33 能力強化と笑い話

 夏江と多留真は,同じベッドで朝を迎えた。


 夏江の頬やお尻部分は,すでに赤みがとれて,普通の肌つやを取り戻していた。しかし,おっぱい部分は,無残にも何十箇所にもわたり,爪痕がしっかりと残っていて,そこに血の瘡蓋が出来ていた。しかも,張れがいまだに引かず,


 もともとおっぱいの表面部分には,さほど大きな血管はないので,ある程度血が流れれば,自然と止血してしまう。


 夏江のおっぱいは,腫れがひかず,Dカップよりもやや大きいEカップのおっぱいになった。片方のおっぱいで0.5kgほどの重さだ。


 目覚めた多留真は,隣で未だに目を開けていない夏江の裸体を見た。真っ赤に血のりが残っていて,おっぱい全体に血の瘡蓋が出来ていることに驚いた。


 多留真は,昨晩の記憶を思い返した。でも,おっぱいを鷲づかみにして射精したことしか記憶になかった。でも,鷲づかみしたことから,夏江のおっぱいをこんな状態にしたのは,自分だと理解するしかなった。


 そんなことを考えていると,夏江が目を覚ました。夏江は,自分の体の状態を一通り確認してから多留真に文句をつけた。


 夏江「わたし,あなたに処女を奪われたのよ。でも,それは納得しているわ。でも,わたしのおっぱいをこんなにむちゃくちゃにされるなんて,同意していないわ。それに,膣の中に中出しされるのも同意した覚えはないわ。避妊するのが常識でしょう?いったい,どうしてくれのよ!!」


 夏江は,わざと,強い口調でいった。


 そんなこと言われても,多留真にもう過ぎたことでどうしようもなかった。それに記憶が曖昧だ。多留真は当初の取り引き条件を言うしなかった。


 多留真「申し訳ない。札幌出張にはお前も同行するように室長に了解を取る。れに,必要な捜査情報もすべて提供する」

 夏江「それはわたしの処女,つまり処女膜との引き換えよ。わたしが言いたいのは『中だし』と『おっぱい虐待』への保障をどう補填してくれるかよ!」


 こうなっては,夏江は強かった。多留真に反論の余地などなった。

 

 多留真「わかった,わかった。何がほしい?」

 

 夏江は,特に具体的な保障など考えていなかったが,とりあず,お金を要求することにした。なんせ,多留真の実家は,金持ちだと知っていたからだ。


 夏江「じゃあ,お金をちょうだい。そうね,,,おっぱいの治療費と,すぐに,産婦人科に行って避妊薬も飲まないといけないし,,,その精神的な保障ね。まあ,500万円くらいかな?」


 夏江は,適当に大金をふかっけた。だが,この金額は,多留真にとっては,いや,多留真の実家にとっては大した金額ではなかった。


 多留真「わかった。その金額を支払おう。その代わり,俺をここに住まわろ。同棲するのが条件だ。毎日,お前を抱く。中だしする条件だ」

 夏江「・・・」


 その後,細かな金銭的交渉をして,夏江は多留真との同棲を許可し,毎回,中だしさせることにも同意した。ピルさえ飲めば,避妊は可能だからだ。


 

 ーーー


 警視庁に出勤した多留真は,すぐに超現象調査室の室長から,夏江の札幌出張の了解をとった。


 その際,札幌出張には,多留真や夏江だけでなく,α隊隊長たちや,SARTのスタッフも同行することになっていることを説明した。


 なんと言っても,『メリルの指輪』がからんでいる以上,万全の体制で望む必要があった。

 

 室長は多留真にある重大な質問をした。


 室長「夏江くんを出張させるのはいいのですが,彼女は『メリルの指輪』を封印できるような退魔のお札や三鈷杵は持っていませんよ。それでもいいのですか?」

 多留真「そうでしたね。それは困りました,,,」


 すると,室長は,自分の机の上に置いてある小箱を持ってきて,多留真に見せた。


 多留真「これって何ですか?」

 

 室長は,多留真の前でその小箱の蓋を開けた。そこには2本の三鈷杵が収められていた。


 室長「これは,正規のルートで入手した三鈷杵です。もっとも高野山への寄付に2000万円もかかってしまいましたがね。フフフ」

 多留真「ええ? そんなにするんですか??」

 室長「夏江君が意識を失って,手の施しようなないとき,彼女が手に入れた三鈷杵を使いました。それによって彼女は意識を取り戻しました。

 つまり,三鈷杵は有効に機能したということです。ならば,2000万円出したとしても惜しくはないでしょう。

 これで『メリルの指輪』を封印できるかどうかは不明ですが,少なくとも,憑依された人を正気に戻すことは可能だと思います。2本で足りるかどうか不明ですが,これを夏江君に託します。うまく彼女を使ってやってください」

