22 漁港のバトル

 大島の東端にある臨時漁港の周辺には,仮設住宅が10棟ほど並んでいた。この1棟に,待機組が時間潰しに,トランプゲームに興じていた。


 彼らとは別に,この臨時漁の地形を使って,魚を取れないかを検討する乗客らがいた。食料調達班だ。10名ほどの構成員だ。かつて漁民らが捨てたと思われる魚網を使って,入江に沿って,なんとか魚網を展開する方法を検討していた。


 そこに,ひとりの男がやってきた。彼は,昨日失踪した乗客だった。だが,食料調達班たちにとっては,彼が失踪した乗客だとわかるものはいなかった。今日編成された捜索班の一人くらいにしか思っていなかった。


 彼は,食料調達班が魚網を使って作業している現場に来た。


 失踪者「どうですか?魚は取れそうですか?」

 食料調達班A「魚網がありましたので,これからいろいろと試す予定です。そちらの方はどうでしたか?失踪者は見つかりましたか?」

 

 この質問に,その失踪者は,ニヤニヤしながら,空中から剣を取り出した。でも,それは,指輪の亜空間収納から取り出したに過ぎなかった。


 だが,食料調達班Aにとっては,まさに手品を観ているようだった。


 食料調達班A「え?それって,刀?いったいどこから出てきたの?」

 

 この言葉は,彼の最後の言葉となった。


 シュパーー!!


 食料調達班Aの首が飛んだ。


 プシューー!!(血が飛び散る音)


 食料調達班Aの首が飛んだことで,その側で作業していた9名の乗客たちは,パニックになって,その場から離れようとした。


 だが,失踪者の剣はそれよりも早かった。


 シュパー,シュパー,シュパー,ーーーー


 失踪者の剣さばきは見事だった。9名の首が飛ぶのに,ものの数秒とかからなかった。


 失踪者「ふん,たわいものない!!」


 失踪者は,捨て台詞を残して,他に生きている乗客がいないか,仮設棟を見て回ることにした。


 案の定,その1棟に5名の待機組がいた。待機組といっても,もし漁民がこの臨時漁港に寄港したなら,まっさきに出迎えて,助けを求めるという大事な役割がある。


 だが,そんな大事な役割は,果たすことはもうできない。


 その失踪者は,難なく彼ら5名の首を一瞬で刎ねてしまった。


 失踪者は,動かなくなった5体の腹部から肝臓を取り出して,自分の指輪の機能である亜空間収納に入れていった。


 彼の狙いは,栄養満点な人間の肝臓だ。どんな料理よりもご馳走だ。


 5体の肝臓を収納した後,この仮設棟を出て,さきほど殺した10体の遺体のある場所に戻った。


 すると,その現場に2名の人物がいた。モモカとミツルだ。


 失踪者は彼らを見た。またカモが来たと思った。男は殺せばいいし,若い女は,昨日の女4名と同じく性奴隷にすればいいだけだと思った。


 失踪者は,男のミツルを殺すべく,亜空間から血糊がべっとりとついた剣を取り出した。


 ミツルは,この失踪者を見て,10名の首を刎ねたのは彼だと判断した。全身に返り血を浴びているし,空中から剣を出すなど,普通の人間ができることではない。


 ミツルは,すぐにモモカの背後に回った。


 それを見た失踪者は笑った。


 失踪者「ハハハ,男ともあろうものが,若い女性に庇護を求めるのか?なんとも,この国の男どもは,ひ弱になったものだ」


 彼の言葉に,モモカが答えた。


 モモカ「あなた,収納指輪をしているわね。いったい,どこの世界から来たの?魔界?新魔界?それとも,,,??」


 このモモカの言葉に,失踪者は歩みを止めた。


 失踪者は,魔界語で話した。


 失踪者『お前は誰だ?魔界から来た魔法士か?』


 モモカは,魔界語を理解することは本来できないはずだが,なぜか,聞き取れた。どうやら『メリル』の記憶を読み取ってきた副作用なのかもしれない。モモカは,月本語で返事した。


