55 水香救出作戦とミサイル攻撃


 所長室にまな美が来た。まな美は所長に言った。


 まな美「所長,折り入って話があります」

 所長「ほう?何かな?」

 まな美「所長,実は,わたし,水香に情が移ってしまいました。なんとか,この刑務所から救い出したいのですが,,,」


 まな美はストレートに言った。今のまな美は,メリルの指示で動いている。まな美はすでにメリル側の人間だ。


 メリル側の仲間は,今は,水香,まな美,そして,所長の息子の和輝の3名だ。そして,今,所長が仲間なのかどうかを判断しているところだ。


 所長「まな美君は,α隊のメンバーだろ? そんなことを言ったら,下手すれば,職を失うことになるぞ?」

 まな美「実は,もう,気持ちの上では,警察官を退職する覚悟が出来ています。わたしの全生命をかけて,水香を救い出す決心をしました。所長,協力してくれますか? それとも,協力しませんか? それとも,わたしを謀反人として,α隊の隊長にチクりますか?」

 所長「・・・」


 所長は,なんでまな美が水香を救いだそうとしているのか,まったく分らなかった。でも,それを聞いたところで,答えてくれそうもないようだ。


 まな美「所長,わたし,水香から聞いています。所長が水香にパソコンの前で自慰を強要しているって。これって,バレたら,大変なことになるのでは?」

 所長「わたしを脅迫するのか?」

 まな美「いえ,違います。水香をあの収監棟から救い出したいだけです。うまく救い出せば,後は,水香は所長の所有物です。性奴隷でも肉便器でも,拷問でも,好きなことをしてください」

 所長「それって,水香から聞いたのか?」

 まな美「はい,聞きました。お互い,目的は同じなはずです。ここは,お互い協力するのがいいかと思います。どうです?」

 所長「・・・,わかった」


 所長は,鍵付きの引き出しから,ダッチワイフの頭の部分を取り出して,まな美に渡した。


 所長「これは,水香の身代わりになるダッチワイフのパーツだ。今日から,1日3回,水香を訪問してほしい。その都度,ダッチワイフのパーツを持っていってほしい。組み立ては,ビデオ通話でわたしが水香に指示する」

 まな美「それはいいのですが,水香をどうやってあの収監棟から運び出すのですか?」

 所長「簡単なことだ。決行当日,まな美が収監棟に行った時,出てくる時は,まな美の恰好をした水香にする。完成したダッチワイフをベッドで寝かせる。次に超高圧電流を流して,家を火事させる。敷地内の消防員が現場に駆けつけることになる。その際,部屋の中にいるまな美は,消防服を着て消防隊員として脱出すればいい。どうかな?」

 まな美「そうですね,,,少なくとも,水香の脱出はうまくいきそうです。ただ,わたしの身が少々心配ですが,,,」

 所長「まな美さんは,特別な防御方法があるんでしょう? 万一のことがあっても,大丈夫ではないですか?」

 まな美「・・・,了解しました。その案でいきましょう」


 まな美と所長は,その後,細かな打ち合わせを行って,水香救出作戦を練った。


 

ー 東都,陸軍本部にある監視衛星コントロールセンター ー

 

 このコントロールセンターの一角に,警視庁から派遣されたα隊隊の4号,5号と6号がいる。3人が常に北海道網走市にある100番刑務所の収監棟を監視している。もちろん,そこに出入りする人,荷物も監視している。


 4号「あれ?今日,11号(まな美)が訪問するの3度目だぞ?」

 5号「別にいいんじゃねぇ?食事は3回取るもんだから,3回訪問するのも,おかしくないしな」

 4号「でもよ。毎回,差し入れする物としては,ちょっと多くないか?」

 5号「そんなの気にしなくていい。どうせ,数日中に殺害命令が出る予定だ」

 4号「それって,超小型ナパームミサイル弾の試作品が完成したってことか?」

 5号「ここだけの話だけどよ。完成して,すでに,北海道の美瑛駐屯地に配備される予定だってよ。設置と点検で2,3日かかるから,たぶん,3日後には,ドーーン! 水香は終わりだな」

