第12話 茜の奮闘とセイジ対策
ー 千雪邸 ー
茜は,千雪の仲間にぜんぜん相手にしてもらえない。あたかも汚いものを見るかのようだ。つい先日までは,茜がこの千雪邸の唯一の稼ぎ頭だったため,冷遇されていはいたが,それなりに重宝されていた。でも,カロックとの逢い引きがバレて,かつ,茜の代わりに秋美がアダルトビデオの女優に出演するようになってから,茜に対する態度が急に悪化した。
決定的だったのはサルベラの態度だ。サルベラはできればカロックの子供を生みたかった。カロックがアカリを妊娠させたのはまだいい。でも,茜は千雪の子供を妊娠していながら,カロックとこっそりと逢瀬を重ねていたのだ。この千雪の組織内にあって,千雪以上に怒らせてはいけないのがサルベラだ。
茜は,夏江から預かったビデオを千雪の仲間に見てもらおうと思ったが,ことごとく無視された。
茜はそれでも,月額300万円を稼いでいるので,無視されるいわれはないのだが,でも悲しかった。それに拍車をかけたのがカロックの態度だ。野外の訓練では,茜を遠慮なく犯すくせに,千雪邸では茜を完全に無視した。もっとも,それはカロック流のサルベラ対策でもあったのだが。
千雪の秘書である香奈子も,以前,茜に意地悪されたこともあり,茜を無視した。結局,頼りになるのは実母であるマリアと妹の竜姫だ。
茜「竜姫さん,このビデオ見てちょうだい」
竜姫「えーー?いくら生き別れたお姉ちゃんの頼みでも,タダではダメよ。わたし,これでも,依頼1件につき,100万円稼ぐのよ。まあ,お姉ちゃんなら,特別に半額でもいいわ。50万円ちょうだい。なら,見てあげる」
茜はお金を管理しておらず,無一文だ。そこで,生みの母親であるマリアにそのビデオを見てもらうことにした。マリアは,そのビデオを見たが,まったく分からなかった。でも,アドバイスすることはできた。
マリア「この首が刎ねられたのは,多分,霊力だと思うわ。わたしは見ることはできないけど,千雪は当然として,カロックやサルベラも見ることはできるはずよ。でも,今のあなたには協力しないでしょうね」
茜「じゃあ,メーララさんは?」
マリア「彼女は,あなたに特別な感情はないわ。でも,彼女は金でしか動かないわ。千雪でさえ,メーララを動かすのに,あの教団をタダで建ててあげたのよ。今の茜では無理ね。でも,逆に言うと,それさえ解決できれば,メーララが一番いいかもね」
茜はとにかくメーララに会うことにした。
茜は,隣の建物である教団本部に行って,メーララの面談をお願いした。
受付嬢は茜のことを知らない。教団職員の採用はメーララが行っており,教団が建立してからは,独立採算で経営している。もっとも,それでも,千雪の援助があったこともあり,採用するのは,美人で処女というのが絶対条件だ。何かあれば,その処女を出汁にして,千雪にいろいろと依頼することができるからだ。
受付嬢「事前にアポの予約をとってください。献金は10万円から受け付けます。献金のない人は,教祖様にお会いになることはできません」
茜は,あっさりと断られてしまった。
茜はノコノコと引き返して,マリアに泣きついた。結局,マリア経由でメーララとアポを取ることに成功した。
ー 教団会議室 ー
茜はやっとメーララと会議室で打ち合わせを持つことができた。
メーララ「それで?何の用?」
茜「あの,いま,世間では,水香という女性のまわりで事件が起きています。その捜査にわたしも参加しているのですが,どうやって,殺人を犯したのか,まったくわからないんです。それで,殺されるシーンのビデオを見てもらいたいのですけど,,,」
メーララ「つまり,わたしに捜査協力をしなさいってこと?」
茜「簡単に言うと,そうです」
メーララ「いいわよ」
茜「ありがとうございます」
メーララは,手を茜に差し出した。
茜「この手は?」
メーララ「お金よ。1000万円くれたら,見てあげるわ」
茜「い,いっせんまんえん??!!」
メーララ「茜だから,これだけ安いのよ。千雪に依頼したら,もっと,ぼったくられるわよ。もっとも,千雪は霊体が破壊されたから,もう千雪はもとに戻らないかもしれないわ。フフフ」
メーララは,不敵な笑いをした。
茜「お金,,,ありません。そこをなんとかしてくれませんか?」
メーララ「じゃあ,あなたの体で払ってもらいえばいいわ。あなた,トップレベルのAV女優だったのでしょう?あなたを抱きたい人なら,山ほどいるはずよ。どう?金持ちを20人くらい相手にすれば,1000万円くらいすぐに稼げるわ。いや,それよりも,オークションで,あなたを1週間,自由にできる権利という条件なら,ひとりの相手でいいかもね。どうする?」
茜は,予想されたこととはいえ,躊躇った。これでは,AV女優となんら代わりはない。
茜「あの,,,1日で1000万円で買ってくれる人はいないでしょうか?」
