46 報告会

 モモカは,ボタンと名を変えてハビルの元に戻った。事の経緯をハビルに説明するため,全員交えての大会議が行われた。

 

 その人数,実に9名!


 モモカ(ボタン),ハッカー見習いのミツル,呪符使いのオミレ,剣術使いのハマル,ボスのハビル,そして情婦である東子たち4名の合計9名だ。


 そこそこの大所帯だ。一通りの自己紹介が終わったところで,これまでの経緯をモモカが説明し始めた。


 モモカは,『モモカ』としての人物が機関銃によって死亡したこと,そして,改造された肉体と回復魔法のおかげで蘇生できたこと,第1師範の協力で,ボタンという身分を入手したこと,ミツルがしばらく少女たちに虐待されたこと,さらに,刑事である夏江と取り引きして,モモカが生きている事実を内緒にしてもらったこと,さらに,夏江に魔法石を販売するルートを提供することなどを詳細に説明していった。


 その説明を聞いて,ボスのハビルはモモカの片方で4kg,両方で8kgにもなる爆乳の谷間を見ながら,重い口を開けた。


 ハビル「事の経緯は了解した。魔法石はその夏江刑事に販売しよう。100gの魔法石で500万円ほどだ。夏江刑事との連絡係はオミレだったな?」

 オミレ「はい,わたしです」

 ハビル「後で,魔法石を渡すので,それを持って東都へ行って,夏江刑事に手渡せ。支払いは2週間後の後払いでいい。支払いできない場合,AVデビューさせるのが条件だ」

 オミレ「???」


 オミレは,何でAVデビューが出てくるのか意味不明だった。でも,会議終了後にハビルから,彼の所属する組織の傘下に,某AV企画会社のあることがわかり,納得した。


 ハビル「モモカ,ながながと説明してくれたが,当初の目的は何だったんだ?」

 

 そう言わて,モモカは肝心な宗主について説明するのを忘れていた。


 モモカ「へへへ,そうでした」


 モモカは,まだ15歳だ。殺人狂だと知らなければ,その愛くるしい顔に見とれてしまい,ハビルの的をついた質問など出来るはずもなかった。


 ハビルは,モモカに性欲の感情を感じつつも,冷静に思考していた。


 モモカ「もともとは,一美,二美,三美さんたちに,わたしの依頼を喜んで実行してもらうのが目的です。でも,世の中,ギブアンドテイクなので,まず最初に,わたしが彼女らからの依頼を引き受けることにしたのです」

 ハビル「それで?一美の場合は,どうなったのだ?」

 モモカ「一美さん?えーーと,,,」


 モモカが虚道宗に行ったのは二美の依頼だ。一美の依頼ではない。モモカが口を濁らしていると,ミツルがフォローした。


 ミツル「一美さんは,例のラブホテル事件で,モモカの共犯者として捕まるのではないかと戦々恐々としてました。わたしが,たまたま侵入できた道警ネットの情報から,一美さんが捕まる可能性は非常に低いと言ったら,とても安心しました」

 ハビル「それで?」

 ミツル「それで,一美さんは,確か,山風組の北海道支部の情報を詳しく知りたがっていました。その理由までは知りません」


 ハビルは,モモカに向かって言った。


 ハビル「モモカ,お前はどうだ?一美のために何か動いたか?」


 モモカは頭かきながら首を横に振った。


 ハビル「まぁ,そうだろうな。一美の助けになるどころか,ラブホテル事件では,一美を殺人者の共犯者まがいのことまでさせたんだからな。まったく役に立たんな,お前は」


 モモカの奴隷の身分であるオミレとハマルは,モモカが『強者』であることはよく知っている。そのモモカに,『まったく役に立たんな,お前は』となじるボスのハビルは,いったい,どれほどの強さなのか想像できなかった。


 モモカはハビルからなじられたので,自己否定を少しした。


 モモカ「どうせ自分は頭が悪いから,スマートな行動なんてできませーん」


 この言葉に,数人がクスクスと笑った。


 ハビルは,東子から一美のフォロー状況について説明させた。


 東子「モモカさん,ミツルさん。わたし,あなた方がいなくなってら,一美さんたちのフォローをすることになりました。最初は,お茶飲み友達の感覚でおしゃべりしていました。それから徐々に彼女たちの願いを聞くことになりました。それで,まず,一美さんの願いについて話します」