 4号「つまり,水香は,試作品の試し打ちの的にされたってわけだな。可哀想に。あと,3日の命か,,,これ,11号に連絡しなくていいのか?」

 5号「バカいえ。11号には内緒だ。万一にも,水香に情報が漏れたら困るからな。それに,11号は,警察のすべての情報閲覧許可を持っているんだぞ。だから,大統領は直接,陸軍に命令を下すはずだ」

 4号「なるほど。われわれの監視情報を30分ごとに美瑛駐屯地に配信しているのは,それが理由なのだな」

 5号「まあな。どのタイミングでミサイルを発射するか,それを見極めるんだろう」


 ここで,6号が口を挟んだ。


 6号「でもよ。水香は妊娠しているんだろ? 子供が生まれるまで待たないのか?」

 5号「その点はちょっと疑問が残るが,もしかすると,大統領の側近は,水香が妊娠している情報をわざと大統領に報告していないのかもしれん」

 4号「それはあり得る話だ。その側近の親戚か友人が水香に殺されたという可能性もあるしな」

 

 そんな痴話話を暢気にしていた。


 6号「おれ,ちょっと,たばこ一服してくるわ」

 5号「OK」

 4号「りょうかーい」


 6号は,席を外して,施設の外に出ていった。そして喫茶店に入って,携帯をいじくった。ちなみに,施設内は携帯持ち込み禁止だ。


 6号は,11号のまな美と比較的親しい間柄だ。警察本部の閲覧でも入手できない情報を,これまでもこっそりとまな美に提供していた。

 

 6号は,11号に以下のラインメッセージを送った。

 

 『近々ミサイル投下の可能性あり』


 

 ー 北海道YY駐屯地 ー


 北海道の東側にあるYY駐屯地は,少しざわついていた。超小型ナパームミサイル弾の試作品が到着した。引き取ったはいいものの,常に有人監視が義務付けられている。人手を割くのはできるだけ避けたい。


 そのミサイル弾は,装甲車に装備されている。監視役は,運転席に座って,いつでも移動できる体制でいなければならない。


 引き渡しの際,簡単な引き継ぎが行われた。発射ボタンは本部が押すので,この装甲車には装備されていないはずだった。しかし,万一のためということもあり,非常用の発射ボタンを運転席に付けることにした。


 その場所は,ハザードボタンの左側10cmほど離れた場所に設置されて,『非常用ボタン』と明記されていた。この発射ボタンは,専用の鍵を挿入して,左側に回すことで発射する。


 上官隊員は,引き継ぎ担当者から説明を受けて,引き継ぎ報告書にサインした。これで引き継ぎ完了だ。


 上官隊員自ら監視することはない。そこで,新人隊員にその役目を与えた。


 上官隊員「仕事中は,運転席で常に待機していなさい。本部から連絡が入るかもしれんので,気を抜かないように」

 新人隊員「了解しましたー!」


 新人隊員は元気よく返事した。上官隊員は,自動車の鍵を新人隊員に渡して本棟に戻った。


 新人隊員は,装甲車のドアの鍵を開けて,運転席に座った。このまま何時間もじっとしているのも退屈だ。


 季節は晩秋。かなり寒い。このままでは凍えてしまいそうだ。已むなく,彼は,車のエンジンをかけて暖房を入れることにした。


 上官から渡されたカギは2本あった。常識的に,そのうちの1本はスペアキーだと思った。


 彼は,車のキーを差し込んで右に回した。


 新人隊員「あれ?回らないぞ?この装甲車,特別なのかな?」


 何度やっても,エンジンが始動しなかった。彼は,差し込み口が別にあるのではないと思った。すると,ハザードランプボタンの左側に『非常用ボタン』と明記した箇所があった。彼は,そこが,非常用のエンジンキーの場所だと思った。


 そこで,鍵をその『非常用ボタン』に差し込んで右に回した。


 新人隊員『あれ?回らないぞ?どうして?』

 

 新人隊員は,今度は左に回してみた。


 ドォーーーーン!ドォーーーーン!


