44 夏江同志

そんな時,美澪からの念話が頭の中に響いた。


 美澪『夏江,あのオミレって子,あやしいわよ。心臓の鼓動が時々,早くなったり遅くなったりしていたわ。絶対,何か企んでいるはずよ』

 夏江『ふふふ,そうね,彼女,最初からウソをついていたわ。わたしが夏江だと知ってびっくりしていたけど,ほんとうは全然驚いていなかったわ。驚いた時に発する赤色のオーラがまったく現れなかったもの』

 美澪『そこまでわかっているなら,どうしてここまでついてきたの?もし,モモカが襲ってきたらどうするの?』

 夏江『その可能性は大いにあるわ。でも,モモカには勝てないまでも,わたしの身を守るだけならできるでしょう?もし,身を守ることさえできれば,モモカと接触できると思ったの。何か有益な情報が入手できるかもしれないわ』

 

 夏江が,のんびりと池の表面を悠々と泳いでいるオシドリを見ているとき,,,


 ヒューーン!


 透明の刃が夏江の首目掛けて襲った。


 カッキーーン!


 透明の刃と透明の刃が夏江の首の近くで衝突した。


 夏江は,慌てて,その場から立って,周囲を見渡した。すると,10メートルほど後方の白樺の樹木の裏から,ある女性が姿を現わした。それは,ボタンという名前に変えたモモカだった。


 モモカ「さすがですね。わたしの霊力攻撃を躱せるとは驚きです」


 モモカはここに来て,素性を隠す必要はないと判断した。夏江にはここで死んでもらう!!霊力の扱いなら,一日之長があるモモカに絶対に有利はなずだ。それに,回復魔法だって使える。敵は夏江1人だ!


 夏江「あなた,モモカさんね?死んだと思っていたけど,やっぱり生きていたのね。でも,どうしてわたしの前に現れたの?そのまま隠れていればいいものを」

 モモカ「どうやら,わたしが生きていることが夏江さんにバレてしまったと思ったからです。ここで死んでいただきます」

 夏江「わたし,まだ死にたくないの。それに,わたしが死ぬとも限らないわよ。わたしの『メリルの指輪』には,ふんだんに霊力が満ちあふれているわ。霊力の物量攻撃をすれば,モモカさんの霊力でも凌げないかもしれないわよ」


 夏江は,はったりをかました。

 

 ここに来て,美澪は,すぐに夏江の周囲に5重の透明バリアを展開した。しかも,そのバリアの厚みは,モモカが展開するよりも3倍も分厚いものだった。


 その夏江の5重ものバリアをみたが,はたして,どれほどのものか試してみることにした。


 モモカは,霊力の腕の先端部分を金槌のようなものに変形させて,最高硬度にさせて夏江を覆っているバリアに衝撃を与えた。


 バリバリバリバリ!!!


 夏江を覆ったバリアの4層がことごとく破壊された。しかし,5層目で,その勢いが収まった。いくら硬い硬度の金槌でも,勢いがなくてはなんら脅威ではない。


 モモカは,一度,霊力の金槌を自分の手元に引き戻して,再び勢いをつけて夏江に攻撃を加えようとした。


 そのわずかな時間差で,夏江の周囲に,再び新しい5層の防御層が構築された。残っている1枚の防御層と合わせて6層にもなる防御層だ。


 モモカは,空中で霊力の金槌を何度も旋回させることでさらに勢いをつけて夏江を襲った。


 バリバリバリバリ!!!


 6層にもなるバリアは,ことごとく破壊されてしまった。


 モモカは,夏江を殺すことができたと思った。しかし,霊力の金槌を引き戻すと,そこには血の跡がまったくついていなかった。


 しかも,夏江を覆ったバリアの場所には,夏江の姿がなかった。


 モモカ「え?夏江はどこに消えてしまったの?」

 

 モモカは,周囲をよく見渡すと,ぼんやりと曇りガラスで覆われている箇所があった。明らかに霊力によるものだ。


 モモカは,重たい霊力の金槌の形状から軽量の霊力の刃に変更した。曇りガラスを引き裂くくらい,霊力の刃で十分だ。


 シュパー!


 高速に繰り出された霊力の刃は,曇りガラスをいともたやすく粉砕した。

 

 そこには,四つん這いになっていた夏江がいた。しかも,5重の霊力のバリアで覆われていた。


 モモカは,霊力の金槌に勢いをつけている間に,夏江は,曇りガラスを使って身を隠して,こっそりとその場所から退避したことがわかった。


 これでは,また霊力の金槌を使って夏江の何重ものバリアを破壊したところで,逃げられては意味がない。


 今のモモカの霊力の技量では,霊力の腕を10メートル以上も伸ばせるのは1本だけだ。2本以上繰り出せる技量はまだない。


 モモカは,まさか夏江を殺せないとは思ってもみなかった。


 モモカは,これ以上夏江に攻撃しないというポーズを示すため,霊力の腕を自分の横に引き戻して,その先を地中に刺した。


 地中からの攻撃とも取れるが,地中を突き抜けるほどのパワーは,今のモモカでもないことは,夏江でも十分に理解できた。


 モモカは,ここで停戦を提案することにした。

 

