34 第1区画に突入

 一方,虚道宗では,禁地の洞窟の中で,オミレがモモカをこれから助け出そうという頃だった。


 その頃には,すでに逮捕状を持った警察一行が,宗主のいる宗主邸に来ていた。


 宗主邸の会議室では,宗主,その秘書,第2師範,第3師範,第4師範,第5師範と第5副師範が勢揃いしていた。


 北海道警察側は,女性部長刑事の小百合を筆頭に,夏江たち本庁からの応援部隊と,完全武装した機動隊50名を指揮する機動隊隊長がいた。


 50名もの機動隊は,宗主邸を包囲するように配置された。さらに,全員が防弾チョッキを来ていて,手には拳銃だけではなく,機関銃や,さらには手榴弾も用意していた。


 小百合は,最近本庁から出向してきたばかりだ。本庁では主に麻薬捜査や詐欺事件を担当してきたので,失踪事件や殺人事件には慣れていない。

 

 しかし,本庁の警視庁長官からのゴリ押しによって,道警で最近問題になっている大島大量殺人事件,ラブホテル大量殺人事件や,今回の虚道宗で起きたであろう殺人事件の現場主任に押し込められた。実質,彼女が捜査方針を決定する。


 警察側のキーパーソンは小百合だけではない。今回の連続集団殺人事件の犯人が『透明の刃で首を刈る能力者』であることが判明したので,本庁に応援をお願いした。


 これまで,手を出したくても出せれなかった本庁の特捜課の多留真や夏江にとっては,渡りに船だった。彼らは,北海道で起きた一連の大量殺人事件には注視していたからだ。


 ただ,予想外だったのは,いきなり犯人が特定されて逮捕状まで出されるとは思ってもみなかった。


 彼らは,捜査に協力するという立場を失ってしまい,犯人逮捕の現場に立ち会うという意味合いになってしまった。特に,多留真は『立ち会い』意外に,何の役割もなかった。


 α隊たちは,『霊力ミエール』の特性メガネを準備して,『メリルの指輪』が使うであろう霊力を見ることができ,適確に次の作戦行動を指摘することが可能だ。SART隊は遠距離狙撃でモモカを撃つ役割だ。夏江でさえも,新しく入手した三鈷杵で『メリルの指輪』を封印するという役割がある。でも,多留真には立ち会いという役割以外,何もなかった。


 彼ら本庁から応援とは別に,高野山や比叡山からの高層5名を呼ぶ予定だった。でも,ちょうど,僧侶たちによる聖力を競う大会にかち合ってしまい,彼らを呼ぶことはできなかった。その意味でも,メリルの指輪と遭遇することがあれば,夏江の持参している三鈷杵頼りだ。


 小百合たち警察側と虚道宗の宗主たちが,同じテーブルについて,お互いの自己紹介をしたあと,宗主が本題に切り出した。


 宗主「刑事さん,ところで,逮捕状をお持ちだそうですが,見せていただけますか?」


 この虚道宗には,警察といえど,逮捕状を持っていないと敷地内には入れないという方針を貫いている。事前に敷地内での捜査などできないようにしていた。そのため,逮捕状が準備されることなど,まずないと思って高をくくっていた。


 ところが,なんと逮捕状を用意していたのだ。いったい,どんな証拠を元に,逮捕状が出されたのか??


 刑事の小百合は,まず逮捕状を見せた。それはモモカへの逮捕状だった。殺人罪だ。


 宗主「え?モモカが殺人罪?」


 宗主の言葉に,小百合はゆっくりと相づちを打った。


 小百合「実は,そちらの門弟のひとりから,貴重な情報提供がありまして,モモカが11名の門弟の首を刈りきったことを密告してきました。その遺体は,ここの敷地内にある河川に投げ捨てられたというものでした」


 小百合は断定的に言った。そして,数枚の写真を見せた。その写真には,首なし遺体が河川の河原に横たわっていた。


 宗主「まっ,まさか,,,この敷地内で殺人が行わていたなど,,,」


 他の師範たちもびっくりだった。とりわけ第5師範は,ショックが大きかった。そのモモカを採用したのは彼だからだ。


 小百合は言葉を続けた。


 小百合「それだけではありません。遺体が捨てられた河川を調べていると,首のある遺体も30体以上発見されました。たぶん,まだまだ遺体が見つかるのではないかと思います」


