35 最強の女性戦士
オミレはモモカから特別な任務を与えられた。この場でのオミレがすべきことは,機動隊と交渉してモモカをこの施設から逮捕されることなく連れ出すことだ。その後のことはオミレは関知しなくていい。オミレが受けた任務はその点のみだ。
オミレは機動隊の皆に向かって声を張り上げた。
オミレ「わたしはオミレといいます。モモカとの交渉役を引き受けました。どうか,武器をわたしに向けないでください」
この叫び声に,機動隊隊長が答えた。
機動隊隊長「その場で止まれ。動くな」
彼はそう言って,α隊隊長に彼女から霊力が放出されているかを確認した。
α隊隊長「彼女から霊力は放出されていません。それに彼女の胸の大きさからみて,彼女はモモカでないと思われます」
この会話のやりとりに夏江が割り入った。
夏江「わたしもα隊隊長の判断に同意します。彼女の顔から,人殺しをしてきたような顔はしていないようです。オミレとみて間違いないと思います」
夏江は,オーラが見えるようになってから,人物の鑑定能力がピカイチになった。もっともオーラが見えることは当面内緒にしている。
機動隊隊長は,α隊隊長と夏江からのアドバイスを受けて,彼女がモモカではなく,モモカとの交渉人として対応することにした。
機動隊隊長「では,オミレ。お前がモモカである可能性が否定出来ない上,お前を拘束させてもらう。少しでもおかしな行動にでたら遠慮なく射殺する」
機動隊隊長は,第4機動隊の分隊長に彼女を拘束するように指示した。
オミレは,まったく無抵抗のまま両手を背中に回されて,そこで手錠をかけられ,両足も手錠で拘束されて,地面に座らされた。
オミレは,機動隊隊長に声をかけた。
オミレ「わたしは,モモカに脅迫されて,ここにやってきました。わたしにはなんの罪のありません。わたしのポケットに携帯があります。それで,オミレと電話ができます。彼女は,呪符制作棟の1階の部屋で,人質3名をとって立てこもっています。もし,彼らを助けたいのなら,モモカをこの洞窟から無事に抜け出してほしいとのことです。いやなら,3名を殺して,順次,この中央広場にいる連中を殺していくそうです」
この台詞を吐くことで,オミレのモモカから与えられた使命が終了したも同然だ。後のことは野となれ山となれだ。
機動隊隊長はオミレのポケットから携帯を取りだして,モモカと思われる人物に電話をかけた。すると,すぐにモモカと思われる女性が電話に出た。
機動隊隊長「お前は連続殺人犯のモモカか?」
モモカ「・・・」
いきなり連続殺人犯と言われて,モモカは改めて,自分が多くの人を殺してきたことを自覚した。
モモカは心の中でつぶやいた。
モモカ『どうして,こんなことになってしまったのかなぁ? そうそう,霊力や魔力が手に入いると指輪’にそそのかされて,,,しかも,肉体改造までさせられて,,,』
ここまで思ってから,モモカはニヤニヤとした。
モモカ『でも,圧倒的な力が手に入ったわ。このピンチな状況でも切り抜けれるはずよ。うん。今さら後悔なんてしないわ。それに,セイジお兄様に会うまでは,こんなところで捕まるわけには絶対にいかないわ!!』
モモカは,改めて自分の気持ちを整理してから,電話の声に応答した。
モモカ「わたしはモモカです。あなたは誰ですか?」
機動隊隊長「俺は機動隊隊長だ。中央広場で待機している機動隊のリーダーだ。今から5分あげよう。それまでに投降しないなら,強行突破を行う」
モモカ「こっちには人質がいるのよ。そんなことしたら,全員殺してあげるわ」
機動隊隊長「ふふふ。そんなことしたら,われわれは遠慮なくお前を射殺することができる。5分以内に投降すれば,命だけは助けてあげよう。ただし,投降しなければ,人質がいようといまいと,お前は射殺される運命だ」
モモカ「・・・」
モモカは少し考えてから返事した。
モモカ「気持ちの整理に5分では足りないわ。30分ちょうだい」
この言葉を聞いて機動隊隊長は同意することにした。今更,5分だろうが30分だろうが大差ないと思った。
