58 洋花の陥落

 青龍は,しばらく用務員室でノンビリしていた。放課後になり,クラブ活動が開始された。それでも,午後6時にはクラブ活動が終了し,午後6時半には校門が閉まる。


 青龍は,辺りがすでに暗くなった午後6時に行動を開始した。部活が終わった生徒たちが,三々五々下校する時間だ。女性徒を狩るのにいい時間だ。


 案の定,ひとりの女性が体育館の裏手から携帯小説を読みながら歩いて来きた。しかも,相当の美人でスタイルも抜群だ。


 青龍は,茂みから飛び出して,彼女の後頭部を打った。


 スカッ


 青龍の手刀は空を切った。


 青龍『あれ?』


 次の瞬間,彼女から青龍の横っ腹めがけて蹴りが飛んできた。彼は慌てて,腕でガードした。


 ガッ!


 青龍は,ぎりぎり両腕でガードした。だが,ひ弱な和輝の体では,その勢いを殺せず,数メートルほど飛ばされて転倒した。


 まさか,こんなど田舎の,しかも女子中学生が,これほど強烈な蹴りを繰り出せるとは思ってもみなかった。


 奇襲が失敗して,相手の女性に”和輝”ということがバレてしまったので,和輝の霊体は青龍に注意した。


 和輝『青龍,ボクだとバレてしまっては,もう彼女を襲うのは止めよう』

 青龍『お前は,彼女の処女を奪いたくないのか?』

 和輝『もちろん奪いたいけど,でも,相手の合意を得てからにして』

 青龍『わかった。まかしとけ』


 自慢の蹴りが防がれた少女も,また,ビックリした。


 少女「ボクちゃん,か弱そうなのに,わたしの蹴りを受けきるなんでちょっとびっくりだわ」

 青龍「びっくりしたのは俺のほうだ。まさか,こんな小便くさい小娘が,あんな蹴りを繰り出せるとはな」


 ”小便くさい小娘”と言われて,カチンと来た。


 少女「蹴りを受けきったことに免じて,わたしを襲ったこと,なしにしてあげようと思ったけど,,,でも,それもできなくなったわ。あなたを倒して警察に突き出してやるわ」

 青龍「警察沙汰はやめてほしい。これでも,将来ある少年だからな」

 少女「へぇ,将来ある少年が少女を襲うの?そんな話聞いたこともないわ」

 青龍「どうだろうか?もし,俺が小便くさい小娘の攻撃を受けきったら,警察沙汰にしないでほしい」

 少女「また小便くさい小娘って言ったわね!自分こそ洟垂れ小僧のくせに! でも,いいわ。その代わり,実践形式よ。急所攻撃もありよ」

 青龍「構わん。急所を攻めるのは基本だからな」


 少女は,鞄と携帯を地面に置いた。でも,ふと,制服を着ていることに気がついた。これでは全力を出せれない。制服が破れてしまう。


 少女「洟垂れ小僧,ここで勝負するのはまずいわ。わたしの道場に着てちょうだい。そこで勝負よ」

 青龍「小便くさい小娘,どこでも構わん」

 少女「わたし,高峯洋花って,りっぱな名前があるのよ。小便くさい小娘ではないわ」

 青龍「フフフ。そうか?まあいい。では,これから小便くさい小娘を洋花と呼ぶことしよう」


 洋花は,このクソガキのような青龍が,なんで年老いたような言葉使いをするのかちょっと不思議だった。


 洋花「洟垂れ小僧,名前は?」

 青龍「青龍だ」

 洋花「青龍? 変な名前ね。あなたも空手,習っているの?」

 青龍「あほ抜かせ!俺は,武道の神様だぞ。なんで習う必要があるんだ」

 洋花「武道の神様? ハハハ。笑える冗談だわ。あなたがほんとうに武術の神様なら,わたしのすべてを捧げてもいいわよ。フフフ」

 青龍「もともとそのつもりだ。お前の処女は俺がもらう」

 洋花「何バカ言っているのよ!武術の神様って,どうやってそれを証明するのよ!そんなこと,誰が信じるのよ。そんなか弱い体して」


 実は,青龍も,その点が最大の弱点だ。この体では,どうあがいても青龍の技量を充分に発揮することなどできない。せめてどこかで,みっちりと体を鍛える場所がほしいところだ。


