29 オミレの目的

 モモカは,行き交う門弟にオミレの居場所を聞いて廻った。やっと,昇進試験を受けていることを突き止めた。


 昇進試験とは,内弟子内でのランク付けをする試験だ。オミレの場合,内弟子になったばかりなので,51番目のランクだ。上位5名以内に入らないと直弟子になる資格は与えられない。皆が,トップ5になるために,厳しい修行をすることになる。仮にトップ5に入らなくても,トップ20に入れば,虚道宗の『道士』としての資格が得られ,地方で『虚道流道場』を開くことが許される。


 なんせ虚道宗は,知るものが知る『超能力』を操ることが可能な武道だ。子供達の憧れの武道だ。地方で道場を開けば,多くの子供が集まるのは必定だった。


 モモカが試験会場に来ると,ちょうどオミレが,昇進試験を受けるところだった。今日は,オミレのための昇進試験と言ってもいい。オミレの実力がまったく不明なため,特別に昇進試験を催した。


 第3師範はオミレに声をかけた。


 師範「オミレ,お前は今,51番目のランクだ。希望するランクをいいなさい。その者と試合を行う。もし,勝てばそのランクが与えられる。もし,負ければ,向こう3ヶ月は,昇進試験を受ける権利を失う」

 

 オミレは,少し考えてから返事した。


 オミレ「では,35番でお願いします」


 この声にどよめきが湧き上がった。35番,,,かつては,トップ5に位置していた人物だ。だが,左手を怪我してしまって,昇進試験に負けた経緯があった。最近,やっとその左手も治って,これからトップ5に返り咲こうという時期だった。


 オミレは,そんな事情までは知らない。ただ,中間よりも,ちょっと低めの35番くらいなら勝てそうだと思った程度だ。


 かくして,試合場に35番のハヤトとオミレが立ち並んだ。


 彼らは審判である第3師範に頭を下げて,それぞれの位置に着いた。


 師範「では,今から試合を行う。試合時間は15分。試合場のサークルから出ると失格となる。また,試合不能でも負けとなる。途中で試合を放棄したい場合は,『まいった』と言えばいい。使用する武器は,紙製の呪符のみとする。使用する呪符の枚数は10枚まで。尚,顔面と股間部への攻撃は禁止とする」


 師範は,その後,細かな注意事項を説明した後,試合の合図を出した。


 師範「では,試合,始め!」


 モモカは,虚道宗とはいったいどんな武道なのか,この試合でわかると思って,わくわくしながら試合の行方を見守った。


 ハヤトは,オミレに言った。


 ハヤト「今から放つ技は,俺が精魂込めて創った特別製の呪符を使う。どうだ?今なら,まいったと言えば怪我しなくていいぞ」

 オミレ「ご心配ありがとうございます。でも無用です。遠慮なくその呪符を発動してください。その攻撃に耐えてみせます」

 ハヤト「そうか?では,掛けをしないか?お前が勝ったら,そうだな,,,5万円あげよう。でも,俺が勝ったら,一晩,俺と付き合え」


 このような賭け事は,この虚道宗では推奨されている。娯楽がまったくない場所なので,賭け事をすることで気分転換が図られている。ちなみに,試合当事者の賭け事とは別に,観戦者もどちらが勝つかで掛け金をかけている。


 オミレはハヤトの提案に同意することにした。


 オミレ「いいでしょう。負けても一晩だけ付き合えばいいだけですから,,,」

 

 かくして,両者の試合が始まった。ハヤトの腰には,バンドに取り付けられた呪符入れが10個ほどある。つまり10枚の呪符を用意していることがわかる。一方,オミレの場合,両方の太ももバンドに5個ずつの呪符入れが取りつけられている。やはり呪符を10枚準備していた。


 ハヤトは,自己最高レベルの5品の威圧呪符を呪符入れから取り出した。


 威圧呪符とは,相手の動きを制限させる呪符のことだ。呪符にはいくつかの種類がある。この威圧呪符は基本中の基本だ。相手の行動を制限する呪符だ。1品から9品までのランクがある。数字が大きいほうがレベルが高い。低レベルの呪符では,行動制限は1割程度だが,高レベルになると,完全に行動停止をさせることもできる。しかも,耐性の弱い相手の場合,血液の流れを止めて心臓さえも止めてしまう。


