼女たちが所長邸に潜んでいることを隠蔽した。


 まな美「水香,ありがとう。あなたの努力のお陰で,ここに潜伏できているのよ。今日は,これで終わりにしましょう。後は,所長になぐさめてもらいなさい」

 

 そうなのだ。水香の仕事はこれで終わりではない。これから,所長の性奴隷・肉便器として奉仕活動がある。それは,今から朝まで続く,,,


 バスローブを羽織った水香は,居間にいる所長に声をかけた。


 水香「わたし,一足先に離れに行っています。所長様は,ゆっくりしてくださいね」

 

 水香は,そう言って母屋から去った。水香としても,まな美が水香に意地悪をしているのは気づいている。もしメリルが具体的に指示を出すなら,お腹の体を気にして,隊員の性処理は,この所長邸を見張る隊員に限定し,フェラチオの回数もせいぜい10回までに抑えたはずだ。


 こんな無理なことをしていると,普通なら体を壊してしまう。でも,水香はほとんど疲れなかった。その理由が,メリルの身体をお腹に取り込んでいることが関係しているようだと,うすうす感づいていた。


 ーーー

 水香が去る時モモカの横を通った。水香は,モモカを見ても,モモカだと気づかなかった。


 モモカは,水香が生きていることに,少々びっくりした。あのミサイル攻撃で水香が生きていることは充分に予想された。でも,その水香が,この所長邸に密かに隠れていて,軍隊さんの庇護になっていることに驚いた。


 これでは,いくら軍隊をこの地に集めたところで,水香を発見することなど不可能だ。


 モモカは,この状況は予想外だった。モモカの仲間であるオミレとハマルとも,いろいろ相談していたが,所長邸に水香がいることまでは想定外だった。水香は,モモカに『メリルの指輪』を与えた少女だ。厳密には,水香に憑依したメリルの霊体だったのだが。


 モモカは使ったことのない頭を使って,次の展開をどうすべきか考えた。だが,出てきた答えは,つまらないものだった。それは,,,時間稼ぎだ。


 モモカは,所長に耳元でささやいた。


 モモカ「所長,わたしが霊力使いだということも,セイジを釈放してと要求したことも,しばらくの間,内緒にしてください」


 所長はモモカの言う通りにした。


 所長「了解した」


 所長は,まな美に要件を切り出した。


 所長「まな美,ちょっと紹介したい人がいるんだ。いいかな?」

 まな美「誰?」

 所長「こちらの方だ。ボタンさんという」

 まな美「ボタンさん?なんで,こんなところに来たの?」

 モモカ「わたし,道端で転んで,所長様の車にぶつかってしまいました。入院するまでもなかったので,こちらにお邪魔して,少し休息させていただこうと思いました」

 まな美「あら,そうなの? ちょっと変なところ見苦しいところ,見られちゃったみたいだわね」

 モモカ「はい,見てしまいました。ここで,隊員さんを性処理していたのですね。それで,あの大量殺人犯の水香さんをかくまってもらう,,,そんなところでしょうか?」

 

 このモモカの言葉に,まな美は,険しい顔をした。


 まな美「ボタンさん,ちょっと悪いけど,今見たことは,すべて忘れてちょうだい」

 モモカ「はい,もちろんです。ですが,,,あの,ちょっとお願いしたいことがありまして,,,」

 まな美「それは何? でも無理なお願いはダメよ」

 モモカ「たぶん,容易に実現可能な依頼だと思います」

 まな美「早く言いなさいよ」

 モモカ「わたし,水香さんと同じく,隊員さんたちの性処理をさせてください」

 まな美「え?」

 

 まな美は,開いた口が塞がらなかった。それは,所長も同じだ。また,この居間には,青龍もいるし,パソコンとにらめっこしている英語教師のエミカ先生もいる。


 エミカ先生は,この場にいていいのかどうか迷ったものの,もう話を聞いてしまった。今さらこの場から逃げるわけにはいかない。


 青龍は,モモカの意図を推し量った。モモカは,所長に用事があってここに来たはずだ。しかし,なんでこんな展開になったのか? ともなくも,モモカは,絶対に普通の女性ではないと確信した。娼婦でもない。こんなことしても一銭のお金にもならないからだ。ではいったい,何のため?? モモカが得るものは何だ??