 2連弾の超小型ナパームミサイル弾が,天高く舞い上がった。その後,180度旋回して,あらかじめ設定された目標座標に向かうことになる。


 

 ーーーー


 まな美は,所長から渡されたラブドールの左足をうまく折りたたんで,足だと分らないようにし,さらに夕食用の食料を準備して,のこのこと収監棟に向かって歩いていった。


 まな美の携帯が震えたので,携帯を見た。すると,


 


 まな美は,『近々ミサイル投下の可能性あり』というメッセージを見た。


 まな美「まさかね。水香は妊娠しているんだから,すぐに殺さないとおもうなぁーー」


 まな美は,独り言を言った。

 

 そんな時だった。

 


 収監棟まで,あと数メートルというところで,微かではあるが,『 ドォーーーーン!ドォーーーーン!』という,聞き慣れない音がした。


 まな美は,2つの閃光が上空に舞い上がっているのを目視した。


 まな美「あっ!ミサイル!!発射されたんだわ!!」


 まな美のこの言葉に,メリル霊や青龍の霊体もすぐに反応した。


 メリル『まな美!すぐに水香を庇ってちょうだい!!霊力の操作はわたしがするわ!』

 

 この言葉に,まな美は一目散に収監棟に駆け込んだ。幸い,2,3メートルしか離れていなかったので,1秒も経たずに部屋の中に駆け込んで,水香に襲いかかるように抱いた。


 メリルは,すぐにまな美の体から霊力を展開して,まな美と水香の体の表面に強固な防御層を構築した。


 この時,青龍が叫んだ。


 青龍『メリル様,霊力で大きな風船をできませんか?空気の出口は,長い筒状にすれば,爆風で風船が萎むパワーで,水香様たちを筒に沿って,一気に遠くに飛ばすことが可能です!』

 メリル『OK!』


 メリルは,すぐに弾力のある大きな風船状の球を作り,筒状の部分に,まな美と水香の体を入れ込んだ。


 それから5秒後,,,


 ドドドドドドーーー!ドドドドドドーーー!


 2連弾の超小型ナパームミサイル弾のうち,一発が,収監棟のわずか1メートルほど離れた場所に落下して爆破した。その直後,超高熱の火柱が湧き上がった。もう一発は,5メートルほど離れた場所に落下して,その火柱を何倍もの威力にした。爆発の勢いは凄まじく,収監棟を跡形もなく焼滅させた。


 強烈な炎と爆風,さらに舞い上がる灰燼で,周囲200メートルはおろか,周囲300メートルまで達するほどだった。


 幸い,ミサイル発見から着弾まで5,6秒ほどの時間があったので,メリルは,防御層の構築と,弾力のある球や長い筒状の構造物の構築にぎりぎり間に合った。


 そして,爆風によって霊力の球が萎む勢いで,筒状に沿って水香を抱いたまな美の体は勢いよく飛ばされた。


 霊力の層が彼女らの周囲にあるので,周囲の煙を吸いこむのを避けることができた。メリルは,すぐに透明の羽根を展開して,バルーンの原理で空中に浮かんで,100番刑務所の塀を越えた。


 バルーン状の霊力の層は,周囲の色にある程度合わせることで,一目がつかないように空中をゆっくり浮遊しながら,所長の家に向かった。空の色に合わせるのだから比較的容易だ。


 20分後,まな美と水香は所長の家に着くことができた。


 なんとも,急な出来事だった。



 北海道YY駐屯地と,陸軍本部にある監視衛星コントロールセンターは,パニック状態になった。いったい,どうなってしまったのか?