 東子は,一息ついて言葉を続けた。

 

 東子「一美さんのお母さんは,ある縁で麻薬中毒になってしまいました。麻薬組織山風組傘下の高級ソープランドで働らかされていました。それと同時に,一美さんはその組織につけ狙われてしまいました。母親と同じくソープランドで働かせるのが狙いでしょう。一美さんが家出したのは当然のことです」


 ここまで説明した後,モモカがひとこと言った。


 モモカ「ふん,そんなの山風組の連中,皆殺しにすればいいだけじゃない。アジトさえわかれば,瞬時にケリがつく問題ね」

 

 モモカは吐き捨てるように言った。ボスのハビルは,その思考ではこの先うまく仕事が進まないと思って,モモカの思考回路を修正させることにした。


 ハビル「確かに皆殺しでケリがつけば簡単だ。でも警察が出てくるぞ。モモカが生きているってわかれば,今度は機関銃攻撃ではすまなくなるな。もしかすると,モモカ殺害のため,『真の強者』が雇われるかもしれん。例えば,千雪たちの仲間だ。奴らはほんとうに危険だ。モモカが殺されるのは構わん。でも,俺たちまでまきぞいにさせるな。もっと,頭を使え,頭を!」

 

 このハビルの言葉にモモカはカチンときた。


 モモカ「頭が良かったら,高校に行っていたわよ。あーー,なんか,もう何もかもいやになったかなーー」


 ハビルにけなされて,モモカはまったくやる気が起きなくなった。


 ハビルは,なにやらゴソゴソと呪文のような言葉を唱えて,小さな魔法陣をモモカの頭上に発動させた。


 モモカ「え?何か,頭がちょっと痛くなってきたわ。イタターー!」


 これは,懲罰魔法陣と呼ばれるもので,新魔界では,教師が悪いことをした生徒へ罰として与える時に使われる魔法陣だ。威力の弱い頭痛を引き起こすことができる。

 

 魔法の世界を知らない呪符使いのオミレと剣術使いのハマルは,モモカの頭上に出現した魔法陣にびっくりした。彼らは,とんでもない世界に足を踏み入れたのではないかと思った。


 懲罰魔法陣が消失してからボスのハビルはモモカに言った。


 ハビル「今のは,懲罰魔法陣と呼ばれているものだ。初級魔法レベルだが,よく教師が生徒への罰として与えるものだ。モモカ,お前は,出来の悪い生徒だ。何度も言うがもっと頭を使え」

 モモカ「・・・」


 頭痛が収まった後,モモカは,なぜが頭がすっきりしたような感じを受けた。頭細胞が頭痛によって活性化するという副作用がある。そのため,一夜漬けで勉強するときは,自分に対して,この懲罰魔法陣を発動させることもあるくらいだ。


 モモカ「わたし,,,なんか,頭がすっきりしたみたい。天才になったのかな?」

 ハビル「アホ!そんなんで天才になるか!!」


 ハビルはモモカを相手にしないで東子に言った。


 ハビル「東子,話を続けなさい」

 東子「はい,続けます」


 東子は一美の件について,話を続けた。


 東子「それで,一美さんからの依頼の件ですが,要点を整理します。具体的に解決すべき点は2つあります。ひとつは,一美さんの母親を自由の身の上にさせることです。つまり,ソープランドの仕事から足を洗わせて,麻薬依存から抜け出させることです。もう1点ですが,母親の情夫についてです。彼は,山風組の長老と呼ばれている人物です。長老と言っても,年齢は30代前半です。彼は一美さんを自分の奴隷にしてソープランドで働かせることを執拗に迫っています。そこで,彼が一美さんから手を引かせることがポイントです。しかも,殺人などの重大な犯罪手法に寄らずです」


