第17話 報告会と対策会議

 

 水香が100番刑務所に護送された数日後,警視庁の会議室では,『水香の能力あぶり出し作戦』の成果報告会と指輪捕獲の対策会議が開かれた。出席者は,大統領秘書,警視庁長官,特捜課の部長と多留真,α隊の隊長,副隊長,およびドラゴンの指輪を授けたピアロビ顧問,超現象調査室の室長と夏江,襲われた刑務所の所長と看守長,さらに水香を収容した100番刑務所の辺見所長と女性看守長だ。


 会議の進行によっては,監禁された水香に,即座に質問できる体勢をとった。尚,2カ所の刑務所からはオンラインでの参加だ。


 会議の進行役は多留真だ。彼から水香を尋問した内容について説明を始めた。


 多留真「では,私から水香を尋問して得られた情報を整理させていただきます。まず,今回の一連の事件のきっかけは,水香が富士山麓で指輪を拾ったことから端を発します。それからです。水香の周囲でおかしな死亡事件が始まりました。その詳細な内容については,お手元の資料にまとめていますので,そちらをご覧ください。ここでは,これまでの水香の周囲で起きた死亡事件と水香から事情聴取した内容から,この会議で議論すべきポイントを次のようにまとめました」


 多留真は一息ついてから説明を続けた。


 多留真「水香が拾った指輪には,メリルという霊魂が宿しています。それだけでなく,メリルは必要に応じて水香の体を憑依できる能力を持っています」


 この多留真の言ったことは,驚愕すべき内容なのだが,ここに参加している連中にとっては,千雪に纏わる事件で免疫になっていて,さほど驚かなかった。彼は,自分の言った内容に反応が薄いのに,少々がったりしたが,話しを続けた。


 多留真「それに,メリルは50メートルも離れた場所からターゲットの首を刈ることができると推定されます。それは,水香を手製拳銃で襲った時のビデオ解析の結果から,霊力のパワーであることが判明しています。このビデオ解析では,超現象捜査室の茜の協力があったことを申し付けておきます」


 多留真は,茜の貢献があったことをアピールした。夏江は,心のなかで多留真に『Good Job!』と叫んだ。


 多留真「つまり,メリルの指輪は,その指輪をした相手に憑依することができ,かつ霊力が使えるという化け物であると判断されます。

 現在のところ,メリルの指輪は水香の体から離れて,どこかに雲隠れしました。


 この会議では,メリルの指輪の能力を解明すること,つまり,霊力の能力がどの程度のものなのかを明確にして,その対策案の方針を確立することにあります。


 それと,もう一点,ここで議論したい点があります。指輪を持った水香の場合,水香をレイプした連中の半数以上が,頭の中で何らかの方法で爆破されたような損傷を受けて,死亡するか植物人間になりました。

 ですが,今の水香はメリルの指輪を持っていません。果たして,彼女がこのような忌むべき能力を保持しているかどうか,それを確認する方法があるのかも議論したいと考えています。


 では,まず始めにメリルの指輪の能力のひとつである『霊力』がどの程度なのかを把握するため,先日の刑務所襲撃の手口について,看守長のほうから報告お願いします」


 襲撃を受けた刑務所の看守長から,水香が刑務所に侵入したルートについて報告した。


 看守長「では,水香が刑務所に侵入したルートを報告します。夜間ではっきりと映っていないのですが,この映像を見てください」


 女性が刑務所の塀から,ゆっくりと舞い上がっていって,画面から消えていく映像が映った。それを見ていた参加者は言葉を失った。水香は空を飛べるのだ!!


 看守長「この映像の解像度でははっきりしませんが,この空を飛んだ女性は水香に間違いないでしょう。そして,牢獄棟の屋上のドアの鍵が開けられていました。そのドアから水香の指紋も見つかっています。つまり,水香は,なんらかの方法で空を飛んで,屋上に舞い降りました。そこで,なんなく鍵を開けて,4階から囚人の部屋を調べて,セイジを探し始めました。途中,数名の看守と遭遇しましたが,即座に後頭部を打たれて気絶させられました。その方法がそのようなものかもわかっていません」


 予想されていたとはいえ,水香の並外れた能力に参加者は愕然とした。ここで,ピアロビ顧問が言葉を挟んだ。


 ピアロビ顧問「この水香は,霊力の扱いに長けた者だと思います。あの千雪も霊力を使って空を飛べると聞いたことがあります。たぶん,水香はなんらかの方法で,その霊力を生成したと思われます。それに,霊力を使えば,鍵を開けることは容易です。また,看守の後頭部を打撃することなど,霊力の操作の初心者でも容易なことです」


