24 一美

ー 密香マンション 102号室 ー


 102号室には,一樹が連れてきた一美が住んでいる。モモカは,そのドアを何度かノックした。


 しばらくして痩せ型の少女がドアを開けた。彼女は,病み上がりのような病弱な様子だった。


 一美「誰ですか?」

 モモカ「わたし,一樹からあなたのことを管理するように頼まれました」

 一美「そう?それで?生活費でもくれるの?」

 モモカ「・・・」


 モモカは,気を取り直して,言葉を続けた。


 モモカ「あなたの今後の生活について,相談したいと思います。中でお話していいですか?」

 一美「今は,生活費がほしいのよ。お金がないなら出て行ってちょうだい」


 一美は,モモカを押し出してドアを閉めようとした。


 だが,そのドアは閉まらなかった。一美は何度もドアを閉めようとしたが,どうしても5cmほど隙間が開いてしまい,閉まらなかった。


 一美「え?どうして閉まらないの?」

 モモカ「このドアは,わたしを部屋の中に入れない限り,閉まりません」

 一美「・・・」


 モモカは,透明な霊力の腕を伸ばしてドアを握って閉まるのを阻止していた。一美は,訳がわからないものの,とりあえずモモカを部屋の中に入れることにした。それでほんとうにドアが閉まるのかを確認したかった。


 バタン!


 モモカが部屋の中に入ると,ほんとうにドアが閉まった。


 一美「ほんとうにドアが閉まったわね。まあいいわ。部屋にあがってちょうだい」


 モモカを部屋に入れた一美は,彼女に質問した。


 一美「それで?今後の生活についての相談って,具体的に何の相談なの?」

 

 モモカは,適当に床の上に腰を下ろしながら言った。


 モモカ「わたしには,あなたにしてもらいたいことがたくさんあるのよ。でも,無理強いはしたくないの。だから,まず,あなたがわたしにしてほしいことを言ってちょうだい。それを実行したら,わたしの言うことを聞いてちょうだい。ギブアンドテイクっていうやつね」