 そんな会話をしながら,洋花は,青龍を父が経営している空手道場に連れていった。


 空手道場では,子供コースが終わり,大人コースが始まっていた。大人コースでは,防御服を着て,頭部や急所攻撃を禁止した模範試合をしていた。


 洋花は,青龍に道着を与えて男子用の更衣室で着替えるように指示した。彼女も女性用更衣室で着替えた。


 着替えが終わった後,洋花は父である高峯道蔵に青龍を紹介して,青龍に防御服なしで模範試合することに同意させた。


 道蔵「何?防御服なし模範試合? 何,バカなこと言っているんだ!」

 

 この言葉に,青龍が返事した。


 青龍「わたしから申し出たのです。洋花さんの攻撃を,防御服なしですべて受けきったら,わたしの願いをひとつ叶えてくる約束です」


 これには洋花も,一瞬,口を開けてポカンとした。

 

 道蔵「洋花,それはほんとうか?!」

 洋花「いえ,違います。そんな約束したことありません。ただ,わたしの攻撃をすべてその身でガードできれば,わたしを襲ったことを帳消しにしてあげると約束しました」

 道蔵「なに? 洋花を襲った?」

 洋花「お父様,安心してください。未遂です。返り討ちにしようと思ったのですが,青龍は,わたしの蹴りを未然に防いだんです。それで,彼をコテンパンにやっつけようと思ったんです。でも,動きずらい制服でしたので,わざわざここに連れてきました」

 

 道蔵はまだ充分に状況が飲み込めないが,でも,防御服なしの模範試合は,ここに空手を習いに来ている道場生に見せるわけにはいかない。


 道蔵「ともかく8時まで待て。道場生が帰った後からだ。それまで,体をほぐしていなさい」

 

 8時までは1時間ちょっとある。この時間は,青龍にとってありがたかった。本格的に,この和輝の体を充分に動かしたことはない。そこで,この体で,正拳突き,足蹴り,回し蹴り,横蹴りなどなど,一連の動きを,ゆっくりとした速度で動いてみた。


 青龍『よし。これから,順に速度を上げていく』


 青龍は,それらの動作を徐々に速度を上げて,和輝の体を動かしていった。


 青龍『あれ,この速度でも体がついてこれるのか?』


 和輝の体は見るからにひ弱だった。たしかに腕は細いし,胸の筋肉だってほとんどない。でも,短時間なら,そこそこの動きができるようだ。


 和輝『青龍,何,びっくりしているの? ボク,引きこもりだけど,運動は自主的にしていたよ。腹筋,ダンベルを持ち上げることや,ときどきはルームランナーでも走っていたよ』


 もっとも,ときどきしかルームランナーを使ってしないので,自慢できることではないのだが。


 青龍『意外にも,そこそこ速度がだせる体だったので驚いただけだ。もっとも,それでも,俺の百分の一の能力も引き出せないがな』

 和輝『・・・』

 

 青龍は,この道場に自由に通えないかと考えた。ここなら,いつでも体を鍛えることができるし,女性の道場生もかなりいるようだ。


 午前中は中学校で処女狩り,午後は道場生から血を奪う。青龍は,このプランでいくことにした。今は,メリルのことなどどうでもいい。ともかく,この柔な和輝の体を鍛えるのが先決だ。



 夜8時過ぎ,


 道場生が皆,帰っていった。残ったのは,道蔵,そのひとり娘の洋花,そして青龍だ。


 道蔵「青龍さん,防御服なしで,洋花の攻撃を受けるという話はほんとうか?」

 青龍「はい,ほんとうです。受けきったら,洋花さんを襲おうとしたこと,警察沙汰にしないと約束してくれました」

 道蔵「洋花は,気功術も扱える。わたしからいうのもなんだかが,気功術の才能がある。腕前は天才級と言ってもいい。空手の攻撃を何倍にも強化できる。それでも素手で受けるというのか?」