 モモカ「わたしは,この国の人間よ。でも,前世は,魔界の人間らしいわ』


 失踪者は,モモカを半端物の魔界人と認識した。彼は月本語に戻して話した。


 失踪者「じゃあ,上空に展開している巨大な魔法陣や,フェリーを竜巻で飛ばしたのも,さらに,この島全体を地場嵐にしたのもお前なのか?」


 モモカは,軽く頷いた。


 モモカ「確かにわたしだけど,実際は,この指輪のパワーよ。わたしには,何のパワーもないわ」


 失踪者は,今の説明で,おおよそのことを理解した。重要なことは,モモカと指輪の総合的な戦闘力が,どの程度かを推し量ることだ。


 彼は,上空で展開しているあの巨大な魔法陣は,SS級レベルの魔法士でないとできないレベルだと判断した。もっとも,上空の魔法陣が,実は,新魔界で最初に覚える入門者用の虹光魔法陣だとは,夢々思わなかった。


 失踪者の左手には,指輪が中指と薬指にしてある。薬指の指輪は亜空間収納指輪だ。中指の指輪は,非常事態に備えた特別な指輪だ。一定の範囲で魔力操作を無効にするというアイテムだ。ただし,1回限りの使い捨てだ。


 失踪者は,まさか,この月本国でそれを使うはめになるとは,思ってもみなかった。


 だが,それを使うことで魔法士のあらゆる攻撃や防御を無効化できる。S級剣士である失踪者の必勝パターンだ。彼は,モモカの腕を切り落としてしまえば,負けを認めて,宣誓契約による奴隷契約を受け入れるだろうと判断した。


 言葉はもういらない。失踪者は先制攻撃に出た。中指に展開している魔法操作無効化結界を,半径10メートルの範囲で展開した。その持続時間はわずか5秒!


 だが,それで充分だ。


 失踪者は,自己最高の3倍束で拘束移動して,モモカの左腕を切り落としにかかった。


 モモカは,彼が攻撃に出たので,自分の体の表面に霊力の防御層を構築した。まだ,十分な硬さにはできていないが,それでも,硬度8程度にはできた。


 すぐに指輪のメアンに念話でお願いした。


 モモカ『メアン!防御魔法,お願い!!』


 ブヒューーン?!


 左手の指輪から出た魔力は,結界に変換する前に消滅した!


 モモカ「え?嘘?!」


 モモカは,敵を侮りすぎていた。指輪が放つ魔法は,どんな敵にも勝てると思っていた。指輪に命令じさえすれば,上空に展開した虹光魔法陣から,超強力な火炎攻撃をさせることも可能だった。その威力は,SS級レベルを遥かに超える!!


 だが,その魔法を展開する時間は与えてもらえなかった。


 シュパーーー!!


 失踪者の剣は,霊力の防御層をもろもとせず,モモカの左手首を切り落とした。そして,その剣をモモカの首筋にあてた。 


 失踪者「今,すぐに宣誓契約をしろ!俺に一切に危害を加えないという宣誓契約だ!」

 

 モモカは,負けを認めざるを得なかった。モモカの霊力の技量も,指輪の魔法も,失踪者には勝つことができなかった。


 手を切り落とされても,モモカは冷静だった。こんな状況でも冷静でいられるのは,『前世の記憶』があるからだとモモカは信じて疑わなかった。

 

 モモカは,すぐに右手で,左腕の動脈と静脈部分を押さえて止血した。止血がなんとかできたので,宣誓契約とは何かを聞いた。


 モモカ「あなたには,もう危害が加えません。でも,宣誓契約って,何ですか?」

 失踪者「お前,魔法が使えるのに,宣誓契約も知らんのか?」

 モモカ「わたし,ただの人間です。前世が新魔界出身で,その記憶がときどき断片的に蘇っているだけです」

 失踪者「しょうもねえな。ともなく,宣誓契約をして,それを破れば,魂が死滅してしまうというものだ。理解したかな?」

 モモカ「つまり,契約内容を守ればいいのね?」

 失踪者「そうだ」

 モモカ「わかりました。契約します。あなたの名前は?」

 失踪者「ハビルだ」

 