 この呪符の攻撃に対して,防御するのが防御呪符だ。しかし,防御呪符は念の込め方がまだ確立しておらず,実用段階には至っていない。その代わり,自分の体力を増強する強化呪符を用いることで,防御の役割を代用させるのが一般的だ。この強化呪符も基本中の基本の呪符だ。

 

 ハヤト「エイ---!!」


 ハヤトは5品の威圧呪符を放った。内弟子のレベルでは,通常3品までのレベルが普通だ。5品ともなると,直弟子か師範レベルになってしまう。


 威圧呪符から半透明の黒い光線がオミレに向かって発射された。それは呪符から円錐状に放出された。多少躱したところで躱せるようなものではない。


 この攻撃に対して,オミレは,3品の強化呪符を繰り出した。

 

 威圧呪符と強化呪符,この2種類の呪符をマスターすることが,この虚道宗で修行する目的と言っても過言ではない。


 だが,ハヤトの呪符のほうが優れていたため,動きを2割ほど制限を受けた。


 威圧呪符や強化呪符が効果を発揮できる時間は10秒。それによって,相手を弱めたり,自分を強化して敵を打つ。10秒あれば敵を打つには十分な時間だ。


 ハヤトは威圧呪符の効果が発動している10秒の時間を利用して,ハヤト得意の回し蹴りをオミレに放った。攻撃場所はオミレの横腹だ。


 いくらオミレが行動制限を受けているとはいえ,ハヤトの回し蹴りは,オミレの片腕が横腹を守るようにして,彼の攻撃を防いだ。そのとき,オミレの右手は,ハヤトの右足首に触ることができた。


 ハヤトやオミレも,空手は有段者だ。というのも,虚道宗に入門する条件として,空手,合気道などの武道で,有段者であることが必須条件だ。それら武道の基礎があって,さらに呪符によるチート的な手法によって,超人的な強者になりえる。もっとも,地方で道場を開く場合,効果の弱い呪符を謳い文句にして,体の弱いものでも,呪符の力を借りて強者や超人になれると子供たちを勧誘するのが一般的だ。


 ちなみにモモカも,剣術で有段者であるとうそぶいた。もっとも,モモカの前世が剣術に造詣が深いという認識を持っていたからかもしれない。


 呪符同士の対決の場合,相手に体の一部を触られるのは,もっとも忌み嫌うことだ。


 ハヤトは,数歩引き下がって,すぐに3品の強化呪符を取り出して自分の右足首を強化した。というのも,オミレが何らかの呪符で右足首を不能にさせている可能性があるからだ。


 相手に接触させて使用する呪符の場合,効果の持続時間はさまざまだ。長い場合で1周間も持続することもある。


 オミレがいったいどのような呪符を右足首に展開したかは不明だが,ハヤトは,右足がまだ動く間に,決着をつければいいと判断した。速戦即決だ。


 ハヤトは,5品の威圧呪符5枚を取り出して,オミレに『威圧連続攻撃』を放った。

 この攻撃をまともに受けてしまうと,死ぬことも十分にありえるし,死なないまでも意識を永遠に失ってしまう可能性もあるほどの連続技だ。仮に,うまく防御したところで,身動きできずに,ハヤトのキックで場外に放り出される運命だ。

 

 誰もがそう思った。


 5品の威圧呪符5枚から,半透明の黒い光線が発射された。


 ヒューーー,ヒューー,ヒューー,ーーー !


 この攻撃は,オミレにとって想定の範囲内だ。オミレが用いた呪符は,とっておきの5品の強化呪符だ。それら4枚を,自分の両足のスネと太もも部分に施していた。これによって,自分の脚による動作を1.5倍にまで強化させることが可能だ!


