36 ボタンの誕生

 特弟子は,指示されたことをうけて,電話で宗主に依頼するやら,管理棟に残った職員に命令するやらで,30分ほど時間を潰した後,夏江を指輪を管理している場所に連れていった。


 そこは,管理棟の地下から出入りできる奥の洞窟にあった。歩いて10分ほどで,祭壇を祭ったような装飾物が配置されてある場所に来た。


 特弟子「この祭壇に指輪を放置してあるわ。勝手に持って行っていいわ。ただし,持っていったという書類を残してください」

 夏江「わかりました」


 夏江は,祭壇に近づいた。祭壇から得体のしれない不思議なパワーみたいなものを感じた。祭壇の上には,各種各様の呪符と思われる紙が置かれていて,その他にも,いろいろな木材,貴金属などが置かれていた。


 指輪もたくさん置かれていて,どれがモモカが持っていた指輪なのか,まったく分からなかった。


 夏江「あの,どれがモモカの持っていた指輪なのですか?」

 

 その質問を受けて,特弟子は侮蔑するかのように答えた。


 特弟子「そんなの,わたしがいちいち管理するわけないでしょう。適当に一個もっていけばいいわ」


 特弟子にとって指輪など,ただの指輪でしかなかった。


 そう言われては,どうしようもない。オーラを見ることができる夏江でも,どの指輪からもなんら異常を感じることはできなかった。そこで,性欲の感情を夏江の代わりに引き受けてくれた霊体の美澪にお願いすることにした。


 夏江は念話で美澪に言った。


 夏江『美澪,どう,もう性欲から開放された?』

 美澪『幸い肉体がないから,性欲の影響は少なかったわ。もし肉体を持っていたらヤバかったわね。もしかしたら腹上死になっていたかもしれないわ』

 夏江『ふふふ。でも,今回はほんとうに助かったわ。ありがとう。ところで,霊体を人形から放出することはもうできそう?』

 美澪『まだまだ性欲の嵐の中にいるみたいだけど,少しの間なら大丈夫よ。かえって,霊体を放出するほうが早く性欲の支配から抜け出ることができるかもね。ふふふ。あっ,また感じてきた!!あぁーーー!』

 夏江『わかったわ。じゃあ,人形から出てきて,モモカの持っていた『メリルの指輪』を探してちょうだい。『メリルの指輪』は特異なパワーを持っているはずよ。十分に気をつけてちょうだい』

 美澪『メリルの指輪って,なんだかわからないけど,肉体のない私には効果はないはずよ。心配することもないでしょう。ちょっとそれぞれの指輪の中に潜ってみることにするわ。人形を指輪の近くに置いてちょうだい』

 夏江『オッケー!』


 夏江は,『メリルの指輪』が霊体には何の影響も与えないという美澪の言葉を信じて,Eカップの谷間から人形を取り出して,指輪が並んでいる傍に置いた。


 強烈な性欲の嵐の中で,霊体の美澪は人形から抜け出して,左端から順番に指輪の中に潜っていった。


 最初に潜った指輪には何の変化も感じれなかった。そこで,次々に指輪の中に潜っていった。


 3個目の指輪の時だった。


 霊体の美澪がその指輪の中に潜った時,何か別の空間に閉じ込められるかのような感覚を得た。


 美澪『あーーーーあ!!!』


 美澪は慌てて,大声で叫んだ。叫んだと言っても,念話でしか叫ぶことができなかった。美澪は,その指輪の中に閉じ込められてしまった。


 焦ったのは夏江だった。思わず,念話で話すことを忘れて,口を出して叫んだ。


 夏江「え?えーー? どうしたの? 返事してー!!」


 この異様な行動に特弟子はあっけに取られた。彼女は,夏江が第1師範の催淫術の後遺症だと思って,少し夏江から遠ざかった。 もしかしたら,夏江が特弟子を性的対象として襲ってくるかもしれないと思ったからだ。


 美澪からまったく返事がないので,夏江は『メリルの指輪』に捕まってしまったと思った。


 夏江は,厚手の手袋をしてから,背負っている小型リックサックから,2本の三鈷杵を取り出した。ひとつを自分胸ポケットの中に差し込み,もう一本を右手に持って,心の中でつぶやいた。