機動隊隊長「いいだろう。30分だけ待つ。もし,投降しなければ,即,突入行動に出る」
モモカ「わかりました。時間をくれてありがとう」
モモカはニヤッと含み笑いをしながらお礼を言った。彼女の手にはオミレから譲り受けた『自爆呪符』を持っていた。
この呪符は,強化呪符の一種で,呪符が裂かれるなどで壊されると,その加えられたパワーを何倍にも増強させてしまうものだ。手でやさしく破ったくらいではほとんどわからないが,銃弾など強力なパワーで破壊されると,その破壊パワーが何倍になって増強されて,あたかも呪符が自爆したかのように破裂してしまう。
この機動隊隊長の安易な判断に,多留真やα隊隊長らは違和感を覚えた。なんでこの後に及んで相手に時間を与えてしまうのか?だが,機動隊隊長の決定に文句を言える立場ではなかった。
この30分を利用して,機動隊隊長は突入する準備を部下に命じた。人質がいる以上,できれば機関銃の使用は避けたい。そこで,催涙ガス弾,睡眠ガス弾,さらに閃光弾などをすぐにでも投入できる準備をさせた。
また,SART隊には,遠距離からの狙撃ができるように依頼した。彼らは適当な場所を陣取って,遠距離ライフル銃の改良型CheyTac M200(シャイタックM200)のセッティングを行った。この狭い敷地ではここまでの高精細なスナイパーライフルは必要ないのだが,モモカが100m以内の霊力攻撃を可能という前提で,300メートルほど離れた少養棟と動物飼育棟の屋上でセッティングを行った。
モモカに与えた30分も待たずに,呪符制作棟から人質の3名が,両手をあげて出てきた。彼らは,ゆっくりとした足取りで,中央広場に向かっていった。正確には,機関銃を持った機動隊の方向だ。
彼らを見て,機動隊隊長は叫んだ。
機動隊隊長「お前たち!!その場で止まって,床にうずくまれ!」
だが,彼らは立ち止まらなかった。その命令を無視して,そのままの速度で機動隊の方向に向かった。それをみて機動隊隊長は慌てて再度叫んだ。
機動隊隊長「止まれ!!それ以上近づくと,ほんとうに発砲するぞ!!これは脅しではない!! 止まれ! 止まれ!」
だが,その叫びにも,人質の3名は止まらなかった。いや,それよりも,急に速度をあげて,機動隊の隊員たちに飛びかかるように駆け出した。
それを見て,機動隊隊長は,已む無しと判断した。いくら人質で普通の人間とはいえ,命令に無視した行動を取った以上,人質は,すでに連続殺人犯であり,かつ,化け物的強者であるモモカの手下になったものと判断せざるをえない。
この状況では,安易に麻酔弾などという状況ではなく,化け物退治と同じ行動を取るべきだと機動隊隊長は即座に判断した。
機動隊隊長「やむを得ん!! 最大火力をもって,彼らを射殺しろ!!」
隊長の命令に,第3機動隊員10名の持つ機関銃が一斉に火を噴いた。
ドドドドドーーーー!
その直後だった。
ドドーーーーン!ドドーーーン!ドドーーーン!
全身蜂の巣になった人質は,体をバラバラにしながら,あたかも小型爆弾を抱えていたかのように,その場で自爆してしまった。
彼らの血まみれになった小さな肉塊が,鋭い勢いで四方八方に飛び散ってしまった。
その爆破の勢いに押されて,その場にいた機動隊員らだけでなく,その近くに待機していたこの施設の職員も,その場でうずくまってしまった。
その一瞬の隙をついて,モモカが呪符制作棟から出てきて,一目散に出口の方向に向かって駆けた。
ーーー
モモカは,自分の体の表面に霊力の防御層を構築していた。まだその技量は未熟なのだが,それでも手足の関節部以外は,3層もの分厚い防御層を構築した。
モモカのこの行動を完全に把握している連中がいた。SART隊員の2名だ。この状況下では,誤って無実の人を殺したとしても不可抗力であり,それよりも凶悪大量殺人犯を見逃すほうが問題だと彼らは判断した。彼らは300メートルほど離れて駆けているモモカをほぼ同じタイミングで引き金を引いた。
パッシューーーン!パッシューーーン!