メーララ「ともかく,1週間は覚悟しておいてちょうだい」
茜「・・・,しかたありません,,,わかりました」
茜は,結局,この提案に同意した。今の茜にとって,そこまでする義理はない。でも,せっかくできた夏江をガッカリさせたくなかった。どうせ,幾多の精子で汚れた身だ。さらに精子が降り注がれようが大したことではない。
茜は,持ってきた2本のビデオをメーララに見せた。最初は,3名の男たちが,水香の体を犯そうとしたが,1,2分後に気絶するものだ。
茜「最初のビデオを見てください。何か,わかりますか?」
それを見て,メーララは,テキパキと指摘した。
メーララ「この女の子,この世界の人間ではないわ。わたしのいた魔界とも違うわね。でも,魔界に近い感じがするわ。男たちは,体力を奪われているわ。それで,気絶したのでしょう」
メーララは,ニヤニヤした。
メーララ「この子,千雪とまではいかなくても,千雪と同じような能力を持っているかもしれないわ。おもしろーい。この世の中,ますます面白くなりそう」
茜は,『別世界』という単語で理解した。彼女は次のビデオを見せた。4名の首が飛ぶ映像だ。
メーララ「へーーーえ,やっぱり,霊力使いなのね。これ,霊力よ。なかなか鋭いわね。でも,千雪ほどではないかな?」
茜は,『霊力』という言葉で理解した。
茜「わかりました。では,その内容で報告します」
メーララ「ダメよ。茜が義務を果たしたら,報告していいわ」
茜「えーーー!! せめて,霊力と別世界という単語だけ,連絡するのはどうですか?」
メーララ「まあ,それくらいならいいわ」
かくして,茜は,簡単に夏江にメールを送った。
『夏江さん。ビデオ解明できました。キーワードは,霊力と別世界です。わたしはこれから1週間ほど精子まみれになります』
ーーー
このメールを受け取った夏江は,すぐに室長に連絡し,室長から,関連部署に報告された。もちろん,α隊から大統領へも報告が入った。
大統領も,このメールを見て,事態の重要性をすぐに理解した。簡単なキーワードだけのメールだったが,それで十分だ。なにせ,千雪の持つ霊力に対する理解度がある程度有しているからだ。
このメールの情報をもとに,水香に協力している能力者は,霊力を有する千雪並の化け物であることがあることが判明した。しかも,別世界から来た侵略者だ!!
この水香への対策として,α隊から以下の提案がなされた。
入院中の多留真課長からの情報では,水香は,現在投獄中のケイジという囚人に復讐する予定であることが判明した。ならば,ケイジを利用して水香の持ってる能力をあぶり出すという作戦だ。その作戦名は『水香の能力あぶり出し作戦』だ。水香がどの程度の化け物ぶりかが,この作戦で判明する。彼を知り己を知れば,百選あやうからずだ。
具体的な作戦は次のようなものだ。
相手であるセイジに,ピアロビ顧問から提供される魔法のペンと精霊の指輪を与えることで,水香を助けている化け物から逃げてもらい,その過程で,未知の化け物の脅威を明らかにするという案だ。化け物討伐までは期待されていない。当然,ケイジが殺される可能性は高いが,それもやむなしという案だ。
この案のよい点は,ピアロビ顧問への報酬が,第2の魔鉱石発掘権利を与えることでだけでよく,いっさいの費用は発生しないことにある。
大統領は,金銭的に大きなお金が動くわけでないので,すぐにゴーサインを出した。
α隊の作戦を具体的に実行に移すため,超現象捜査室も協力した。特捜課の多留真は入院中のため,この作戦には関与しなかった。
かくして,その作戦はすぐに実行に移された。
数日後,,,
夏江は,早速,セイジが収容されている刑務所を訪問して,彼と面談を持った。
夏江「あなたがセイジさんね。わたしたちがなぜここに来たか,だいたい予想がつくわね」
セイジ「・・・,はい,,,水香の件ですね?私が水香に殺されるって,警察に訴えてほしいって弁護士にお願いしました」
多留真「そこで,確認したいのだけど,ほんとうに水香は君を殺そうとするの?」
セイジ「はい,間違いないです。事実,水香は,B男宅に直接出向いています。それに,わたしの兄からの連絡ですが,水香はわたしの家に来て,わたしが,この刑務所に収容されていることを突き止めています。もう,怖くて怖くて,,,,」
夏江は,自業自得だと思った。
夏江「そうね。水香の回りで起こった事件って,いろいろあるけど,発端はあなたたちが水香をレイプしたということからすべてが始まっているようね。どうも水香は,特別な能力を身に着けたみたいよ」
セイジ「え?どんな霊能力ですか?」