 青龍「俺,武道の神様です。いや,正確に言うと,わたしの前世では武道の神様でした。その記憶が蘇りました。しかし,この見辺和輝の体では,わたしの能力を充分に引き出せません。それでも,洋花さんの攻撃程度なら,何ら問題なく受けきれます。“お父さん”,安心してください」


 青龍は,青龍自身のことを和輝の前世ということで誤魔化した。それに,わざと,“お父さん”という表現を使った。いずれ洋花の処女を公明正大に奪うため,自分を洋花の許婿として認めさせるのが目的だ。

 

 道蔵「お父さんと呼ばれる筋合いはない。でも,まあいい。怪我しようが,その責任は,いっさいとらない。それでいいな?」

 青龍「もちろんです」

 道蔵「洋花,お前も準備はいいな?」

 洋花「はい,準備万端です」

 道蔵「では,試合を始めなさい」


 すでに,呼吸を整えて,体内に気を巡らした洋花は,青龍に向かって連続攻撃を繰り出した。


 正拳突き,足蹴り,回し蹴りなど,彼女が長年厳しい訓練をして編み出した連続攻撃だ。


 空手は凶器だ。万一,青龍が受けに失敗すると大けがをしてしまう。そこで,気をめぐらしたとはいえ,洋花は,初回攻撃を3割程度のパワーにした。


 青龍は,今発揮できる最大の高速の動きで,洋花の攻撃を躱した。だが,今の和輝の体では,洋花の攻撃のすべてを躱すのは困難だ。彼女の半数ほどの攻撃は,両腕と脚によって防御した。


 洋花の攻撃を受けた腕や脚から,さほど痛みが伝わってこないことに,感覚を享有している和輝がびっくりした。


 もし,下手くそな防御だったら,腕や脚が骨折するほどの洋花の攻撃レベルだった。気を纏った攻撃とはそれほどの威力を持つ。


 だが,青龍の受けは天才的だ。相手の攻撃速度に合わせるかのように受け流して防除する。そのため,相手の腕や脚にヒットしても,その破壊力は大幅に低減してしまう。


 洋花「わたしの連続攻撃,こんなにガードされたの,久しぶりだわ」

 青龍「よく修行しているな。大したものだ。でも,女性の悲しさか,いくら気を纏っても威力が弱い。どうだ?降参したか?」


 青龍のこの上から目線の言葉は,洋花にますます闘志を与えてしまった。


 洋花「何冗談言っているのよ。ちょっとくらい腕に自信があるからって,うぬぼれないでちょうだい。今までのは,ちょっと小手調べよ。次は,本気出すわ」


 洋花は,再び呼吸を整えた。今度は,両手をグルグルとゆっくりと回転させ,大気の気を自分の体の中に取り込んでいった。こんなに大量に気を取り込むのは,父親の道蔵でも無理だ。洋花は気を取り込むのに天才的な才能があった。


 洋花の本気を見て,道蔵はヤバイと思った。いくら青龍が受けの天才であっても,洋花の本気の攻撃を受けきれるとは思えない。下手すれば,イヤ,確実に腕や脚を骨折させてしまう。


 だが,試合の中止はしなかった。だって,青龍は洋花を襲った悪党だ。当然の報いだと思った。


 気を充分に体内に取り込んだ洋花の今の攻撃力は,とうとう3倍にまで上昇した。魔法や霊力を使わずに,気のパワーでここまで攻撃力をアップさせるなど,洋花だからこそできることだ。まさに気功術に愛された天才といえよう。もちろん,幼少の頃から,厳しい修行をしてきたたまものなのだが。