 ここで,青龍は,思いついた。得るものはある。隊員たちの精子だ。もしかしたら,モモカは,精子を得るために?? モモカは霊力使いなのか??


 まな美「ボタンさん? ほんとうにそれでいいの?」

 モモカ「はい,ほんとうです。水香さんひとりに任すのは可哀想です。不公正です。わたしも一緒になって,性処理に協力したいと思います」

 まな美「・・・,それは,いいけど,,,でも,ボタンさん,なんでそんなことするんですか?」

 モモカ「わたし,この町から抜け出したいんです。でも,年齢制限にかかってしまって出ることができません。それに,身分証明書もなくしてしまって,自分を証明できないんです。わたし,皆さんの協力をすれば,一緒に,この町から抜け出るのに,助けてくれるかなぁって,思ったんです。

 ともかく,まずは,水香さんの協力をさえてください。お願いします!」


 まな美は,性処理を任すことくらい,わざわざメリルの霊体に連絡することもないと思い,まな美自身の判断でモモカの要求を受け入れた。

 

 まな美「わかったわ。じゃあ,明日からお願い」

 

 要件が済んだと思ったので,所長はモモカを離れに連れていった。モモカも,これ以上ここにいる必要もない。


 離れで,モモカは,所長からまな美の素性について聞いた。まな美は,α隊の隊員であったこと,メリルによって,ときどき憑依されることなどを伝えた。今のまな美が,”まな美”なのか,”メリル”なのか,外見では区別つかないことを伝えた。


 モモカ「なるほど,わかりました。それはそうと,1週間程度で,囚人のセイジを脱獄させてください。出来なければ,わたし,霊力を最大に行使して大暴れします。その時は,所長の命はないと思いなさい」

 所長「1週間では無理だ。せめて1ヶ月,いや2週間はほしい」

 モモカ「2週間ですか,,,まあいいでしょう。それと,水香は,セイジが200番刑務所にいること,知っているのですか?」

 所長「わからん。少なくとも,そんなこと,言われたこともない」

 モモカ「ということは,どこにいるのか,探そうとしていない感じですね。まあ,いいでしょう。セイジが200番刑務所にいることは,水香,まな美,メリルには絶対に内緒にしてください」

 所長「わ,わかった。秘密にする」

 

 モモカは所長の家を出た。所長の家の周囲には,見張りの隊員たちがいる。隊員たちにとって,所長の家に出入りする人物は,フリーパスになっている。だって,性処理させてもらっているからだ。


 モモカは,その隊員に言った。


 モモカ「わたし,ボタンっていいます,あの,,,性処理している方が疲れてしまって,今日はもう対応できないようです。それで,明日から,わたしも性処理を担当することになりました。よろしくお願いします」

 隊員A「お?そうなのか?こちらこそよろしく」

 隊員B「俺もよろしく頼む」

 隊員C「俺もよろしく」

 隊員D「俺も,俺も!!」


 モモカは,ニコッと微笑んで去っていった。彼女はゆっくりとした足取りで歩いた。途中,何度か,軍隊の検問にひっかかったが,ボタンという名で,札幌から観光にここに来たこと,さらに,ボタンの両方で8kgもの重さになるMカップの爆乳を見て,水香でもまな美でもないことが確認でき,拘束されるようなことはなかった。


 モモカは,その後,人気のない公園に入っていった。こんな公園など,軍部も見張りなどしていない。


 公園内をしばらく歩いて,照明のある付近で,足取りを止めた。その足取りに同調するかのように,もうひとつの足取りも止まった。その照明は,さほど明るいものではなかったものの,戦うには,さほど支障はきたさないと思った。