 一美は,ちゃんちゃらおかしかった。一美の望みなど,こんな自分とたいして年端も変わらない小娘ごとにきできるようなことではないからだ。


 一美「ふん,そんなの無理よ。絶対に不可能だわ!」

 モモカ「まだ,何も言っていないのに,なんで無理だって言うの?」

 一美「だって,人を殺すことになるのよ!!絶対無理に決まっているでしょう」

 モモカ「・・・」


 モモカは,能力の一端を示すことにした。


 モモカ「人殺しなんか屁でもないわ。それに,わたし,相手を拘束することができるのよ。呪詛でね」


 モモカは,霊力と言ってもわからないと思って,呪詛という単語を使った。この話を聞いて,一美の眼の色が光った。


 一美「それって,ほんと?」

 モモカ「ほんとうよ」

 一美「じゃあ,わたしにそれを証明して見せてちょうだい。ほんとうにできるなら,あなたにお願いしたいことがあるわ」

 モモカ「いいわよ。その代わり,それを実行したら,わたしの言うことを何でもきいてちょうだい。いいわね?」

 一美「・・・,いいわ。何でも聞いてあげる!!」


 モモカは,透明の霊力の腕を伸ばして,一美の両足首を縛った。簡単な霊力の操作だ。何の技量も必要としないレベルだ。でも,この場はこれで十分だった。


 一美「え?急に足が動かなくなった。え?ええーー,これって,ほんとうに呪詛なの?」

 モモカ「そうよ。こんな程度は,初歩的な呪詛よ。どう?信じる気になった?」

 一美「・・・,わかった。信じるわ。この呪詛を解いてちょうだい」


 モモカは,霊力による拘束を解いた。自由になった一美は,しばらく気を取り直してから,言葉を発した。


 一美「まず,あなたのことは何て呼べばいいの?」

 モモカ「モモカと呼んでちょうだい」

 一美「わかった。モモカね。では,モモカにお願いしたいことを言うわね。復讐する相手は,山風組の北海道支部の連中よ。簡単に言うと,麻薬販売の組織ね。ヤクザと言い換えてもいいかもしれないわ。わたしの母が,ちょっと魔をさして浮気したのよ。その相手が,たまたま山風組の組員だったの。母は,その時に麻薬の味を覚えてしまったの。それからは,もう言わなくても予想つくでしょう?父は母に怒って,離婚して去っていったわ。わたしは,母親についていったけど,母は,まったくわたしのことなんか顧みなかった。それどころか,わたしを浮気相手とエッチしなさいと言われてしまったわ。


 わたしは,もうここには居られないと思って,家出したわ。泊まることがないから公園で野宿しようとしたけど,この季節では凍死してしまうから,こっそりと中学校の体育館の備品室に潜り込んで,なんとか寒さを凌いだわ。それも限界がきて,町をふらふら歩いて,とうとう行き倒れてしまったの。


 気がついたら,病院だったわ。そばに一樹がいた。彼は,ここに住めばいいって言ってくれた。当座のお金もくれたわ。でも,これ以上,彼にお金をねだりたくない。だって,わたしが返せるものは,この体しかないから,,,でも,今は体を売りたくない,,,」


 モモカ「でも,あなたとの約束を果たした後,わたしがあなたに命じるのは,あなたにその体を売ってもらうことよ。つまり,あなたに娼婦になってもらうことよ」

 一美「・・・」


 一美は,一息ついてから言った。


 一美「たぶん,そうなるでしょうね。この体くらししか売る物がないから,,,でも,復讐ができるのなら,踏ん切りがつくわ。こんな貧弱な体でいいのなら,おっぱいのない体でいいのなら,いくらでも売るわ」

 モモカ「じゃあ,あなたの覚悟を見せてちょうだい。わたしも,あなたのことを信じさせてちょうだい」

 一美「え?何すればいいの?」


 モモカは,ちょっとニヤッと微笑んでから言った。


 モモカ「今は,お互い,金欠な状況よ。一樹にお金をねだりたくないのから,自分で稼ぐ必要があるわ。どう?わたしの言う通りして,お金を稼いでちょうだい。それができたのなら,あなたに『覚悟』があると見なすわ」

 

 モモカはそう言って,具体的に何をするかを説明した。


 モモカ「まず,近場のラブホテルの場所を確認して,部屋をあらかじめ確保します。わたしはその部屋で待っているわ。一美は,その付近に行き交うスケベそうな男に,『巨乳美人が抱けますよ』と声をかけなさい。2人ずれでも3人ずれいいわよ。部屋にはわたしがいるから,2人を同時に相手にできるとでもいいなさい。金額はいくらでもいいわ。3000円でも5000円もいいわ。あまり安いと美人局とバレてしまうけど,スケベなお客さんなら,そんなこと気にしないと思うわ。どう?できる?」


 この話を聞いて,一美はあまり難しい話でないと思った。


 一美「じゃあ,モモカの写真を撮らせてちょうだい。それを見せれば一発で誘いに乗ると思うわ。下着姿の写真なら尚いいわ。あなたを使って勧誘するわ。どう?それでいい?」

 モモカ「・・・」


 モモカは,それに同意した。かくして美人局作戦は実行に移った。


 モモカと一美は化粧して,かつ伊達めがねをかけた。素顔を隠すためだ。密香マンションの近くからバスに乗って,しばらく行くとススキノ近くにラブホテル街があった。その一部屋を借りた。


 そこで,一美は,下着姿になったモモカの上半身の写真を何枚か撮影した。モモカのおっぱいは,母親譲りのGカップの巨乳だ。しかも,かなりの美人顔だ。彼女とエッチできるなら,断る男性はまずいないだろう。