 だから,同年代で洋花の攻撃が通じない相手がいるなど,どうしても信じられなかった。洋花は中二で13歳だ。男女の性別の違いはあっても,年下の中一の坊主ごときに受け切れられしまうのは屈辱のなにものでもない。


 青龍は魔法のプロだ。だが,何百年という長い人生を送っている青龍は,魔法だけでなく,あらゆる格闘術を身につけている。気功術もそのひとつだ。青龍の気功術は,自分の身を防御することではなく,物体に気を流して強化させるというものだ。今回は,腕と脚の部分を覆う道着部分にだけ気を流すことで,防御力を少しだけ上げることにした。この程度の気の操作なら,今の和輝の体でも充分にできる。


 青龍が,このような対応をしたのも,洋花の全力の気を纏った攻撃には,生身の腕や脚での防御が困難だと判断したからだ。それに,折角蓄えた魔力を,こんなつまらない試合で消費したくもない。


 充分に気を練った洋花は,最終攻撃の前に青龍に降参を勧めた。


 洋花「青龍,いえ,本当の名前は,和輝君だったわね。和輝君,いまから最後の連続攻撃をするわ。降参するなら今のうちよ。いくら腕や脚で防御したって,それを打ち砕くわよ」

 青龍「洋花,そんな心配いらない。俺は,洋花をお嫁さんにしたいんだ。“お父さん”に認められて,この道場を継ぎたいんだ。男の俺が嫁さんよりも弱いなんて,洒落にもならないからな」


 青龍は,ここで,愛のアピールをした。


 洋花「何バカなこと言っているのよ!」


 青龍は,洋花がかなり激高したことに気を良くして,洋花に指さして叫んだ。


 青龍「洋花,お前はもう俺のものだ。そのAカップの貧乳も,お前の処女も俺のものだ!」


 この言葉に,洋花は完全に頭にきた。速攻で青龍に気を纏った拳と足で,青龍を連続攻撃した。


 ダン,ダン,ダン,ダン,,,


 それらの攻撃は,腕と足に纏った青龍の気の防御と,青龍の巧みな防御技術によって,ことごとく躱されてしった。


 かくも簡単に青龍によって躱されたのも,洋花が激高して冷静さを失ったことも要因のひとつだ。


 道蔵は,洋花の単調な連続攻撃をみて,かつ,彼女本来の気のパワーが充分に発揮されていないことを知って,試合を中止させた。


 道蔵「洋花!そこまで! 攻撃を中止しなさい。お前に青龍は倒せない」


 攻撃が中止された洋花は,その時になって初めて,自分が激高してしまい,“気”による攻撃が十分にできていないことに気づいた。


 洋花は攻撃を止めて,その場で息を整えながら青龍に文句を言った。


 洋花「和輝君,,,あなた,わざとわたしを怒らせたわね?」

 道蔵「洋花,そんな甘言に騙される方が悪い。お前は一から修行をし直せ!今から1週間,この道場に籠もって修行しなさい」

 洋花「え?学校はどうするのですか?」

 道蔵「1週間くらい休んでも影響はない。わしから学校に連絡しておく」

 洋花「・・・,わかりました」

 

 この状況で,青龍が取る行動は単純だ。


 青龍「お父さん!俺も,一緒にこの道場に籠もって修行したいです」


 この言葉に,道蔵はムカッとした。何が“お父さん”だ。バカも休み休みに言え!


 道蔵「青龍,お父さんと呼ぶな!お前を息子にした覚えはなし,道場生にもした覚えはない」

 青龍「お父さん! ここの道場生にしてください!お願いします。お父さんの弟子にしてください! 俺,体を鍛えれば,誰よりも強くなれます!」

 道蔵「月謝を払えば,道場生にするのは構わん。だが,この道場に籠もるのは駄目だ。もう,洋花に近づくな」


 青龍「俺,洋花を,いや,洋花さんを愛しています。一生守りたんです。洋花さんを一生面倒みます。洋花さんと,一分,一秒でも一緒にいたいんです。決して,いやらしいことは決してしません。一緒に籠もって修行させてください」

