28 師範の秘書

 副師範はモモカを連れて,保健室に来た。師範は,昨日,意識を取り戻したものの,まだ,完全に回復しておらず,保健室で治療中だった。師範は久しぶりにモモカを見て,顔を曇らせた。彼にとっては,モモカの爆乳を独占できると思った矢先に意識を無くしてしまった。師範を気絶させたのがモモカではないにしても,どうしても,モモカを犯人の一味と思ってしまう。


 副師範は,モモカを改めて師範に紹介した。モモカには,この1週間,師範への迫害への罪として,『特罰』が与えられていたことなどを説明した。この『特罰』とは,特別な罰という意味で,副師範が独断で自由に罰を与えることができる。


 師範は,この特罰がどのようなものかを容易に類推することができた。でも,それについては言及しなかった。彼は下を向いて弱々しそうにしているモモカに言った。


 師範「モモカ,秘書の件は一旦中止だ。体がまだ回復しない」

 モモカ「え?それって,,,もしかして,いん,,,」


 モモカは,『インポ?』と聞きたかったが,その言葉を止めた。この『いん,,』の言葉だけで理解したのは,保健室にいる呪詛解除師と師範本人だけだ。


 師範「モモカ! お前,,,やっぱり,お前が俺に呪詛を施したのか?」


 モモカは,慌てて否定しようとした。だが,呪詛解除師がモモカに詰問した。


 呪詛解除師「何でお前は,『インポ』だなんて知っているのだ? 呪詛が使えるのか?」

 

 呪詛解除師は,明確に『インポ』と言う言葉を明言した。この言葉に,副師範は,思わず笑おうとしたが,慌てて両手で口を塞いだ。彼女は,笑いを隠すために,数回咳払いをしてから,呪詛解除師に言った。


 副師範「『特罰』を与えていた門弟は,モモカに会ってから,モモカのおっぱいが頭から離れないと訴えていたわ。 それも,1人や2人じゃないわ。それって,モモカの呪詛よ!モモカは呪詛使いだったんだわ!!」


 呪詛解除師「フフフ。それは,呪詛でもなんでもない。正常な男の反応だ」

 

 副師範に訴えて来た連中が言うには,通常の性的な『頭から離れない』というものとは違うようだった。でも,これ以上弁明するのは止めることにした。言ったところで理解してもらえないと思ったからだ。


 モモカは,ここままでは,秘書になれないので,なんとか師範に自分をアピールすることにした。


 モモカ『師範,わたし,呪詛は解除できませんけど,呪詛がかけられているかどうかを見分けることはできます。師範の秘書としてそばにおいてください。師範の呪詛の原因を詳しく調べることができれば,きっと解除方法も見つかると思います」


 このモモカの言葉に,半信半疑ではあったものの,師範はモモカの提案を受け入れた。ダメでもともとだ。


 師範「では,1週間あげよう。その間に呪詛の原因を調べなさい。もし,原因が判明すれば,正式に秘書として採用しよう。ダメだったら,雑用係から始めなさい」

 

 この言葉に,モモカは満面の笑顔で応えた。


 師範は,これ以上保健室にいても回復しないと判断したので,モモカを連れて,自分の師範邸に戻った。しばらく自宅療養するためだ。インポだけなら仕事に支障はない。でも,師範の場合,勃起することが,人生のすべてだ。モモカ以外にも秘書が2名いる。秘書と言っても実質の性奴隷だ。彼女達を抱けないなんて,死ぬよりもつらい。とても仕事なんてする気力が沸かない。


 師範邸に行く道すがら,師範はモモカに厳命した。


 師範「モモカ,いいか?モモカの今の身分は,わたしの秘書という立場でいい。必ず,1週間で原因を突き止めなさい。それができれば,正式に秘書として採用してあげるし,特別に奨励金もあげよう」

 モモカ「はい,頑張ります。あの,もしうまくいったら,奨励金の代わりに,宗主様に会わせていただけますか?」

 師範「そんなことでいいのか?わかった。約束しよう」


 その後,モモカは師範に,呪詛を受けたその日に行動した詳細な内容を聞き取っていった。


 その結果,通常と異なる点は,師範はモモカ以外にオミレという入宗希望者と面談したという点だ。


 オミレは成績優秀なため,すぐに内弟子として採用された。というのも,親類が呪符制作に精通しており,虚道宗から発注を受けているという商売関係があった。そのため,オミレに対しては特別に待遇した経緯がある。


 このような話を師範から聞いて,モモカは師範に質問した。


 モモカ「ということは,オミレさんは,呪符制作にも精通している可能があるのですね?それって,呪詛にも精通しているって意味ですよね?」

 師範「それは,俺も考えた。でも,呪符使いが呪詛を発動させるためには,呪符を相手に接触させる必要がある。非接触では無理だ」

 モモカ「そういうものですか,,,でも,非接触で発動できる呪符があるとしたら?」

 師範「非接触の場合,その効力の持続時間は数秒で終わる。威圧呪符がいい例だ」

 モモカ「世間でいう幽霊とか悪霊の仕業ではないのですか?」


 このモモカの言葉に,師範は思わず笑っていましった。


 師範「そんな世界もあるかもしれんが,それは俺たち人間が制御できるようなものではない。まさに,神か悪魔の仕業になってしまう」

 モモカ「・・・,じゃあ,制御できるとしたら,,,人間ではなくなってしまうのですね?」

 師範「そうとも言える。われわれ一般人が制御できる範囲を超えた世界だ。そこまで考える必要もあるまい」

 