 モモカ「わたしをつけている人,名を名乗りなさい」


 そう言われたモモカの追跡者は青龍だった。


 青龍「フフフ,さすがだね。一般人じゃないと思ったけど,やっぱりただ者じゃないな。俺の名は青龍だ」

 モモカ「青龍?おかしな名前。あなたも獣人族なの?」

 青龍「違う。俺は,魔界の古代ドラゴン族だ」

 モモカ「へえー,そうなの?でも,その体,所長の息子さんでしょう?中学のクソガキじゃない」

 青龍「訳あって,この体の支配権を譲り受けた。そんなことより,お前,もしかして霊力使いか?」

 モモカ「どうしてそう思うの?」

 青龍「隊員たちの性処理を率先して申し出たことが気になった。それは,お前にとってメリットがあるはずだ。となると,答えはひとつ。霊力使いとなる」

 モモカ「そうね。正解よ。自己紹介も終わったし,本題に入りましょうか? わたしをつけてきた理由はなんなの? わたしを犯しに来たの?」

 青龍「それもある。だが,俺が知りたいのは,霊力使いのお前が所長の家に潜り込んだ理由だ。それを知りたくてね。わざわざつけてきたというわけだ」

 モモカ「教えてもいいけど,わたしに何のメリットもないわ」

 青龍「世の中,ギブアンドテイクだ。お互いの情報を交換しあうと,新しい道が開けると思わないか?」

 モモカ「そうね,,,じゃあ,わたしの仲間にも話を聞いてもらうわ。オミレ,ハマル,出て来てちょうだい」


 茂みに隠れていた呪符使いのオミレと剣士ハマルが現われた。彼らを見ても,青龍はさほど驚かなかった。


 モモカ「青龍さん,あまり驚かないのね?」

 青龍「仲間がいるのは当然だろ?別に驚くほどのこともない。それに,俺にとっては好都合だ」

 モモカ「好都合? まぁ,いいわ。ともかく,紹介しておくわ。オミレは呪符使いで,ハマルは剣術が得意なの。わたしの用心棒よ。もっとも,戦えばわたしの方が強いと思うけど」


 モモカは,一息ついた。

 

 モモカ「では,青龍から情報提供してちょうだい。その価値に応じて,わたしも情報提供するわ。どう?」

 青龍「お前は,何が知りたいんだ?」

 モモカ「所長に家に,なんでミサイル攻撃で死んだ水香がいるのよ。まったくビックリ仰天だわ。それに,まな美さんの素性も知りたい。それに,パソコンを使っていた女性,さらに,青龍,あなたのこと,もっと詳しく教えてちょうだい」

 

 青龍「なるほど,やはりそうか。お前は,所長邸に水香やまな美がいることを知らなかったのだな?当然か。一歩も家から出ていないからな」

 

 青龍は,このことで,おおよそのモモカの目的がわかったような気がした。


 青龍「まず,水香だが,もともと,あの体にメリルの霊体が宿していた。俺もしばらく水香の体の中に隠れていた。その後,偶然霊力を宿したまな美が来た。彼女は,α隊所属で11号と呼ばれていた。

 メリルは,これ幸いに,まな美の体に入って,彼女の体に憑依したという訳だ。今のまな美は,メリルの忠実な部下となっている。もっとも,まな美は水香に意地悪しているところもあるがな。


 俺は,所長の息子,和輝に,処女狩りをするという条件で,この和輝の体の支配権を得た。そして,英語の先生の処女を奪った。あのパソコンを使っていた中学の先生がそうだ。彼女は,ごく普通の女性だよ。一生面倒を見るって言ってやったら,ノコノコ家にやってきたというわけだ。処女狩りって,おもしろいな,フフフ・・・」


 オミレはいやーな顔していたが,ハマルはニヤニヤとしていた。ハマルは別にうらやましいとは思っていない。毎日,モモカの張った巨乳の母乳を飲むことができるし,モモカに精子提供もしている。体のひ弱な処女を抱くよりもずっと恵まれている。


 モモカ,オミレ,ハマルのパティーで,目標を設定するのは,当然モモカだ。だが,具体的な行動計画を立案するのはオミレの役割だ。


 ハマルの仕事は主に2種類ある。モモカの剣術の相手になると,および,モモカの体のケアをすることだ。モモカは,霊力に絶対的な攻撃力がほしい。そこで,最近になって,剣術の修行を始めた。その最終目的は『森羅万象消滅剣』の復元だ。まだ,道程は遙か遠い。