 宗主や師範たちは,まったく開いた口が塞がらなかった。


 小百合「情報提供してくれた門弟は,その目でモモカが11人の門弟の首を刎ねたのを目撃しています。この敷地内でモモカが殺人を犯したのは間違いない事実です。何せ,首なし遺体が見つかっているのですから。


 それだけではありません。モモカは,大島で起きた大量殺人事件の犯人であり,かつ,ラブホテル大量殺人事件の犯人であると断定しました」

 

 宗主たちが,ショックのあまり,何の返事もできないので,小百合がさらに言葉を続けた。


 小百合「情報提供者は,モモカの髪の毛を持っていました。そこからDNAを急ぎ割り出した結果,ラブホテル大量殺人事件の犯人であり,尚且つ,大島大量殺人事件の犯人であることも判明しました」


 小百合は,一息ついてからさらに言葉を続けた。


 小百合「すでにお気づきと思いますが,わたしは機動隊を連れてきました。さらに,本庁からも多くの応援部隊がここに集まっています。モモカを逮捕するためです。少しでもモモカが抵抗すると,われわれの全火力をもって,彼女をその場で殺すことになります」


 この言葉を受けて,多留真が発言した。少しでも発言しないと,ほんとうに『立ち会い』人に成り下がってしまうからだ。少しでも,自分の存在意義を示したかったのが正直なところだ。


 多留真「モモカは,もともと関東に住んでいました。彼女が上野から夜行列車で青森に移動した列車の中でも,殺人をした可能性がでてきました。彼女が生きている限り,これからも殺人事件が絶えることはないでしょう。一刻も早く逮捕する必要があります」

 

 夏江はただ皆の話を聞くにとどまった。この場では話をする立場にはないからだ。


 宗主「え?あの大島の事件?フェリーが吹き飛ばされたって,報道されていたやつか?確か,上空の大規模魔法陣が関係しているって報道されていやようだが?」


 大島での大規模魔法陣については,テレビでも大々的に報道されていた。α隊隊長は,宗主の質問に簡単に解答した。

 

 α隊隊長「大島で出現した魔法陣については,いろいろな憶測が飛んでいますが,その魔法陣のパワーによって,フェリーが吹き飛ばされたと推定するのは,わたしも正しいのではないかと思っています」


 α隊隊長は,はっきりとした返事を避けたが,彼の発言には裏付けがあった。


 α隊隊長は,魔大陸出身のピアロビ顧問にこの魔法陣の解析をお願いしていた。彼は,日中に移された写された写真を見て,最初は何かよく分からなかったが,夜に移された写真を見てすぐにわかった。それは,初級魔法で最初に習う『虹光魔法陣』だった。でも,こんなに大規模な魔法陣人になるはずがなかった。そこで,陸軍の演習場を借りて,天気のいい日に『虹光魔法陣』を発動させてみた。すると,どうだろう? なんと『虹光魔法陣』は,どんどんと大きくなっていったではないか。しかも,太陽光から魔力を吸収しているようだった。ただ,その魔法陣が蓄えた魔力を受けとる器具を準備していなかった。その『虹光魔法陣』は,大きくなる速度以上に,魔力を蓄えていってしまい,その貯蔵量がすぐに限界が来て,大爆発を起こってしまった。


 とにもかくにも,ピアロビ顧問にとっても,『虹光魔法陣』が,月本国の天気のいい日では,制御不能な魔力収集装置になってしまうことを発見した。


 ピアロビ顧問は,この実験結果から,大島の事件では,なんらかの方法で『虹光魔法陣』から大規模な魔力を受けて,フェリーを竜巻のような超強力な風魔法で大島にまで吹き飛ばしたものと推定して,警視庁のα隊に報告したという経緯があった。


 そんなやり取りがあった後,小百合部長刑事は,殺人犯として特定したモモカについて,宗主に質問した。

 

 小百合「では,凶悪殺人犯であるモモカがこちらに入門してきた経緯や,現在,どちらにいるかなど,説明していただけますか?」


 宗主は,小百合の依頼に断る理由はなかった。彼は第5副師範から,モモカの編入試験の概要,第5師範が呪詛にかかったこと,その犯人としてモモカが1週間ほど特罰を受けたこと,さらに,第3師範から,門弟の大量失踪事件の犯人として,特弟子に引き渡されたことなどを説明させた。