 師範の言っていることは至極まともだった。モモカは呪詛はできないものの,霊力によってある程度の精神支配が可能だ。それでも,はやり『接触』が必須になってしまう。


 モモカは,師範にオミレとの面談の際に,オミレに接触したかどうかを詳しく聞いてみた。師範は,同時の行動を思い出した。


 師範「いや,オミレは一切触っていない。確かに美人で処女らしいが,でも,モモカのほうが魅力的だ」

 

 今は,そんなお世辞を言う場合ではないとモモカは思った。


 モモカ「他に,何かに触ったものはありますか?」

 師範「触ったとすれば,オミレの推薦状と履歴書くらいだ」

 モモカ「では,それを見せてもらえますか?何かのヒントになるかもしれません」

 師範「わかった。後で,持って来させよう」


 師範邸に着いた後,モモカは使われていない1室をあてがわれた。また,他の2名の秘書は,師範が気絶している間,暇なので,実家に戻っていったので,他に誰もいなかった。師範は,インポが治るまでは,他の秘書に連絡するのを控えることにした。だって,彼女への秘書手当は,なんと月70万円にもなるからだ。


 もちろん,師範の給与だけで賄うなど不可能だ。彼には裏金を稼ぐ手立てがあった。だが,しばらく保健室で気絶しままになっていたので,師範の裏金のルートが,おかしくなっている可能性がある。インポの原因追及は優先事項ではあるものの,裏金ルートが正常に機能していることを確認するほうがもっと重要だ。


 モモカは,師範が部屋に連れていったら,すぐにおっぱいを触るとかすると思っていた。でも,そんなことをする間もなく,どこかに消えていった。


 モモカは,自由の身になったので,この虚道宗の敷地内にあるATMのあるところに行った。この月本国ではATMの入手金の制限はない。大量の現金を自分の銀行カードに入金した。さらに,何十枚もある銀行カードの残金すべてを引き出して,自分の口座ではなく,兄のセイジの口座に移し換えた。自分の口座は,最悪,強盗殺人犯の口座として,閉鎖される可能性があるからだ。


 セイジの口座の残高は3千万円にもなってしまった。


 こんなことをしても,モモカには罪の意識はなかった。すべてはセイジ兄さんのためと割り切った。



 翌日,モモカは,師範の弟子からオミレの推薦状と履歴書を受けとった。それを見ると,何の変哲もないものだった。ぱっと見だけでは,おかしなところはなかった。


 モモカは,自室に戻って,さらにそれらを詳細に観察した。モモカには,何と言っても霊力がある。霊力をそれらに流して見た。すると,推薦状の裏側に文字のようなものが出現した。そして,しばらくしてまた消えてしまった。


 モモカはニヤッと微笑んだ。原因はどうであれ,この推薦状が元凶だと判断した。ここまで分かれば,後はオミレ本人に聞けばいいだけだ。


 モモカは,オミレのいる内弟子が修行する第3区画に移動した。


 モモカのいる場所は第5区画だ。モモカの師範は,第5師範で,雑役係を指導する師範だ。そのため,師範邸も第5区画内にある。編入試験は,第5師範の担当だ。第1から第5師範の中で,一番地位は低い。そのため,雑用がすべて第5師範に降ってくる。


 それは,彼にとっては決して悪いことではなかった。対外的な発注業務をするのも彼の担当だ。この地位を利用して業者から賄賂を受けとるのは,彼にとっては至極当然のことだった。


 それに,何と言っても雑用係の人数が圧倒的に多い。人数構成でいうと,雑用係約300名(第5区画),外弟子約150名(第4区画),内弟子約50名(第3区画),直弟子10名(第2区画),さらに特別待遇の弟子が若干名(第1区画)。現在は,特別待遇の弟子,略して『特弟子』は1名だけだ。


 

 ー 第3区画 ー

 

 モモカは,第3区画にやって来た。しかし,門番に呼び止められた。


 門番「身分証を出せ」


 他の区画から来る場合,身元を証明するものが必要になことなど,モモカは知らなかった。


 モモカ「あの,,,わたし,第5区画の師範の秘書をしています。身分証はないです。中に入らなくてもいいですけど,オミレさんを呼んでもらえませんか?」

 門番「それは無理だ。身分証を持ってこないとダメだ。出直せ」

 

 モモカはこんな状況で,何をすべきかを何度も経験したような錯覚を覚えた。


 モモカは,門番の手をとって,自分のおっぱいの上に置いた。この動作で門番は,どうすべきかを理解した。彼はふと思い出した。そう言えば,『特罰』の対象になっていた巨乳女性がいたことを。最初は,10分2千円で抱けるというふりこみだったが,そのうち,10分1万円にもなって,門番は抱く機会を逸した。もっとも,内弟子で『特罰』に参加した者は10名ほどしかいなかったのだが,,,


 門番「お前,もしかして『特罰』の対象だったのか?」

 

 その質問に,モモカはコクッと頷いた。門番は,周囲を見渡して,誰もいないことを確認した後,近くにある門番小屋に連れていき,内側からカギをかけた。


 10分後,,,


 門番小屋から出て来たのは,モモカだけだった。門番はその小屋の中で寝かされていた。モモカは独り言を言った。


 モモカ「わたしの精神支配は,かなりレベルアップしたみたいだわ。この平和な世の中,肉体強化の修行するよりも,精神支配を極めるほうがメリット大きいかもね」

 

 そんなことをつぶやきながら,モモカは無事に第3区画に入ることができた。

 

 ーーー



 


 

 


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