 道蔵「青龍,もうバカなこと言うな。青龍の両親だってそんなこと認めるわけがない。さっさと帰れ」

 

 青龍は,これ以上無理しても,いいことはないと思った。いったん,引き下がるのも手だ。


 青龍「分りました。いったん,ここは帰ります。明日,また来ます」

 道蔵「もう来るな」


 青龍は,道着を制服に着替えて,道場のドアを閉めた。それから玄関で靴の履く音が聞こえて,ガラガラと音がしてドアが閉まる音がした。


 この音で青龍は道場を後にしたことがわかった。


 青龍が帰ったので,道蔵は洋花に聞いた。


 道蔵「お前,青龍のことをどう思う?」

 洋花「バカなガキだと思います」

 道蔵「果たしてそうかな?彼の受けは本物だ。それに,いくらお前が激高したからといって,お前の気を纏った攻撃を難なく受けきったのだぞ。なんの怪我もなくだ。とても,中学1年の小僧ができる技量ではない。彼が前世の記憶が蘇ったというのも,あながちウソではないのかもしれん」

 洋花「お父さんは,あの作り話を信じるのですか?」

 道蔵「そう理解しないと説明がつかん。本当に,青龍が強者になるのだったら,お前を青龍の嫁にするのも反対はしない。お前は青龍が嫌いか?」

 洋花「べ,別に好きとか嫌いとか,そんな感情ないです」

 道蔵「青龍が,あそこまで正直にお前と結婚したいと言ったんだ。ウソではあるまい。時間はある。前向きに考えてもいいのではないか?」

 洋花「・・・」

 道蔵「今から,1週間,ここで籠もりなさい。戸締まりはきちんとするのだぞ」

 洋花「はい。ここに泊まるのは慣れています。わたし専用の部屋もありますから心配いりません」

 

 道蔵は,軽く頷いて,着替えてから道場を去った。道場には,洋花ひとり残された。道場には2階部分があり,3部屋ほどある。そのうち2部屋は倉庫になっていて,1部屋が洋花専用部分だ。冷蔵庫も風呂も台所も完備している。だから,ここで泊まるのはまったく問題ない。


 ひとり残された洋花は,ひとりで組み手の練習を始めた。この1週間で雑念を払い,精神的に成長しないといけない。青龍のバカな一言で気の乱れを起こすなんて,なんとも自分が情けないと思った。


 洋花「青龍のバカーー!」

 

 洋花は,組み手をしながら,そんな言葉を吐いた。


 「バカーなんて,言わないでください」


 そんなことを言いながら,青龍が道場のドアを開けた。彼は,道場を去っていなかった。去る振りをして,玄関のとなりにある女性トイレにこっそりと身を隠していた。


 洋花は,青龍が身を隠していたことを知った。ちょっと嬉しく思ってしまった。さすがにひとりではちょっと寂しいからだ。1,2時間ほど,一緒にしてあげてもいいと思った。

 

 洋花「うまく隠れたものね。まあいいわ。どう?一緒に組み手の練習でもする?」

 青龍「そうだね。でも,ちょっと腹が減った。何か食べるものはないの?」

 洋花「じゃあ,2階の部屋に来てちょうだい。インスタントならいくらでもあるから」

 

 洋花は青龍を連れて2階の部屋に行きインスタントラーメンを食べた。


 洋花「どう?美味しい?」

 青龍「なかなか美味しいものだね。こんなもの食べるの始めてだ」

 洋花「え?ほんと?」

 青龍「そうだ。前世ではこんなものなかったからね」

 洋花「青龍は,ほんとうに前世の記憶なの?」

 青龍「そうだよ。ウソ言っても始まらん。それに,気を操れるのは,なにも洋花だけではない。俺だって操ることができる」

 洋花「ほんとなの?」

 青龍「前にも言ったろう? 俺,武術の神様だって。気を操るくらい屁でもぇ」

 洋花「じゃあ,証拠見せてよ」

 