 

 この説明を受けて小百合が質問した。


 小百合「その大量失踪事件の犯人となったときの証拠などはあるのですか?」

 第3師範「あります」


 彼は,オミレから入手した録音データを取り出して,それをその場で流した。


 ー 録画データ ー


 モモカ「わたしのせいだとすれば,それは,この指輪が原因だと思うわ」

 オミレ「あんた,わたしを馬鹿にしているの? 指輪に,人を100人以上も失踪させるような,超強力な念が込められるわけないでしょ! 9品の呪符を使ったって,一人失踪させるほどの精神支配ができたら大成功よ」

 モモカ「別に,信じなくてもいいわ。すべてはこの指輪が悪いのよ。わたしから受け取ったことにしないで,どこかでこの指輪を拾ったことにしてくれたら嬉しいわ」


 ここで録音のデータが終わった。


 この録画データを聞いた後,小百合は,なんで指輪が出てくるのかよく理解できなかった。


 指輪に関する詳しい情報を持っているのは,この場では夏江や多留真など本庁からの応援部隊に限られた。

 

 多留真が第5師範に聞いた。


 多留真「指輪が犯人犯だとして,その指輪は今,どこにあるのですか?まだモモカがつけているのですか?」

 第3師範「わたしは,指輪が犯人だなんて,到底信じていません。指輪が人を殺せるわけでもないでしょうから。モモカが差し出した指輪はケースに入れて,モモカと一緒に,特弟子に引き渡されました」

 多留真「特弟子?」

 第3師範「はい。重大犯罪が起きた場合は,われわれ治安隊ではなく,特弟子が対応します」


 なんでそのような決まりになっているのか,第3師範でも知らなかった。そこで,宗主が補足説明した。


 宗主「重大事件とは,われわれの能力では解決が難しいと判断されたものをいいます。その場合,特に異能の能力を持つ特弟子,さらに特弟子を管理している第1師範が管轄します」

 

 この時,はじめてこの場に第1師範がいないことに気がついた。


 多留真「この場には特弟子や第1師範がいないようですが,何が特別な用事でもあったのですが?」

 宗主「第1師範は,いつも反省洞で修行しています。このような雑事には関与しません」

 多留真「大量に発生した失踪事件の犯人を拘束することは,雑事になってしまうのですか?」

 宗主「・・・」


 小百合が彼らの話を遮って,多留真に尋ねた。


 小百合「その指輪って,『メリルの指輪』と呼ばれているものですか?」


 小百合は,『メリルの指輪』についてはほとんど知らないので,多留真に質問してみた。


 小百合から尋ねられたことで,多留真のこの場での存在意義が『立ち会い』という立場から,本来の『捜査協力』へと少し変質した。


 多留真「そこはまだ不明です。ですが,最悪の場合を想定して,たとえモモカが『メリルの指輪』をしていなくても,その指輪に憑依されて,霊力によって周囲の者を首刈りによって殺すかもしれません。


 ですから,常に遠距離からモモカを狙撃できるような布陣で対処すべきでしょう。幸い,α隊は特性メガネで霊力を見ることができます。霊力を使ったと判明すれば,すぐにモモカを射殺するべきです。無理して生きて逮捕する必要はありません。なにせ,モモカはもう15歳なのですから」

 

 月本国では,犯罪の若年化が著しく,凶悪犯罪の場合,15才から成人並みの扱いを受ける。


 今回のモモカ逮捕劇では,総責任者は小百合だが,現場の指揮は50名の機動隊員を指揮する機動隊隊長が執る。本庁からの応援部隊は,機動隊隊長の下につき,適宜,アドバイスしたり,特別な任務を請け負う。


 小百合は,宗主らからモモカが監禁されている禁地周辺の地図を受け取って,それを現場指揮を担当する機動隊隊長に渡した。


 小百合「隊長,大変,危険な任務ですが,死者を出さずに,見事,モモカを逮捕してください。モモカの生死は問いません」

 機動隊隊長「小百合部長刑事,ご安心ください。見事,捕らえてみせましょう」


 その後,機動隊長は,α隊隊長,SART隊員,さらに宗主邸の外で待機している第1小隊長から第5小隊長の5名らと,綿密に打ち合わせを行い,モモカのいる『禁地』に向かった。

