50 一美二美三美の問題解決

 ー 蜜香マンション ー


 一美の依頼を受けて,東子たちが立てた作戦行動に従って,呪符使いのオミレは,麻薬組織の長老が出入りしているキャバレーのスタッフとして働き始めた。また,剣術使いのハマルは,一美の母親が働いているソープランドの客として,彼女を抱くことで籠絡するという任務を開始した。


 ハマルにとっては,経費で一美の母親を何度も抱けるし,かつ,オミレから3品の催淫呪符も預かっているので,なんとも楽な仕事だ。通い始めて,5回目にもなると,一美の母親は,完全にハマルの虜になり,ハマルの言いなりになるほどの状況になった。



 一方,オミレにとっても,長老を籠絡させるのは,さほど難しい仕事ではない。オミレはかなりの美人タイプの女性だし,胸の脂肪をうまく寄せ集めれば,Dカップにもなる巨乳だ。それになんといっても16歳の若さだ。そんな彼女に迫られ,かつ,こっそりと5品の催淫呪符を使われては,呪符に抵抗力のない長老は,一発でオミレの虜になってしまった。


 そうなっては,長老はもう終わりだ。オミレから店外でのデートに誘われては,それを断るのは無理だ。いくら長老に3名ほどのボディーガードがいようと,ボスのハビルがアレンジした獣魔族の襲撃部隊に太刀打ちできるはずもない。


 尚,襲撃部隊はあくまでも威嚇のためだ。長老に一美を諦めさせ,かつ,一美の母親を自由の身にさせるためには,弁護士を交えて契約書の作成が必要だ。その辺のアレンジはハビル自らが行った。この月本国でうまく立ち回るには,弁護士をうまく活用するノウハウを熟知していた。


 長老から契約書を入手して,一美の件が終了したのはいいものの,一美の母親をどうするかが問題となった。母親が住んでいるマンションは,長老が借りているマンションだ。そこから引っ越す必要がある。それに,今後の仕事をどうするかという問題もある。


 だが,ボスのハビルは電話でハマルにひとこと言うだけだった。


 ハビル「ハマル,今から2週間与える。その間,母親の引っ越し先と新しい仕事先をアレンジしなさい」

 

 ハビルは,そんな細かなことまで頭を費したくはない。それに,母親の勤め先など体を売る仕事ならいくらでもある。


 ハマルは母親のために学生街に近い安いアパートの1室を借りて,堅気の仕事を探してあげることにした。母親にとっては,ハマルという頼れる男性がいれば,アパートの住みここちや月給の多さなど,あまり気にならなかった。


 ちょうどその頃,電話当番だけでいいという仕事があった。『四季探偵事務所札幌支店』の電話当番の仕事だ。事務所は共同事務所で,必要に応じて使うというものだ。事務所のオーナーは女性らしいが,採用面接は書類審査だけなので,オーナーに会う機会はなかった。電話当番だけなので待遇はよくない。24時間電話を待つという仕事にもかかわらず,月給は8万円ほどだ。いくら学生をあてにしているとはいえ,24時間対応では学生も対応しきれない。ハマルはダメ元で母親にこの仕事に応募させたところ,なんともあっさりと採用されてしまった。


 一美の母親,名は澄玲というが,澄玲は電話当番の仕事とは別に,電話当番に影響しない内職の仕事をすることにした。裸体をネットで晒す仕事だ。家でいればいいし,マイクをオフにしておけば,いつでも電話応対が可能だ。これで,少なくとも月に6,7万円は稼ぐことが可能となる。なんとか生活の目処がたつことができる。それに,ハマルとの夜の生活にも影響しない。


 澄玲にとっては,願ってもない幸せな時間が味わえると期待した。


 ーーー

 東子は,蜜香マンションに出向いて一美と面談した。


 東子から,一美を狙っていた長老が,一美から手を引いたこと,さらに,母親も長老から自由となり,今は,堅気の仕事をしていることを告げた。


 一美は,眼から涙がこぼれだした。まさか,このマンションに来て,かつ,自分の問題まで解決してもらうなど思ってもみなかったことだ。


 一美は,ただ『ありがとうございます』というだけだった。


 東子「一美さん,よかったですね」

 

 東子は,同情してそんな言葉を言った。同情したのは,これから一美が待ち受けている過酷な未来のことだ。一美は,これから,獣魔族から種付けをされる運命だ。


 それは,東子たちも同じ状況なのだが,でも,東子たちには,モモカから,いろいろとアドバイスを受けていて,ボスのハビルの子供を産むための心の準備がすでに出来ている。


 東子は,まず,自分の身の上から話すことにした。


 東子「すでに,知っていると思うけど,あなたは,これから,男たちと種付け作業に勤しむことになります。そういうわたしも,すでに種付けされて,すでに妊娠しています。見てください,このお腹」