 体のケアについては,モモカの母乳を絞り出して張りを和らげる,または,ハマルが自認して精子をモモカに与えるというくらいだ。


 ただ,モモカも,最近,相手の体に自分の手を接触させるだけで,精力や寿命エネルギーを奪えるようになった。その気になれば,半径2メートルの範囲でなら非接触でも可能だ。


 そのため,霊力の極薄の層を手の表面や巨乳の表面に覆って,ハマルが直接モモカの体に接触しないようにしている。


 青龍の話を受けて,オミレが青龍に質問した。


 オミレ「水香さんやまな美さんは,なんで所長邸にいるの?どうして軍隊たちに捕まらないの?」

 

 オミレは,水香が軍隊たちの性処理をしていることを知らない。


 青龍「俺が所長に住んでいるから,水香たちを連れてきた。でも,いずれバレる。そこで,隊員たちの性処理をすることで,水香たちのことを黙ってもらう。もっとも,水香たちは家から一歩も出ないという条件つきだがな。フフフ」

 オミレ「なるほど,,,それで,水香たちは,どうやってこの厳重な包囲網を突破する気なの?」

 青龍「突破作戦を立てているのは,まな美だ。俺も具体的なことまでは知らん。ただし,1ヶ月以内に突破することは間違いない。それまでは,おとなしくするさ」

 オミレ「肝心なこと聞くわ。どうしうてボタンをつけてきたの?その本当の目的は何?」

 青龍「それは,お前たちが,自分たちの情報を提供してから話す。ギブアンドテイクだろう?俺は,仲間たちの素性を話した。次はお前達の番だ」

 オミレ「そうね。ボタン,正直に話してもいい?」

 モモカ「いいわよ」


 オミレは,自分たちのことを話し始めた。


 オミレ「ボタン,彼女のほんとうの名前はモモカ。例の虚道宗で機動隊に射殺されたモモカです。もっとも,機動隊員も10名ほど殺したんですけど」

 

 この話を聞いて,青龍は,メリルが刑務所を襲撃した後,モモカの家に行って,彼女に『メリルの指輪』を渡した少女を思い出した。その彼女こそ,モモカだった。目の前にいる少女は,化粧やカツラをして素顔を隠しているから気がつかなかった。


 青龍「そうか,お前がメリルから指輪を預かった少女だったのか。なるほど,,,お前の霊力使いの原点がわかった」

 オミレ「わたしは,その虚道宗で,無理やりモモカの下僕にされました。用心棒のハマルも同じです」

 青龍「もしかして,帯広市で起きた首刈り殺人事件も,お前たちの仕業か?


 この質問にモモカが意味深長に答えた。 


 モモカ「そうよ。わたしが殺したわ。今のわたしは,獣魔族の一員なの。遠大な計画を実行中よ。フフフ」


 青龍「獣魔族の動きなど,まったく興味は無い。どうせ,そこら辺の女どもに獣魔族の子供を産ませるのが関の山だろう?」

 モモカ「そう言われては身も蓋もないわ。でも,女たちが,自ら喜んで産んでもらうには,それなりに苦労するものなのよ」

 青龍「その話はもういい。お前たちは,なんでこの網走に来たんだ?どうして刑務所の所長に近づいたんだ?」

 モモカ「わたしの兄,セイジが200番刑務所にいるのよ。さきほど,所長に2週間以内に脱獄してくれるように依頼したわ。出来なければ,大暴れするって脅してやったわ」

 青龍「・・・」


 青龍は唖然とした。モモカは,考えることをしないバカな女だと断定した。オミレがいるから,なんとかなっているのかもしれない。


 青龍は,オミレに向かって言った。


 青龍「オミレ,モモカはこんな感じで短絡的なのか?」

 オミレ「一見,バカに見えるけど,ほんとうは,もっとバカよ」

 青龍「・・・」

 