 オミレの加速された動作は,威圧呪符の攻撃を余裕をもって躱した。オミレは,ハヤトの背後に回って,ローキックでハヤトを地に倒して,手刀をハヤトの首下に突きつけた。


 師範「勝負あり!そこまで!!この勝負,オミレの勝ち!!」


 「わぁーーー!」

 「あの速度って,5品の強化呪符なの?すごーーい!!」

 「ちょっと,オミレって天才かもしれないわ」

 「早く知っていれば,掛け金5万円も損しないで済んだのに!!」

 「おれもだーー」


 などなど,観戦者からの感嘆の声が聞こえた。この予想外の結果に,ハヤトが勝つと思って,掛け金を投じた門弟たちは,掛け金が戻らないことを嘆いた。一方,オミレに掛け金を投じたごく一部の門弟は,掛け金の10倍ほどにもなって戻ってきた。


 師範「この試合結果により,オミレは順位を35番とし,ハヤトは51番となる。今日の昇進試験はこれで終了とする,各自,解散!」

 

 試合開場から観戦者が次々に去っていった。負けたハヤトは,オミレに自分の足首施した呪符の内容を聞いた。すると,オミレは,それはフェイクであって何も施していないという返事だった。ハヤトは,一言,「作戦負けだな」と言って,この試合開場を後にした。


 モモカは,初めて虚道宗の試合を見た。彼女にとって驚きだったのは,呪符で肉体強化ができ,加速も可能だということだ。魔法も霊力も使わずに,どうやったらそんなことができるのか?呪符に何か秘密が隠されているには間違いないと思った。


 でも,今は,とりあえずは,オミレに面談を申し込むことが先決だ。モモカは試合場から降りてくることを待ち構えていた。


 モモカが声をかける前に,オミレからモモカに声をかけた。


 オミレ「あら?あなた,もしかして,『特罰』を受けていたモモカさん?」


 意外にもオミレからこんな声が掛けられた。その後,オミレから積極的にお茶しないと誘われて,オミレのいる内弟子の住む家に向かった。内弟子は,贅沢にも一軒家が充てがわれる。一軒家と言っても,一階平屋建ての2DKの間取りだ。ひとりで住みには十分な大きさだ。


 モモカはオミレの部屋に通されて,コーヒーだけでなく高級そうなケーキも差し出された。


 モモカ「あの,,,こんなにしていただいてありがとうございます。こんなごちそうをいただいてしまったら,頼み事があっても断れそうもありませんね」


 モモカは,冗談半分に言った。ところが,この言葉にオミレは鋭敏に反応した。


 オミレ「ふふふ。そうよ。実はそれが目的なのよ」

 モモカ「え?わたしに何か頼み事でもあるの?」

 オミレ「そうよ。頼み事と言っても,正直に質問に答えてもらうだけでいいのだけどね」


 モモカは,何かいやな予感がした。モモカは,叩けばホコリが山ほど出る身だ。絶対にボロを出してはいけない身だ。


 オミレ「実はね,わたしたちが入門試験の前日から,失踪者が出始めたらしいの。モモカさんが怪しいということで,『特罰』を受けたと思うけど,その期間中にも失踪者が山ほど出たのよ。ざっくり100人以上にもなるわ。あまりにも異常だわ。でも,それができるのは,皮膚と皮膚の接触による呪符だと思うの」


 この話はモモカにとっては初耳だ。


 モモカ「わたし,そんな話はぜんぜん聞いていませんけど?」

 オミレ「そうでしょうね。虚道宗の方針として,無用な心配を門弟にさせたくないということで,情報を隠蔽することにしたらしいのよ。その代わり,わたしみたいな治安隊候補を10人ほど選定して,犯人捜しをさせることにしたの。わたし,治安隊に入りたいのよ。協力してくれる?」

 モモカ「協力と言っても,何をすればいいの?」


 モモカはとぼけた。オミレは再びニヤッと笑った。


 オミレ「簡単なことよ。失踪事件の犯人って,実は,あなたなんでしょう?」


 モモカは,まさかずばりと自分が犯人だと指摘されるとは思ってもみなかった。


 モモカ「あの,,,わたしが犯人だという証拠でもあるのですか?」


 オミレは,ニヤニヤとした。


 オミレ「状況証拠って感じかな?だって,わたしは犯人でないなら,あなたしかいないわ。それに,『特罰』を受けるってことは,肌と肌との接触があるんでしょう?呪符使いにとっては,いくらでも相手を翻弄する手段があるはずよ」