 こう言って,東子は,自分のお腹を見せた。妊娠6ヶ月ほどにもなるお腹だ。でも,まだ妊娠1ヶ月半程度だ。後,1ヶ月半もすれば,出産を迎える。モモカから5倍速の魔法を受けていたが,その持続時間は数日で解消してしまった。実際のところ,妊娠期間を短縮するまでには至らなかった。


 東子は,獣魔族という人間とは別の種族の存在を説明し,かつ,妊娠期間が3ヶ月だということも説明した。出産後の赤ちゃんは,専用の施設に送られてそこで面倒をみることになることなど説明した。


 東子「出産後は,また,種付けを受けることになるわ。少なくとも,4人以上は産むことが義務よ」


 一美は,薄々分かっていたとはいえ,なんと返事していいのか不明だった。でも,大きな拒否反応はなかった。


 一美「それって,種付けの相手って一樹さんですか?」

 東子「ボスが決めることだからわからないわ。でも,一樹さんは頭が良すぎて,この仕事から外れる可能性があるって言っていたみたい。この仕事って,頭が良すぎるのも問題らしいわ。バカのほうがいいみたい」

 一美「・・・」


 どの道,一美に逃げるような選択肢はなかった。自分の腹を貸すだけのことだと,自分に言い聞かせることにした。ただ気になるのは出産に伴う安全性だ。


 一美「そんな種族の違う子供を出産するのって,安全性は大丈夫なのですか?」


 東子は,ちょっと戸惑ったが,ちょっとウソをつくことにした。


 東子「モモカさんって,知っているでしょう?彼女,死んでしまったけど,代わりにボタンさんが採用されたの。臨月に近づくと身の回りの世話をしてくれるし,それに,助産婦さんもつくし,産婦人科のお医者さんも定期的に巡廻してくれるわ」


 助産婦さんと産婦人科の医者の話はほんとうのことだ。東子たち4名は,すでに妊娠1ヶ月半なので,医者くずれの産婦人科を2週間に一度,定期的に診察させていて,助産婦も来週から住み込みで採用する予定だ。でも,これまでの統計から,手産後の母体の生存率が10%前後という事実は伏せておいた。


 東子たちにとっては,その事実を知っていても,ボタンから絶対に大丈夫と太鼓判をおされていたので,その言葉を信じた。信じるしかなった。


 東子の説得で,一美は種付けとしての運命を受け入れることにした。種付けを受ける日程は1週間後になる予定だ。


 一美は,種付けはこの際いいとして,それよりも,自分の貧弱な胸のことを心配した。


 一美「東子さん,あの,この貧弱なおっぱい,もっと大きくする方法ってありませんか?わたし,いろいろ試して,体に脂肪をつけるようにしたのですけど,太ももやお腹に脂肪がたまったのはいいのですけど,肝心のおっぱいに脂肪が移動しないのです。毎日,マッサージで脂肪がおっぱいに移動するように頑張っているのですけど,,,」

 東子「・・・」


 東子は,そんな情報は持っていないが,現在の自分たちの状況を説明した。


 東子「わたしは,もともとEカップのおっぱいだったけど,妊娠して,片方の乳房で1kgほどにはなるGカップに変化したわ。一番おっぱいの小さかったBカップの北子でも,今では,Dカップほどのでかさになったわ。だから,そう心配しなくていいわ。妊娠したら,大きくなるわよ。それに,体中の脂肪をおっぱいに寄せるマッサージを根気よく続けることも大事ね。途中でギブアップしないことが大事だと思う」


 一美は,ミツルのことを聞いた。


 一美「ミツルさんは,どうしているのですか?もうわたしたちの管理はしないのですか?」

 東子「そうそう,ミツルさんですけど,次回からミツルさんに管理の仕事に戻ってもらいます。わたしたちは,出産の準備のため,体力増強に専念しますので」

 一美「体力増強?」

 東子「はい,そうです。出産を楽にさせるためです。モモカさんからの特別メニューをこなさないといけないので。あっ,そうそう,わたしたちが行う特別メニューは,その時になったら,教えてあげますね?」

 

 一美にとって,東子たちの存在は頼もしかった。愛情を感じない獣魔族のひとたちの子供を産むという罪悪感をさほど感じなくてよかった。


 かくして,一美は,種付けされる心の準備ができた。


 ーーーー

 西子は,二美の部屋で,モモカが虚道宗の宗主に1年間二美に会わないという約束をとりつけたことを説明した。ただし,宗主に自殺させる呪詛を植え付ける試みをしたことまでは説明しなかった。


 二美も西子の説明に納得した。種付けされる件については,すでにある程度は心の準備ができていたので,さほど抵抗もなく同意を得ることができた。


ーーーー

 南子は,三美の部屋で,三美の身の上話を聞いた。これまで,モモカやミツルは,三美の部屋に行ったことはあったものの,顔を会わせて世間話をする程度で終わっていた。


 今回,南子の任務は,しっかりと三美から,身の上話を聞いて,彼女の悩みを解決させて種付けを受け入れさせることにある。悩みの解決には,南子がする必要はない。生きていると判明したモモカ,今はボタンと名前を変えているが,ボタンに振ればいい。