 夏江『大丈夫,大丈夫よ。上級の魂力を持つ霊体でさえも抑え込めるはずの三鈷杵よ!それも,2本も持っているわ。うん。大丈夫!『メリルの指輪』を抑え込めるはずよ!!』


 夏江は,そうつぶやきながら,祭壇に近づいた。夏江は,三鈷杵を指輪にあてながら,その指輪を注意深く観察した。


 夏江『この指輪には何も感じないわ。次にいきましょう』

 

 夏江は,三鈷杵を次の指輪にあてて,同様に注意深く観察した。この作業を根気よく行った。そして,とうとう,かすかに美澪の残渣オーラが残っている指輪を発見した。


 夏江『どうやら,この指輪が,『メリルの指輪』なのね?』


 夏江は,ハンカチを取り出して,祭壇の上に広げ,胸ポケットに入れた三鈷杵と右手に持っている2本の三鈷杵で,器用にその指輪を挟んで,ハンカチの上に移動させた。そして,指輪と一緒に2本の三鈷杵を置いて,それらをハンカチで厳重に巻いた。


 この作業をして,やっと,夏江は一息ついた。どうやら,『メリルの指輪』を無事に回収できたようだ。でも,美澪が捉えられたままだ。その解決方法がわからないまま,そのハンカチで包んだ物をリュックサックの中にしまい込んだ。

 

 夏江は,特弟子に作業が済んだことを伝えた。特弟子は,手帳を取り出して,指輪を受けった旨の文を書くように依頼した。夏江は,簡単に『指輪を受け取りました。夏江』と書いて,その手帳を彼女に返した。


 その時,モモカの裸体の遺体が職員らよって,この場所に運ばれて,祭壇の上に置かれた。


 祭壇は,3メートル四方もあるので,モモカの遺体を置くスペースが十分にあった。


 その作業を見ていた夏江は,何か違和感を感じた。死体のオーラを見る機会はほとんどなかったので,どのようなものか比較しようもなかったが,何か違和感を強烈に感じた。殺された機動隊員の遺体もチラッと見たが,その時にはオーラを観察する余裕はなかった。


 夏江は独り言を言った。


 夏江『モモカの死亡を確認したときには,別に違和感は感じなかったけど,今,こうして祭壇の上に安置された遺体をみると,なんか生きているようなオーラを感じるわ。でも,きっと,気のせいね。死体が生き返るわけないもの』


 夏江は気を取り直して,この場から去ることにした。管理棟から出て中央広場に戻ると,すでに10名の遺体はなかった。すでにこの第1区画から外に運ばれたようだ。また,気絶していた機動隊員たちは,すでに意識を取り戻していた。


 夏江を見た機動隊隊長は,彼女に声をかけた。


 機動隊隊長「夏江さん?あなたは気絶しなかったのか?」

 夏江「ええ,抵抗力が強かったのが幸いしました」

 機動隊隊長「それで?モモカの遺体はないようだが?」


 夏江は,検死の際に撮影した携帯写真を示して説明した。


 夏江「モモカの検死はわたしが代理で行いました。ですが,第1師範はモモカの遺体の提供には同意してくれませんでした。もし,どうしてもというなら,強行手段に出るそうです。また,強制的に気絶させられてしまうかもしれません」

 機動隊隊長「・・・」


 機動隊隊長が判断に迷っている時,この場の最高責任者である小百合部長刑事は,苦虫を潰した顔をしながら言った。


 小百合「この場は引き下がりましょう。後日,改めて交渉してもいいですし。それよりも,10名もの隊員を出してしまったことに対しての後処理が大変です。一旦,道警に戻りましょう」


 この言葉に,誰も文句はなかった。なんせ,第1師範は,得体のしれない強者だ。一瞬で不特定多数の相手に対して,性的に絶頂に導き,そのまま気絶させてしまうという特殊能力者だ。それに,彼女に対して罪らしい罪はないので,いますぐどうすることもできない。操作妨害で逮捕可能かもしれないが,操作妨害の証拠を明示することもできない。そんなことを一瞬に考えての判断だった。


 今の小百合部長刑事にとって,『メリルの指輪』が捕獲されたかどうかなど,すでに頭の中から消えていた。 そのことについて,誰も夏江に質問しないので,彼女も黙っていた。というのも,夏江が確保した指輪がほんとうにメリルの指輪なのか一抹の不安があったし,それよりもなによりも,霊体である美澪を指輪から救い出したかった。