 「誰がGOサインを出したんだ?!!」

 「水香は,まな美は,無事か??ーー??」

 「いったい,誰が事態を把握をしてるんだーー?」


 一番,状況を把握しているのは,やはり,陸軍本部にある監視衛星コントロールセンターの4号と5号だ。6号は,この時,喫茶店でのんびりしていた。


 4号と5号は,ミサイル投下の前後の映像を何度も詳しく見直した。その結果,得られた結論は,,,


 まな美と水香のいた収監棟がミサイルよって直撃されたという事実だ。彼女らの生死は不明だ。でも,状況から死体を残さずに死亡したと考えた。


 その一報は,すぐにα隊隊長経由,警視庁長官,さらに大統領へと報告された。また,平行して100番刑務所の所長,さらに北海道YY駐屯地にも報告された。


 その後,北海道YY駐屯地からミサイルが発射された点については,操作ミスによる誤発射であることが,陸軍大将経由,大統領に伝わった。


 この結果,駐屯地のトップは更迭され,誤発射を行った新人隊員とその上官は,軍法会議にかけられることになった。


 もっとも,更迭といっても,十分な金銭的保障が得られるもので,軍法会議といっても形式的なもので,比較的軽い罪で収まる予定だ。というのも,近々,大統領の命令で発射ボタンを押させる予定だったからだ。



 ー 100番刑務所の本棟,所長室 ー

 

 所長は,涙が流れそうになった。せっかく水香の脱走計画を万全な体勢で進めてきたのに,こんな最悪の結果になってしまった。


 所長は,やるせなかった。


 その後,α隊隊長からの連絡とか,法務省本部からの対応,さらに収監棟の被害現場の保全指示などで追われてしまい,結局,刑務所で徹夜することになった。



 ー α隊本部 ー


 α隊本部の隊長は,『まな美と水香のいた収監棟がミサイルよって直撃された。彼女らの生死は不明。状況から死体を残さずに死亡したもよう』という,4号と5号からの報告を訂正せざるを得なかった。というのも,α隊隊長はまな美が生きていることを知っている。


 彼女の着ている最新鋭の防御機能を有する魔装から,位置情報を今でも発信しているからだ。そして,その位置は長官の自宅だ。


 α隊隊長は,この事実を報告する緊急性は低いと判断し,まず,多留真と相談することにした。多留真は,実質,警視庁を動かしている重要人物だ。


 しばらくして,α隊隊長と多留真はオンラインで会話した。その目的は,水香が生きているかどうかという点だ。


 そして,得られた結論は,当時の人工衛星からの映像から判断して,水香も生きていると判断した。まな美が生きているにも関わらず,連絡がとれないことから,まな美は水香の仲間になったと推定した。


 さらに,水香は霊力を高度に操って,あのミサイル攻撃から身を守り,かつ,刑務所から無事に逃げたことにる。そんなことができるのは,『メリルの指輪』のメリルしかいない。

 つまり,『メリル』は,『メリルの指輪』から移動して水香の体の中に隠れていたことになる。


 この結論に達して,多留真たちは,至急,大統領や警視庁長官,軍部トップらを交えて会議を持ち,情報の共有を図った。また,マスコミには,『ミサイルの誤発射により,100番刑務所の施設の一部を破壊した。この事故により,受刑者の水香が死亡した可能性が高い。現在,さらに調査中』とだけ報告することになった。


 その後,魔装服の所在はコンビニに移動した。そこで,地元警察官の協力を得て,このコンビニへの捜査が入り,α隊宛ての荷物が発見された。中身から,魔装服,制服,携帯,パソコンなど,警察から貸与されたものがあった。さらに,α隊隊長宛ての手紙もあった。


 内容が機密すぎるので,地元警察官は,中身を見ないように,その手紙を開封し,パソコンのカメラの前でその内容を見せた。


 そこには,次のような文言が書かれていた。


 『隊長,11号はメリル様に脅迫されて,このような行動に出ました。そうしないと殺されます。今後は,メリル様の指示で動きます。 11号』


 内容を理解したα隊隊長は,その警察官にその手紙を焼消するように依頼した。


 

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