 

 多留真「わかりました。これで,夏江を札幌に行かせる正当な理由が出来ました。感謝いたします」

 

 夏江は,午前中,産婦人科に寄ってから出勤したので,午後から超現象調査室に顔を出した。そして,室長から2本の三鈷杵を託された。


 夏江は,その三鈷杵を観た。今の夏江は霊能力者だ。三鈷杵を観ると,そこには薄く金色のオーラを発していた。高位の退魔器として役立つものだと確信した。


 夏江「これって,,,」

 室長「そうだ。『メリルの指輪』を封印するための退魔器だ。夏江君が手に入れた三鈷杵はわたしが勝手に使ってしまったからね。その補償と思ってくれればいい。しっかりと夏江君の役目を果たしたまえ」

 

 夏江は,超嬉しくなった。それは,単に高位の三鈷杵を入手できたからではない。


 夏江は,美澪から『双修』という手段によって,霊的レベルアップを図る手段があることを知った。今の夏江なら,この三鈷杵を詳しく観察することで,退魔能力の自己開発を試みることもできるかもしれないと期待したからだ。


 ちなみに『双修』の相手は多留真の体だ。もっとも,霊魂は美澪なのだが,,,



 ー 夏江のアパート ー


 その日の夜,同棲相手の多留真がやって来た。食事や風呂などを済ませて,多留真は寝室のベッドで,夏江を抱く準備を始めた。


 すると,また,多留真の意識がなくなって,代わりに美澪が多留真の体を支配した。2回目ともなると,スムーズに体を支配できた。


 美澪「夏江,わたし美澪よ。今日から,本格的に『双修』をするわよ」

 夏江「それはいいけど,もう,おっぱいを傷つけるのはやめてちょうだい。1日や2日では治らないのよ」

 美澪「ダメよ。おっぱいを傷つけて,性愛をすることが『双修』の基本よ。明日には札幌出張でしょう?今日,一晩,寝ないで,『双修』するわよ。処女を失ってから日が経つと,『双修』の効果が薄れるのよ。今しかないのよ!!」

 

 美澪は,適当なことを言った。実のところ,『双修』など,中国の漫画をたまたま見て知っただけだった。


 昨日,見様見真似ねで,『双修』をしてみたが,意外にも美澪の霊体としてのパワーが少しだが増したことを知った。これによくして,さらにレベルアップを図るのが狙いだ。


 それだけではない。多留真の体を借りて,『サド』として夏江を虐待するという楽しみもできた。なぜ,男どもが女の体を虐待したがるのか,なんとなくわかった気がした。


 美澪は,さらに,夏江の,まだ腫れのひいていない,あちらこちら青あざだらけのEカップのおっぱいを,昨日と同じように爪を立てて鷲掴みにしていった。夏江のおっぱいは,みるみるうちに青色と赤色が混じった虐待色のおっぱいに変化していった。


 多留真の勃起した逸物も,夏江の陰部と結合したはいいものの,昨日のような激しいピストン運動はせず,ゆっくりとした腰の動きで夏江の体を前後に揺らした。


 それは,多留真の体力を気にしてのことだ。少なくとも,この結合した状態で『双修』を3時間は続けたかった。


 Eカップのおっぱいから受ける痛みは,すでに夏江には感じなかった。すでに美澪の霊体に連れられて,夏江と多留真の体を巡った。しかも,その巡る速度はゆっくりとしたもので,夏江の体や多留真の体の隅々を巡って,自分の体や多留真の体の健康状態も感じ取れるようになった。


 美澪は,念話で夏江に説教を垂れた。

 

 美澪「夏江さん,霊体を強化するには,それは健全な肉体を得ることから始まります。まず,夏江さんの体の隅々を巡っていきましょう」


 美澪は夏江の霊体を連れて,頭部から首を経由して右手へと移動し,上腕,前腕へと見て行った。次に,左側の上腕,前腕を巡ったあと,おっぱいは,後回しにして,心臓,肺,食道,胃,腸,大腸,肝臓,膵臓,脾臓,子宮などの臓器を巡った。


 美澪「夏江さん,どうやら,どこもかしこも調子が悪いようね」

 