 機動隊員らと本庁からの応援部隊は,モモカの射殺成功というプラスの成果と,10名の殉職者とモモカの遺体回収失敗というマイナスの成果を持って,道警本部へと戻っていった。



 ーーー

 一方,中央広場で機動隊に拘束されていたオミレは,いち早く,特弟子の指示で機動隊員たちが意識を取り戻す前に管理棟に連れて来られた。そこで,手足を拘束していた手錠を強制的に切断された。


 意識を取り戻したオミレは,自分が手足が自由の身になっているのに気がついた。そして,周囲を見渡した。その部屋には,監視カメラのモニターが10台以上も並んでいた。でも,節電のためか,4台のモニターのみが映像を写してした。この施設の出入り口,中央広場,少養棟と動物飼育棟の屋上だ。


 その部屋には,オミレに対して背をむけて座っている一人の女性がいた。


 オミレは,その女性に向かって言葉をかけた。


 オミレ「わたし,どうしてここに? ここはどこですか?」

 

 その女性は,ゆっくりと立ち上がって振り向いた。その顔に,オミレはびっくりして,思わず叫んだ!


 「お姉さん!!」


 お姉さんと呼ばれたのは,特弟子だった。


 お姉さんと叫んだオミレは,頭をフル回転させて状況を理解しようとした。そして,得られた結論は,,,


 オミレ「お姉さん,もしかして,お姉さんが特弟子だったのですか?」

 

 その推測に,特弟子は微笑んだ。


 特弟子「そうよ。ちょっと音信不通だったかもしれないけどね。だって,特弟子になったんだもの。その行動は隠密にしないといけないのよ」


 そう言って特弟子は,仮面をつけて素顔を隠した。


 特弟子「今後は,わたしのことを特弟子と言いなさい。それで?オミレと死んだモモカとはどんな関係なの?」

 オミレ「え?モモカが死んだ?」

 特弟子「そうよ。機関銃の一斉射撃と手榴弾で殺されたわ。遺体は第1師範の計らいで,警察の手に渡せずに,今,奥の祭壇に安置したわ。基呪符を創る祭壇の上にね」


 その説明を聞いて,オミレはモモカの遺体から骨でも取って,基呪符の代わりにでもするのかと思った。そんなことよりも,あのモモカが死んだんとはオミレはどうしても理解できなかった。その点を特弟子に聞いた。


 オミレ「あのモモカが死んだなんて,どうしても信じられないわ。彼女に会わせてください。この眼で直に確認させてください」


 オミレの依頼に断る理由もないので,特弟子はモモカを祭壇にまで運んだ2人の職員をこの部屋に呼んで依頼いた。


 特弟子「あなたたちがモモカの遺体を運んだのでしょう?オミレをその遺体の安置場所に連れて行ってちょうだい」


 その依頼を聞いて,2人の職員,職員Aと職員Bはお互いの顔を見合ってイヤな顔をしてしてから特弟子に言った。


 職員A「あの,,,イヤです。あのモモカの遺体のところには行きたくありません」

 職員B「わたしもです。行けば,絶対殺されます!!」


 その言葉を聞いて,今度は特弟子とオミレが顔を見合わせた。特弟子は,オミレの顔を見ても解決しないと思って,職員にその理由を聞いた。


 特弟子「なんで?理由をいいなさい」

 職員A「遺体を運んでいる時,なんか,脈が動いた感じがしたんです。それに,体も生暖かったし。あれは,絶対に生きています!!死んだふりをしただけです!!でも,言えませんでした。恐怖が走りました」

 職員B「わたしもそう思います。心臓は1分間に5,6回は動いているような感じでした。そんなことありますか?それに,遺体を運んでいる最中,『モモカが生きている!!』って叫んだら,絶対にその場で殺されると思ったんです。だから,何も言えませんでした」


 その話を聞いて,特弟子はびっくりした。もし,その話が本当なら大変なことになってしまう。


 特弟子「その話はほんとうなの?モモカは生きているの?」

 職員A「絶対ではないですが,生きていると思います。彼も言ったように,いつ殺されるかヒヤヒヤもんでした」


 特弟子はことの重大性を考えて,第1師範にこのことを電話で連絡した。第1師範は,特弟子に剣客のハマルも連れて,モモカの遺体のある場所に30分後に集合するように命じた。