 一美の『覚悟』の証明は,なんとも簡単なことだ。一人の男性よりも2,3人のグループのほうが誘いやすと判断した一美は,たまたま昼休みでぶらついている3人組のサラリーマン風の男たちに近づいて,携帯の写真を見せた。


 一美が語る言葉は,簡単だった。


 一美「今,お金に困っています。おっぱい触るだけでもいいです。一人1000円でいいです。一発なら5000円です。部屋はすでに借りているので,部屋代はただです。時間は30分以内なら大丈夫です。冷やかしに彼女のおっぱいを触ってください」

 

 こう言われては,食後に喫茶店に行って時間つぶしに行こうとした彼らは,躊躇うことなく同意した。彼らは一美に連れられてラブホテルの部屋に入っていった。


 部屋の中にいるモモカは,すでに全裸でバスブローブを着ていた。胸部分がはだけていて,巨乳の谷間がはっきりと見えた。


 男3名を連れて来た一美は,彼らにモモカを紹介した。


 一美「彼女が写真の子です。どうです?美人で巨乳でしょう?じゃあ,後はよろしく」


 一美は,彼らを部屋に残して部屋から出ていった。すると,モモカから携帯に連絡が入ってきた。


 『一人10分かかるので,30分後にまたお客さんを連れて来て』


 一美は,さきほど3名を連れて行ったので,『覚悟』を証明できたと思ったのだが,まだお客さんを連れていくのかと,ちょっと嫌になった。それでも,モモカの下着姿の写真を見せれば,容易に新しいお客さんを連れていくことができた。


 なんだかんだと,一美は三々五々,お客さんを連れていって,合計10名ほどのお客さんをモモカのいる部屋に連れていった。


 10人目のお客さんを連れて行ってから10分後に,モモカはラブホテルから出てきた。ラブホテルの玄関口で待っていた一美は,モモカに声をかけた。


 一美「あれ?お客さんは?」

 モモカ「そんなこと気にしなくていいのよ。地下鉄で一旦,札幌駅まで行くわよ」


 一美は,なんでそんなことするのかわからなかった。札幌駅に着いた後,公衆トイレに入った。そこで,モモカは一美に,手提袋を渡した。


 モモカ「ここに新しい服が入っているから,着替えてから地下鉄に乗って帰ってちょうだい」


 一美はますます訳がわからなかったが,理由を聞くことなく,言われた通りにした。モモカも着替えをして,モモカと別れた。去り際にモモカは一美に言った。


 モモカ「今回の件,一美が『覚悟』のあることが理解できたわ。わたしに依頼する内容を整理して連絡してちょうだい。なるべく早くあなたの依頼を履行してあげるわ」

 一美「了解よ。復讐する相手の情報を集めてから連絡するわ。1,2週間もあれば連絡できると思う」


 そんな会話をしてから,モモカは一美とは分かれて,ハビルのいるウィークリーマンションに帰っていった。



 ー 蜜香マンション 102号室,一美の部屋 ー

 一美が自宅に帰ってから,テレビをつけると,とんでもないニュースが流れていた。それは,『ラブホテル猟奇殺人!!』という大きな見出して,どのチャンネルもそのニュースで持ち切りだった。


 テレビのアナウンサー『本日の午後3時頃,札幌市ススキのラブホテル街の一室で,10名の男性の遺体が発見されました。その遺体は,すべて全裸状態で発見されており,腹部が引き裂かれて内蔵が取り出されていました。このラブホテルを借りていたのは女性客の模様で,現在,警察が廊下に設置した監視カメラの解析をすすめているものと思われます』


 一美はこの報道を聞いて,最初は他人事のように聞いていた。ところが,さらに注意深く聞いていくと,一美の顔が真っ青に変わった。というのも,どう考えても事件現場は一美が借りたラブホテルであり,借りた部屋番号も一致したからだ。