 この美澪の言葉に,夏江は理解できなかった。夏江にとっては,どこも異常がないと感じたからだ。


 夏江「え?どこも正常だと思うのですが?」

 美澪「ふふふ。それは『生きた人間』の目から見ればの話だ。わたしは,死者の目から夏江の体を見ているのよ。わたしからすれば,不健康そのもも。このままでは,肉体の健康を取り戻すどころか,霊体のレベルアップさえもこれ以上できなくなるわよ。最近,限界を感じているのでしょう?」 

 夏江「・・・」


 確かに美澪の言う通りだった。せめて,幽体離脱の持続時間を30分以上できるようになれば,周囲にも自分が霊能力者になったことを公開するつもりだった。でも,その壁をなかなか超えることはできなかった。


 夏江「では,どうすればいいの?」

 美澪「寺院仏閣を巡って精神静養するのも方法だけど,何年もかかるわね」

 夏江「わたし,そこまでするつもりはまったくないわ。即席でレベルアップする方法はないの?」

 美澪「あるにはあるのよ。でも果たしてあなたにそれができるかしら?」

 夏江「それって?」

 美澪「大量の新鮮な精子をその体に取り込むことよ」

 夏江「・・・」


 夏江は,その方法を美澪から聞いて唖然とした。それって,以前,『メリルの指輪』が水香に課した方法だからだ。


 美澪「別に嫌ならいいのよ。でも,このまま『双修』を続けても,顕著な効果は期待できないわ」


 せっかく霊能力を得て,これからレベルアップしていこうという夏江にとって,即席の強化方法があるのに,それをみすみす捨てることなどできなかった。


 まさか刑務所に収監されている水香が行った『行為』を,自分がするはめになるとは,,,

 

 最近知ったことだが,夏江の住むアパートから2本ほど道路を超えると,『裏娼婦街』が並んでる。普通に歩くとまったく気が付かない。ただ,ちょっと普通と違うところは,玄関で暇そうに誰かを待っている様子のおばちゃんがいるだけだ。


 その界隈は,表面的には食事を提供する場になっているのだが’,客が来ると,おばちゃんが好みの女性のタイプを聞いてくるので,客は,『ボインの子』とか,『若い子』とか,好みのタイプを言って,2階に通される。おばちゃんはそんな要望を聞いても,まず,叶えることはない。順番待ちしている娼婦をあてがうだけだ。


 そんな『裏娼婦街』を知っていたので,夏江は美澪に「1時間ほど待ってちょうだい」と言って,さっさと私服を着て,枠が太めの伊達メガネをかけて出ていった。そして,ほんとうに1時間後に戻ってきた。手提げ袋には,何百とある使い古しのコンドームを持っていた。


 実は,夏江は,裏娼婦街に行って,警察手帳を出して,そのおばちゃんに捜査協力を依頼した。


 夏江「レイプ犯の捜査に協力してもらいます。今日と昨日の使い古しのコンドームをすべて集めてください。30分後にまた来ます」

 

 夏江は,そう依頼して,30件もある『裏娼婦街』を効率よく廻って『精子』を回収したというわけだ。違法捜査にあたる可能性もあるが,どうせ捨てるものなので,誰に迷惑をかけてはいないし,伊達メガネのせいで素顔がバレる可能性もない。


 夏江が大量に持ってきたコンドームを見て,今度は,美澪が心配になってきた。


 美澪「それって,性病とか,大丈夫なの??」

 

 その答えに,夏江はニヤッと微笑んだ。


 夏江「まあ,見てなさい」


 夏江は,どんぶりを持ってきて,そこにコンドームから精子を絞り出した。1個目,2個目,3個目と作業をすすめていくと,4個目を手にしたとき,「これはダメね。麻薬患者の精子のようだわ」と言って,ゴミ箱に捨てた。10個目については,「これも失格よ。なんらかの性病にかかっているようだわ」と言ってゴミ箱に捨てた。


 その作業ぶりを見て,美澪が驚いた。

 

 美澪「ええ?? どうして,そんなことがわかるの?」

 夏江「わたし,ここ最近,オーラがよりはっきりと認識できるようになったの。だから,精子にもオーラが見えるんじゃなかと思ったの。案の定,精子にも,人間の体から発するようなオーラを見ることができるようだわ」

 美澪「・・・」


 美澪もオーラ的なものは見ることができるが,それは,『恨み』,『恐怖』,『妬み』,『嫉妬』,『悲しみ』,『苦しみ』のような負の部分だけだ。だから,精子からは,なんらオーラ的なものを見ることはできなかった。


 美澪は,もしかしたら,夏江は自分が思っている以上に,とんでもない霊能力者になるのではないかと思った。


 夏江が選別した精子は,どんぶり一杯分にもなった。それでも,ボツになったコンドームは,全体の4割にも達した。性病や麻薬で汚染されてなくても,オーラ的に健康でないものも排除したからだ。