 


 そして,本格的に,モモカ逮捕劇が幕を開けた。


 機動隊らは,禁地にある洞窟の入り口に着いた。その入り口にはカギが掛けられていた。


 機動隊長「第一小隊長,カギを吹き飛ばせ」

 第一小隊長「了解です」


 第一小隊は爆破専門の部隊だ。敵地に侵入するのに,亡くては成らない部隊だ。警察の部隊ではあるものの,彼らは陸軍の施設を借りて訓練を受けていた。


 ボン!


 小型爆弾によって,その錠前は吹っ飛んでしまった。


 機動隊長「では,第1小隊から,順に侵攻する」


 機動隊長の指揮で,第一小隊から第5小隊の順番に侵攻していった。その後を機動隊隊長と本庁からの応援部隊が続いた。

 

 第1小隊が洞窟内で意識を失って倒れている2名の門弟を発見した。しかし,いくら揺り動かしても,起きようとしなかった。


 洞窟内の地図を見ていた機動隊隊長は,第1小隊長に声をかけた。


 機動隊隊長「第5小隊長,ちょうどここが第一区画の入り口になりる。強行突破する。小型爆弾で扉を破壊しろ」

 第1小隊長「了解しました!」


 第1小隊長は,自分の部下に指示した。部下らは手際よく小型爆弾をしかけた。また,周囲にいたものもすべて退避した。準備が完了したので,機動隊隊長が爆破を命じた。


 機動隊隊長「よし,全員,耳を塞げ!準備出来次第,爆破スイッチを起動しろ!」

 第1小隊長「ラジャー!!」


 ボォーーーン!


 その音は,予想以上に大きく,耳を塞いでいた機動隊員たちも,その巨大な音に一瞬,頭がくらくらした。


 その巨大な音にびっくりしたのは彼らだけではなかった。長屋構造の一部屋にいたモモカは,その巨大な音にびっくりして意識を取り戻した。


 シュパー!シュパー!シュパー!


 それと同時に,霊力の透明の刃で,モモカの回りにいた3名の男どもの首が飛んだ。


 その部屋の窓から中の様子を伺っていたオミレは,爆破した音よりも,窓が飛び散った鮮血で真っ赤になってしまったことに驚いた。


 ドン!


 オミレはその場で尻餅をついてしまった。彼女は自問自答した。


 オミレ『え?いったい,今,何があったの?首が飛んだ飛んでしまったわ。それって,モモカがしたの?それに,あの爆破音!!ドアでも爆破されたの?? いったい何が起きているの?』


 意識を取り戻したモモカは状況を把握しようとした。

 

 モモカ「どうやら,また,何かの衝撃で無意識に彼らの首を刎ねてしまったようだわ。それに,あの爆破音!何か突入部隊でも来たのかもしれない。となると,,,もしかして,わたしを捕まえに来た??最悪そう考えて行動したほうがよさそうね」


 モモカは冷静だった。


 モモカは服を着ようにも,全身血だらけだ。これなら,服を着なくても,赤い服を着ているのとあまり変わらない。


 モモカは,死体を無駄にしないように,睾丸部分を切除して,それを膣の中に挿入した。肝臓も取りたかったが,さすがに膣の中に挿入するには時間がかかりすぎるため止めた。


 モモカは,全身血だらけのままドアを開けた。すると,尻餅をついて,放心状態のオミレがいた。


 モモカ「え?オミレさん?どうしたの?」


 この言葉に,オミレは我に返った。そして,化け物を見るかのように全身血だらけのモモカを見た。

 

 オミレ「こ,殺さないでちょうだい!!な,なんでもします! 殺さないでちょうだい!!」

 

 今,オミレができるのはこれだけだった。呪符を使って抵抗しようとも考えたが,一瞬で3人の首を刎ねてのける異能力者に勝てるわけもないと思い直した。


 モモカ「オミレさん,あなた,わたしが彼らの首を刎ねたの,見たのね?」

 