 一美は,思わず声を出してしまった。


 一美「えーー?!! モモカは,お客さんを皆殺しにしていたのーーー?!!!」

 

 このテレビ報道では,睾丸が引き裂かれていたという事実までは,紹介されなかった。世間に与える影響の大きさを考えて,報道自粛規制がかかった。



 ー ウィークリーマンション ー

 モモカがハビルたちのいるウィークリーマンションに戻った。モモカを見た東子は,すぐに駆け寄って来た。


 東子「ねえねえ,ニュース見た?ススキノのラブホテルで,猟奇殺人が起きたんですって! ご主人様やモモカ以外にも,そんなことをする変質者がいたんだねーー,世の中,広いわーーー」

 モモカ「・・・」


 モモカが何も言わないのを察知して,ハビルがモモカに言った。


 ハビル「モモカ,この事件はお前の仕業だな?こんな目立つ事件を引き起こして,もし,本部の警視庁が捜査に乗り出したらどうするんだ?間違いないなく,お前の仕業だと特定されるぞ。それに,警察の厄介になるなと宣誓契約したはずだ。明らかに契約違反だぞ。お前,死んでしまうぞ!!」


 ハビルの脅し文句にモモカは,豚に真珠,猫に小判の諺にあるとおり,屁のカッパのような顔をした。


 モモカ「ご主人様,なにか勘違いしていません?わたし,記憶力がまったくないの。宣誓契約のこと,一晩経ったらすべて忘れてしまったわ」


 モモカのこと言葉に,ハビルは自分の顔にピクピクと青筋が走った。


 だが,ハビルはモモカとこれ以上争うことは止めた。モモカは,日々確実に魔力や霊力を溜め込んでいる。その戦闘力は日々上昇しているはずだ。それに,部屋の中のような狭い空間では,霊力が扱えるモモカのほうが有利だと判断した。


 ハビル「まあ,いい。お前が警察に捕まって死刑になるのはどうでもいいが,しかし,俺たちのことや一樹たちのことは,決して口外するな。わかったな?」


 モモカはニヤッと微笑んだ。


 モモカ「了解でーす」


 ハビルとモモカの話し合いが終わったのを見計らって,東子がビニール袋をモモカに渡した。


 東子「これ,わたしたちからのプレゼントよ。受けとって」


 モモカがその中身を見ると,なんと精子がたんまり入ったコンドームがごそっとあった。東子ら4名がハビルに少なくも2回以上犯された結果だ。


 モモカ「東子,ありがとう。すごく助かるわ。じゃあ,お礼にわたしからもあなたたちにお礼するわ。ちょっと寝室に来てちょうだい」


 モモカと東子たち3名は,ハビルをほったらかしにして,寝室に来た。そこで,モモカは,自分の手を東子のお腹に当てた。


 ボァーー-


 モモカは,指輪のメアンに,東子の子宮の中にいる胎児に対して,時間加速魔性をかけるように依頼した。5倍速の魔法だ。これにより,妊娠期間が5分の1に短縮される。つまり,妊娠期間がわずか2週間ちょっとで子供が生まれてしまうのだ!!


 東子の後,順番に,西子,南子,北子と,時間加速魔法をかけていった。


 モモカ「これで2週間そこそこで子供が生まれるわよ。生まれたら,また加速時間魔法をかけてあげるわ。早く成長するようにね。ふふふ」


 モモカは,早く成長すると,それだけ東子たちの負担が少なくなると思っての親切心だ。


 東子「え?それって,どういうこと?」

 モモカ「文字通りの意味よ。早く生まれてくるだけよ」

 東子「でも,,,体力がまだついていないわ。腕立て伏せや腹筋の回数は,まだ20回くらいよ」


 東子は,自分の体力がまだまだなので,子供よりも母体のほうが心配だった。


 モモカ「大丈夫よ。病は気からというでしょう?心に平常心を持って,体を鍛えていけばいいと思う」


 モモカは,自分に関係ないから適当なことを言って誤魔化した。


 メアンは,東子たちへの施術を終えた後,使用していない部屋に入った。ハビルと東子ら4名は,1室を寝室として共同で使用するため,別の1室が未使用になっている。その部屋をモモカ専用に使用することにした。