 この説明に,「おおーー!」と感嘆の声が出た。まったく異次元の話を聞いているようだ。


 α隊隊長「では,この水香は,千雪並の化け物ということですね?」

 ピアロビ顧問「いえいえ,化け物というレベルではないと判断します。後で説明があるかもしれませんが,私が貸与した指輪のドラゴンと水香の戦いでは,水香はいとも容易く叩きのめされました。霊力が見えさえすれば,水香の霊力による攻撃は,さほど脅威ではありません。空手の有段者にも及ばないかもしれません」


 この説明に,参加者は少し安堵の雰囲気が流れた。


 看守長は話を続けた。


 看守長「ドラゴンの話がでましたので,その時の映像をご覧ください」


 看守長は,ドラゴンと水香が戦っている映像を流した。その戦いでは,ドラゴンの攻撃に,水香が吹き飛ばされてしまった状況がはっきりと映っていた。


 看守長「夜間なので,はっきりとは映っていませんが,水香はドラゴンに叩きのめされたことがはっきりとわかります。でも,さほどダメージは受けていないようです。水香はすぐに起き上がっています。なんらかの防御方法を持っているのではないかと思われます。その後,何やら会話をしているような様子です。しばらくして,ドラゴンは,さっさと囚人のセイジを抱いてこの刑務所から逃げました。そのあとすぐに,水香も空中に飛んでモニターから消えてしまいました。

 翌日,セイジは自首してきたので,現在は堅牢な刑務所と言われている『200番刑務所』に収容されました」


 α隊隊長「看守長の報告から,今回の『水香の能力あぶり出し作戦』では,当初の目的だった水香の能力が,だいたい把握できたのではないかと考えています。水香は,霊力を使って空を飛ぶことが可能であること,カギ開けも難なくこなせること,物理的攻撃に対してある程度の防御能力を有していることなどが挙げられます。ですが,霊力の特徴のひとつである加速技を使っていません。たぶん,使えないのではないかと思います。水香は,それなりに霊力を使いこなしていますが,まだ素人の域を出ていないようです。

 このように水香の能力をある程度把握できたのは,ドラゴンの指輪を貸与していただいたピアロビ顧問のおかげであり,それを許可した大統領の英断のおかげです。ここで改めてお礼を申し上げます」


 α隊隊長は,ピアロビ顧問と大統領にリップサービスを行った。大統領はこの会議に参加していないで,大統領秘書が返答した。


 大統領秘書「α隊隊長,このことは大統領にしっかりと伝えておきます」

 α隊隊長「ありがとうございます。今回の『メリルの指輪』に関する事件では,超法規的措置が随時発動する事態になると思います。大統領の迅速な判断です。どうかよろしくお願いします」


 α隊隊長の説明に対して,多留真が補足説明した。


 多留真「水香の能力というよりも,正確には,水香がしていたメリルの指輪の能力,と言ったほうが正確かもしれません。水香を尋問をしてある程度のことがわかりましたが,水香には,この刑務所襲撃当時の記憶がありません。メリルに体を支配されているとき,意識も眠らされたと思われます」


 α隊隊長「霊力については,さほど詳しくはないのですが,わたしの限られた知識の中で判断すれば,霊力とは体の中にあるものであって,霊魂の中にはありません。となると,メリルという霊魂は,水香の体を憑依して水香の体にある霊力を使ったと考えるのが妥当でしょう。つまり,水香の体は,霊力を創り出せるということです。千雪の弟子であるハルトでさえも,霊力は創り出せないので,定期的に千雪から母乳を飲んで霊力を補給しているそうです。


 このように考えると,メリルは何らかの方法で,水香の体から霊力を創り出せるようにされたものと類推されます。メリルが水香の体から憑依を解いて指輪に戻ったとしても,今の水香の体には霊力が残っている可能性があります。水香が,もし霊力使いとして訓練を受けていれば,水香は『動く殺人兵器』であり,厳重に管理される対象であるべきです」


 この発言に対して,水香が収容されている100番刑務所の所長が看守長に,そのあたりを水香に聞くように指示した。


 水香は,両足首に高圧電流が流れるコードで拘束されていて,おかしな行動が取られると,すぐに水香を感電死させれるようになっている。


 しばらくして100番刑務所の所長から,水香からの回答を伝えた。


 所長「水香本人に確認したところ,霊力のことはまったく知らないそうです。霊力を創ることも,また,霊力使いとして訓練したことも,まったくないとのことです。水香には,ウソ発見器を繋いでいますので,ウソはついていないと判断しています」