 特弟子は,ハマルを呼びつけて命じた。


 特弟子「ハマル,今から祭壇のところまで護衛しなさい。第1師範も同行します。お前が最前列です。真剣を使ってかまいません」


 この言葉を聞いて,ハマルはいやな感じがした。


 ハマル「祭壇って,モモカの遺体のあるところか?」


 ハマルはそう言って,特弟子やオミレ,さらにモモカを運んだ職員らを見た。皆,恐怖に満ちた顔をしていた。それが意味することは,,,


 ハマルにもだいだいの状況が飲み込めた。


 ハマル「もしかして,モモカが蘇生した?」


 その言葉に特弟子が答えた。


 特弟子「まだはっきりしていないわ。職員たちがモモカを運んだとき,心臓が動いていたって,言っていたわ。もしほんとうに生きていたら,モモカがどんな行動に出るかわかったもんではないわ。なんせあの火力攻撃でさえ殺せない相手よ。われわれが束になってかかったって勝てるわけないわ」

 ハマル「なるほど,,,俺は弾よけってわけか?」

 特弟子「フフフ,まあ,そうなるわね」


 ハマルは溜息をついて言った。


 ハマル「残念だけど,もうこの仕事は降りる。まだ死にたくない。それに,あのモモカ,俺も生きていると思う。偽装死体になって,警察の目を避けたんだろうな。まあ,いい作戦だ。あんな化け物がいる以上,俺はもうここを去る」


 そう言った矢先,背後からなまめかしい女性の声が聞こえた。


 「残念ね。今,ここを去るなら,それでいいわよ。でも,フフフ。生きてここを去れるかしら?」


 その言葉を聞いて,ハマルは後ろを振り向いた。そこには,超なまめかしい第1師範がいた。Dカップをした超セクシーなビキニ姿だ。


 第1師範の体から出される強烈な女性ホルモンに,ハマルは,すぐにあの部分が勃起状態となり,体中の血液が股間に集中した。その数秒後には,めまいがして今にも倒れそうになった。ハマルは,このままでは確実に殺されると思った。


 ハマルに他の選択肢はなかった。彼はは第1師範の言う通りにすることにした。

 

 ハマル「わかった。もう催淫術を止めてくれ!意識がなくなりそうだ!!」

 

 第1師範は,手持ちのマントを羽織って,体中から出る女性ホルモンを抑制した。


 2人の職員はすでに気絶していた。特弟子とオミレも,もう少しで気絶しそうだったが,威圧呪符を自分に施して,なんとか意識を保つことができた。


 第1師範「では,さっさと祭壇まで先導しなさい。それがお前の仕事でしょう?危険になったら逃げるって,それは護衛ではないのよ」

  

 そんなことはハマルにとって言われなくてもわかっている。ハマルは,『自分の命もここまでか』と諦め掛けたとき,ふといいことを思い出した。まだ勝機があると思い返した。


 その後,ハマルが先頭で,少し離れて第1師範,特弟子,オミレという順番で,洞窟の奥の祭壇場までゆっくりと辺りを警戒しなながら移動した。


 第1師範は,職員の言葉からモモカが間違いなく生きていると思った。その場合,どうすればいいのかを考えていた。今は,モモカとは敵対関係ではなく,返ってモモカを救ってやったと言っても過言ではない。そこを強調して,モモカに取り入ればいいと考えた。


 祭壇の傍に来た。


 すると,奇異な'現象が生じていた。モモカの左の手の平に魔法陣が輝いてた。そこから放出される淡い光は,モモカの体全体を覆っていた。


 それは,回復魔法陣だった。その祭壇は魔鉱石からできていた。モモカの手の平の魔法陣は,膨大な祭壇からの魔力を頼りに,惜しみなくモモカの体を修復していった。


 モモカのおっぱいは,機関銃の銃弾によって,ほぼ半壊していた。その半壊したおっぱいも,すでに修復されていて,片方で4kg,両方で8kgにもなる巨大なMカップのおっぱいにまで巨大化した。両腕,両足,お尻,腹部など,銃弾で穴が開いた部分も,ことごとく修復された。


 特にお尻部分も銃弾で半壊状態だったが,そこも綺麗に修復された。お尻廻りも大きくなり,ヒップ回りで100cmにもなってしまった。


 その魔法陣を見て,ハマルはモモカが生きていいると悟った。


 ハマルはモモカとは敵対関係ではない。しかし,これまでのモモカの行動から,ハマルが『男』であり,モモカにとって容易に殺される存在であることを知っている。


 ハマルが生き残るためにすること,それは,モモカに絶対なる忠誠心を訴えることだ。それが,強いては第1師範からも逃れる手立てになるはずだと確信した。


 ハマルは,その場で跪いて,かつ,頭を地に着けて叫んだ!