 ちなみに,モモカの下僕であるミツルは居間で寝泊まりする。彼の命じられている業務は,モモカの兄であるセイジがどこの収容所にいるかを見つ出すことだ。ミツルのハッカーとしても腕前は,まだまだ素人なので自分ではまだできない。そこで,有能なハッカーを探し出して,彼にセイジの居所見つけてもらうことを考えている。予算額が50万円ほどと少額なので,腕のいい素人ハッカーを探し出すのが直近の課題だ。


 モモカ専用の部屋に入ると,誰も邪魔するものはいない。指輪のメアンは,モモカの体を指輪の亜空間に収納して『変態』させることにした。モモカは,24時間,部屋から出ないことを宣言していたので,24時間,モモカの体を変態にあてることができた。


 24時間といっても,指輪のメアンは,モモカの体に時間加速魔法陣を施して,加速させることにした。その行為は,メアンの寿命を縮める行為だ。しかし,背に腹は代えられない。とにもかくにも,モモカの体は弱すぎるからだ。幸い,今日は,新鮮な肝臓10体があるし,睾丸から採取した豊富な精子もある。東子らが採取したハビルの濃厚な精子も大量にある。そのため,魔力量や霊力量もかなり貯まってきた。モモカの変態を促進するには十分な量だ。


 モコモコモコーーー


 指輪の亜空間内で,変態中のモモカの体は,徐徐に変化していった。


 24時間後,,,


 モモカの体は,指輪の亜空間から押し出された。変態が終了した。実際に,イジーラやメリルが経験したような本格的な変態とはいえないが,体の運動能力を大幅に引き上げることはできた。


 変態による変化は外見ではわからない。しかし,もしモモカの体を詳しく触ることができれば,筋力が凝集しているのがわかるだろう。


 もし100メートル走をするなら,10秒台で走ることだってできる。それほどの筋力アップに成功した。Gカップのおっぱいを左右に揺らしながらでも100メートル10秒で走るなど,奇跡としかいいようがない。


 それ以上に大きな変化として,子宮が獣魔族の子宮に変化していった。獣魔族が人間の外見でいる間は,その逸物は,せいぜい人間の1.5倍程度の大きさであり,無理すれば人間の女性でも受け入れることは可能だ。東子たちがそれを証明している。しかし,獣魔族が変身した後のそれは,人間の3倍もある。さすがにそれを受け入れるのは無理だ。でも,それでさえも受け入れることができるほどの強靱な膣と子宮に変化していった。


 しかも,イジーラの変態の一部の能力を有してる。その能力が何なのかは,指輪のメアンでも知ることはできない。

 


 モモカが亜空間から出てきた。モモカは,指輪のメアンから,変態が完了したことを知った。それによって,自分の体がより強靭になり,運動能力も倍増するほどになった。


 モモカは,自分の腕,脚,お腹,胸,首,顔を撫でていった。これが,,,新しい自分の身体?