 この言葉に,ハマルがクスクスクスと笑った。青龍の体の中にいる和輝の霊体も,大笑いした。


 オミレ「わたしからも青龍さんに質問するわ。どうして,モモカの跡をつけて来たの? こんな話,するためではないのでしょう?」

 青龍「もちろんそうだ。だが,その前に,お前達の戦闘能力を知りたい。それを見て判断する」

 オミレ「戦闘能力?」

 青龍「そうだ。お前達の戦闘力によって,依頼内容が変わる。試合形式でどうかな?」

 

 オミレは,モモカとハマルの顔を見た。彼らも,青龍の提案に同意した。


 モモカ「オミレ,あなたから試合しなさい。強化呪符使ってもいいわよ」

 オミレ「わかったわ。青龍さん,では,わたしからお願いします。でも,決して,殺さないでね?」

 青龍「もちろんだ。わたしは攻撃はしない。受けに徹しよう。相手の力量を見極めるには,受けだけで十分だ」

 

 この話を聞いて,オミレは安心した。彼女は,5品の強化呪符を自分の両足に発動させた。


 5品の強化呪符,それは,10秒間だけ,肉体を,そのパワーとスピードを1,5倍にまで強化できるチート呪符だ。


 オミレは空手有段者だ。青龍に向かって,突進して足蹴り,回し蹴り,などの足技で攻撃した。


 青龍は,オミレの予想外の強烈な攻撃に,慌てて気功法による『気』で腕を覆って,防御機能を強化した。それで,なんとか10秒間のオミレの連続攻撃を凌いだ。


 10秒後,オミレは,数歩退いた。


 オミレ「青龍さん,すごいですね。わたしの1.5倍の強化呪符による攻撃をすべてを見切って躱すとはちょっと驚きです」

 青龍「まさか,女性でこれほどまでの攻撃力を持つとは,,,『気』による防御をしなかったら,腕が折れていたかもしれん」

 オミレ「え?青龍さんは,あの,伝説の『気』が扱えるんですか?」


 オミレにとって『気』を扱かえるというのは夢のようなことだ。


 青龍「もちろんだ。俺は武道の神様だぞ。出来て当たり前だ」

 オミレ「あの,武道の神様の青龍様,よろしかったら,今度,『気』の扱い方のご指導お願いしたいのですが」

 青龍「フフフ,,,教えてやらんでもない」


 ハマルがそこら辺から拾ってきた鉄棒を持ってきた。


 ハマル「オミレ,下がれ。次は俺の番だ。青龍さん,俺は剣士だ。この鉄棒で戦う」

 

 青龍は,ニヤッと微笑んだ。青龍は,自分の霊体に連動した亜空間収納を発動させて,そこから木刀を取り出した。


 青龍「木刀を使うのも久しぶりだ。でも,いい機会だ。5分ほど待ってくれ。素振りをしたい」

 ハマル「OK」


 青龍は,数回素振りをした。そして,遠い昔,武道だけでなく,剣技に明け暮れた日々を思い出した。それも,1年や2年ではない。50年もの年月だ。そのため,超一流を超えて剣聖王とまで呼ばれたこともある。遙か昔のことだ。


 青龍「フフフ,まさか,剣を持つ日がまた来るとは思わなかった。ハマルとか言ったかな? よし,始めよう」

 ハマル「では,参る!」


 ハマルの剣技,それは高速剣だ。素早い速度で相手を倒す。特に,『斜め十字斬り』が彼の得意技だ。彼は,自己最速の速度で青龍を襲った。ハマルの剣技は超一流の腕だ。いくら青龍が達人の腕前でも,和輝のか弱い体では,何度も躱せるものではない。


 とうとう,ハマルの斜め十字斬りの一太刀が,青龍の木刀を躱して,青龍の横腹を確実にヒットした。


 ボヨーーン!