 その言葉に,オミレは軽く頷いた。


 モモカ「そう?今,見たことはすぐに忘れなさい。それがあなたのためよ。いい?」

 

 オミレは,力強く何度も首を振った。         

 

 モモカ「じゃあ,あの爆破音はなんだったか,確認してきてちょうだい。わたしは,他の男どもを見つけるわ」


 モモカが「見つける」と言った意味は,見つけて殺すということだ。もう,3人も殺してしまった。こうなっては,ことごとく殺しまくることにした。


 モモカは,すでに殺人狂になっていた。


 オミレが,今できることはモモカの言いなりになることだ。モモカは怪物だ。いったい他にどんな異能力を持っているのかわからない以上,ここは冷静にモモカの下僕になってしばらく様子をみるしかないとの判断だ。


 モモカはすぐに命令を実行に移し,爆破音のした方向に偵察にいった。彼女は,廊下の奥から周囲を警戒して来る一団を見つけた。その服装から,機動隊のようだった。


 オミレはすぐに引き返してモモカに報告しようとした。しかし,モモカは元いた場所にはいなかった。慌ててモモカを探しに他の部屋を見て回った。


 すると,3部屋ほど奥の部屋にモモカがいた。さらにそこには,全身血まみれになった少女と,首が胴体から離れた男の死体も転がっていた。


 オミレは,それを見ても別に驚かずに,モモカに報告した。


 オミレ「廊下の奥の方から,機動隊らしき一団が来ているわよ。もしかしたら,少女たちの救出にきたのかもしれないわ。でも,男たちの首なし死体を見たら,モモカの殺人もバレてしまうわよ。どうする?」

 モモカ「そうね,,,」


 モモカは,あまり警察など,たいしたことはなく,最悪な場合,捕まって投獄されようとも,殺されることはないと思った。だって15歳だし,女性だし,おまけに未成年だ。仮に投獄されたところで,今のモモカの能力なら,いつでも脱獄できると,この国の警察を甘く見ていた。


 人質をとるにも,少女たちでは,いざというとき殺すわけにもいかない。さすがに,女性を殺すのははばかられた。


 モモカは,全身血だらけになって小刻みに震えている少女に聞いた。


 モモカ「この男たちのたまり場はどこなの?」

 

 この質問に,少女は時計の短針で10時の方向を示して小声で言った。


 少女「あの方向にある建物だと思います」


 その言葉を受けて,モモカは殺された男が脱ぎ捨てた上着とズボンを無理やり身につけながらオミレに命じた。


 モモカ「じゃあ,その建物に行って,男どもを人質にとりなさい。2,3人くらいでいいわよ。どう?できそう?」

 オミレ「男どもが一般人なら容易い御用よ。でも,内弟子並みの強者なら無理だわ」

 モモカ「ダメでも,男どもを建物から引きずり出せればそれでいいわ。わたしも,なんとか服を身に着けてすぐにオミレと合流するわ」

 オミレ「わかった。じゃあ,先に行くわね」

 

 オミレは,10時の方向にある建物に向かっていった。


 モモカは,男物のズボンを膝の部分から霊力の刃でカットして短ズボンのように穿いた。前開きの上着は,モモカの片方で3kgにもなるKカップもの巨乳を隠すことはできなかった。そこで,腕を袖に通すのをやめて,袖の部分をブラジャー代わりのようにして,胸の前で固結びした。そうすることで,なんとか乳首くらいは隠すことができた。


 今さら,裸を見られたくらいでどうってこともないのだが,それでも,多少とも羞恥心はあった。

 

 そんなこんなで,なんとか即席の変則ビキニスタイルにはすることができた。その後,殺した男の睾丸を奪って膣内に入れた。それを見た処女は,あまりのショックでその場に意識を失って倒れた。


 少女にとっては,処女を奪われ毎日のように犯され続けて,これ以上ショックなことはないと思っていた。それでも,眼の前で,お琴が首を刎ねられて,全身血だらけになって,気絶する一歩手前だった。気絶しなかったのは,このモモカという少女が,自分を助けに来てくれたと勘違いしたからだ。