 α隊隊長「ということは,メリルは,水香を単に霊力を創る道具として扱ったということになります。水香が霊力を扱えないとなると,さほど脅威ではなくなります。もっとも,水香をレイプした連中が死亡した件については,今となっては,さほど気にする必要はないと思います。とにかく,水香に触らなければいいのですから」


 多留真「確かにそうですが,水香は,もともと被害者であって加害者ではありません。水香が脅威ではないと判断され次第,水香に正常な裁判を受けさせたいと思っています」


 ここで,警視庁長官が口を挟んだ。


 長官「多留真君の気持ちはよく分かるが,すでに彼女の周囲で1000人以上も死亡している。それもわれわれの常識を超える方法でだ。いくら指輪に支配されていたとはいえ,彼女はもはや人間ではない。つまり,人権はないと判断しなさい。申し訳ないが,限りある警察の資源を彼女のためにこれ以上割くことは避けたい。それよりも指輪の捜索に集中するほうがいいのではないかな?」


 警視庁長官にそう言われてしまえば,多留真はどうすることもできない。


 多留真「わかりました。水香にはすでに人権がないものとして取り扱うこと,承知しました」


 多留場は警視庁長官に謝罪して会議を進めた。


 多留真「では,今後の対策に入ります。他人に憑依可能なメリルの指輪が,どこかに行ってしまった以上,今後の捜査の重点は,このメリルの指輪の捜索です。メリルの指輪を発見した場合ですが,どのような不測の事態が起きるともかぎりません。それに備えるための対抗策が必要になります」


 多留真は,α隊隊長に向かって言った。


 多留真「隊長は,メリルの指輪に対する対抗策をお持ちなのですね?」


 α隊隊長は,ニヤッと笑って,メガネを収納したと思われるハードケースを取り出した。そして,蓋を開けて,薄い赤色をしたサングラスを取り出した。


 α隊隊長「これはある目的で開発した特性のサングラスです。つまり,このサングラスは,透明の霊力を見ることができるものです!」


 この驚愕の事実を聞いて,びっくりするものは,ピアロビ顧問しかいなかった。他の参加者は,何がすごいことなのかよく理解できなかった。だが,ここでは,その開発秘話について話す場ではない。


 α隊隊長は,参加者の反応が乏しいことにガッカリしつつも,淡々と説明することにした。


 α隊長「このサングラス,『霊力ミエール』と名付けましたが,実は,レンズの周囲に電極が流れていて,それを流すことで,肉眼では見ることのできない波長まで見ることが可能になります。つまり,透明な霊力を可視化できるというものです。ですが,まだ開発中のため,電源を入れても1時間程度しかもちません」


 多留真「1時間ですか,,,でも,それだけの時間があれば,メリルの指輪を拘束するにも十分ということですね?」

 α隊長「はい,十分だと考えています。この『霊力ミエール』を狙撃手に掛けてもらえばそれで霊力対策になります」


 多留真「なるほど。目に見えさえすれば,いくらでも対策は取れますね。そうなると,残りの課題としては,霊魂の攻撃をどうやって阻止できるかですが,,,」


 多留真は,やっと夏江の出番が来たと思った。多留真は夏江の顔を見た。夏江は軽く頷いた。


 夏江「では,霊魂攻撃の阻止について説明させていただきます。ですが,その前に,水香へのレイプ事件や手製拳銃襲撃事件では,犯人が死亡した要因として,われわれ超現象捜査室の職員である茜の協力により,『指輪,霊力,異世界』という有益な情報をいち早く入手できました。これによって,捜査が大幅に進展しました。これも,茜を専属の職員として採用いいただいた長官の英断の賜です。ここに改めてお礼申し上げます」


 夏江は,警視庁長官におべっかを言った。


 長官「夏江君,わたしへのおべっかはもういい。さっさと報告を続けたまえ」

 

