47 夏江の決心

 夏江は,警視庁の超現象捜査室のソファーで,片方で5kg,両方で10kgにもなる重いOカップのおっぱいから出る母乳を,もっと高性能な吸水パットに吸収させなくてはダメねと思いながら,室長に外出の許可をとることにした。


 夏江「室長,ちょっと,私用で近くの喫茶店に行ってきます。30分程度で戻ります。遠方にいるの友人が近くに来たものですから」

 室長「そうかい?30分と言わず,1時間でも2時間でもいいよ。幸い,急ぎで片付ける仕事もないしね」

 夏江「ありがとうございます」


 夏江は,約束した喫茶店に出向いた。そこには,顔見知りの知人がいた。オミレだ。


 夏江は,わざわざ北海道から東都に来てもらったお礼を言った。オミレは,微笑み返しした後,大事に抱えていた小さなジュラルミンケースを夏江に出して言った。


 オミレ「このケースの中に,100gほどの魔法石が格納されています。受け取りください」

 

 そう言われて,夏江は,お金も払わないのに,なんで魔法石がもらえるのかよくわからなかった。でも,その疑問はすぐに解けた。


 オミレ「受け取りの書類にサインください。それと,請求金額の500万円は,2週間後に支払ってください。ここが銀行振込先です。もし,1日でも送金が遅れると,罰則が発生します。これが罰則の内容です」


 オミレは,罰則の書類を渡した。


 夏江は,100gの魔法石が500万円もするなど初耳だ。でも,支払えない金額ではない。多留真から奪い取った500万円がある。それをあてればいいと思った。


 そんなことを考えつつ,罰則の書類を見た。


 『支払い期限が切れると,罰則が発生します。その内容は以下の通りです。


 孔喜AV企画(株)の専属女優として,1ヶ月間仕事をすること。この仕事内容については,あらゆる疑義,反論,拒否をすることはできません。もし,この内容に違反した場合,強制的に肉体的,精神的懲罰を加えることになります』


 それは,数行の簡単な罰則項目が記載されていた。


 この書類を見て,夏江はオミレに言った。


 夏江「大丈夫よ。500万円ならいつでも支払えるわ」

 オミレ「すいません。支払日は2週間後と決まっています。その日に支払ってください」

 夏江「え?今日にでもこの口座に振り込んではだめなの?」

 オミレ「ダメです。2週間後のその日にしか,その口座は開きません」


 夏江はちょっと考えてから言った。


 夏江「もし,仕事の都合で支払えなかったら?」

 オミレ「罰則にある通りです。AV女優になってもらいます。もちろん,警察の仕事は辞める羽目になるでしょうけど」

 夏江「・・・」


 夏江は,もしかして,罠ではないかと思った。


 夏江「その支払いの日,わたしが銀行に行けなかったらどうなるの?」

 オミレ「そこまでは知りません。その日,確実に銀行振込をすればいいだけだと思います」

 夏江「もしもよ,銀行に行けたとして,この口座がまだ開いていなかったら?振込できなかったら?」

 オミレ「わたし,そこまで関知しません。ともかく振込できなかったら,約束通り,AV女優になってもらいます」

 

 夏江は溜息をついた。完全な罠だ。2週間後のこの日になっても,まず間違いなくこの振込先にお金を振り込むことなどできないと思った。


 夏江「もし,その罰則を受け入れないと言ったら?」

 オミレ「ここでの会話のやりとり,虚道宗で夏江さんが,秋江さんとして行動したこと,しかも,モモカさんが生きていることを知っているのに黙っていたことなどなど,すべて警察に報告することになります。

 夏江さんは警察を辞めなくてはならなくなるでしょう。それに,当然ですが,連日,柄の悪い連中が押しかけてくることになります。気の休まる日々はもう来ないでしょう」

 

 夏江は,なんとも,ヤクザ以上にタチの悪い連中と関係を持ったものだと少々後悔した。


 この時,念話で美澪から連絡があった。


 美澪『この魔法石,超いいわ。もっとほしい!!もっとあれば,真の強者になれるわ!!せめて,あと200g追加注文して!!』


 夏江の心配をよそに,美澪はのんきに追加の魔法石をねだった。聞くだけならタダなので,夏江は魔法石の追加注文ができないか聞いてみた。


 夏江「1週間後に,追加で200gの魔法石を入手することは可能ですか?」

 

 オミレは,すぐにラインでボスにその旨を連絡した。すると,ボスから対応可能との返事が来た。


 オミレ「大丈夫です。追加の魔法石は宅急便で送ることになります。支払いは,同じく2週間後で,合わせて1500万円になります。罰則の内容は同じですが,AV女優としての仕事期間が3ヶ月に延長となります」


 夏江が到底支払える金額ではない。夏江は美澪に念話で伝えた。


 夏江『美澪,1500万円なんて支払えないわ。美澪はわたしにAV女優になれっていうの?』

 美澪『夏江,AV女優なんて,裸でビデオに出るだけでしょう?簡単な仕事よ。警察の仕事よりもよっぽどいいわ。それに,いくらでも精子が手に入るのよ。それも生きのいい精子よ!! 霊能力のアップになるわよ。多留真なんかのアホに操なんか立てる必要はないわ』