 しかし,モモカが睾丸を奪って膣内に放り込むのを見て,もう限界だった。耐えに耐えた精神の糸が切れてしまった。


 とうとう,その少女はその場で意識を失ってしまった。


 10時の方向にある建物は呪符制作棟だ。1階は材料置き場になっていて,2階から上の階が作業場になっている。そこで作業しているのは職人で,呪符使いではない。


 そんなことは,オミレが知るよしもなかった。


 オミレは,恐る恐る呪符制作棟の1階の周囲を見て廻った。そのある部屋に,3名ほどの男たちが空になっている倉庫に準備された休息所で,のんびりとタバコを吸って休息していた。

 

 どうしても,タバコを吸う仲間同士でグループができてしまう。この呪符制作棟でも,タバコを吸うのは少数派だ。いつもは5人グループで吸っているのだが,2名ほどは少女養育棟,略して少養棟に行っていなかった。


 オミレは窓越しに部屋の中に3名ほどの男どもがのんびりと,少養棟の少女たちの『飼育』状況について語っていた。


 「3号は,もうおっぱいを串刺ししても,叫び声さえあげなくなってしまった。もう恐怖も感じないのかもしれん」

 「そうなると,『恐怖御札』の作製に支障をきたすな」

 「もう3号はどんな虐待をしても,快楽を受けるようになっているのかもしれん。いっそ,SM御札でも造れば売れるんじゃないか?」

 「確かに,『恐怖御札』よりは需要がありそうだ」


 そんなくだらない会話をしていた頃,オミレは,行動に出た。


 コンコン!


 オミレはドアを叩くと同時に、ドアを開けた。この部屋は共有スペースのようなので,勝手に入ってもいいとの判断だ。それに,今はもう間がない。機動隊がもうすぐそこに来ているのいだ。いちいち相手の返事を待っていられない状況だ。

 

 オミレはすぐに皆に声をかえかた。


 オミレ「あら?先客がいたのね?ごめんなさい。わたし,内弟子で治安部に配属になったオミレっていいます。どうぞ,よろしく。それで,初対面の全員に,挨拶状を渡しています。どうぞ,受け取ってください」


 治安部ならば,この第一区画を出入りしてもおかしくないので,オミレの素性を疑うこともせず,彼らは皆,オミレが差し出した挨拶状を受け取って,そこに書かれた文章を読み始めた。


 その文章は,結構長いので,全部読むのに3分以上もかかってしまった。だが,その便箋は,4品相当の基呪符で出来ていた。


 その文章の内容とは,次のようなものだった。


 『わたし♥,オミレっていいます。まだ15歳でーす♥ しかも,処女でーす♥ 恋人いませーん♥ 募集中でーす♥ だれか,わたしの大事な処女を奪っていただけませんか? 愛情はあとから,ゆっくりと培えばいいと思っていまーす♥ あそこが腫れしまって,すぐに出したいなら,まずはわたしの口の中に出してと思いまーす♥♥ わたしって,ちょっと,清潔好きなので,あの,,,ちょっと,お願いしずらいのですけど,一度,あそこを洗ってからにしてほしいと思いまーす♥♥ それと,わたしの恋人の条件は,お金持ちでーす♥ お金がなくても,やるだけでもいいでーす♥ 1回,5千円くれれば,5分間,わたしの大事な部分を差し出してあげまーす♥♥♥』


 この文は,まさに,娼婦が客をさそうような文言だ。どんな男でも,この内容を読めば,すぐにシャワー室に行って,あそこを洗いにいくだろう。


 案の定,彼らは,『ここに書かれている内容はほんとうだな?口でしてくれるんだな?5千円で一発できるんだな?』とオミレに確認しながら,シャワー室へと急いだ。


 オミレは,『冗談でこんなこと書きませんよ。ほんとうですよ。ここで待っていますから,早くあそこをきれいにしてきてくださいね?』と言って,彼らを見送った。睡眠呪符に3分以上触れてから,効果が発現するまでおよそ10分。シャワーをサッと浴びて,ここに戻る頃にはちょうど効果が発現するタイミングだ。


 しばらくして,ここに胸元を丸出しにしたモモカがやってきた。丸出しと言っても,体は血の色で真っ赤だった。無意識による霊力の透明の刃だったので,自分の体に,霊力による防御をするタイミングを逸してしまった。