 東子は,最後に『殺人などの重大な犯罪手法に寄らない』という点を強調した。モモカからの反論を阻止するためだ。


 モモカ「何か,最後の言葉,わたしへの当てつけね」


 東子はモモカの言葉を無視して話しを続けた。


 東子「一美の母親を指名して遊んだ男性客を買収して,いろいろと母親の情報を入手したのですが,それによれば,母親は精神的に長老に依存している状況です。もともと依存性の強い女性のようです。彼女の理想の男性像は体が,がっしりとしていて,頼りがいのある男性のようです。そこで,彼女が長老を捨ててでも,駆け落ちしてしたいと思えるような理想の男性を選別中です」


 東子の戦略は理に叶ったものだ。正攻法で,かつ合法的手法によって一美の望みを叶えてあげるというものだ。


 ハビル「その2点目についてはどんな状況だ?」

 東子「はい,2点目ですが,長老に一美さんを諦めさせる方法として,長老を美人局の罠に追いやるという方法がいいと考えます。彼は,大多数の男性が好きなように,超がつくほどの巨乳好きです。母親がDカップもあるのが何よりの証拠です。美人局の美人役は,巨乳が絶対条件です」


 みんなの目が,片方で4kg,両方で8kgにもなるモモカの胸に視線が移った。


 モモカ「なにジロジロ見ているのよ!それに,ヤクザ相手に美人局の罠にかけても,効果があるとは思えないわ」

 

 ハビルはニヤニヤしながら反論した。


 ハビル「一般人の美人役ならそうだろうな。でも,能力者が美人役になるなら話は別だ」

 モモカ「・・・」


 モモカは,すぐにでもセイジ兄さんのために動きたかった。そこで美人役をオミレに振ることにした。ついでに一美の母親を誘惑する役は,剣術使いのハマルにさせればいいと思った。


 モモカ「東子さんの提案だけど,母親の勧誘役にはハマル,美人役にはオミレを推薦するわ。ハマルは,体格もがっしりしているし,呪符だってある程度使えるわ。母親をメロメロにして誘惑するにはうってつけよ。


 それに美人役のオミレは,正真正銘の呪符使いよ。長老を脅迫して,一美を諦めさせることくらい朝飯前だわ。わたしが美人役になったら,長老を殺しかねないわ」


 東子たちは,オミレとハマルをマジマジと見た。


 東子「モモカさんの提案,それ,いいと思う。ハマルさんは,ちょっと髭を綺麗に剃って髪を整えれば,それなりにハンサムに変身できるわ。オミレさんは,外見からだとCカップくらいのおっぱいのようね。でも,アップブラを使えば,Dカップくらいには見せることだって可能だわ。

 うん,なんか,これで一美さんの件は解決した気になってきた!」


 この東子の言葉に,ボスのハビルは少し納得してしまった。ただ,母親の場合,長老を捨ててハマルを追うことになったところで,またどこか別のソープランドか娼館で働いてもらうことになる。


 でも,母親が長老の元から逃げる決心をするだけで良しとすることにした。


 ハビル「一美の件は,東子の案で進める。オミレ,ハマル,われわれの組織に入って,初めての仕事だ。期待しているぞ」


 そう言われても,オミレやハマルはどう返事をしていいのかよくわからなかった。彼らはモモカの奴隷として来た身分だ。モモカの属する組織の一員になったつもりはない。


 彼らが浮かない顔をしていたので,ハビルは報酬を提示した。


 ハビル「モモカからの推薦なので,オミレやハマルは,その仕事を受けなさい。成功報酬として100万円!しかも,最初の仕事なので,初回おまけでプラス50万円だ。どうだ?いいだろう?」

 

 オミレとハマルはお互い顔を見合わせた。


 オミレ「あの,質問いいですか?」

 ハビル「構わん」

 オミレ「わたし,呪符を制作できます。でも,制作するのに,100万円くらい,簡単に使ってしまいます。そのような経費は,別途,カバーでしてくれのですね?」

 

 ハビルは,ちょっと考えてから返事した。


 ハビル「呪符の有効性については,わたしはよく知らん。でも,今回,使用する呪符の経費は,すべて経費として処理しよう。その有用性が今回の仕事で証明されたら,本格的に,われわれの組織で取り上げることも考えよう。もちろん制作者には,それなりの利潤を与えよう」