 ハマル「モモカ様!わたしは,ハマルといいます。これでも剣士です。剣の腕前は一流だと自負しています。今から,わたしは,モモカ様の忠実なるシモベです。なんでも言うことを聞きます。どうか,わたしに何でも命じてください!」


 この言葉に,第1師範がすぐに反応した。


 第1師範「ハマル!!裏切るの?!!お前,私刑よ!!」


 第1師範は,羽織っているマントを外した。第1師範の最大奥義,それは自分の体自体を『基呪符』にした強力な催淫術だ。自分の体から発散させる超強力な女性ホルモンは相手をすぐに性的に昇天させて気絶に追い込むことができる。


 パチーンーー!


 マントを外したと思った第1師範は,眼に見えない手の平によって,ホッペを強烈に打たれて,数メートルほど飛ばされた。


 それを見たオミレは,モモカが第1師範を殴り飛ばしたと悟った。オミレもすぐに反応した。


 オミレは,数歩ほど前に駆け寄って,土下座して,かつ頭を地に着けて言った。


 オミレ「モモカ様!わたし,オミレです。すでにモモカ様のシモベでしたが,改めて,ここで誓います!わたしは,一生,モモカ様のシモベです。なんでも命じてください!!お願いします!!」


 祭壇の上では,徐々に魔法陣の光が消えつつあった。モモカの治療が終わことを意味するのだが,それを理解するものはこの場にはいなかった。


 おっぱいがMカップにもなり,ヒップも100cmにもなったモモカは,ゆっくりと起き上がった。全裸のままだった。まだ,全体に血のりが残っていて,その豊満な肉体を美しい肌色で見ることはできないが,でも,その肉々しい裸体は,第1師範とはまた別の情欲をそそる体だった。


 モモカの心臓の鼓動はすでに正常に動作していた。もう偽装して死んだふりなど必要はない。それに偽装できたのも,メリルの指輪から肉体改造をしてもらったおかけだ。


 その強靱な筋肉は,機関銃の鋭い弾丸でも突き破ることができなかった。もっともそれらは体の表面に展開した霊力の層によって大幅に威力が削減したことも関係している。


 銃弾によって受けた傷口からの出血は,霊力操作によってほとんど抑えることができた。


 さらに,祭壇に運ばれたことで,モモカは豊富な魔力を体から吸収することができたことも大きな要因だ。このことによって,回復魔法をいくらでも展開できることができた。


 モモカ「わたしをこの祭壇に運ぶように命じたのは誰ですか?」

 

 その問いに,第1師範は答えなかった。それはいい意味で聞いているのか,悪い意味で聞いているのか不明だからだ。


 でも,ハマルがすぐに返答した。 


 ハマル「モモカ様,それは,さきほど吹き飛ばされた第1師範が命じた者です。それに,あなた様の体が警察に引き渡されなかったのも,第1師範の功績だと聞いております」


 ハマルは,第1師範にヨイショすることで,摩擦なくこの組織から去ることを期待した。


 モモカ「そうでしたか。では,彼女をわたしの前に連れてきんさい」

 ハマル「ははーー!すぐに!」


 ハマルは,すぐに地に倒れて,頬を抑えている第1師範に命じた。


 ハマル「第1師範,モモカ様がお呼びだ。粗相のないようにすぐに行きたまえ。それと,マントをしなさい。意識が飛びそうだ」

 

 ハマルは,強烈な性欲を抑えつつ,なんとかそこまで言うことができた。


 第1師範は,マントを再度羽織って,女性ホルモンが出ないようにして,モモカのいる祭壇の場所に移動した。


 第1師範「わたし,第1師範のナビレです。何か用事ですか?」


 モモカはナビレをマジマジと見た。


 モモカ「美しい均整のとれた体をしていますね。うらやましいです。わたしもそんな体になりたかった」

 

 ナビレはモモカのMカップで肉感のあるヒップを見ながら言った。

 