 モモカ「ここにいたの?人質は確保できた?」

 オミレ「上々よ,もうすぐここに戻ってくるわ。睡眠呪符に触ったから,ここに戻ってきた頃に眠りにつくと思うわ。彼らは,門弟じゃないわ。何かを造っている職人ね,たぶん」

 モモカ「人質がいれば,なんとか,ここから逃げ出せると思うわ。警察も,人質を殺してまで,わたしを逮捕しようとは思わないでしょう」


 モモカは,警察の動きを甘く考えていた。


 しばらくして例の3名の男どもがシャワーを急ぎ浴びて戻ってきた。すると,その部屋に,もう一人,巨乳の血だらけの少女ががいた。


 「おっ? 巨乳少女がいるぞ?お前も娼婦になりたいのか?」

 「最近の女性門弟は,先進的だな。鉄輪で拘束された少女は,精神支配の影響を受けているとはいえ,ギャーギャー,泣きわめくだけなのにな」

 「ふふふ,早速,やらせてもらうぜ」


 そんなことを言いながら,男どもは,モモカとオミレに迫っていった。だが,彼らが数歩歩いた頃,足元がふらついて,その場に四つん這いになってしまった。


 「あれっ?足が動かんぞ?」

 「おっ,俺もだ」

 「ど,どうして?」


 男どもは,その言葉を完全に口に出す前に,意識を失ってその場に倒れた。それを見たモモカはオミレにニヤッと微笑んだ。


 モモカ「オミレ,あなた,意外と有用ね。もし,わたしがここから逃げおおせたら,わたしの専属秘書にならない?いくらでも,男どもを斡旋してあげるわよ」

 オミレ「大変,ありがたい話ですけど,わたし,犯罪者にはなりたくないです」


 モモカは,どうすればオミレを説得できるかちょっと考えようとした時,広場の出入り口通路の方から,ポータブル拡声器で声がした。


 「第1区画の皆さん! われわれは警察です。ここに特罰を受けて来ているモモカを逮捕しに来ました。モモカを今すぐ引き渡してください。もし,逮捕に非協力的な態度を取れば,共犯者とみなして逮捕します」


 この声を聞いて,モモカらは,機動隊が廊下を抜けて広場の入り口付近に来たことを知った。


 この発言に対して,広場に設けられた備え付けの拡声器から返事があった。


 「警察の皆さん,わたしはこの第一区画の管理を任されている特弟子です。確かに,特罰を受けたモモカは,あなた方から見て,広場の右側にある少養棟の一番手前の部屋に捕獲しています。そこに行って逮捕してください。鉄輪は,そこらへんの男どもに聞けば,カギを持っていると思います。他の部屋にいる少女たちには,いっさい手をださないでください。彼女らは,自ら進んでこのような立場を受けています。なんら犯罪的要素はありません」


 「わかった。では,その右側にある少養棟でモモカを逮捕する。協力ありがとう」


 機動隊隊長は,その少養棟を周囲から大きく囲うように包囲した。その一方,管理棟にいる特弟子は,施設維持スタッフにモモカのいる部屋をモニターに映し出すように指示した。


 すぐにモニターにモモカが監禁された部屋の様子が移し出された。そのモニター画面には,真っ赤な映像しか映っていなかった。


 特弟子「どうしたの?真っ赤じゃない!!」

 スタッフ「はい,でも。正常に機能してりるはずです。たぶん,,,」


 スタッフは,ちょっと躊躇ってから言葉を繋げた。


 スタッフ「たぶん,血糊がレンズに付いたのではないでしょうか?」

 

 この話を聞いて,特弟子はそうかもしれないと思った。モモカのことはよく知らないが,治安隊でさえも手に余る相手だ。その可能性があると判断した。


 特弟子は,機動隊にこのことを知らせる前に,第1師範に連絡を取った。


 第1師範への連絡には,専用トランシーバーで行う。特弟子はすぐに専用トランシーバーを取って連絡した。


 特弟子「第1師範,大変です!!機動隊がこの敷地に乗り込んで来ました。特罰を受けたモモカという門弟を逮捕するためです。モモカを監禁した部屋のモニターを確認したところ,監視モニターのレンズが血糊で覆われたようです。どうやら,その部屋で重大な傷害事件が発生したようです。今,機動隊は少養棟に向かっています。でも,もし、そこに死体が転がっていたら大変なことになります。どうしましょう?」