夏江「あなたの仲間のB男は,2階から飛び降りて,今もICU装置で延命しているけど意識不明よ。霊媒師に依頼しても,B男の体には霊魂がないんですって。どこまでほんとうかわからないけどね。それに,首を切り落とされた4人は,透明の刃で殺されたけど,その刃は,霊力というパワーらしいわ。恐るべきパワーらしいの。魔法と同じくらい凶悪なものらしいわ」
夏江は,そのように言って,セイジを脅した。そして,言葉を繋げた。
夏江「セイジさん。あなたはここにいても決して安全ではないかもしれない。水香がそのような化け物だったら,彼女が退院すれば,この刑務所を襲ってセイジさんを殺そうとするでしょうね。そうは思わない?」
この考えにセイジは大いに賛同した。
セイジ「はい。そう思います。あの,,,水香は,入院しているのですか?」
夏江「そうよ。首を切り落とされた4人組の1人,源太に手製の銃で撃たれたと警察では判断しているわ。源太の部屋から手製の拳銃と玉もみつかり,水香の体から出てきたものとほぼ一致男したそうよ。源太が水香を銃撃したものと見て間違いないでしょうね」
セイジ「そうですか,,,源太が,,,」
夏江「水香は,入院して1ヶ月と1週間が経過しているわ。だいたい完治しているようだけど,今はリハビリ中よ。なんとか歩けるみたいね」
セイジ「ということは,いつ襲撃されてもおかしくない状況ですね,,,わたし,殺されたくない。わたしをどこか他の刑務所に移してもらえますか?」
夏江は一息ついて正直に話した。
夏江「今は無理です。でも,セイジさんに協力してほしいことがあるのよ」
セイジ「それは?」
夏江「セイジさんが生きている限り,水香はあなたを殺しに来ると思うわ。どんな方法で殺しにくるのかまではわからないけどね。でも,わかっていることは,見えない刃で首を刈ることでしょうね。」
夏江は,両の手の平を上に向けて,どうすることもできないというポーズをとった。
セイジ「でも,何か秘策はあるのでしょう?わたしを守ってくれるのでしょう?」
夏江「いや,そんなことは,立場上できないし,法的にもできない」
夏江は,封筒と万年筆,そして指輪をセイジに渡した。
多留真「これはあなたの母親からの手紙と,あなたの母親が全財産を出してあなたのために購入したペンと指輪よ。特に,指輪はいつも肌身離さずにつけていなさい。もしかするとあなたの身を守ることができるかもしれない」
セイジは,それらを受け取った。でも,こんなものが何の役に立つのかと疑問に思った。しかし,母親が全財産を出して買ったという指輪だ。何らかのご利益があるのかもしれない。
夏江「セイジさん,レイプしたのは,あなたの誤りだけど,水香が未知の強引な方法で報復するのも間違っているわ。もし,出所して何か困ったことがあったら,いつでも連絡してね」
夏江は自分の名刺を渡して去った。
セイジは,自分の独房に戻った。彼は,母親からの手紙を見た。体に気をつけてという内容をだらだらと書いている内容だった。ただ,誤字がやたらと多かった。
セイジ「何?この誤字だらけの手紙は!!母親は,いったい何考えているんだ?でも,,,母親は,まがりなりにも,文学少女だったよな。こんな誤字ばかりの手紙,,,」
セイジは,もう1度,その手紙を読んだ。暗号が隠されている可能性もあると思い,誤字の部分をピックアップしてみた。意味をなさない。その前後の文字は?セイジは,そうやって,何通りかの可能性を探ってみた。
すると,意味の通じる文字列が出てきた。『ぺんにぎれかぎあくききゆびわいらい』
セイジ『何?ペン握れ鍵開く?危機,指輪依頼しろ?』
セイジは,ペンと指輪をマジマジと見た。でも,どちらもなんの変哲もないものだった。
だが,それらは,ピアロビ顧問が,α隊に特別に準備したものだ。そのペンは,3回しか使えない使い捨ての万能キーのペンタイプのもので,魔界では子供のおもちゃとして,普通に売られているものだ。指輪の方は,精霊の指輪の複製体だ。以前,千雪に貸与したものだ。もっとも,1,2週間後には,消滅してしまうのだが,,,
セイジは,脱獄しなさいと勧められていると理解した。
セイジ『よし。万一のときは脱獄しよう。でも,その前に,このペンが,ほんとうに鍵をあけれるのか,試さないとだめだな。でも見つかってしまうとやばいし,,,』
セイジは,結局,万一の場合,ぶっつけ本番で対処することにした。ペンや指輪の使い方は,ぶっつけ本番にすることにして,水香が具体的にどのように攻めてくるかをシミュレートすることにした。
『もし,水香が来るとすれば,まず,監視カメラを無効にするはず,,,電源が落ちるはずだ。水香が病院でピンピンしているなら,退院しなくても襲ってくる可能性もあるなどなど,セイジなりにいろいろと考えた。昼間寝て夜は寝ないで警戒するなど,すぐにできることは実行に移した。
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