 モモカは『呪符使い』の意味が意味がよくわからなかった。


 モモカ「わたし,呪符使いってよくわからないの。そもそも,その呪符っていったい何なの?どうやって造るの?」

 オミレ「いくらでも教えてあげるけど,でも,自分が犯人だって白状しなさい」


 モモカは,どうするか迷ったが,白状するとどうなるかを確認した。


 モモカ「わたし,犯人ではないけど,でも,もし犯人だと言ったらどうなるの?」

 オミレ「そうね,,,どうやって失踪させたかにもよるけど,治安隊に拘束されて,また『特罰』を受けるでしょうね。でも,あなたが,皮膚の接触で呪符を使ったとしたら,皮膚接触をしない方法で罰を受ける感じかな?」

 モモカ「警察には届けないの?」

 オミレ「失踪だけだからね。生きているのか,死んでいるのかまったくわからないから,警察には連絡しないと思うわ。内部でケリをつけると思う」 

 

 モモカは思い切って,自分が犯人ということにして,2つの条件を出した。


 オミレ「じゃあ,失踪事件の犯人は,わたしでいいわ。そのかわり,2つ約束して。ひとつは,呪符の作り方を教えてちょうだい。もうひとつは,オミレさんの推薦状の秘密を暴露してちょうだい」


 呪符の作り方はともかく,この2番目の推薦状の言葉に,オミレはビクッとした。


 オミレ「あなた,まさか,推薦状に細工しているって,知っているの?」

 モモカ「第5師範が気絶したのって,それくらいしか考えられないのよ。オミレさんは師範に恨みでもあるの?」

 

 オミレは,しばし考えてから言った。


 オミレ「どうやら,お互い,スネに傷があるようね」

 モモカ「そうかもしれないけど,確実に証拠が残っているのはオミレさんよ。このことがバレたら,オミレさんは治安隊には入れないでしょうね」


 オミレは,どうするか迷った。そして,出した結論は,,,


 オミレ「わかったわ。失踪事件については,あなたは犯人ではないことにしましょう。そのかわり,別の犯人を指定して。それと,その推薦状をわたしに返してくれる?廃棄して証拠隠滅するわ」

 

 モモカはこの提案に乗った。かくして,オミレとモモカは,お互いの罪を隠蔽することにした。もっとも,この場だけかも知れないが,,,,


 オミレの話は,モモカにとっては,かなりびっくりするような話だった。


 そのオミレの話とは,以下のような内容だった。


 オミレ「呪符って,すごいパワーを持っているいけど,一番大事なのは,その呪符の元になる『基呪符』を創ることにあるのよ。でも,その作り方は今でも隠蔽されているの。実は,わたしの親戚の家でそれを創っていたのよ。でも,その仕事をしている職人が病気になってしまって姉がその仕事をときどき手伝うたようになったの」

 モモカ「ふーん,,,その『基呪符』はどうやって造るのですか?」

 オミレ「ある洞窟で発見されたある鉱石に,紙を一定時間安置することで得られるわ。その放置期間によって,1品から9品に分類されるの。5品で安置期間は1年程度よ。でも,それ以上安置させると,紙がぼろぼろになってしまうの。紙の限界ね。だから6品以上は,特別な強化紙か,木製とか金属を使うことが多いわ。もっとも6品以上にもなると,1枚50万円以上にもなってしまうし,取り扱いも不便だから,ほとんど使われることはないわ」


 この説明を受けて,モモカは『ある鉱石』が,もしかしたら魔鉱石を示すのではないかと思った。


 モモカ「じゃあ,あの推薦状も,基呪符を使って作成したの?」

 オミレ「正解よ。あの推薦状の紙は3品相当の基呪符よ。3品では,師範のような呪符パワーに抵抗力を持っている者には効果はぜんぜん不十分なの。そこで,赤札にして5品相当に増強したのよ。赤札は,その基呪符に処女の血を塗るだけでいいからね」


 モモカ「処女の血?赤札?」

 オミレ「そうよ。基呪符に処女の血を塗ることで,その効果を引き上げることができるの。それを赤札と呼んでいるわ。それも,いろいろな怨念のこもった血ならなお結構よ。怒り,恐れ,恐怖,嫉妬,悦楽,どんな感情でもいいわ」