 モモカは,ハビルに教えてもらって,宣誓契約を行った。それを確認したハビルは,切断した手をモモカに返した。


 ハビル「ほら,切断した手だ。切り口がきれいだから,接合できれば,中級レベルの回復魔法でもなんとかなるはずだ」


 モモカは,言われた通り,左手部分をうまく切断面に合わせて,指輪のメアンに回復魔法を発動するように依頼した。


 メアンによる回復魔法のレベルは中級レベルだ。でも,膨大な魔力が貯蓄されている。そのため中級レベルの回復魔法でも,1時間以上も連続で魔法を発動させることが可能だ。その効果はS級レベルの回復魔法にも引けを取ることはない。


 モモカが回復魔法をかけている時間を利用して,ハビルはさらに宣誓契約の追加条件を述べた。


 ハビル「では,次に追加の宣誓契約をしなさい。俺の性奴隷になるという契約だ。性奴隷だけでなく,俺の命令には絶対服従するという契約だ。いやなら,ここで死んでもらう」


 モモカ「あなたにとっては,そう要求するのは当然でしょう。でも,わたしは,処女を与えるべき相手をすでに決めています。それに,性奴隷の契約は死んでもできません。その代わり,あなたのために働きましょう。どうですか?」


 ハビルは,どうしたものかと思案していると,モモカが逆提案をした。

 

 モモカ「銀行強盗だって,ATMを何カ所も襲うことくらいできますよ!!警察とバトルだって,喜んでやりましょう!!」


 モモカは,もう何人も,いや,何十人も人を殺してきた。いまさら,金を盗む罪を重ねたところで,どうでもいいと思った。『前世の記憶』は,月本国でいくら悪さを働いても,問題ないという認識が,そのままモモカの思考に影響を与えていた。


 ハビル「本土は大島とは違う。すぐに警察やら特殊治安部隊やらが出動してくる。そんな闘争に時間をかけるようなことはしたくない。金なら,都会で大型マンションを何棟も貸しているので,資金繰りに困ることもない」


 ハビルは,一息ついてからモモカに言った。


 ハビル「では,奴隷契約ではあるが,お前の処女は奪わない。この条件でどうだ?」

 モモカ「処女を守れるなら,なんでもいいです」


 モモカは,ハビルの奴隷になった。ただし,処女だけは守られる条件つきだ。


 その後,ハビルは10名の遺体から肝臓を取り出していった。それを見たモモカは,その理由を聞いてみた。


 モモカ「なんで肝臓を取り出すのですか?栄養は確かにあるとはおもうのですけど??」

 

 ハビルは,面倒くさいと思いつつも返事した。


 ハビル「人間の肝臓には,少しだけだが,魔力の素になるものが蓄えられている。人間10人分の肝臓があれば,小指程度の魔鉱石から得られる魔力量に相当する。幸い,この状況では,人間を殺しても警察に捕まるような状況ではないからな。ふふふ」

 モモカ「え?そうなんですか?血から吸収しなくていいんですか?」

 ハビル「血からだと,効率が悪いからな。おまけに保管も容易ではない」

 モモカ「そうだったのですか,,,」


 モモカにとっては,目から鱗だった。でも,霊力はやはり精子からのほうが効率がいいのはわかっている。モモカはハビルに精子のおねだりをした。つまり睾丸を無心するお願いだ。


 モモカ「ハビル,この遺体から睾丸を取り出してもいい?」


 ハビルは,『ハビル』と呼び捨てにされるのが気に入らなかった。


 ハビル「わたしを呼ぶ時は,『ご主人様』と言いなさい」


 モモカ「わかりました,ご主人様。この遺体から睾丸を取り出してもいい? わたし,精子を吸収して,パワーに変換できるんです。このまま遺体を捨てておくのはもったいないで,,,」