 その言葉に,夏江はちょっとだけ照れ隠しをして本題の説明を開始した。


 夏江「では,改めまして,他人への憑依を阻止について説明させていただきます」


 夏江は,高野山の僧侶から入手した悪霊払いのお札2枚と三鈷杵1体を取り出して机に置いた。


 夏江「この悪霊払いのお札は,魂力中級レベルの悪霊を払うことが可能です。そして,この三鈷杵は魂力上級レベルの悪霊をも払うことができるそうです」


 この説明に,参加者は,『魂力』が何なのかは不明だが,中級,上級,という言葉でおおよその理解をした。夏江は,『魂力』が何なのか説明してほしい,という質問を受けると思っていたが,まったくなかったのでちょっとがっかりした。その気持をいち早く察知した多留真は,すでに夏江から聞いて知っていたが,質問することにした。


 多留真「その『魂力』とはどういうものですか?」


 夏江はニヤッと微笑んでから回答した。


 夏江「魂力ですが,それは霊魂のパワーのことです。そのパワーは,初級,中級,上級,そしてS級と分類されます。初級は念写のように,見えないものが写真に映る程度のものです。中級になると,精神力の弱い人なら,容易に睡眠状態にもたらすことができます。上級になると,ほとんどの人に憑依することが可能となり,すみやかに睡眠状態にすることもできます。意識障害を起こすことも可能でしょう。場合によっては,軽いものなら物を少しくらい動かすことができる場合があります。S級は,上級よりももう1段上位のレベルになります。


 メリルの指輪にある霊魂ですが,たぶん,中級か上級レベルのものです。このお札は,魂力中級用で,この三鈷杵は魂力上級用です。メリルの指輪が見つかれば,この三鈷杵で他人への憑依を阻止し封印することができる可能性があります」


 超現象捜査室の活躍におもしろくない思いをしているα隊隊長は,夏江に質問した。


 α隊隊長「『可能性がある』というだけでは,なんともお粗末な話だな。そのお札や三鈷杵が,ほんとうに有効なのか,なんらかの実証は行ったのか?」


 夏江は,予想された質問なので,すぐに回答した。


 夏江「当然の質問だと思います。ですが,実証はできません。このお札は,特別なルートで無償で入手したものですが,正規に入手するとすれば,数百万円,この三鈷杵に至っては,1千万円以上のお布施をしないと入手できないものです。それに,実証実験をするにしても,悪霊を確保するのはとても困難です。でも,,,」


 夏江が,さらに言葉を続けようとした時,α隊隊長は,自分のカバンからある人形を取り出した。


 夏江は,話を続けるのを止めて,その人形を見た。夏江は霊感が強い。その人形には,何か嫌な雰囲気を感じることができた。


 夏江は,α隊隊長に言った。


 夏江「その人形は何ですか?」

 α隊隊長「先日,知人から不吉な人形があって,処分に困っていると相談を受けた。それで,一時的に預かった。どうだろう? これでその御札や三鈷杵が有効かどうか判断できないかな?」


 夏江「試してもいいですけど,それを判定できる霊能力者がここにはいないのでは証明のしようがありません」


 この夏江の発言に,警視庁長官が口を挟んだ。


 長官「霊感のないわたしでも,その人形が禍々しいのは感じ取れる。別に証明できなくてもいいので,そのお札や三鈷杵で人形を浄化してみなさい。禍々しい雰囲気が残っているどうかくらいは,われわれでも感じ取れる」


 この言葉に夏江は了解した。夏江は,魂力中級用のお札をもって,禍々しい雰囲気を醸し出してる人形の頭部に貼り付けた。


 すると,その人形は微かだが前後に動き出して,その禍々しい雰囲気がどんどんと濃くなっていった。この会議の参加者は霊能力などないものばかりだ。でも,そんな彼らでも禍々しい雰囲気が濃くなったのは感じ取れた。というのも急に周囲の温度が下がってきて,異鳥肌が立ってきたからだ。


 この変化に,α隊隊長がいち早く文句を言った。


 α隊隊長「おい!悪霊退散どころか,もっとひどい状況になってきているぞ!!」


 そんなことは言われなくても,夏江にはよくわかっていた。夏江にもっと霊感が強ければ,悪霊と会話をすることもできるのだがと,ちょっと残念な気がした。


 夏江は,お札で効果がないなら,三鈷杵を使うしかないのだが,これはメリルの指輪を封印するためのものだ。自分の身を犠牲にして手に入れたものだ。こんなところで使ってしまいたくない。


 そこで,やむなくもう一枚のお札を使うことにした。夏江は,もう一枚のお札を,同じく人形の頭部に貼り付けた。


 すると今度は,お頭に貼り付けた2枚のお札の色が,徐々に変色していった。お札には,白色の紙に墨のようなもので何か文字のようなものが書かれているのだが,その文字が徐々に薄くなっていき,消えていった。


 それにつれて,この会議室の周囲の温度が元にもどり始めた。


 ドーン!