1発の弾丸は,モモカの左太ももにヒットし,もう一発の弾丸は,左上腕部にヒットした。
そのヒットした衝撃で,右側の方向に数メートルも飛ばされてしまった。
その飛ばされた動きをみて,狙撃者は奇異に感じた。なんで人が飛ばされてしまうのか?? 普通なら,弾丸が体内に入り込んで,血が吹き出てるという現象を引き起こすはずだ。多少体が後方にのけぞり返ることはあっても,体が吹き飛ばされることは決してない。
狙撃者は,吹き飛ばされた方向に照準を合わせて,再度,射殺することを試みた。
一方,吹き飛ばされたモモカは3重の防御層で弾丸をギリギリ防いだことを知った。3重の防御層は弾丸の衝撃によって破壊されたものの,その弾丸はヒットした部位の肉体の中にまで食い込むまでには至らなかった。
モモカは狙撃されたことで,警察は完全に自分を殺すつもりだと知った。ならば,もう何の遠慮もする必要はない。モモカは全力をもって敵を倒すことにした。
モモカは,その倒れ込んだ場所で動くことを止めた。そして,幅5cmほどの帯を地表に150メートル以上も伸ばして高速に回転させることで,自分の周囲の状況を把握した。
その結果,130メートル先に銃器を持っている連中が50名ほどいることを知った。今なら彼らに体制を整える暇を与えずに攻撃できると判断した。
モモカ『やるしかない!!』 彼女は心の中で何度もつぶやいた。
モモカは,意を決して警察に手を出すことにした。警察に手を出すことで,どのような悪影響があるのかなど考える時間はなかった。
最初のターゲットを,130メートルほども離れている機動隊だ。その中でも,最前列にいる第3機動隊の10名にした。彼らは機関銃を持ってまだ地面に伏せていた。
機動隊の後方で,同じく地面に伏せていながら,周囲の監視を怠っていない連中がいた。『霊力ミエール』を掛けているα隊の5号と6号だ。彼らは,霊力の刃が勢いよく機動隊に迫ってくるのを見た。
5号「あっ!!霊力の攻撃だ!!全員,後方に撤退!!」
6号「撤退!!高速で機動隊に向かって来ます!!撤退ーー!!」
この5号と6号の叫びで,我を顧みずに機動隊の全員が一目散に後方に退避し始めた。だが,最前線にいた10名の機動隊たちは,後方にいた機動隊員たちに妨げられて,すぐに退避行動に移せれなかった。
その一瞬の動きの遅延が生死を分けた。
シュパー! シュパー! シュパー!シュパー!ーーー
霊力の刃は,確実に最前列の機動隊員たちの首を正確に刈り落としていった。
ちょうど10名の機動隊の首が飛んだその時,屋上のSART隊員らの遠距離ライフルが2度目に火を噴いた。
シュパーー! シュパーーー!
今回は,モモカはその場で動いていない。そのため,SART隊員は遠慮なく,連続で引き金を打った。
その弾道は,地面に横になっているモモカのいる場所から5メートルほど手前で,揺るかなカーブを描いてモモカを避けた。
それは,モモカが霊力を三角錐にして,鋭利な先頭部分が弾丸の飛んで来る方向に向けて構築した防御シールドだ。今回は,弾丸が飛んでくる方向が分かっているので,自分の体表面に構築した防御層以外に,弾丸が飛んでくる方向に霊力の防御シールドを構築した。
まだ,十分に強固な壁を構築できないので,弾丸を直接受けることはせず,弾筋をずらす発想だ。それくらいなら,今のモモカの霊力操作でも十分に可能だ。
でも,このままでは防戦一方だ。モモカは,なんとか別の手立てを立てる必要があった。
すると,モモカの方向に向かって,何か物体が飛んできた。それは,モモカの5メートルほど手前に落ちた。その瞬間,,,
ドーーーン!!