 モモカは,指輪に向かって念話で尋ねた。


 モモカ『メアン,わたし,変態したの?これって,わたし,人間でなくなったの?」

 メアン『わたしもよくわかんない。ただし,強靭な体と優れた運動能力を手に入れたのは事実だと思うわ』

 モモカ『ありがとう,って,お礼を言うべきだわね。わたし,セイジ兄さんを刑務所から脱獄させれるほどの強者になれたのかな?』

 メアン『さあ,どうかしら。でも,強者には,それなりの必殺技があるはずよ。今のモモカには,それ,あるの?』

 モモカ『必殺技?そんなの持ってないわ』


 指輪のメアンは,高速にイジーラとメリルの記憶をスキャンした。その中で,メリルの母親に引き継がれて,かつメリルに引き継がれた技を見つけた。


 メアン『モモカ,どうやら必殺技みたいなものを発見したわ。どうやってモモカに伝るか,ちょっと考えるから待っててちょうだい』

 モモカ『メアン,いろいろありがとう。こんなによくしてもらっているのに,わたし,メアンに何もしてあげられないわ。ごめんね』

 メアン『いいのよ。ひょんなことから生まれてしまったわたしだけど,わたしのすべてをモモカに伝えることができれば,わたしは,モモカの中で生き続けるのと同じことよ。モモカ,強くなって,自分の望みを叶えなさい。それが,わたしの望みよ』

 モモカ『うん。ありがとう,メアン』


 そんな会話をしながら,モモカは,リビングルームに移動した。そこにはハビルとミツルがいた。ミツルは,すぐにメアンのそばによってきて,調査結果を報告した。


 ミツル「モモカ様,やっと有能と思われるハッカーとコンタクが取れました。着手金5万円で,成功報酬は50万円でいいですね?」

 

 モモカは,ミツルにそんな依頼をしていたことなど,とっくに忘れていた。でも,50万円程度なら,これまで奪ったお金で容易に支払える金額だ。


 モモカ「OKよ。すすめてちょうだい」


 今度は,ハビルが声をかけてきた。


 ハビル「お前,なんかイメージが変わったな。強者の雰囲気を感じるぞ」


 ハビルの『強者』という言葉に,モモカは嬉しくなった。


 モモカ「ご主人様,ありがとうございます。筋力のアップに成功しました。これで,主人様の剣技と互角に渡り合えるかもしれません」


 このモモカの言葉に,ハビルはカチンときた。彼は曲がりなりにも上級剣士だ。必殺技も習得している。ちょっと魔法や霊力が使えるひよっ子に負けるわけがない。


 ハビル「ふん,では俺と模擬剣による試合はどうだ?剣技だけによる勝負だ。魔法と霊力の使用は禁止だ。試合時間は10分間。お前が勝ったら,特別報奨金として100万円をあげよう。ただし,お前が負けたら,お前が先日お客から奪ったお金全額をいただこう」


 モモカは,ニヤッと微笑んだ。


 モモカ「はい,喜んで。では,1時間後に,裏手にある公園でどうでしょうか?」

 ハビル「それでかまわん」


 モモカは,すぐに自分の部屋に戻り,Gカップのおっぱいにさらしを巻いて,胸のぶらぶらを無くした。ハビルの言う,霊力の使用は禁止というが,それを加速技に展開するのは問題ないはずだと思った。それなら,2倍速,5倍速と展開できるかもしれない。それを試す絶好の機会だ。


 モモカは,メリルに,前世の記憶で,剣技に関する部分を蘇られせるように依頼した。さらに,霊力についても,基本的な防御と加速技についても,習得できるように依頼した。


 モモカは,指輪のメリルに依頼するれば,即席で強者になれると信じて疑わなかった。


 1時間後


 ー 裏手の公園 ー

 裏手にある公園で,モモカとハビルは,木刀を持って対峙した。その距離およそ10メートル。そのままでは,とても木刀同士がぶつかることは決してない。


 その木刀はハビルが準備した。やや離れて東子たちが観戦していた。


 ハビル「モモカ,準備はいいかな?」

 モモカ「はい,いつでもどうぞ」

 ハビル「では,今から,5秒後に試合開始だ」

 モモカ「了解です」


  モモカは,心の中でカウントダウンした。5,4,3,2,,,1,,,ゴー!


 パシュー!パシュー!!