 ハビルは,ちょっと信じられなかったが,彼にとっては,肝臓以外は不要なものだ。


 ハビル「わかったわかった。好きにしていい。ところで,もしかして,昨日7班で8人が行方不明になったのは,お前のせいか?」


 モモカ「そうよ。わたしが殺したわ。睾丸を取るためにね」

 ハビル「なるほど,お互い必要なものはバッティングしないようだな。フフフ」


 モモカは,左手の治療をほぼ終えたものの,まだ,しばらくは左手が使えない状況だ。そこで,ミツルが遺体の下半身を裸にしていき,かつ,睾丸のカットまで行った。


 モモカは,左手にしている指輪を右側の薬指にはめ変えて,カットされた睾丸の中に指輪を挿入していった。


 こんな作業をしながら,モモカは心の中で思った。


 モモカ『ハビルと一緒に行動するのも,悪くないかもしれないわ。彼をうまく利用するようにしていくのがいいかも,,,』


 モモカとミツルは,仮設住宅内で遺体となった4体からも,精子を採取した。


 ここでの作業がひと通り終わった頃,どこからか,昨日行方不明になった4名の女性がハビルの元にやってきた。


 彼女たちは,どこかに隠れていたに違いない。


 臨時漁港には,4,5名乗りの手ごきボートが数隻あった。ハビルは,女性たちをそのボートに乗せていった。そして,モモカとミツルにもそのボートに乗るように指示した。


 モモカは,なんでハビルがこんな行動を取るのかわからなかった。ハビルは,フェリーの乗客全員を皆殺しにすると思ったからだ。今,この大島から逃げてしまうと,死体が残ってしまうし,いずれ警察の追ってが迫ってくると思った。


 モモカとミツルがボートに乗り込んでから,ハビルは,左右に備え付けられたオールを上手にこいでいった。海流は津軽海峡の方に向かっているので,無理して一生懸命こぐ必要はなかった。


 モモカは,もう後のことなどどうでもいいと思った。なるようにしかならない。これからハビルの指示に従えばいいだけだ。


 この6人乗りボートで,7人が乗っても,さほど窮屈になることはなかった。波は少々荒いものの,順調にボートは,北海道の松前町方面に向かっていった。


 ハビルは,各自に自己紹介をさせることにした。この7人は,役割が違うとはいえ,ある意味,これから仲間になるメンバーだ。


 ハビル「では,各自,自己紹介をしてもらう。まずは,モモカからだ。モモカは,自分の能力も言いなさい」

 モモカ「ご主人様,了解です」


 モモカは,自分のことを紹介した。


 モモカ「わたしの名前はモモカです。15歳。中学を卒業してから,高校にはいかずにコンビニでパートタイムの仕事を始めました。わたしの希望は,セイジ兄さんと安穏と生活することです。でも,そのためには,セイジ兄さんを一刻も早く刑務所から脱獄させてあげたいのです。


 でも,セイジ兄さんを殺したい人がいました。それは,水香という女性です。彼女はセイジ兄さんのいる刑務所を襲撃して,兄さんを殺すつもりでした。でも,失敗に終わりました。


 水香は,刑務所を襲撃したあと,すぐにわたしのところに来て,この指輪を渡しました。幸福の指輪だと言っていました。なぜ,わたしにこの指輪を渡したのか,その理由はわかりません。


 ただ,この指輪をつけてからですが,わたしの性格が大幅に変わってしまいました。今では,わたしの前世が目覚めたと理解しています。人を殺すことに,ぜんぜん抵抗がなくなりました。


 わたしが,人を,いや,男性を殺すのは,男性の精子が必要だからです。それがあれば,霊力を貯めることができます。いわゆる超人になることもできます。超人になれば,セイジ兄さんを刑務所から脱獄させることだってできます。そして,どこか見知らぬ土地でのんびりと怠惰な生活を送るのが夢です。そう,,,この夢,一年以内に実現させてみせます!」


 モモカは,自分の夢を語った。その夢を口から明確に言うことで,自分の行動を,凶悪殺人の行動さえも,正当化できると信じ込むことにした。そうすることで自分の犯した犯罪を悔やむという思いを絶つことができると信じた。


 ハビルの手でこぐスピードは意外に速かった。時速10kmから15km程度だった。陸地に着くまで4時間ほどだ。時間はいくらでもある。おまけに,ハビルは,パワーがあった。疲れてきたら,亜空間から肝臓を取りだして,バリバリと食べては,体力を回復させてボートをこいでいった。


 4名の若い女性たちは,ハビルから新しく名前をつけれていた。おっぱいの大きい順番に,Eカップの東子21歳,Dカップ西子20歳,Cカップの南子20歳,Bカップの北子19歳だ。4名のリーダー的存在は,もちろんおっぱいが一番大きいEカップの東子だ。東子が代表するかのようにモモカに質問した。