 夏江「この精子を体に取り込むって,飲めばいいの?」

 

 この問いに,美澪はすぐに返事できなかった。美澪が,生前,見てきたのは,ハビルに犯されても,生き延びた少女が,その後,何度も犯されるたびに,霊能力を増した事実しか知らないからだ。そのことから判断するに,精子を,膣を経由して子宮に注入する方法がいいのではないかと思った。


 つまり,精子から放出されるであろうエネルギーを子宮から吸収できるのではないかと,美澪は予想した。


 でも,そうであるならば,中出しをされるAV女優すべてが,優秀な霊能力者になってもおかしくない。でも,そんな事実はない。


 何かが違う,,,


 でも,考えてもしょうがないので,子宮に注入する方法を言うことにした。


 美澪「針のない注射器で,精子を膣の奥に注入して,子宮に流し込みなさい。でも,それだけではダメよ。夏江さんは,精子のオーラがわかるのでしょう?そのオーラを子宮に吸収できると信じて,オーラを吸収していってちょうだい」

 夏江「精子のオーラを子宮で吸収する?そんなことできるの?」

 

 美澪は,きっぱりと言った。


 美澪「できるできないの問題ではないわ。できると信じて,精子からのオーラを奪い取るの!せっかく,健康で元気な精子を選別したのでしょう?1回でダメなら2回,それでもダメなら,成功するまで試みなさい!!」


 美澪のアドバイスも,なんか無茶苦茶になってきた。でも,夏江は,ここまで来た以上,その言葉を信じるしかなかった。


 夏江は,美澪のアドバイスに従って,20cc容量の針を取り付けていない注射器で精子を吸い取って,膣の奥にゆっくりと注入した。かなりの精子が膣から溢れ出した。うまく,子宮内に入ってくれなかった。何度か,同じ動作を繰り返した後,なんとか効率よく子宮内に注入することができた。


 夏江は,自分の意識を子宮内部に集中して,精子のオーラを強く感じ取ることに集中した。子宮全体がほのかに暖かくなってくるのを感じた。夏江は,精子のオーラを子宮が吸収しようと思ったが,そんなことができるはずもなかった。


 夏江は,美澪に苦境を訴えた。


 夏江「やっぱり無理だわ。オーラを吸収するなんて無理よ」

 

 夏江がレベルアップしないと,美澪にも不利益が生じる。そこで,美澪は夏江にイメージの方法を変えてみた。


 美澪「だったら,霊体離脱して,子宮内に侵入しなさい。そこで,精子のオーラを食いちぎっていきなさい」


 美澪のアドバイスは,もう,さらに荒唐無稽になっていた。でも,その通りに試してみることにした。精子から発せられるオーラは認識できる。ならば,食いちぎることだって,できるではないか??


 ガブッ!ガブッ!


 夏江の霊体は,子宮内の精子から発せられるオーラを食いちぎっていく動作をするたびに,精子から発せられるオーラが淡くなっていった。


 このことを知って,夏江は食いちぎることを繰り返すことで,精子からのオーラを吸収できることを発見した。夏江は,嬉しさのあまり,美澪に最大級の感謝の’言葉をかけた。


 夏江「わたし,ほんとうに精子からオーラを吸収できるようになったわ。なんか,信じられない!!」

 美澪「子宮の中って,特別な空間だから,吸収できても不思議ではないわ」

 夏江「それって,子宮内でしか吸収できないってこと?」

 美澪「そうよ。所詮,オーラを吸収するのは子宮であって,霊体ではないからね」

 夏江「ええーー?じゃあ,わたしが食いちぎっているその動作って,いったい?」

 美澪「まあ,子宮に隠れた能力を目覚めさせるきっかけしかないと思うわ。霊体は,結局は肉体からエネルギーをもらっているのよ。霊体だけで存在することはできないのよ」

 夏江「・・・,じゃあ,美澪は,どうやって存在しているの?」

 美澪「ふふふ,,,」


 美澪は笑うだけで答えなかった。美澪が答えなくても,彼女に憑依されたことのある夏江には,その答えをある程度憶測できた。


 憑依された後,夏江には『恐怖』,『恐れ』などの負の感情が生じなかった。このことから,美澪は人に憑依して負の感情を糧にしている悪霊というべき存在だと思った。


 その後,美澪と夏江は,翌朝まで,寝ることなく『双修』を行った。


 その行為は,美澪にとっても,夏江にとっても,思いの外,有益な行為だった。


 夏江は,たった一晩の『双修』によって,霊体離脱時間を,2時間にまで延ばすことが可能になった。美澪も,まだ試してはいないものの,他人への憑依能力が数段レベルアップしたと感じることができた。