それは手榴弾だった。さらに,モモカの2メートル手前,3メートル手間と,手榴弾は,モモカに直接命中しないまでも,彼女の間近で爆発した。
さらに,今度は,第3機動隊が全滅したものの,彼らが持っていた機関銃を第4機動隊が引き継いで,機関銃によるモモカへの一斉射撃が始まった。
ババババババーーーー!!
10台の機関銃が一斉に火を噴いた。
この状況では,モモカは防戦に集中しなければならなかった。とても攻撃する余裕などない。
今のモモカの霊力操作では,三角錐の防御シールドで機関銃の弾を避けることはできても,手榴弾による攻撃を完全に避けることはできなかった。
バリバリバリーーー!!(三角錐の防御シールドが破壊される音)
手榴弾によって三角錐の防御シールドが破壊されてしまった。それに引き続いて,機関銃の連続攻撃によって,モモカの自分の体表に構築した防御層までも破壊された。
ドバッー!ドバッー!ーーー (モモカの体から出血する音)
とうとう機関銃の連続射撃に耐えきれなくなった。Kカップものおっぱいが銃弾で吹き飛ばされ,お尻の肉づいた部分も吹き飛ばされた。さらに手足や腹部などにも被弾してしまい,腹部にも何箇所か穴が開くほどだった。それは端から見ても致死的なダメージだと思われた。
モモカは死を覚悟した。覚悟せざるをえなかった。まさか,警察がここまでの強力な火力を用意してモモカを殺そうとするとは思ってもみなかった。
モモカは,その場で意識を失い,そして,心臓の鼓動と呼吸を止めた。モモカはここで死亡した。いや,モモカがそう思っただけだった。モモカの体は,『メリルの指輪』によって改造された肉体だ。この肉体は,このような致命的な状況にもかかわらず,銃弾で破損した部位の止血行動を無意識に行った。また,心臓の鼓動を止めて,代わりに血管の収縮により血液をゆっくりと流した。呼吸も同様に端から見れば呼吸していないのだが,実際はわずかながら呼吸していた。
その時だった。中央広場に備え付けの拡声器が唸った。
『皆さん,この施設の最高管理責任者,第1師範が管理棟から姿を表します。どうかこれ以上攻撃しないでください』
そのアナウンスが契機になって,モモカを攻撃していた機動隊員らは,モモカへの攻撃を中止した。
モモカの体から肉片や血しぶきが飛んだので,モモカの射殺に成功したものと彼らは判断した。とっくの前に射撃を止めてもよかったのだが,止めるタイミングを逸していたというのが正直なところだ。それに,機動隊隊長は10人もの部下を失って気が動転してしまい,なんら新しい命令が下らなかった。
彼らは,アナウンスに従って管理棟の方向を見た。すると,管理棟からひとりの女性が中央広間の方向に近づいてきた。
機動隊員たちは思わず目を見張った。その遠目からでも彼女は相当の美人だとすぐにわかった。だが,そう思った時,彼らは意識せずに下半身が熱くなって緊張状態になった。
「え?なんでこんな時に性欲が出てしまうんだ?」
「え?え?え?ーーー」
「勃起が,,,勃起が止まらん!!」
ううううーーー(頭から血の気が引いて,意識が遠のいていく際に発せれたうめき声)
ドン,ドン,ドン,ーーーーー(地に倒れる音)
そのうめき声に続いて,地に倒れる音がした。
彼女を見た待機していた職員,機動隊員,α隊隊長,5号,6号,さらに遠距離ライフルのファイバースコープで凝視したSART隊員,さらに多留真,つまり,この中央広場にいる男性全員が,股間部を両手で抑えながら,その場で地に倒れて意識を失った。
それだけではない。手錠で拘束されたオミレも,全身痙攣するかのようにして気絶した。それは,愛欲によって得られる強烈な絶頂を経験した後の症状に酷似していた。