 青龍は,部屋に落ちていた赤色のヒモを持ってきた。20cmほどの長さのヒモだ。


 青龍「じゃあ,気の基本を見せてあげよう」


 青龍は,少量の気をそのヒモに流した。すると,そのヒモは,弱々しく震えだして直線状になった。しかし,すぐに萎れてしまった。でも,これで青龍は気が使えることの証明には充分だ。


 洋花「え?気って,体の外にも出せるものなの?」

 青龍「もちろんだ。上級になれば,気を外部に放つことだって可能になる。おれには,その必要はなかったから,そこまで修行はしなかった」

 洋花「青龍の気って,わたしも感じることができるの?」

 青龍「お互いの体を接触させて,お互いが気を感じることは,気を練る基本的な修行方法だよ。両手を出してごらん?」

 

 洋花は両手を出した。青龍はそれを握って,自分の気を洋花の手を通して流していった。


 洋花「あっ,ほんとうだ。感じる!感じるわ」


 青龍はすぐに手を放した。お楽しみは取っておくことに限る。ここは紳士として振る舞うのが上策だ。


 洋花「え?なんで手離したの?」

 青龍「今は,気のレッスンの時間ではなく,組み手をする時間だろう?」

 

 こんな中途半場な気持ちで,いまさら組み手などする気力は,もう洋花にはなかった。


 洋花「もう組み手は終わり。もっと,気のことを知りたいの」

 青龍「わかった。でも,長時間になるからなぁ。風呂にも入りたいし,,,こんな遅くになって帰るのもなぁ,,,」


 青龍は,意味深なことを言った。でも今の洋花は,気への知識欲でいっぱいだ。


 洋花は,押し入れから予備の毛布と父親のパジャマを取り出して青龍に渡した。


 洋花「今日は,ここに泊まっていいわよ。でも,いやらしいことはなし。わかった?」

 青龍「もちろん!じゃあ,あとで気のこと,いくらでも教えてあげよう」

 

 青龍は,風呂を浴びてパジャマ姿になった。その後,洋花も風呂を浴びてパジャマ姿になった。


 洋花「じゃあ,気のこと,もっとよく教えてちょうだい」

 青龍「じゃあ,ベッドの上であぐら座りしなさい」

 洋花「なんでベッドなの?」

 青龍「長時間になるからお尻が痛くならないようにだよ」

 

 洋花は,さほど疑問ももらずにベッドの上であぐら座りをした。


 青龍も同じくベッドであぐら座りをして,洋花の両手を取り,そこから自分の気をゆっくりと流した。青龍としても,本格的に気を操るには,まだ和輝の体ができてない。今は,初歩の初歩レベルの気を洋花の体に送れる程度だ。


 でも,その気の量でも,洋花にとってはびっくりだ。他人の気を感じることなど,経験したことがなかったからだ。


 洋花「他人の気を感じるのって,なんか,気持ちが通じるような感覚を受けるわね。新鮮な感じだわ」

 青龍「この和輝の体,ぜんぜん鍛えていないから,放出できる気の量も限られる。でも,洋花と一緒に気を巡らす訓練をすれば,2週間もすれば,洋花も俺も扱える気の量が倍増するはずだ」

 洋花「え?倍増するの?それって,わたしの攻撃力も飛躍的にアップするってこと?」

 青龍「そうだ。でも,さらに短期間で気の量をアップさせる方法がある」

 洋花「え?教えて,教えて!」

 青龍「教えてもいいが,洋花は今からわたしの恋人だ。いいかな?」

 洋花「恋人?なってもいいけど,いやらしいことはなしよ」

 青龍「わかった。いやらしいことは決してしない。でも,裸同士になって,抱き合う体勢になるのは了解してほしい。そうすることで,2週間かかるところが,1週間にまで短縮可能だ」

 洋花「え?裸になって抱き合うの?」


 そうは言ったものの,“気”を早く修得する誘惑には勝てなかった。洋花はパジャマを脱いで全裸になった。もともと下着は着けていなかった。両手でAカップのおっぱいを隠した。