 東子「あの,,,精子があれば,レベルアップするのですか?」

 モモカ「そうです。わたし,精子から霊力というレベルアップするのに必要なパワーを入手できます。あなたたちって,ご主人様の性奴隷でしょう?事が終われば,精子を膣から流し出しているんでしょう? どうせ捨てるなら,その精子をわたしに渡してちょうだい。有効活用してあげます」


 モモカは,東子たちがハビルの性奴隷であることは容易にわかった。東子たちは,少し顔を赤らめた。


 その顔の変化から,彼女らは,すでにハビルとの性行為を『虐待』ではなく『快楽』として受け入れていることがわかった。それは,ハビルの特殊能力なのかもしれないとモモカは憶測した。


 この顔を赤らめる行動だけで,彼女らは,十分すぎるほど自己紹介をしたようなものだ。


 モモカの次にミツルが自己紹介をした。


 ミツル「わたしはミツルです。18歳。高卒。船員ですが,ほんとうはまだ見習い期間です。小学生のとき,ボーイスカウトをした経験があるので,船長は私を7班のリーダーにしました。その縁で,,,今は,モモカさんの奴隷の身分です,,,」


 この説明で,ミツルの立場が十分にわかった。


 女性たちの説明はもうどうでもよかったので,ハビルが自分のことを語り始めた。


 ハビルは新魔界から来た獣魔族の一族で,オーク魔族出身だ。新魔界の獣魔族はメリルたちによって滅ぼされたように見えたが,決して滅んでいない。すでに,月本国で獣魔族の子供生産計画が順調に進んでいる。九州,四国,山陰,山陽,関西,中部,関東,東北などで,子供生産基地が完成した。今は北海道の札幌市で,その拠点を創りを初めた時期だ。まだ3名ほどの女性が獣魔族の子供を妊娠しているはずだ。最終的には,1000人規模の体勢にもっていくのが理想だ。


 ハビルは,その生産計画の管理者に抜擢されて,札幌市に移動途中で,たまたまこのフェリーに乗り合わせてしまった。


 ハビルはS級剣士だ。魔法のレベルは中級だ。戦士としての総合レベルは一流とは言えないまでも,上級レベルといえよう。


 モモカは,断片的に新魔大陸の知識を夢で得ている。特に,直近のメリルと北部領域での戦いの記憶はもっていた。そのため,ハビルの説明がよく理解できた。


 モモカ「そう,,,ハビルは獣魔族だったのね。オーク魔族だということは,,,かなり精力旺盛なのでしょう?精子量も人間よりもはるかに多いのでしょう?」


 この質問に,ハビルはニコニコした。


 ハビル「人間の精子量がどの程度かわからないけど,睾丸の大きさは,人間の5倍ほどの大きさだ」


 この言葉に,東子が,思わず『やっぱり!』と声を上げて,その後,慌てて自分の口を塞いだ。


 この反応でモモカは,ハビルの精子量がどの程度なのか,容易に想像ついた。


 モモカ「ハビルの仲間は,どれくらいいるの?仲間から精子を確保できれば,わたしは,すぐにでも一流の『霊力使い』になれるわ」

 ハビル「札幌市には,2名のオーク魔族と1名の蛇魔族がいる。順次,健康体の女性を確保していく計画だ」


 東子たちは,これから獣魔族の連中の性奴隷として,かつ,彼らの子供を産むという重要な任務が待っている。獣魔族の胎児の妊娠期間は3ヶ月だ。少なくとも,3ヶ月間は拘束される運命だ。


 しかし,東子たちから,悲壮な感じを受けなかった。自分たちの運命を受け入れているようだった。


 モモカは,自分の感じた疑問をハビルに質問した。


 モモカ「わたしの知識からだと,人間の子宮を使って,獣魔族の子供を産ますのは,適合率は低いはずだったと思うのだけど?」


 ハビルは,まさか,そんな知識までモモカが持っているとは思っても見なかった。


 ハビル「獣魔族について,かなりの知識を持っているようだな。そうだ。今のところ,適合率は10%程度だ。北海道地区では,なんとかその適合率を20%に引き上げたい」


 ハビルのこの回答に,東子がハビルに質問した。


 東子「ご主人様,もし適合しなかった場合は,母体や子供はどうなるのですか?」


 ハビル「まあ,率直に言ってだな,適合するという意味は,子供が無事に生まれるという意味だ。母体の生死は問わない。もっとも,これまでの例でいうと,適合しても,母体生き延びる可能性は五分五分かな?適合しない場合,子供だけでなく,母体も9割かた死んでしまう」