 急に夏江が,意識を失って倒れた。夏江の隣には多留真が座っていたので,彼はすぐに夏江を抱えて,彼女をほっぺを叩くとか,体を揺するなどして,意識を取り戻そうとした。


 だが,夏江は意識を失ったままだった。すぐに救護班が駆けつけて,夏江を安静な場所に運ばれた。


 α隊隊長は,夏江が倒れてから,人形に禍々しい雰囲気が消えているのを察知した。


 α隊隊長「夏江さんが倒れたのは意外でしたが,どうやらこの2枚のお札は有効のようです。わたしは霊感がありませんが,それでも,人形から感じる嫌な感じがしなくなったようです」

 多留真「では,このお札は効力があると思われますか?」

 α隊隊長「思う思わないで言えば,思うと返事せざるを得ません。でも,ほんとうに効果があるかどうかは不明です」


 ここで室長がその問いに答えた。


 室長「夏江が急に倒れてしまったので,代わりにわたしから回答します。すでに,以前の会議でも言ったかも知れませんが,いずれは警視庁の特別科学研究所で検証をお願いしたいと思っています。ですが,仮に偽物であったとしても,このお札や三鈷杵をダシにして,メリルの指輪を騙せることが可能だと考えています。そのためには,霊魂を見ることができる霊能力者の協力が必須です」


 ここで室長は,ある一枚の紙を,モニター画面に映した。


 その紙には,トップシークレットと一番上に書かれていて,その次の行に,『霊魂を見ることができる人物一覧表』というタイトルがあった。そして,人物の名前が10名ほど記載されていた。ただし,いずれもマジックで黒塗りされていた。


 室長「霊魂を見ることができる人物は,巷には多くいるようですが,そのほとんどは偽物です。確実に見ることができると実証されている人物は,千雪とか竜姫など,テレビで実証されている人物くらいのものです。でも,それ以外に,信頼できる情報元があります。それは,高野山や比叡山の総本山から推薦された人物です」


 「おおー,それはそれは!」


 何人かが,感嘆の声を上げた。


 室長「情報元からの依頼で,このリストは公開禁止と言われたので,黒塗り状態ですが,このリストのトップ5までは,霊魂を見るだけでなく,悪霊払いの能力も優れていると聞かされています。何分にも,われわれには霊魂を見ることはできないので,この情報がどれだけ信用に値するものかわかりません。でも,現時点では,トップ5までの人物を信頼して,彼らの協力を得ることで,メリルの指輪の発見,さらには捕獲に貢献できればと考えています。もし,この案でよろしければ,具体的な作戦プランは,夏江にお願いしたいと考えています」


 この室長の提案が,もし夏江が行っていれば,α隊隊長から,さんざん文句が出るところだ。しかし,室長からの提案では,α隊隊長や,他の誰も文句は言える物はいなかった。室長は各部署を歴任していて,α隊隊長や殺人課の部長でさえも,室長は彼らの先輩にあたる人物だ。文句を言えるわけがない。


 多留真は,その辺の空気を読むのがうまい。この件は,さっさとけりつけることにした。


 多留真「えーと,では,メリルの指輪の霊魂対策については,室長の提案に従い,メリルの指輪を発見した場合,トップ5の霊能力者の力を借りて,指輪からの霊的な攻撃を押さえ込んでもらいます。その間,強力な火力手段によって指輪を制圧するという方針にしたいと思います。三鈷杵による封印については,その実効性が保障されていませんので,室長の提案通り,指輪をごまかすアイテム程度の位置づけになります。所長,それでいいですね?」


 警視庁長官は室長のもと部下だ。当然,遠慮がある。今回の提案では,他によい代替案がない以上,ケチをつけることはしない。


 長官「ほかによい案がない以上,それですすめたまえ」

 多留真「ご了解ありがとうございます。では,そのようにとりすすめさせていただきます」

 

 おおよその基本方針は決まった。その後,細かな打ち合わせがいくつかあったものの,この報告会はその後まもなく終了した。


 この会議で,特にニヤニヤとしていたのは,水香を収容している100番刑務所の所長だった。今,水香はこの所長の手中にある。霊力が残っているだの,体に触れると,その相手が死ぬかもしれないだの,まったくもって,おもしろいおもちゃが手に入ったとほそくえんだ。


 彼は,これで当面は退屈しなくて済むと小躍りするほど嬉しくなった。


 

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