 

 やや沈黙があった後,第1師範から返事があった。


 第1師範「監視カメラのレンズが血糊になるほどの状況って,半端ない状況だと思うわ。死体が転がっている前提でものごとを進めましょう」

 特弟子「それって、どうすればいいのですか?」

 第1師範「簡単なことよ。機動隊の全員に骨抜きにして,この施設から追い出せばいいだけよ。それと,モモカもここの施設から出ていってもらうわ。その作業はわたしに任せなさい。あなたは,逐次状況を報告してくれればいいわ」

 

 この言葉を聞いて,特弟子はやっとホッとした。なんせ第1師範とは一度しか会ったことがないが,そのあまりの美しさに,見ているだけで女性である特弟子でさえも全身が震えて力が抜ける思いだがしたからだ。


 特弟子「了解です。では,変化があり次第,状況を報告します」


 少養棟の左側部分を包囲した機動隊は,そこに向かって,拡声器で訴えた。


 「連続殺人犯のモモカ!すでに周囲を包囲した。おまえがここにいるのはわかっている。10を数える前に出てきなさい。さもないと,強行突破する。1,,,2,,,3,,,」


 数字のがカウントされていった。そして,10まで数えも,誰も出てこないのを見て,第1分隊に,一番左側の部屋の裏側の壁の爆破を命じた。その部分の壁は薄く,すぐに部屋の中に突入できるからだ。


 ドーーン!


 その壁の爆破はすぐに行われた。粉塵が収まって視界が戻ったところで,その部屋にモモカらしき女性はおらず,首なし死体が3体転がっているのが,遠目でも分かった。


 機動隊隊長は,隊員に突入するのを止めさせて,拡声器で特弟子に訴えた。


 「この部屋には,モモカはいない。そのかわり,3人の首なし死体があるじぞ! いったい,どうなっているんだ?ここでこんな殺人事件が起きたことを,まったく把握していなかったのか?」


 この質問に,管理棟にいる特弟子は言葉を失った。3人の首なし死体??そんなの,知るはずもない。


 特弟子に,モモカが男どもに犯されるのを鑑賞する趣味はないからだ。彼女は警察の問いに答えた。


 特弟子「警察の皆さん,わたしは広場中央奥の管理棟にいます。少養棟で何が起きているかなんて,詳しく把握することはできません。でも,モモカの逮捕には協力します。今から,わたしと管理棟にいる2名のスタッフを除くスタッフ全員を広場に集めます。そこに,モモカがいなければ,どこかに隠れているはずです。それに,出入り口以外の出口はありませんので,じきにモモカを捕まえることは可能でしょう」


 特弟子は,そういって,施設全員にアナウンスした。


 「第1区画の皆さん,今から,全員,中央広場に集合してください。15分以内に集合すること。もし,少しでも遅れと,モモカの共犯者と見なされるかもしれまん。よろしくお願いします!!」


 このアナウンスに,この第1区画の施設内で仕事をしている職人たちが三々五々姿を現して中央広場に集合した。


 ここで働いているのは総勢23名程度だ。管理棟の職員2名(技術職),施設管理4名(門弟),動物飼育係4名(職人),呪符製作職人10名,そして,用心棒のハマルと特弟子だ。それ以外に,どこかにひっそりと身を隠している第1師範がいる。



 しばらくして,中央広場に集まったのは12名のみだった。いずれも男性ばかりだ。そこに用心棒のハマルはいなかった。彼はこそこそと管理棟に戻って,特弟子のところに戻っていた。


 男性連中が中央広場に集まった頃に,ひとりの女性が中央広場に近づいてきた。しかも,その女性は明らかに15,16歳の少女だった。


 彼女を見た機動隊らは,連続殺人犯のモモカかもしれないという恐怖が走った。特に機関銃を携えている第3部隊の連中は,隊長からの命令もなく銃口を彼女に向けた。


 ガチャ,ガチャ,ガチャ!ーー (機関銃の安全装置を外す音)


 しかも,すぐに安全装置を外した。いつでも射殺できる体勢だ。


 その女性はオミレだった。彼女は機関銃が向けられたのを見て,両手を上に上げて無抵抗ですというポーズを取った。

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