 

 モモカは,その場から10メートル離れたハビルに,木刀をX字に切って,風刃を放った。風刃を放てるのは中級レベルからだ。でも,10メートル先まで風刃が届くには,上級レベルの剣技が必要となる。果たして,モモカの風刃は,なんとハビルの居場所まで届いた。


 ハビルは,モモカが風刃を使えることに驚いた。だが,彼に迫ってくる風刃を,木刀でモモカと同じく木刀をX字に切ってたやすく消滅させた。


 ハビル「モモカ,お前,風刃が使えたのか?!少々驚いたぞ」

 モモカ「わたしも,まさかこの体で風刃を放てるとは思っても見ませんでした。では,今度は,接近戦で挑みます」


 モモカは,霊力による加速を試みた。2倍速だ。だが,一般の女性換算ではその何倍にもなる。


 バシューー!(モモカの加速する音)


 モモカは,あっという間にハビルのそばに接近した。ハビルは,モモカが加速したことに,また驚いた。加速,それは一流の剣士ができる技であって,魔法士が体得できるようなものではない。


 ハビルは,驚く間もなく,自己最高の3倍速で対抗した。


 パキーーーン!(木刀と木刀がぶつかった音)


 モモカの鋭い胴払いの剣先を,ハビルはぎりぎり受けきった。モモカの2倍速がかわされたことで,一旦,後方に退いた。


 モモカ「ご主人様,見事です。わたしの2倍速の加速を躱すとは,伊達に剣士を名乗っていませんね」

 ハビル「お前,加速が使えたのか? その加速,魔法で強化したのか? 魔法の使用は禁止と言ったはずだぞ!」

 モモカ「魔法や霊力で攻撃するのは禁止と理解しました。でも,自己能力を引き上げるのに使用するのは禁止されていません」

 ハビル「そうか? では,わたしも自己能力を引き上げるのに魔法を使うぞ」

 モモカ「どうぞご自由に」


 モモカにとっては,相手が強ければ強いほど,自分の能力の限界を知れると思ったので,反対はしなかった。


 モモカは,霊力を最大源に発揮させて,5倍速を試みた。


 モモカは心の中でつぶやいた。


 モモカ『よし!5倍速がいけそうだわ。ゴー!!』


 パシューー!(モモカの加速する音)


 モモカは,100メートルを2秒で走れるほどの超スピードで動いた。


 だが,ハビルもモモカがさらに加速するのは予想できた。ハビルは,3倍速が限界だ。だが,ハビルは獣魔族だ。それもオーク魔族だ。その運動能力は,人間の実に3倍だ。その能力を発揮させる場合,オーク形態に変身しなければならない。しかし,小娘相手に変身するのは大人げない。ハビルは人間の形態を維持しつつ,数秒間だけなら,運動能力を3倍に引き上げることができる。つまり,3倍x3倍で9倍速を達成することができる。


 カンカンカンカン!


 モモカの放つ加速された鋭い剣技を,ハビルはみごとに受けきった。モモカは,5倍速の加速でもハビルを倒せないと知って,再度,後方に退いた。


 モモカ「ご主人様。よくぞ私の5倍速を躱しました。普通の人なら10倍速の速さです」


 ハビルは,モモカに褒められても嬉しくもなんともなかった。


 ハビル「ふん,お前は上から目線だな。俺は上級剣士だが,その気になれば9倍速だって可能なんだ。そこら辺の上級剣士やS級剣士と一緒にするな」

 モモカ「では,最後に試したいとっておきの技があります。試してもいいでしょうか?」


 モモカは,意味深長に言った。


 ハビル「ああ,かまわん。いくらでも試せ」


 ハビルがそう言ったものの,内心びくびくだった。


 モモカは,メアンに依頼した。


 モモカ『メアン,必殺技をお願いするわ』


 モモカにとって,必殺技と言っても,指輪のメアン頼りだ。


 そのメアンが膨大な記憶倉庫から引っ張り出したのは,『雪生』が死ぬ間際に対戦相手から奪った記憶と体験だ。それが巡り巡って,今,メアンが紐解く。


 ーーー

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