 かくして,その日の朝,自分の意識を取り戻した多留真は,訳がわからないまま,夏江に催促されて,朝食をとってから,そそくさと札幌出張に出かけた。


 多留真は,昨晩,確かに夏江を犯したはずなのに,その記憶がまったくない。それに,奇妙なことに,夏江はベッドの側に置いてある人形をアクセサリでも飾るかのように,右肩の上に固定させていた。


 多留真がその理由を聞くと,夏江はこうすることで,「人形から残った悪霊のカスが抜けていく」と説明した。多留真は,その説明に納得しなかったし,霊能力を持たないはずの夏江が,どうしてそんなことがわかるかと不思議に思った。


 夏江は,自分が霊能力に目覚めたという事実を,どのタイミングで公開するか推し量った。できれば,警視庁長官のいる前で,その能力を証明し,多留真に頼ることなく,より重要な仕事が引き受けられるようにしたいと考えた。


 

 ー 道警本部,小百合部長刑事の部屋 ー

 

 その部屋には,夏江や多留真だけでなく,α隊隊長,その部下である5号と6号,さらにSART隊の長距離狙撃隊2名もいた。


 彼らは,小百合部長刑事から,大々的な会議を行ってから,現場に向かうものと思った。だが,小百合部長刑事は,夏江たちが思っている以上に,物事をテキパキと進めるタイプの人だった。


 小百合「あなた方が来たということは,水香の時のように,万一のことがあっても,対処可能ということですね?では,細かな話は道すがら行いましょう。すでに,モモカの逮捕状は取っています。その経過なども,後からでいいでしょう。では,犯人逮捕に向かいます」


 小百合はそう言って,有無を言わさず,彼らを連れて,虚道宗に向かった。


 ーーー

 

 道警が用意した車の中で,α隊隊長は,夏江が右肩に配置している人形を見て,小言を言った。


 α隊隊長「夏江,なんでお前にお預けた人形を肩の上に置いているんだ?腹話術師にでも転職するのか?」

 夏江「腹話術師か,,,ふふふ,それもいいですね。ほんとうに,転職できるかどうか,ちょっとやってみましょうか?」


 夏江は,大学時代,落語研究会に少し席を置いたことがある。そこで,腹話術のマネごとをした経験があった。折角,α隊隊長がわざわざ腹話術師という言葉を使ってくれたので,その言葉に乗ることにした。


 人形の中に宿す美澪の霊体は,今は,禍々しい雰囲気,つまり強烈な負のオーラを出していない。彼女が夏江の体に憑依した際,三鈷杵のパワーによって,そのほとんどが吹き飛ばされてしまったからだ。


 その後,夏江と『双修』することによって,夏江から生まれる負のオーラを栄養源として,また活力を取り戻すことができた。今の美澪は,負のオーラを,人形の体内に閉じ込めることができるので,人形から禍々しい雰囲気を感じさることはない。


 夏江は念話で美澪に伝えた。


 夏江『美澪,あのα隊隊長に,なんか言いたいことある?わたしが腹話術で,あなたの代わりに伝えてあげるわ』

 美澪『そうね,彼には,あの糞イタコを連れてくれたことには感謝しかないわ。彼女の体に強制的に憑依させられたことによって,憑依能力の感覚を身につけることができたからね』

 夏江『では,α隊隊長に語るように,わたしに話してちょうだい。わたしは,その言葉で腹話術で話すわ』

 美澪『了解よ』


 夏江は,コホン,コホンと何度か咳をしてから,腹話術の予行練習をした。そして,準備が整ったところで,α隊隊長に言った。


 夏江「隊長,わたし,これでも学生時代,落研で腹話術を練習したことがあるんですよ。では,今から披露してもいいですか?」


 虚道宗へは,車でおよそ2時間ほどの道のりだ。車内では特に何もすることもないし,α隊隊長にとって,からかい半分で夏江をからかったに過ぎない。でも,夏江が本気になって腹話術を披露するというので,それを拒む必要はまったくなかった。


 α隊隊長「ふふふ。夏江にもひとつくらいは,隠し芸があったのだな。どれどれ?転職してやっていけるか,見定めてやろうじゃないか。ふふふ」


 α隊隊長の了解を得たので,夏江は,美澪からの念話で受けた話を,そのまま腹話術で話した。


 美澪『隊長,ご無沙汰しております。わたくし,美澪と言います』


 自分のことを美澪と言った人形は,口元が動いていなかった。当然ながら,夏江が話しているのだが,α隊隊長にとっては,ほんとうに人形が話している錯覚を受けた。思わず,美澪と名乗った人形に返答した。