 ハマルの放った鉄棒は,何か柔らかいブヨブヨのゼリー状のようなものに阻まれた。


 ハマル「何?」


 ハマルは,さらに斜め十字斬りを何回か放った。青龍は,その攻撃を木刀で受けず,ブヨブヨのゼリー状のもので受けた。


 ハマルは,自分の攻撃がまったく功を奏しないので,数メートル離れた。そして,徐々に険しい顔になった。


 ハマル「青龍さん,その結界,いったい,何ですか?魔法ですか?霊力ですか?」


 青龍は,ニコッとした。この和輝の体でも,なんとか結界を構築することができたのが嬉しかった。昔,剣を修行して50年余り,そして得たのが,『剣悟』と『剣意』だ。『剣悟』は剣の周囲に光を帯びて,その剣光で分厚い岩石をも切る。『剣意』は自分の周囲に『柔』の結界を構築し,相手の攻撃を確実に緩和防止する。


 青龍「この結界を,俺は『剣意』と呼んで知る」


 『剣意』と聞いて,ハマルは,ある一冊の古典的著書を思い出した。その本の名は『剣聖道』。そこに『剣を極める者の到達点,そのひとつに『剣悟』があり,もうひとつに『剣意』がある』と記載されているのを思い出した。


 ハマル「『剣意』って,あの『剣聖道』に書かれている架空の結界のことですか? それ,作り話だとばっかり思っていました。でも,現実にできるものなんですね。青龍さんは,もしかして,『剣悟』もできるのですか?」

 青龍「この体では,そこまでは無理かもしれん。でも,体をもう少し鍛えれば可能だ」

 ハマル「ほんとうですか?! 青龍さんは,ほんとうに剣の神様だったんですね。剣意をこの眼で見ることができて,ほんとうに幸せです。青龍さん,あの,,,よかったら,剣術の指導をときどきさせていただけませんか?」

 青龍「剣の神様か,,,もう遙か昔のことだ」


 ここで,モモカが数歩前に出た。


 モモカ「ハマル,あなたの出番は終わりよ。引き下がってちょうだい」

 ハマル「チェッ!」


 ハマルは引き下がった。モモカは,すでに手に剣を持っていた。それは,霊力を展開して生成した透明の剣だ。ハマルにもオミレにも見ることはできない。しかし,青龍はそれを見ることができる。


 青龍「霊力の剣か,ならば,木刀で受けるのは無理だな」


 青龍は,亜空間に木刀をしまった。


 モモカ「わたし,剣術に目覚めたのよ。青龍,わたしにも,あなたのその『剣意』っていうやつ,見せてちょうだい」


 モモカは,最近,ハマル相手に剣術を修行中だ。だんだんと,剣を振るうことに慣れてきて,剣士としての感覚が身につくようになってきた。青龍が剣の神様と知って手合わせをする機会を得るのは,存外の喜びだ。


 モモカは,両方で8kgにもなる重い爆乳をしている。でも,その周囲に霊力の層を展開して,鳩胸の状態にして,動きに支障がほとんど出ないようにした。俊敏に剣を振るうのに,さほど影響しない程度だ。


 モモカの強靱な肉体は,肉体改造によって,100メートルを10秒で走れるほどだ。そのままでも,2倍速の加速ができる感じだ。彼女は,速攻で青龍を襲った。斜め十字斬り,正面斬り,胴斬りなどの一連の動作を繰り出した。 


 青龍は,体術でそれを躱そうとした。だが,モモカの剣速は,ハマルの速度に匹敵する。つまり,超一流のレベルだ。青龍の体術で躱しきれるものではない。しかし,モモカの霊力の剣は,青龍の体にヒットすることはなかなった。彼が展開した剣意によって尽く阻まれた。


 モモカ「これが剣意の防御なのですか。なんとなく『気』に似ている感じもします」

 青龍「『気』という概念は広い。剣意は剣技に特化した気による防御と言い換えてもいいかもしれん」

 モモカ「では,その剣意をも打ち砕きましょう」


 モモカは,霊力の剣の周囲にミクロ爆裂魔法陣を何個も展開させた。


 モモカ「青龍,次の攻撃は躱せるかしら?」


 モモカは,再び,連続技で青龍を攻撃した。そして,モモカの水平斬りの剣が青龍の剣意にヒットした。


 ボン,ボン,ボンーーー!