 この言葉に,オミレは目を輝かせた。


 その後,二美の件は,モモカが宗主に1年間二美に会わないという約束を取り付けたことや,同時に,精神支配で自殺に追いやることを試みたことも説明した。二美の件は,今回のモモカの対応で解決したとみなすことにした。


 最後に三美の件だ。


 三美は女優志望だ。でも,復讐したい相手がいる。元,私立高校の担任の先生だ。あやうくレイプされそうになった。三美の依頼は,担任の先生を社会から抹殺してもらうこと!!


 三美の件は,西子と北子の2名が担当して,いろいろと情報整理を行っていた。そして,すでにその私立高校の理事長と,何度も接触していて,寄付金50万円を支払う条件で,臨時の聴講生を受け入れてもいいというところまでもってきた。


 後は,その私立高校に聴講生を派遣するだけだ。


 西子がそこまで説明すると,モモカがゆっくりとハビルの方に向いて言った。


 モモカ「ご主人様,この件,わたしが引き受けましょう。問題なく解決したら,セイジ兄さん救出のために,しばらく不在にしますが,いいですね?」


 ハビルは,傍に置いた鞄から封筒を取り出して,それをモモカに渡した。モモカは,その中身を見て驚いた。


 モモカ「これって?! セイジ兄さんのいる刑務所情報!! それに水香のいる刑務所まで!!」


 ハビルは,ニヤッとした。


 ハビル「そんな情報,警察ネットに侵入するまでもなく,われわれの組織を使えば,いくらでも情報がはいる。世の中,持ちつ持たれつだ。まあ,別の表現でいえば,賄賂とも言うがな。フフフ」

 

 モモカは,ちょっと腑に落ちなかった。タダほど高いものはない。絶対に裏があるはずだ。

 

 モモカ「それで?わたしにどうしてほしいの?」

 ハビル「私立高校に行ってもらうのは当然で,その高校の担任を誘惑してもらう。ただし,その高校担任から,10億円をだまし取れ!彼は五つ星財閥の御曹司だ。身分を隠して,そんなところで高校教師として,こっそりと女性徒の盗撮を女子トイレや更衣室で行っている。まあ,性癖みたいなものだな」

 モモカ「そこまで分かっているなら,堂々と脅迫すればいいのではないですか?」

 ハビル「アホ!逆に,やばい連中から,闇夜に急襲されて殺されてしまうのが落ちだ。あの財閥の財力なら,恐怖の千雪たちにだって,仕事を依頼することが可能だ。そうなれば,俺の背後の組織だって曝かれて壊滅させられるかもしれん。

 いいか,よく聞け。とにかく,そのバカな頭を使え!!バカはバカなりに,突拍子もない案が生まれるもんだ。

 なんとしても10億円をせしめろ。それができれば,モモカ,お前は,俺の元を去ってもいいし,いくらでも自由にしていい。何度も言う!バカなりに頭を使って,バカなアイデアで10億円をせしめろ!」

 モモカ「・・・」


 モモカとしては,ハビルからバカバカと言われてもやるしかなかった。でも,どうやって??


 どのような方法で行うかは不明だが,モモカは,この仕事を引き受けることにした。だって,この仕事が終われば,セイジ兄さんの元に行けるのだから!!


 モモカ「わかりました。やるだけやってみます。10億円,頑張って入手してみせましょう」


 かくして,モモカは私立高校の転入生として潜り込むこことになった。


 モモカの奴隷身分であるオミレやハマルは,モモカとは別行動だ。呪符使いのオミレは美人役として,剣術使いのハマルは一美の母親がいるソープランドの客として,一美の依頼を引き受けることになった。尚,オミレは,この仕事の前に,魔法石を夏江に届けるという仕事もある。


 尚,ハッカー見習いのミツルは,モモカから刑務所情報を渡されて,セイジ兄さんや水香のいる刑務所について,更なる詳細な情報取得をすることに専念することになる。


 


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