 夏江『わたしは警察官でいる必要があるのよ。その職権を利用して,理不尽にも『メリル』によって殺された連中の仇を討ちたいの。この指輪には,もう『メリル』はいないわ。それを知っているのは,この世でわたしだけよ。メリルの指輪に殺された連中,特に,最初に殺された6人の女生徒の無念を,わたしが払わないで誰が払うのよ!!』

 美澪『その気持ちはわかるけど,6人の女性徒の仇討ちなら,なにも警察官でいる必要はないわ。警察を辞めて,AV女優になって,精子を大量に取り込んで,もっと優れた霊能力者になりなさい。それができれば,どこかに隠れている『メリル』だって,容易に発見できるはずよ。わたしだって,魔法や霊力をもっとうまく使えるようになっているわ。『メリル』とバトルになっても,夏江を守れるくらいのパワーはあると思うわ』


 美澪は,さらに言葉を続けた。


 美澪『夏江,警察を辞めてAV女優になるって決心しなさい。今が,一番いいタイミングだと思うわ。もっともっと霊能力を上げれば,未来予知だって,サイコキネスだって,パイロキネシスだってなれるわ。神様にだって近づけるはずよ。もう天下無敵よ,無敵!!『メリル』だろうが『モモカ』だろうが屁の河童よ!!軽くやっつけることができるわよ!!!』


 美澪は,適当なことを言って夏江をそそのかした。どうせ,相手は夏江を陥れることしか考えていないはずだ。ならば,その策に乗って,夏江をもっと高次元の霊能力者にさせるいい機会だと思った。

 

 美澪はさらに言葉を続けた。


 美澪『警察の仕事なんか低給でしょう?さっさと辞めちまいなさい。夏江は今のレベルでも,そこそこの霊能力者よ。その能力を生かせば,何千万でも何億でも稼ぐことができるわ』


 その後も,美澪はとめどもなく夏江を説得した。夏江は,徐々に警察を辞めてもいいのかもしれない,AV女優になって精子を大量に受けて,霊能力をアップさせるのも悪くないと思うになった。夏江は,意思が強そうにみえて,実は意思が弱い女性だった。


 オミレは,夏江が10分以上も黙って何か考えているふうなので,オミレも無言のまま,夏江からの言葉を待った。


 暫く経って,夏江が口を開いた。


 夏江「どうやら,わたし,あなたがたにハメられたみたいね。でも,警察を辞めるいい機会をもらったと考えることにするわ。200gの魔法石の追加注文,お願いします。支払の件,それと罰則の件も了解しました」


 夏江は,完全に吹っ切れた気持ちになってオミレに返事した。


 オミレ「夏江さん? もしかして,警察を辞める覚悟をしたのですか?」

 夏江「わかりますか?そうよ。警察を辞めることにするわ」

 

 オミレは,何かとっても悪いことをしたような罪悪感に襲われた。

 

 警察を辞めるともなると,夏江には大きな心残りがある。美澪にも念話で語ったように,モモカも逮捕できず,『メリルの指輪』の『メリル』がどこにいるのかも分からないという点だ。『メリル』はもっとも凶悪な悪だ。水香がもたらした災害は『メリル』によるものだ。根本的な事件は,まだなんら解決していない。その潜在的恐怖を知っているのは,コンクリート詰めにされて廃棄された『メリルの指輪』が偽物だと知っている夏江だけだ。多留真もこの事実を知っているものの,本物の『メリルの指輪』は夏江の管理下にあって制御されていると誤った情報しかない。


 霊体の美玲が『メリルの指輪』に囚われた時から,警察を辞めることになるのは必然の流れだったのかもしれない。モモカやオミレの背後にいる組織がどのようなものかは不明だ。しかし,少なくとも,魔法を扱うことのできる組織だ。つまり,恐怖の千雪たちに匹敵するかもしれない恐るべき組織の可能性だってある。夏江は,オミレの属する組織に少なからず興味を抱いた。


 夏江は,オミレにその組織について質問した。


 夏江「オミレさん,あなたの所属する組織って,いったい何なの?魔法を生業にしているの?それとも魔法石販売を生業にしているの?」


 オミレは,なんとも奇妙な質問をされたと思った。オミレにだって,そんなの知っているわけもない。知っているといえば,マンションを管理して,そこに住む若い女性たちをボスの言いなりにさせるということ,そして,モモカが10億円の詐欺をこれからしていくという点だ。


 オミレは,ちょっと考えてから返事した。


 オミレ「そうね,わたしもボタンさんの組織に加わってまだ間がないけど,わかっていることは,不動産管理をしていることかな?でも,ちょっとだけ詐欺まがいのことをするかもしれないわ。フフフ」

 夏江「・・・」


 夏江はこれ以上オミレから情報を取るのは無理だと判断した。彼女は,喫茶店を後にして警視庁の超現象捜査室に戻った。


 ーーーー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る