 α隊隊長「おお,そうだな。かれこれ1週間ぶりになるかな?」

 美澪『はい。隊長は,わたしと初めて会ったときのことを覚えていますか?あの時,隊長は,ある霊能力者を連れてきましたね』


 この言葉を聞いて,α隊隊長はびっくりした。そんなこと,なんで夏江が知っているんだ? でも,ここは,人形と会話しているふうを装っているので,その会話に合わせることにした。


 α隊隊長「ああ,そうだな。彼女は,イタコとしては超一流の能力者だった」


 彼は,『だった』と過去形で言った。というのも,美澪に憑依されてから,イタコとしても能力を失ってしまったからだ。


 美澪『それについては,隊長に感謝しないといけませんね。彼女のお陰で,憑依能力を獲得できたのですから』


 話がここまで来て,α隊隊長は人形に憑依している霊魂が,夏江の口から腹話術という形で話していることを悟った。さらに,その霊魂は,除霊されることなく人形の中に残っていることを確信した。


 α隊隊長は険しい顔になった。


 α隊隊長「あの会議の時,お前は夏江の退魔のお札で除霊されたのではなかったのか?」

 美澪『はい,もう少しで除霊されるところでした。でも,除霊される直前に,夏江さんを気絶させて,その体内に隠れることができました。ふふふ』

 α隊隊長「それって,夏江は知っているのか?」

 美澪『はい,夏江さんは承知しています。わたしが,こうして除霊されることなく人形の中にいれるのも,夏江さんのおかげです』


 α隊隊長は,夏江に問いただした。


 α隊隊長「おい,夏江,腹話術は中止だ。お前,悪霊をそのまま放置して,連れてきたのか?いったい,どういう了見だ?」


 α隊隊長と美澪,さらに夏江とのやり取りは,もちろん,夏江の近くで座っている多留真も聞いていた。多留真は,毎晩,夏江を抱こうとすると,急に意識を失った。それって,この悪霊と関係があるのかもしれないと思った。でも,今は,チャチャをいれる場合ではないと思い,事の成り行きを見守った。


 夏江は,普段の声でα隊隊長の質問に答えた。


 夏江「人形に宿している霊魂は,すでに悪霊ではありません。退魔のお札によって,悪霊から善霊に変わったのです」


 『善霊』という言葉は,普段,聞き慣れないが,α隊隊長は,浄化されない霊魂で,かつ,周囲に害を与えないという意味と理解した。


 α隊隊長「善霊だがなんだか知らないが,今から,『メリルの指輪』に憑依されているモモカを退治しに行くんだぞ! そんなときに,余計な人形の霊魂が混じっていたら,われわれの作戦行動の失敗になりかねん。お前,どうやって責任取るんだ?」


 夏江はニヤッと微笑んで答えた。


 夏江「だからこそ,この人形に宿す美澪さんを連れてきたのです。この人形との邂逅の機会を与えていただいて,α隊隊長にはほんとうに感謝しています」


 夏江はα隊隊長にリップサービスをした。

 

 α隊隊長「そんなお世辞はいらん。どうやって責任とるかと聞いているんだ!!」

 夏江「実は,美澪さんは,優れた霊能力者です。ひと目,相手を見れば,その人の弱点を見抜く力があります。それに,振り向かなくても,背後の様子を認識することもできます。そして,何よりも,美澪さんは,わたしの命令を聞いてくれます。わたしの部下,いいえ,わたしの能力の一部だと理解ください」


 相手の弱点を見抜く力は,美澪ではなく夏江の力だ。でも,今は,そんな能力を,すべて美澪が保持していると言ったほうが,話の流れとしては,スムーズだと考えた。

 

 α隊隊長「何を世迷い言を!!」

 夏江「では,隊長,賭けをしませんか?美澪さんが,ほんとうに隊長の弱点を指摘できたら,美澪さんを,優れた霊能力者として認めて,今回の作戦行動に一役買ってもらいます。もし,指摘できなかったら,美澪さんを封印して鞄の中で大人しくしてもらいます。どうですか?」

 

 α隊隊長はしばし考えてから返事した。


 α隊隊長「わたしだけでは当てにならん。この場にいる全員に,弱点を言い当てろ」

 夏江「わかりました。他の皆さんもいいでしょうか?」

 