屋上で遠距離ライフル銃を操作している2名のSART隊員も同様に,股間部を抑えながら悶絶するかのようにして意識を失った。
第1師範はそのまま歩みを止めず,かろうじて地に倒れず,意識を保持している女性2人のもとに近づいた。道警の小百合部長刑事と夏江だ。
小百合は,近づいて来る第1師範を見た。これまで子宮から発生する強烈な絶頂感に耐えに耐えていたが,その彼女のあまりにも性感的な姿に,耐える限界に達していた意識がいっぺんに吹っ飛んでしまった。
第1師範の体は,女性の眼から見ても,愛し合いたいと思わせるほどの肉体美を誇っていた。大きすぎることもなく小さすぎることもないDカップのふくよかな美乳,くっきりと肉感のあるヒップ,そして小悪魔的な超美人顔。
その体全体から呪符で強化された女性フェロモンをふんだんに放出していた。
第1師範は,顔を真っ赤にして倒れた小百合部長刑事を見た。
第1師範「男は当然だけど,この女性もよく今まで耐えてきたわね。優秀だわ」
そう言って,未だに意識を保持している夏江を見た。
第1師範「あなた,まだ意識を保持しているの? いったい,あなた何者?」
夏江は,強烈な性欲を感じたものの,その感情をEカップの谷間に隠した人形に宿す霊体の美玲が代わりに引き受けていた。そのため,夏江は時間を追うごとに意識をクリアにした。
第1師範からの問いを受けた時には,夏江はすでに正常な状況に回復しており,うずくまった体勢から立ち上がった。
夏江「そういうあなたは,第1師範ですか?なんとも,全身から強烈な性フェロモンの臭いがします。それとは別に,催淫性のガスが空中に流れていますね。えげつない演出をしていること!」
この言葉に第1師範はビクッとした。種明かしが見破られた。
第1師範「状況を冷静に判断すれば,そうのように類推できるかもしれないけど,あなた,どうしてそうはっきりと断定的に言えるの?」
この問いに,夏江は正直に話すことにした。相手からさらに有益な情報を得るためだ。それに,モモカを射殺しても,まだ『メリルの指輪』を回収していない。それがある以上,第2,第3のモモカが出現する可能性がある。第1師範と友好関係を保持するのが大事だと思った。それに,今,意識を正常に保っているのは夏江しなかいない。
夏江「わたし,,,『見える子』なんです。オーラを認識できます。あなたが管理棟から出てくる前から,肉眼では見えませんが,ピンク色のオーラのようなものが空気中に流れ出して,この施設全体を覆っていきました。何か微細な催淫粉末を空気中に放出したものだと思いました。それに,あなた体からも,濃厚なピンク色のオーラ,女性フェロモン丸出しのオーラが人の何百倍もの量で放出されています!」
夏江の言葉に,第1師範はさすがにびっくりした。彼女の言った内容は正確だった。まさか,警察にこんな異能者がいるとは思ってもみなかった。そんな能力があれば,警察なんて職業をえらばすに,いくらでも金稼ぎができるだろうに。
第1師範は,夏江に興味を持った。いずれ,夏江を手に入れることをこっそりと思った。そのためにも,彼女に好印象を与えるべきだと考えた。
第1師範「ほぼ正解よ。でもいくら強力な催淫剤でも,すぐに男や女を絶頂においやって,気絶させることまでは無理よ。それにプラスアルファをしてあげないとね。フフフ」
第1師範は,他にも種明かしがあるような素振りで夏江の興味を誘った。
夏江「そのプラスアルファとは何ですか?」
第1師範「それを知りたいなら,この場をうまく収拾させなさい。わたしの大事な施設で,機関銃や手榴弾など,物騒なマネをして,いくら警察だからっていいと思っているの?