 ナビレ「モモカさんも肉感のある男好きのする体つきをしていますよ」

 モモカ「フフフ,ありがとう。さきほどは殴って悪かったわね。それと,あなたには感謝しないといけないわ。わたしをこの魔力の豊富な祭壇の所に置いてくれて」


 このモモカの言葉に,第1師範だけでなく,オミレも違和感を感じた。『魔力』という意味不明な言葉だ。


 ナビレ「魔力って何ですか?」

 モモカ「え?魔力を知らない?じゃあ,この祭壇はいったい何ですか?」

 ナビレ「ここは強力な霊的スポットの宿す場所だと昔から言われています」

 モモカ「あなたがたはそう理解しているのですね?では,その理解でいいでしょう」

 ナビレ「モモカさん,ひとつ,教えてくれる? あなたの体が完全に治癒されているのって,奇跡のパワーなの??」


 ナビレの言葉に,モモカはちょっと微笑んでから言った。


 モモカ「指輪から与えられた治癒能力よ。この肉体,自然治癒能力がすごいみたい。あっ,そうそう,その指輪はどこにあるの?」

 ナビレ「指輪からの治癒能力?」


 ナビレはまったく理解不能だったが,これ以上質問しても意味ないと思って止めて,モモカの質問に答えた。

 

 ナビレ「夏江っていう警察の人が持って行ったと思うわ」

 モモカ「夏江?」


 モモカは,夏江という名前をしっかりと刻み込んだ。


 モモカ「そうなの?あの指輪はもう死んだ状態になっているから,どうでもいいかな?」


 モモカは指輪のことは諦めた。


 モモカ「ナビレさん,あなたはわたしの恩人です。このまま借りをつくってしまっては申し訳ないです。何かわたしに出来ることはありませんか?」

 ナビレ「それは嬉しい申し出ですけど,あなたは大量殺人犯ですよ。もし,生き返ったってバレたら,それこそ今度はミサイルで攻撃されるかもしれないわよ。私へのお礼なんかどうでもいいわ。それより,今後の自分のことを考えたほうがいいわよ」


 モモカ「そうですね,,,では,わたし,モモカは射殺されたことにしてください。わたしは,今から別人になります。だれかいい身代わりになる人物はいませんか?」


 この提案に,確かに別人になりすますのがいい案だと思った。


 ナビレ「そうね,,,ここには,誘拐してきた,,,いえ,誘拐ではなく,本人の了解を得てここに来た少女たちがいるわ。もっとも,彼女からの家族には内緒でね。その1人になりすませばいいでしょう。ちょっと,名簿を見てくるわ」

 モモカ「くれぐれも警察には言わないでくださいね?」

 ナビレ「ふふふ。大丈夫よ。モモカを警察に売ったって,なんの特にもならないわ。あっ,そうそう,あなたにしてもらいたいことがあったわ。あなたが自分の体を治癒した能力,それを呪符の中に閉じこめることはできるそう?」

 

 モモカはちょっと考えてから言った。


 モモカ「オミレの協力があればできるかもしれないわ」

 ナビレ「よかったわ。じゃあ,10枚ほど創ってくれる?1枚数百万円でも売れそうだからね。フフフ」


 かくして,モモカは,この祭壇の場所で数日ほど過ごすことにした。祭壇からの魔力をもっと吸収したいこともあるが,治癒能力を基呪符に閉じこめる方法を検討するのに時間が必要だからだ。


 しばらくして,第1師範からモモカに新しい身分と名前が与えられた。身分は,少養棟で監禁されている家出少女で,名をボタン,14歳だ。今のモモカ15歳よりも1歳ほど年下だ。


 ボタンは,誘拐ではなく食事が与えられるからと,自分の意思でこの施設に来た。彼女は処女ではなかったが,連日男どもに犯されつづけて,淫乱呪符の作製に利用された。さすがにそれが辛くなったのか,彼女の精神が常に快楽をを求めるようになってしまった。食事を取ることよりも性の快楽を優先してしまい,常に淫乱状態となり,食事を完全に受け付けなくなり,栄養失調で命を落としてしまった。1週間ほど前の出来事だ。遺体は隠密里に火葬された。


 モモカは,ボタンのマイマンバーカードを手に入れ,かつ,ボタンの家族情報などを覚えた。


 そして,この日からモモカは『ボタン』として生きていくことにした。


 ーーー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る