 おもしろそうなゲームなので,皆が同意した。ただし,弱点は人に知られたくないので,紙に書いて,本人にだけ知らせるという方法とした。


 夏江は,人形の美澪に言った。


 夏江「美澪さん,では,いいですね?まず,α隊隊長の弱点を占ってくだい」


 その質問を受けて,美澪からの言葉ではなく,夏江自身の考えで,美澪の指示で夏江が話しているふうを装って,腹話術で話した。


 夏江(腹話術)「では,占ってあげましょう。うううーーー,見える,見える,みえーーーる!!えい!ヤー-!!ヤー-」


 このかけ声に従って,夏江は人形を左右に揺り動かした。


 夏江「はい。美澪さんから,隊長の弱点を指摘してもらいました。では紙に書きますね」


 夏江は手帳を取り出して,スラスラと弱点を書いて,その部分を切り取って,4つ折りにしてα隊隊長に渡した。彼は,隣に座っている連中に見えないようにして,紙を広げた。


 そこには次のように書かれてあった。


 『隊長の弱点は生まれたばかりの愛娘。体の弱点は右膝。以前,外傷を受けた傷から完全に回復してない』


 この内容を見て,α隊隊長は愛娘は別にして,右膝のことはα隊の隊員なら皆知っている事実だ。でも,夏江が知る可能性は低い。ほんとうに,美澪の人形が見抜いて夏江に伝えたのか??


 α隊隊長「どうやら,それなりに『みえる』ようだな」

 夏江「じゃあ,隊長の弱点を当てたのですね?よかった。じゃあ,次は,5号さんですね?」

 

 夏江は,同じように,5号,6号,さらにSARTの狙撃隊らの弱点をすべて当てていった。最後に多留真の番だ。


 夏江「では,最後に多留真課長ですね?では,美澪さん,多留真課長をお願いしますね」

 

 夏江は,これまでと同じように美澪の指示で夏江が話しているふうを装って腹話術で話した。


 夏江(腹話術)「では,多留真課長を占ってあげましょう。うううーーー,見える,見える,みえーーーる!!えい!ヤー-!!ヤー-」


 このかけ声に従って,夏江は人形をかなり強めに左右に揺り動かした。そして,,,


 夏江「プッ!!」


 夏江は思わず,笑ってしまった。そして,すぐに手帳に彼の弱点を書いて,他の人に見えないように多留真に見せた。


 それを受け取って見た多留真は,見る見る顔を赤くしていった。


 多留真「てめえ!こんな事書いていいと思っているのか!!」

 夏江「だって,美澪さんがそう言ったから,そのまま書いただけですけど?」


 夏江は,『それが何が悪いの?』と言葉を続けたかったがやめた。


 多留真は怒って,こんな狭い車内なのに叫んでしまった。


 多留真「止めだ止めだ。夏江の言っているのはうそ八百だ。人形に霊能力を任せること事態おかしなことだ。夏江はその真偽を見極められるのか?隊長が言ったように責任をとれるのか?」


 車内の皆は,いったいどんなことが書かれているのか興味津々だった。だが,状況から判断して性的な欠陥を指摘されたのではないかと推定した。


 事実,その手帳に書かれた内容は,『あの部分が疲れていて,射精能力が大幅に低減。女性の愛し方が下手くそ!!相手の女性のことを考えていない。あそこに入れればいいという野蛮な思考の持ち主!!そして,インポの再発!!』


 この内容は,オーラを読み取るのとはまったく関係がなかった。確かに彼のオーラを観察すると,あの部分に疲れが出ているのが判明した。そんなことは観察するまでもなくわかっていることだ。美玲に憑依されて,あの部分を無理やり勃起状態にされられて,『双修』を何時間も継続させられたのだ。あの部分が疲労困憊して,またインポ状態になってしまうのも無理からぬことだ。


 夏江は,わざと腹話術を使って返事した。


 夏江(腹話術)「多留真はインポー!多留真はインポーー!」


 「ハハハーー」


 この言葉で,多留真以外,車内の全員が大笑いした。多留真はもともと顔が赤かったのに,ますます顔を赤くした。


 パチーン!