 モモカ「怨念,,,の血?」

 オミレ「例えば,ペットの猫を虐待し続けて,恐怖心を植え付けた後,その血を使ってもいいのよ。増強効果はほとんどないけど,基呪符の指向性を付与させることができるわ」

  

 モモカは,呪符の造り方を知っても,自分で作れそうもないと思ったので,これ以上細かく聞くのはやめた。そのかわり,オミレのことを聞いた。


 モモカ「あなたのこと,もっと教えてくれる?」

 オミレ「何を知りたいの?」

 モモカ「そうね,,,あなたがこの虚道宗に入門した目的も教えてもらえないかしら?」

 オミレ「簡単よ。姉の捜索よ。姉はこの虚道宗に入門したあと,失踪したのよ」

 モモカ「姉の捜索?」


 オミレは何度か溜息をついてから,詳しく説明していった。


 オミレ「わたしは,姉が基呪符のバイトを始めた頃に,その縁もあって,地元の虚道派道場に通うようになったわ。そこでは,空手と効力の弱い呪符を組み合わせた武道を教えていたの。3年前のことだったわ。


 姉は基呪符造りのバイトをしていたのよ。その縁もあってか,呪符にまつわる呪詛の世界に強い関心を持つようになったの。その技能を引き上げるため,虚道宗の門弟になったの。もう半年前のことよ。姉の場合も内弟子から始めて,まもなく直弟子になったわ。その昇進に貢献したのが『赤札』よ。


 赤札の知識は,まだ虚道宗でも知る者は少ないわ。だって,血を使うのって,どう考えても犯罪の臭いしかしないからね」


 モモカ「あなたのお姉さんは,動物の血を使って,赤札を造っていたの?」

 オミレ「姉は,自分の血を使っていたと思うわ。だって,誰にも迷惑をかけないしね」

 モモカ「ええーー!自分の血?」

 オミレ「そうなの。自分の血を使うから,念をより強く込めやすいんだって」


 モモカは唖然とした。なんとも狂気の世界だと思った。そういうモモカだって,すでに狂気の世界に入り込んでいるのだが,,,


 モモカ「赤札造りって,死と隣り合わせなのね」

 オミレ「そうかもしれないわ。姉は,直弟子になった時,とっても嬉しかったらしいわ。でも,間もなく失踪してしまったの。いまでも行方不明なのよ」


 モモカ「それと推薦状って,どう関係あるの?」

 オミレ「あの第5師範は,姉の採用を決めた人物よ。わたしの推薦状を見たら,何か反応するかもと思ったの。でも,彼,あの推薦状が呪符だとも気がつかなかったし,わたしを見ても,姉の妹ということもわかっていないようだったわ。ただのボンクラと同じね。姉を探す手立てが見つかると思ったけど,ガッカリだわ」


 モモカは,クスクスと笑った。彼女は一番知りたいことを聞いた。


 モモカ「ところで,呪符を使って,どんなことができるの?」

 オミレ「呪符って,人の念を増幅する装置みたいなものよ。人の思いって千差万別よ。相手を不眠症にしたい,インポにしたい,びっこにしたい,もてなくさせたい,などなど,いくらでもあるわ」

 モモカ「それって,呪詛的なものってこと?」

 オミレ「そうよ。呪詛にも応用できるわ。だから,ここで2,3年ほど修行すれば,『呪術師』としてもやっていけるほどよ」


 オミレは,ここで一息ついて,話をモモカに振った。


 オミレ「次はあなたの番よ。あなたも,自分の秘密を白状しなさい」


 モモカは,自分の身代わりの犯人を,すべてを自分のしている指輪のせいにすることにした。事実,そうなのだが,,,


 モモカ「失踪者については,わたし,まったくわからない。でも,もし,わたしのせいだとすれば,それは,この指輪が原因だと思うわ」


 モモカは,オミレに指輪をみせた。


 オミレ「え?指輪のせい?その指輪って,いったい何なの?」

 モモカ「なんて言えばいいのかな? 今,オミレさんが言ったように,この指輪は,人の念を増強させることができるの。相手を失踪させるような念が込められているの」


 モモカはそう言いながら,すでに意識体が消滅した指輪に,素の霊力を流し込んだ。素の霊力は,基呪符と同じように,イメージを増強させる役割がある。指輪を犯人に仕立てるには,それで十分だと思った。