 青龍の剣意は吹き飛ばされた。その勢いで,青龍の体を一刀両断した。いや,したと思った。


 剣意の真骨頂,それは,それは相手の攻撃を緩和することにある。相手の剣が剣意にヒットすると,その速度が大幅に低減してしまう。


 それでも,モモカの剣は青龍の服を切り裂き,かつ,青龍の腹を1cmほど切り裂いた。青龍がギリギリ体を躱して,モモカの剣を躱したが,躱しきれなかった。


 青龍は,自分の手を切られたお腹に当てて,回復魔法をかかえた。


 青龍「なるほど,,,これが,モモカのパワーか,,,魔法と霊力の合わせ技だな。PvPでは有効な方法かもしれん」

 モモカ「どう?まだする?今度は,ほんとうに胴体を真っ二つにするわよ」

 青龍「ああ,もう十分だ。お前達の力量はある程度把握した。これで,俺も,お前達に依頼する内容も決まった」

 モモカ「まだ依頼を引き受けるなんて言っていないわよ」

 青龍「もし,お願いを聞いてくれたら,お前達に武道や剣術の指南をしてやろう」


 この言葉に,オミレとハマルは,眼を輝かした。


 オミレ「はいはい!青龍様!! 何でもします!

 ハマル「青龍様,いや,剣聖様,俺も,何でもやります」

 モモカ「ちょっと聞くけど,気とか剣意で機関銃や爆弾に勝てると思っているの?われわれの敵はそのような敵なのよ。どうせ,オミレやハマルに教えてくれるなら,魔法を教えてやってよ」

 青龍「いまさらこの国の人間に魔法を一から教えるには時間がかかりすぎる。それよりも『気』をしっかりと覚えるほうがよっぽど役に立つ。剣意の修得にも大いに役立つはずだ」

 モモカ「まあいいわ,じゃ,その『気』ってやつを教えてやってちょうだい」

 

 オミレとハマルは,『気』を習うことになった。


 青龍「お前たちは,いずれ,メリルたちの部下になって,作戦行動をとってもらう。だが,その前に,,,」


 青龍は,亜空間から1本の指輪を取り出して,その指輪をオミレに渡した。


 青龍「これは収納指輪だ。手始めに,そこに人の血を10リットル集めなさい。期限は1週間,どうだ?できるかな?」

 オミレ「血を10リットルも?」

 青龍「そう。人の血から魔力を精製するためだ」

 オミレ「フーン,了解。ともかく,人を殺せばいいのね。了解でーす」

 ハマル「人の体から,血を3から4kg集めるとして,3人殺せばいい感じかな? さほど無理なことではない」

 青龍「モモカ,お前はどうする?協力するのか?」

 モモカ「わたし,魔法にさほど興味はないわ。それより,剣技の修行がしたい」

 青龍「つまり,協力するということだな?」

 モモカ「そうなるわね」

 

 その後,細かな打ち合わせをして,高峯洋花の父が開いている空手道場で,夜の10時ごろから稽古することになった。その時間なら,洋花しかいないので,洋花の了解を取るだけでいい。

 

 ーーー

 青龍と別れて,モモカたちは,ちょっと港の方に散歩した。季節が冬に向かっているので,夜の散歩は冷える。でも,人を狩るには,必要な行為だ。それに,港には,軍隊もいないので都合がいい。


 オミレ「こんなところ歩いても,人なんかいないわよ。別のところ行きましょう?」

 モモカ「わたし,夜眼も効くのよ。どうやら,波止場の奥に女性がいるようだわ。行きましょう」

 ハマル「こんなところに女性ひとりなんて,自殺でもするつもりかな」


 そんな会話をしながらモモカたちは,女性のいる波止場に近づいた。


 その女性は,一瞬,モモカたちを見たものの,さほど気にせず,そのまま数歩歩いて,波止場から海に落ちていった。


 ポチャン!