 多留真は,夏江の肩に乗っかっている人形を叩いた。その人形は,夏江の肩から弾き飛ばされた。


 彼は夏江を叩きたかったが,もし,ほんとうに叩いてしまうと,夏江と別れ話になってしまう。そこまでの勇気はなかった。


 夏江は腹話術で文句を言った。


 夏江(腹話術)「痛ーい! ほんとうのことを言われたからっといって,ブツことないでしょ!!」

 多留真「ふん!どこが本当のことだ!どうせ,隊長も,ほかの連中も適当にお前のお遊びに付き合っているだけだろう!」


 そう言われて,『さすがは多留真課長だ。的を得ている』と思ったのは,α隊隊長以外の連中だった。


 ここに来て,多留真は思い切った行動に出た。向かいに座っているα隊6号の手に持っている紙をかすめ取った。大笑いをした後なので,多留真の行動を回避する余裕はなかった。


 多留真は,その紙を広げてますます顔を赤くした。


 多留真「夏江!これはなんだ!!イカサマじゃないか!!」


 多留真は,その拡げた紙を夏江に突きつけた。


 そこには,こう書かれていた。

 

 『適当に話をわたしに合わせてね♥ 後で,おいしいコーヒーをご馳走してあげる♥♥』


 夏江は,α隊隊長と多留真以外の皆には,同じ文言を書いて渡していた。かつ,彼らは,いとも容易くコーヒー1枚で買収された。


 人形に悪霊がいようといまいと,所詮,モモカを遠距離から射殺するだけの仕事だ。体勢に影響はない。それなら,コーヒー1杯でも話を夏江に合わせるのがおもしいとの判断だ。


 夏江のイカサマはバレてしまった。それに鋭く反応したのは,他ならぬα隊隊長だ。


 α隊隊長「夏江!!お前,イカサマだったのか!お前,なんで人形を除霊するのにイタコを連れて来たことを知っているんだ?それに俺の膝のこともだ!」


 ここに来て,人形にほんとうに霊魂が宿しているとも言えなくなってしまった。そこで,イカサマとして通すことにした。


 夏江は,大きく溜息をついて,観念したかのような素振りを見せた。自分でも,演技がうまくなったと思った。それなりに,年の功かもしれなかった。


 夏江「あの会議でわたしが気絶しのは間違いなく人形に宿した霊魂のせいです。わたしが室長の機転によって,意識を取りももどした時,一瞬ですが,その霊魂の記憶が流れ込んできました。

 たぶん,除霊されるときに,記憶の一部をわたしに残したかったのでしょう。その記憶があるから,隊長の話に合わせることができました。それに隊長の膝のことは,茜から聞いて知っていました。でも,イカサマがバレるとは思いませんでした。フフフ」


 夏江は,自分が悪女になったのかもしれないと思った。処女を失ってから,守るべきものを失ったのもあるが,それなりに霊能力を身につけたので,罪のないイカサマをする冒険心が沸いたのかもしれない。

 

 α隊隊長「夏江,じゃあ,人形には霊魂がもう残っていないのか?」

 夏江「そうですよ。三鈷杵の聖液によって完全に払われました」


 聖液を精液と聞き取った連中は,ニヤニヤした。そのニヤニヤを見て,夏江は言い直した。


 夏江「聖液って,精子の『精』ではなく,聖職者の『聖』に,液体の『液』ですよ。ニヤニヤしないでください!!」

 

 α隊隊長は,これ以上,夏江に翻弄されたくなった。


 α隊隊長「まったく,人騒がせな。だったら,その人形を肩の上に置くな!辺に誤解を与える」

 夏江「そうですか?いいアクセントになると思ったのですが?」


 その人形は,高さが13cmほどの小柄な人形だ。でも,肩の上にあると,かなり目立ってしまい,なにか特別な意味があると思ってしまう。


 夏江は,多留真に叩かれた人形を大事に抱いて,ちょっと背を向けて,周囲の目を避けるようにして,Eカップの谷間の中に差し込んで,人形を完全に見えなくした。


 夏江「人形はもうしまいました。このお遊びはここまにしましょうか?」

 

 この言葉に,α隊の5号は納得しなかった。


 5号「でも,コーヒー1杯は有効だぞ」

 夏江「もちろん,大丈夫ですよ。『おいしいコーヒー』をご馳走してあげますから』


 夏江は,『おいしいコーヒー』という部分を強調した。だって,自販機の中に,『おいしいコーヒー』という銘柄の缶コーヒーがあるからだ。


 夏江のおかげで,虚道宗に行くまでの2時間の行程は,まったく退屈しないものだった。



 まもなくして,彼ら一行は虚道宗に着いた。


 そこの門番から,いくら警察といえど,逮捕令状がない限り,敷地内に一歩たりとも入れることはできないと言われた。それは,虚道宗の厳格な決まりだ。


 しかし,小百合部長刑事が逮捕令状を見せると,いくら虚道宗といえど,どうすることもできない。彼らは,門番によって宗主邸に案内された。


 ーーー

 


 


 


 

 

 


 


 


 

 


 


 


 

 

 


 

 


 


 





 


 


 



 



 


 


 


 



 

 

 

 


 

 



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