 青龍「じゃあ,ベッドに横になりなさい。決していやらしい行為はしないから安心して」


 洋花は,その通りにした。おっぱいを隠した両手も外した。そこに,同じく全裸になった青龍が覆い被さった。胸と胸,腹と腹を合わせ,さらに手と手も合わせた。


 青龍「体全体が接触することで,お互いの気がよりいっそう感じやすくなる。それを体感しなさい。いまから唇を合わせて,そこからわたしの気を送る。口からの気を感じるようにしなさい」

 洋花「うん。そうする」


 青龍は,洋花にキスをして口から気を放出した。その量は,ほんとうに微々たる量の気だ。でも,口の部分は非常に敏感な部分だ。そのわずかな気の量でも,洋花はそれをしっかりと感じた。


 こうなってしまうと,あとは青龍の思い通りだ。青龍は,やさしく洋花の体を愛撫していった。脚,お腹,胸,乳首,,,しかも,キスをしながらの愛撫だ。そして,股間部にまで手を伸ばした。クリトリスへの愛撫もやさしく行った。


 もともと“気”を受け入れることは,感覚が何倍にも鋭敏になる。さらに愛撫の感覚が催淫作用を増強させ,情欲を沸き立たせてしまう。


 今の洋花に青龍の最終的な行為にあがらうのは困難だ。それでも洋花は,ひとつだけ質問した。


 洋花「青龍,,,わたしと結婚してね? わたしを一生,守ってね?」

 青龍「ああ,もちろんだ。お前を襲ったのも,一目惚れしたからだ。この小さいおっぱいも大好きだ」

 

 青龍は,Aカップのかわいいおっぱいを握って乳首にキスした。そして,彼の勃起した逸物が,彼女の膣の中に挿入していった。その後,絶え間ないピストン運動が展開された。


 その行為の中で,和輝の丹田の中に隠れていたまな美の霊力の一部が,逸物を経由して,洋花の膣の中に侵入して,さらに子宮へと入っていった。まな美の霊力の一部は,やっと洋花の子宮という落ち着いた住処を得ることができた。このようなことが起きていたことなど,青龍は知るよしもなかった。


 洋花は,その過程を通して処女を失った。


 青龍のほんとうの目的は処女を奪うことではない。血を吸うことだ。青龍は,洋花が肌を合わせる快楽から覚めだした頃を見計らって,洋花のおっぱいや乳首を愛撫しながらつぶやいた。


 青龍「洋花,お前の血をくれ。実は,おれ,前世ではバンパイアだったんだ。血を吸うことで活力が生まれる。それも,俺の愛した女性でないとだめだ。洋花の血がほしい。でも,安心してくれ。献血と同じくらいしか吸わない。それに,血管を切っても,それを簡単に止血する技能を持っている。洋花がバンパイアになることはないし,健康を害することもない」

 

 もう洋花に拒否するような勇気はなかった。青龍に好きにさせた。青龍は洋花の手首から血をがっちりと吸った。貧血ぎみなった洋花は,そのまま深い眠りについた。


 青龍は,この道場のカギを持ち出して,道場の表門のドアから出てカギをした。そして,自分の家へと急いだ。


 その道すがら,和輝の霊体が感激のあまり,青龍に感謝した。


 和輝『青龍,ほんとうにありがとう。まさか,今日のうちに,洋花さんの処女をいただけるなんて思ってもみなかった。感激した。でも,中出ししてしまったんだろう?妊娠したらどうするの?』

 青龍『メリルにお願いすればいい。彼女にできないことはない』

 和輝『そうなのか?それで,明日も道場に行くんだろう』

 青龍『その予定だ。しかし,予定は狂うものだ』

 和輝『また洋花さんを抱いてよ』

 青龍『処女を抱くのはいいが,何度も同じ女性を抱く趣味はない』

 和輝『・・・』


 その後,和輝が何度も青龍を説得したが,無駄だった。


 ーーー


 

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