 さほど大きな音はしなかった。


 これを見たモモカたちは,ギョッとした。今,自殺を目撃してしまった。


 モモカは,『すぐに助けなきゃ』という,普段とはまったく別の行動に出た。彼女はすぐに霊力のバリアで自分自身を球状の中に入れて,彼女が飛び込んだ海面に飛び降りた。


 海の中では,飛び込んだ女性は,海水のあまりの冷たさに,いままでの鬱の感情が,一変に吹き飛んでしまい,正常な精神状態に戻った。


 『誰か?助けて!!』と叫びたいものの,海中では声も出せない。しかも,晩秋のため,着ている服が多く,体の自由もきかない。


 モモカは,すぐさま,自分が繰り出せる最大数の4本の触手を直下に繰り出した。ものの2メートルほど繰り出したところで,その内の一本が彼女と接触した。すぐに他の3本も彼女との接触に成功して,彼女の体に巻き付けて,すぐに海面上にすくい上げて,波止場の上に移動させた。


 すくい上げられた彼女は,ポカンとしていた。息を止めて30秒も経たずに,触手のようなもので体を巻き付けられて,波止場に引き上げられてしまった。しかも,凍るような寒さをまったく感じなかった。モモカが彼女の体の体表に霊力の層を張って覆ったためだ。そうでもしないと,この晩秋の寒さでは凍死してしまいかねない。


 というのも,彼女をすくい上げたとき,彼女の体つきを診た。すぐに,鍛え上げれた体だとわかった。モモカは,このまま死なすよりも,生かして自分の部下にするほうがいいと思った。


 波止場に戻されたその女性は,驚きのあまり,現状を認識できなかった。


 「え?どうして?わたし,もう死んだの?それとも,,,,??」


 この言葉に,モモカが返事した。


 モモカ「あなたは,もう死んだのよ。あなたの体は,すべて,わたしのもの。いいわね?」


 モモカは,命令口調で命じた。さらに,彼女に質問した。


 モモカ「名を何というの? 死ぬ前の状況を説明しなさい」

 

 その女性は,だんだんと,現状を理解した。どうやら,彼女のとんでもないパワーに,助けれたようだ。こうやって,助かってしまうと,ふたたび自殺しようとは思わなくなっていた。それに,水に溺れたのに,まったく寒くなかった。モモカが,霊力の層をクララの体表全体に展開したためだ。


 クララは,とにもかくにもモモカの質問に答えるようにした。


 彼女の名は,クララ。16歳,陸軍の兵士だ。入隊にして間もないにもかかわらず,特任選抜試験に合格した。それに快く思っていない同僚や先輩隊員たちから虐めに遭っていた。

 そんな頃,同じく陸軍の隊員だった父親が,原因不明の病で,急遽死亡した。クララは,母親のいない父子の家族であったことから,父の死はかなりショックだった。


 衝動的に,彼女は任務地の検問所から,徒歩で30分ほど離れたこの波止場に来て,衝動的に自殺を図ってしまった。


 クララの説明を聞いて,モモカは,彼女を殺すことを止めた。クララには,このまま軍部に戻ってもらうことにした。


 モモカ「クララ,あなたの命は,わたしがもらいました。あなたは,わたしの奴隷です。わたしの言うことには,絶対服従です。いいですね?」


 クララは,モモカに助けてもらった身だ。モモカから言われたことに素直に従うことにした。


 クララ「はい,わかりました。モモカ様に従います」

 モモカ「聞き分けが良くてよかったわ。では,これから,あなたは軍部に戻りなさい。そこで,頑張って出世してちょうだい」

 クララ「??」


 クララは,意味不明だった。


 モモカ「クララ,とにかく軍部で頑張ってちょうだい。出世しなさい。時が来たら,あなたに会いに行くわ」

 クララ「え? それだけでいいのですか?」

 モモカ「そうよ。それだけ。でも,次回,会うときは,当然,軍部の命令よりも,わたしの命令を優先しなさい。いいですね?」

 クララ「わかりました。モモカ様の言う通りにします」

 モモカ「では,あなたの帰るべき場所に戻りなさい」

 クララ「はい,,,あの,,,モモカ様,助けていただいて,ほんとうにありがとうございました」


 クララは,別れ際に感謝の言葉を述べて,去っていった。クララが去った後,オミレはモモカに尋ねた。


 オミレ「クララの連絡先とか,聞かなくてよかったの?」

 モモカ「別に聞く必要もないわ。クララが出世すれば,いろいろ価値がでてくるし,所在などすぐに判明するわ。もし出世しなければ利用価値がないだけよ。期待しないで待っていましょう」


 モモカは,そんな言葉を吐いて,旅館に戻っていった。



       

 

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