わたしもその気になれば,あなたを無理やり気絶させて,ここにいる警察全員を永久に行方不明にさせることだってできるのよ。そうしようかと思ったけど,わたしの最高の催淫術に耐えたあなたに免じて,そこまではしないわ。感謝してよね?大きな貸しよ。近いうちに必ず返してちょうだい?」
夏江は第1師範の言っていることは冗談ではないと思った。やむなく,夏江は最低限の要求だけをすることにした。
夏江「わかりました。貸しについてはあとで考えましょう。それよりも,われわれがここに来た目的は,連続殺人犯で,しかも機動隊員10名までも殺害したモモカの確保と,彼女がしていた指輪の回収です。それさえできれば,ここからすぐにでも撤収します」
その夏江の言葉を聞いて,第1師範はコくっと頷いて言った。
第1師範「では,あそこに転がっているモモカの死体を確認してから,管理棟の奥に保管してある指輪を持って行ってちょうだい。亡くなられた起動隊員たちの遺体は,門弟たちに片付けさせます。もで,モモカの遺体は,ここに置いていってください。モモカはわれわれ門弟を何十人も殺した犯人です。遺体といえど,われわれの裁きを受けてもらいます」
この言葉に,夏江は拒否したかった。でも,今の弱い立場ではそれが言えなかった。
夏江「わかりました。では,写真と動画を撮ることで妥協します」
夏江と第1師範は,死亡したモモカのところに来た。夏江は,モモカの脈と呼吸を調べた。それらは完全に停止していた。
モモカはすでに全裸状態だった。おっぱいは両方とも半壊状態だった。でも,血は流れていない。お尻も同様に半壊状態だ。そのほかに,腕,足,腹部などに被弾していて,被弾部位は,全部で15箇所もあった。
夏江は被弾した部位の写真を撮影していった。でも,夏江が少し奇異に思ったのは,意外にも流血がほとんどないことだった。
一通りの作業を終えてから,モモカの遺体をそのままにして,彼女らは管理棟に移動した。その頃には,周囲の空気が浄化されて,催淫粉は空気清浄装置によって回収された。
その道すがら,第1師範は催淫粉の謎を夏江に明かした。
第1師範「この虚道宗では,呪符による超人的パワーを得ることを目的にするのはしてしますね?」
夏江「はい,宗主様から簡単な説明を受けましたので」
第1師範「簡単にいうと,呪符って,人間の感情や肉体を強化するものなのよ。でも,その応用で,催淫粉を強化することだってできるの。それも,半端な増強ではなく,極限まで性能を引きあげるのよ」
夏江「それって,どうするのですか?」
第1師範「それは企業秘密よ。いくらお金を積まれても言えないわ。でも,ヒントをあげましょう。『類は友を呼ぶ』ってことよ」
夏江「類は友を呼ぶ??」
夏江は,それとなく理解したような気がした。でも,それ以上,質問しなかった。
管理棟に入ってから,第1師範は夏江に別れの挨拶をした。
第1師範「わたしは,ここで失礼するわ。後のことは特弟子に任せます」
そう言って彼女は特弟子にテキパキと後始末の指示を出した。
第1師範「特弟子,射殺されたモモカの遺体は,例の祭壇に安置しなさい。異能のある遺体なのよ。何かいいことがあるかもしれないわ。それと警察の連中と遺体は,さっさとこの施設から放り出しなさい!!神聖なこの場所を汚してしまって,もう!後処理が終わったら,敷地の周囲に神聖な塩を撒いて清め直しなさい!!」
特弟子「かしこまりました。今回は,わざわざ第1師範の手を煩わせて申し訳ありません。わたしでは,まだあそこまでの高度な催淫術を行うことはできません」
第1師範「いえ,あなたがしても,結果は同じだったでしょう。でも,どうしても,この女性警察の人には,その効果はなかったわ。わたしもまだまだね」
その言葉を聞いて,特弟子は改めて夏江を奇異な眼で見た。第1師範の催淫術に耐えられる人間がいるとは思ってもみなかったからだ。
第1師範は,意味深長に言葉を続けた。
第1師範「たぶん彼女には,『協力者』がいたのでしょうね」
特弟子「協力者??」
第1師範は,それ以上何もいわず,奥の方へ消えていった。その姿を見ながら,夏江はごくっと生唾を飲んだ。もし,人形の霊体である美澪が代わりに超,超強烈な性欲を引き受けてくれなかったら,第1師範から発せられる強烈な女性フェロモンにやられて,ここまでまともに歩くことも出来なかっただろう。それに,「協力者」の存在をほのめかせるなど,なんとも得体の知れない女性だと思った。
ある意味,最強の女性戦士なのかもしれないと思った。
ーーー
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