 この言葉を聞いて,東子たちの,子供を産んでしまえば解放されるだろうという甘っちょろい考えは,無残にも打つ砕かれた。


 彼女らは,すでにハビルによって何回も種付けされた。すでに妊娠している女性もいるかもしれない。妊娠してしまえば,彼女らの寿命は3ヶ月で終わるという意味だ。


 このことを聞いて,モモカもさすがに彼女らが可哀想になった。彼女らを精神的に支えるのも自分の役割だと思った。


 モモカ「あなたたち,でも,諦めないでちょうだい。今から,体力アップの努力をしなさい。仮に適合しなくても,母体が生き残れる可能性が飛躍的にアップするはずよ。3ヶ月もあるのよ。絶対に生き延びることができるわ」


 その言葉を受けて東子は嬉しくなった。


 東子「ほんと?ほんとなのね? 嬉しい。具体的に何をすればいいの?」

 モモカ「そうね,,,最初は,朝昼晩と,腹筋と腕立て伏せ100回が目標ね。最終的には,妊娠2ヶ月目が終わる頃には,それぞれ200回できるようになればいいと思うわ。死にものぐるいで,それを達成しなさい。生きたいならね,,,」

 東子たち「・・・」


 ハビルは,心の中で,体力をつけたとしても,適合率にさほど影響を与えないだのは知っていた。というのも,スポーツ選手の女性たちの適合率は13%程度だった。誤差の範囲だ。ハビルは,こんなことは言う必要もないと思って黙ることした。


 モモカは,ちょっと暇なので,今回のハビルの一連の行動について,彼にちょっと聞いてみた。


 モモカ「ご主人様,この曇りの天気では上空に展開している魔法陣は,夜には消滅していまうでしょう。そうなると,電磁嵐を発生できません。通信機が回復してしまいます。それに死体だってそのままです。いずれ警察は,我々を捕まえに来るでしょう。どうして,死体を隠すとか,しなかったのですか?」


 ハビルは,漕ぐのを中止して,肝臓を食べ始めた。その合間にモモカの質問に答えた。


 ハビル「死体を残したところで,われわれの犯行だとバレる可能性はまずない。それに,フェリーが大島に飛んできたという事実に当惑して,その原因追求で警察は迷宮するさ。それに,大島から救助を要請しても,救助されるのに2,3日はかかるはずだ。下手すればもっとだろうな。その時間がもったいないから,こうして手ごきボートで脱出したってわけだ。俺の体力なら,何時間漕いだって平気だからな」


 ハビルは,肝臓を食べ終えた後,また,馬力をだして,オールを漕ぎだした。ボートは確実に北海道の松前町付近へと向かっていった。


 20kmほど漕いだ頃,波が和らいできた。この穏やかな波なら,風魔法でもいけると判断した。ハビルは,オール2本をボートの両端に立てて,その間を服を張った。簡易の帆だ。


 ハビル「モモカ,風魔法を発動しなさい。強くなくていいが,東の方向に一定方向に流れる風だ。頼むぞ」

 モモカ「ご主人様,了解です。指輪のメアンにお願いします」

 

 モモカは念話で指輪のメアンにお願いした。


 モモカ『メアン,初級レベルの風魔法でいいから,風を起こしてちょうだい。方角は,東の方向よ」

 

 

 ヒューーーーー!!


 メアンからは,何も返事はなかったものの,魔法陣が出現し,東に方向に風がさほど強くもなく吹き出した。風の風速は,ゆっくりとしたものなのだが,それでも,その速度はハビルが全力で漕ぐ速度と,たいして変わらなかった。


 それから1時間もすると,北海道の陸地に到着した。


 その後,東子たちを使って,ヒッチハイクですけべな男が運転する8人乗りタイプの車を確保して,札幌へと移動した。


 この日は,どんよりとした雲が天空を覆っていて,今にも雨が降りそうだった。上空に展開していた半透明の虹光魔法陣は,徐々に小さくなっていった。上空に展開していた虹光魔法陣は,夜には消滅した。


 

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