 三美にとっては,一美や二美が,自分たちの悩みや恨みを晴してもらえていることを,たびたび三美に語っていた。その話を聞くに付け,うらやましいと感じた。そして,今,やっと,自分の番が回ってきたと思った。彼女はこの時を今か今かと待っていた。


 三美は,自分の身の上話を語り始めた。


 三美「わたし,帯広市立高校の高校1年です。でも,高校でいじめと担任からひどい扱いを受けて,思い切って家出して札幌に来ました。幸か不幸か,三樹に会って,このマンションに住むことになりました。いまでは,とてもラッキーだったと思っています」


 ここまでの話は,以前,モモカやミツルに説明している。でも,具体的な話となると,まだ話していない。これからが具体的な話になる。


 だが,南子は,せっかちな性格だ。他人のいじめ話など聞きたくもない。


 南子「三美さん,すいませんが,復讐したい相手のリストを準備してくれますか?電話番号,メールアドレス,住所などわかる範囲で結構です。それさえ分かればいいです」

 三美「・・・」


 三美は,自分の身の上話を聞いてもらいたかった。でも,そう言われた以上,リストを準備することにした。


 自分の顔を傷つけた同級生の女生徒4名と,自分を養護するようにみせかけて,男どもに犯させた女教師の5名だ。


 南子はそのリストの写真を撮って,すぐにボタンと名乗っているモモカにメール送信した。復讐するのはモモカの役割だ。


 南子「三美さん,あなたの恨み,ボタンさんが晴らしてくれますよ。楽しみにしてくださいね」

 三美「あの,,,どうやって恨みを晴らしてもらえるのですか?」

 南子「そんなの決まっているじゃない。死刑よ死刑!」

 三美「え? 死刑?」

 南子「そうよ。1週間もすれば,ニュースに乗るんじゃない? じゃあね」


 南子は,そう言って,さっさと三美の部屋から出ていった。


 それから,三美は,できるだけテレビのニュースやネットニュースを見るようした。すると,5日後に,次のようなニュースが流れた。


 『帯広市のXX公園で,YYY高校の女生徒の死体が4体発見されました。しかも,いずれの死体も頭部が首から切り離されていました。さらに,別の公園で同じ高校の女教師の死体が,やはり頭部が切り離されて発見されました。

 警察からの発表によりますと,公園に設置された監視カメラの映像から,殺人の犯行の様子がはっきりと映っていたとのことです。しかも,女生徒と女教師を殺害した犯人は同一犯で,女性であることが判明しました。殺人犯の容疑者の写真をここに公開します。有力な情報提供者には報奨金500万円が支払われます』


 三美は体が震えた。彼女が書いたリストの全員がほんとうに殺されてしまうとは,,,そんなこと,彼女は望んでいなかった。女生徒の場合なら,停学1週間とか,女教師なら減給処分とかくらいでよかったのに。


 でも,体が震えた後,三美はなんかスッキリした気分になった。今まで悩んで来たことが馬鹿らしくなった。何かが吹っ切れたような気分になった。


 公開された殺人犯の容疑者の顔写真は,長髪で目がぱっちりとして,鼻がやや高く,長髪が額や頬の輪郭さえも遮っていた。素顔がどんなものか,まったく想像できないものだった。誰が見ても,これでは犯人は捕まらないだろうと思うほどのものだった。警察としても,今は,この監視カメラの映像くらいしか,犯人逮捕に繋がる情報がない。


 この報道が流れた後,まもなくして南子がやってきた。


 南子「三美さん,あなたの依頼は遂行しました。ついては,われわれの依頼を遂行してください」

 三美「はい,ある男性とエッチして子供を生むことですね?」 

 南子「そうです。心の準備はいいですか?」


 三美は,ニコッとして微笑んだ。それが,彼女の回答だった。

 

 ーーー

 この帯広の殺人事件は,もし地元警察が警視庁に応援をお願いしていれば,『霊力使い』が犯人だと判定できただろう。しかし,応援要請は道警どまりに留まった。というのも,警視庁から出向してきた女性部長刑事の小百合が,モモカの殺害に成功した功績で警視庁に戻ってしまった。そのためか,警視庁への応援が遠慮がちになったという経緯がある。


 地元警察だけで犯人確保できるはずもなく,この事件はしばらく未解決のまま放置されてしまった。


 帯広での仕事を終えたモモカは,オミレとハマルを連れて網走市に移動した。というのも,モモカの兄であるセイジの居場所が判明したためだ。ミツルが雇ったハッカーからの情報で,セイジが網走市200番刑務所にいることが判明した。また,その刑務所の所長が見辺という名前で自宅の住所まで判明した。


 そこで網走市にしばらく潜伏することにした。

 

 ーーー 

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