 モモカ「夏江さん,もう攻撃するのは諦めました。夏江さんも防御層を解除して結構です」

 夏江「わかりました。でも,安全の意味で,曇りガラスを展開します。正確なわたしの位置を把握できなくするためです」

 モモカ「どうぞ,お好きなように」


 夏江は再び曇りガラスを展開してから,バリアを解除した。


 モモカ「わたしが生きているのこと,警察内部に報告しないでください。もし,黙ってくれたら,わたしはもう夏江さんには手を出しません。でも,そうでないなら,夏江さんとわたし,どちらが死ぬかまで戦います」


 夏江は,モモカの言葉にウソはないと思った。夏江としても,ここでモモカと戦っても勝てる見込みは薄いことは知っている。夏江の考えは明快だった。


 夏江「わかりました。モモカさんの提案に乗りましょう。そのかわり,モモカさんも,ここでのやりとりや,わたしの能力など,警察にリークしないと誓ってください」


 この提案にモモカはまったく問題なかった。


 モモカ「問題ありません。夏江さんが霊力が扱えるのは,メリルの指輪のおかげなのですね?その指輪,蘇生できたのですね?」

 夏江「幸いというべきか,不幸というべきか,蘇生して,わたしの指に収まっています。でも,蘇生したのはいいのですが,寿命が1ヶ月もないようです。どうやら,例の祭壇に安置すると延命できるようです」


 この夏江の言葉を聞いて,モモカは合点がいった。モモカも祭壇のおかげで蘇生できたようなものだ。回復魔法が充分に使えることができたので,機関銃でできた傷を完治することができたからだ。それに,肉体改造できていたことも大きな要因だ。


 メリルの指輪の延命には,魔力の源,つまり魔法石が必要のは間違いない。


 モモカ「夏江さん,今は,わたしと夏江さんとは,お互い共通の秘密を共有した同志とみていいですね?」

 

 夏江はちょっとおかしくなって微笑んだ。

 

 夏江「ええ,『同志』,それで結構です」

 モモカ「では,メリルの指輪を延命する方法を教えましょう。簡単なことです。あの祭壇には魔法石が隠されているはずです。そこから魔力がその指輪に流れて一時的に蘇生したのでしょう」

 夏江「魔力?それって,魔法を使うときのパワーってこと?」

 モモカ「はい。そうです。費用は高額になりますが,わたしのボスなら入手ルートがあるはずです。相応の価格で提供できると思います」


 夏江は,モモカにボスがいることなど,夏江は始めて知った。なんか,やばい世界に踏み込みそうでいやな感じがした。でも,メリルの指輪の延命は,すなわち,美澪の延命でもある。美澪の霊体を救う手段が発見出来ない以上,やむを得ない。


 夏江「それはありがたいわ。じゃあ,モモカさんからの連絡を待っていればいいのね?」

 モモカ「自販機の裏に隠れているオミレを連絡窓口にします。彼女と細かなやりとりをしてください。それと,その際に,こちらから金額以外で条件を出すかもしれません。あしからず了解ください」

 夏江「かまないわ。犯罪にならなければなんでもいいわ」

 モモカ「では,夏江同志,ではまた。お互い,秘密は守りましょうね」


 そう言って,モモカはその場を去った。


 モモカは,実は霊力に限界がきていた。さきほどの試合で,精緻な霊力操作をしたことが主な原因だ。

 

 これ以上,夏江と戦えば,もしかしから,負けるのはモモカかもしれないと思った。夏江のあの豊富な霊力には目を見張るものがある。いったい,どうやればあれほどの霊力,つまり,大量の精子を確保することができたのか?


 モモカは,ともかくも,ボタンがモモカであることを隠し続けることができたと思った。夏江は魔法石をほしがっている。モモカの素性をバラす可能性は低いと思った。


 一方,夏江もホッとした。美澪の霊力バリアと光屈折力のある曇りガラスを駆使することで,なんとかモモカの攻撃を回避することができた。それに,魔法石を入手するルートもできた。


 夏江は美澪に感謝の言葉を告げた。


 夏江『美澪,ありがとう。助かったわ。よくモモカの攻撃を回避したわね。それに最後の攻撃も,直前に曇りガラスのアイデアを思いついて助かったわ』

 美澪『そうでしょう?感謝してよね。わたしをこの指輪から解放する方法を見つけてよね』

 夏江『もうちょっと待ってちょうだい。もう少し霊能力をアップできれば,その指輪にだって,その亜空間にだってアクセスできるかもしれないわ』

 美澪『では,当面,多留真の体を使って双修でレベルアップすること,そして,精子風呂を享受することかな?』

 夏江『・・・』


 

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