 オミレ「ハハハ」

 

 オミレはひとしきり笑った。


 オミレ「あんた,わたしを馬鹿にしているの? 指輪に人を100人以上も失踪させるような,超強力な念が込められるわけないでしょ! 9品の呪符を使ったって,数人ほど踪させるほどの精神支配ができたら大成功よ」


 モモカ「オミレさん,ともかく,失踪犯の元凶である指輪を受け取ってちょうだい」


 モモカは自分のしている指輪を外してオミレに渡した。オミレは,指輪が自分の皮膚に接触して,指輪からの呪詛の影響を避けるため,手にハンカチを置いて,そこに指輪を置いてもらった。


 モモカはさらに言葉を続けた。


 モモカ「すべてはこの指輪が悪いのよ。わたしからではなく,どこかでこの指輪を拾ったことにしてくれたら嬉しいわ」


 オミレは,受け取った指輪が何か強大なパワーを持っているのを感じた。呪符使いとして修練したオミレだ。この指輪がただならぬパワーがあるのを感じた。


 オミレ「確かにこの指輪から何かしらのパワーを感じるわ。でも基呪符ともちょっと違うみたい。この指輪を犯人にするには,失踪者がこの指輪に必ず触ったという事実がほしいわね。何かいい案ある?」

 モモカ「わたしが特罰で受けた部屋の机のところにあったと言えばいいんじゃない?」

 オミレ「ふふふ,単純ね。でも,それ,いいかもしれないわ。あっ,それと,推薦状も返してちょうだい」


 モモカは,約束通り推薦状を返した。それを受け取ったオミレは,モモカに虚道宗に来た目的を尋ねた。モモカは,正直に彼女の目的を伝えた。


 モモカ「わたしがここに来た目的は単純よ。宗主,源武朗って人を殺すことよ」

 オミレ「宗主を殺す?」


 オミレは言葉を失った。予想外の目的だったからだ。気を取り直して,モモカに質問した。


 オミレ「殺すって,どうやって殺すの?」

 モモカ「そんなこと,オミレさんが心配しなくていいのよ」

 オミレ「・・・」


 オミレは,マジマジとモモカを見て言った。


 オミレ「わかったわ。せいぜい,警察のやっかいにならないようにね」


 その後,お互い情報交換をしてから,モモカは家から出ていった。モモカを送ったオミレは,すぐにパソコンを起動して,今し方,携帯の録音装置で,モモカとの会話の録音を編集し始めた。


 都合の悪い部分をカットして,モモカが自分が失踪事件の犯人であること,そして,その罪を指輪のせいにしようとしたことなどの部分をつなぎ合わせた。


 オミレは,この編集した録音と入手した指輪を治安隊の管理者である,第3師範に献納すれば,自分が治安隊に入れると確信した。


 治安隊に入れると,この虚道宗のあらゆる場所に出入りすることが可能となる。『禁地』と言われている侵入禁止区域さえも立ち入ることができる。オミレの姉の捜索に必要なことだ。



 ーーー



 


 


 


 


 



 


 


 

 


 


 


 

 

 

 




 オミレは,ここでは新人とはいえ,小さい頃から地元の道場で虚道派の武道を修練していた。かつ,その腕前は天才の名前をほしいままにしていた?

 

 


 





 ーーー 没 ーーー


 モモカ「わたしじゃありません,,,」


 一連のやり取りを聞いていた師範は,自分の考えを改めた。インポであるとはいえ,呪詛を感知できるモモカをそばに置いておくと,インポ解除,つまり,呪詛解除のヒントが得られるかもしれないと思った。


 師範「先ほどの話を訂正する。当初の約束通り,モモカをわたしの秘書にする。この件は,これで終わりだ。証拠もないのに,これ以上,モモカを罪人扱いするのも禁止だ!」


 ここに来て,急に師範は,モモカの肩を持った。


 師範は,呪詛が解けていないものの,これ以上,保健室にしても無駄だと判断した。そこで,


 

 


 

 

 



 


 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る